最後までやらせてやる
もう随分回数を重ねて、鳥束の長さも太さも覚えたのだから、いきなり入れてくれたってちっとも構わないのに、コイツときたら念入りに後ろをほぐすまで入れてこない。 初めての時に血だらけにしたのが、相当心に刺さっているようだ。 行為に及ぶ際、必ずといっていい程鳥束の脳内にちらつくので、こちらも嫌でも毎回記憶を掘り起こす事になる。 だから肌を重ねるのが数えきれない程になっているのに、いつまでもあの時は、あの時に比べて…なんてつまらない事を思ってしまう。 ああもう要らない、そんな余計な事はもういい。 今の鳥束に没頭したいんだ。 頭から振り払って、奴の丁寧な前戯に身体をよじらせる。 後ろに三本の指を咥えて、鳥束に喉仏の辺りを舐められて、むず痒い気持ち良さについ身体が動いてしまう。 気持ち良いけど足りない、早く寄こせ鳥束。 焦れて頭を揺らすと、テーブルに開きっぱなしの問題集が見えた。目を動かして自分の机を見やる。コーヒーゼリーの空容器。さっきまで食べていた残骸に、つい鼻をひくつかせる。 コーヒーの匂いはもうせず、代わりに鳥束の汗ばんだ肌が鼻腔をくすぐった。 たまらずに首筋に顔を埋める。 一瞬びくっと身体が強張ったのは気持ち良いからではなく、怖いと竦んだ為だ。 鳥束はすぐに力を抜いて、愛撫を受け入れた。 どうしたって常人とは違うから、どんなに制御しても人間のそれとはかけ離れた力が漏れ出てしまう。 それに対して鳥束が、本能的な怖さを感じるのを、自分は密かに喜んでもいた。 申し訳ないとは思っている。傷付ける気なんて一切なくて、向こうが思っているように自分もコイツに気持ち良くなってもらいたいと切望している。 それでも喜んでしまうのを止められない。 だって、そんな思いをしてまで求めてくれるなんて、自分はとても――。 「斉木さん……入れてもいい?」 抱えきれないほどの幸福に溺れそうになっていると、控えめな声がした。 頭の中はもうその事で一杯で、早くしないと歯止めが利かなくなりそうだと爆発寸前になっているのに、どこまでもこちらを優先する鳥束に目が眩む。 早くしろ、自分も同じなんだから。 後ろから指が抜かれ、奴の腕に片脚が抱えられる。そして。 |
「あは……斉木さんいい顔」 (やべ、オレもう溶けそう) (斉木さんは気持ちいい? 嬉しい?) 徐々に腰を進めてくる鳥束に、窒息しそうな胸を喘がせて頷く。 指じゃ届かなかった深い所まで鳥束が入り込んできて、自分の身体を一杯に満たしたようで、溶けそうだ。 間近にある鳥束の顔もすっかりとろけきっている。頭の中は生々しい肉欲で一杯で、正直押し潰されそうなほどだ。 でも実のところ自分だって似たようなものだ。 獣みたいだと連想する鳥束はあながち間違ってない。 でもそれは。 『お前のせいだ』 「なに、斉木さん……なに?」 激しく腰を打ち付けながら、潤んだ目で鳥束が見やってくる。 絶え間なく送り込まれる快感に目の前がちかちかする。さっきの遠慮がちなお前はどこいった…僕のせいだ。 腰が砕けそうなくらい強く突かれるのがいい、気持ち良いとねだったから、鳥束はそうしているんだ。 奥を抉られて、気持ち良さのあまり忙しなく息をつく様を見て、鳥束が更に興奮する。 雄むき出しの顔で笑う鳥束に自分もますます昂る。 ああ、ぞくぞくする、たまらない。 そうやって、腰を大きくうねらせるのも気持ち良い。 浅いところを擦られるのもいい。 わざとらしく音を立てて前を扱かれるのも、先端を指でほじくられるのも、突きながら乳首をつねられるのも、頭がどうにかなりそうなほどたまらない。 『全部お前のせいだ』 どうしたのかと訊く目が憎らしくて、誰が教えるかと口を塞ぐ。 また、鳥束の肩が竦んだ。 そうやって怖がるくせに、抱きたいなんてわがまま言うから付き合ってやったら、こんな風になった。 お前が僕をこうしたんだ。 顔が熱い、身体が熱い、破裂しそうだ。 『責任取れ、鳥束』 「斉木さん、どうしたの? どうしてほしい?」 汗ばんだ額や頬を丁寧に撫でてくる鳥束の手があんまり優しいから、訳もなく泣きそうになる。 まさか自分でも、こんなになるなんて思っていなかった。 ここまでお前にのめり込むなんて想像も出来なかったよ。 |
お前が問題集を解くまでなんて、待ってられるか。 そんなのもうどうでもいい、後回した。 お前と二人でいるのに、なんで我慢しなきゃいけないんだ。 なんで自分はこんなにお前に弱いのだろうな。 |
「教えて、ねえ斉木さん……」 (全部教えて。どうしてほしいのか、何が嫌なのか全部知りたい、全部聞きたい) 膝に抱えられ、抱き合う形で揺さぶられる。 ふざけるな、いつも全部伝えてるじゃないか。 お前が触るとこ全部気持ち良くなって興奮して、自分でも止められないくらいお前に溺れて酔ってるって、全部云ってる。 耳たぶを噛まれるとぞくっとする、足の付け根をさすられると前を触られるくらい気持ち良い、背中の方へ抉られると腰が抜けそうになる。 そして、言えばその通り動いてくれるのが何よりも気持ち良いって、全部、ちゃんと――。 「っ!…」 とりつか せり上がる大きな波にさらわれ、何か叫びながら達する。 頭の中が真っ白に染まって、動けそうにない。 自分と同じくらい速まっている鳥束の鼓動を聞いていると、段々と意識が戻ってきた。 繋がった個所がやけに熱く、何か漏れ出そうな気配がしてぞくっとした。 すぐに、ああ出されたからだと覚ってほっとする。 正直気持ち悪いのに、自分の身体に満足したのだと思って嬉しくなった。 鳥束の手に助けられて、仰向けにベッドに寝転がる。 まだ入ったままの鳥束のものが、自分の中でびくびくとわなないているのがわかった。自分もそれに合わせて、痙攣が起こる。 そのままぼんやりしていると、目尻から頬に垂れるものに気付いた。 鳥束が少し慌てた様子で拭ってくる。 『……泣いてない』 「そうですね。ちょっと目を閉じてて」 宥める声はひどく優しくて、つい首を振った。 こら、なんて言って笑う鳥束が癪に障る。 いいから早く眼鏡返せ。 ようやく戻され、遠慮なく目を開けると、上気した頬を輝かせて笑う鳥束の顔がそこにあった。 奴の脳内によると自分の顔もも似たようなものらしく、つまり、お互い一度くらいじゃ熱が収まってないって事がわかった。 斉木さん…やたら熱っぽい声で肩に触れてくる鳥束の手を握り締めると、表情はそのままだがびくりと強張ったのが伝わってきた。 全然制御出来ていない事に陰で舌打ちしていると、鳥束の喜びが流れ込んできた。 自分の手がもげるかもしれないってのに、こんなものを興奮の証と受け取って喜ぶな馬鹿。 本当に、お前の脳内うるさいんだよ。 一時も休まずわーわーと、よくもそれだけ愛情を咲かせられるな、感心するよ。 慎重に鳥束の身体を押しやって寝転ばせて覆いかぶさり、笑みの形にだらしなく緩んだ唇にキスをする。 まったく、せっかちにしてもそっとやっても喜んで、忙しない奴だ。 幸せそうにとろけた顔に、自分も顔が緩むのを止められない。 そうやってお前が喜んでくれるから、弱いのだろうな。 自分から鳥束のものを後ろに咥え、ゆっくり腰を下ろす。 少し泣きそうな顔で喜ぶ鳥束に、同じくらい喜びを感じた。 |