最後までやらせてやる

 

 

 

 

 

 出し尽くした、斉木さんに搾り取られた…とにかくだるいながらも大満足で、オレはベッドにもたれかかってぼんやり床に座っていた。
 斉木さんはまだベッドでうとうとしているところだ。
 身体を捻って右手を伸ばし、その辺りにあるはずの斉木さんの手を探す。中々たどり着かなくてぱたぱたとベッドを叩いていると、ここだと言うように斉木さんの方から手を握ってきてくれた。
「……えへへ」
 オレはベッドの側面に顔を押し付けて、だらしなく笑った。
「斉木さん、大丈夫?」
『ああ』
「毛布かけたし、寒くない?」
『平気だ』
 良かったとため息をつく。
(でも、あれだけやってあれだけ喘いで、相当搾り取ってったもんな、まだ起きられないよな)
(はあ…最高に気持ち良かった。三回は腰抜けた。斉木さんも良さそうでなにより。にしても斉木さん、やっぱり性欲強いわ)
 ぼんやりしながら余韻に浸っていると、繋いだ手がほどかれ代わりにがしりと頭を掴まれた。
「――ひっ!」
 強烈な殺意に身体が竦み上がる。
 何故だと、猛烈な勢いで頭の中をかき混ぜる。
 何が逆鱗に触れたのかと必死に考えて、すぐに思い当たり、オレは同じ姿勢のまま何度も謝った。
「すいません斉木さんすいません!」
 二度と触れるなって言われたの忘れてホントごめんなさい許して下さいこの通りです!
 オレは地獄の底のような顔になって、頭蓋骨から手が離れてくれるのをひたすら願った。
(てかなんか言ってくださいよ斉木さん、あとせめて最期の言葉を選ぶ時間下さい……)
『鳥束』
「はぁい!」
 オレは腹の底から声を張り上げた。全身で力んだせいか顔が熱くなった。気付けば頭の手は離れていて、何事かと反射的に斉木さんへと伸び上がる。
 同時に頬っぺたに人差し指が突き立てられた。びくりと身体が竦む。穴が開くのではという勢いで突き刺さる指を回避する為、オレはぐいと首を回して逃げた。
 すると、テーブルが目に入った。
『残りをやるのと、最期の言葉を考えるのと、どっちがいいか選べ』
「残りをやりますです! すぐ取り掛かるっス!」
 オレはバタバタとテーブルに向かい、ピシっと背筋を伸ばして正座し、問題集に向かった。
 命拾いしたと、涙が滲む目を瞬く。
 あと二ページで終わりじゃないか、頑張れオレ。
『最後までやらせてやると言ったからな』
 ええええ、そうっスね言いましたね。
 はあ、ほんと斉木さんだわ。
 オレは泣きながら笑った。

 

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