衣替え
秋服への衣替え:9月1日
秋:遠慮します
いかにも秋らしい、爽やかな風の吹き抜けるある朝。 天候は晴れ、綺麗に澄み渡る快晴、日差しはまだ夏を残して強いが、空気はすっかり秋のものに変わっていた。 清々しい空気を目一杯胸に吸い込み、吐き出して、オレは通学路を辿っていた。 秋は別れの季節…はぁ。 ああ、これからどんどん、長袖の子が増えてくんだろうな。 人通りの多い場所ですれ違うお姉さん方を横目にちらちら見送り、オレは心の中でそっとため息をつく。 無防備な二の腕よ、眩く美しい生足よさらば……また来年会いましょう。 まあ、見えなきゃ見えないで、その部分の妄想がはかどるんだけどね。うふふぐふふ。 たった今ため息をついたばかりだが、その端からもう色鮮やかな妄想が湧き上がってくる、さすがオレ、さすが。 そんな事を思っていると、隣を歩く斉木さんから悪臭放つ排水溝を見る目を寄越される。 『お前は、頭のてっぺんからつま先まで覆い隠して、外に煩悩がもれ出ないようにしないといけないな』 「えー…ちょ斉木さん、そんな人をわいせつ物みたいに、さぁ」 『実際そうだろ』 「ん、んー…ちぇっ」 それはそれとして斉木さんも、しっかりきっちり制服着ちゃって。 いつもいつも、隙が無いっスね。 ま、そのきっちりをちょっとずつ崩して露出させてくのがいいんスけどね。ぐふふのふ。 「人は隠されると暴きたくなるもんだし」 『知るかゲス野郎』 「もぅー、ちぇー」 「あ、でも斉木さん、今日はオレもちゃんと襟元閉めてますよ。ネクタイだって結んでます」幽霊情報で、正門で風紀チェックやってるって聞いたもんでね「どうっすか、暴きたくなりません?」 『ならない。というか、雑コラみたいだな』 「なんです?」 『首だけすげかえたみたいだ』 「つまり、惚れ直しちゃうって?」 『ねえよ』 「えー…じゃあこう、緩める仕草にドキッとするとかは?」 たちまち早足になる斉木さん。 その直前、世界一臭い物体に遭遇したみたいに顔中歪めて、ほんと傷付くわぁ。 「もう、待って下さいよ」 なんでオレの駆け足よりあの人の早足の方が早いんだよ! どんだけ競歩選手権金メダル候補だよ。 もぉ照れちゃって、斉木さんたら。 照れてない。殺意を押し殺してるだけだ、って…またそうやって物騒になる! 「待って下さいってばぁ」 オレは緩めたネクタイを戻しながら、必死の駆け足で追い続けた。 街を行く人たちの装いが、秋らしいものに変わっていく。 そういうのを目にすると自分も秋物が欲しくなるもので、放課後斉木さんとの帰り道、お決まりの純喫茶魔美のあと、よく寄るメンズショップに足を向けてみた。 秋の新作コーナーに心奪われるも、ファッションにはまるで興味のない斉木さんを長々引っ張り回すのは気が引ける。 ぐるっとひと回りした後、コンビニで秋の新商品を買って、斉木さんちにお邪魔する。 斉木さんがスイーツを楽しむ間、オレも斉木さんのうっとりモニュ顔を楽しむ。 その片隅で、先程見た秋物への興味がまたむくむくと湧いてきたので、オレはネットで今年のはやりとか、女の子にモテるコーデとかをざっと当たってみた。 これも、これも、これも、これも…ああ、見るとやっぱり欲しくなるな。 「ねえねえ斉木さん、この中だったら、どれがオレに似合いそうです?」 コンビニで見つけたスイーツ雑誌を熱心に読んでいる斉木さんの肩をトントン指でついて、オレはスマホをかざした。 『それより鳥束、お前だったらこの中のどれを僕にご馳走したい?』 お返しか、斉木さんは雑誌をかざしてきた。 ちぇ、やっぱり興味なしかと唇を突き出す。すぐに引っ込め、どれどれと一緒になって雑誌を覗き込む。 斉木さんの望む答えはもうわかっていて、その前フリの為だ。 「どれも美味そうっすね。いやマジで、綺麗だしゴージャスだし、どのモンブランも、甲乙つけがたいっスね」 美味そう! 斉木さんが欲しいのは「全部ご馳走します」という答えで、オレもそれはちゃんとわかっているが、シックなバックカラーに映えるモンブランはどれもこれもよだれが出そうな豪華さで、オレはついマジになって感心した。 『だろ、全部ご馳走したいだろ』 斉木さんてば上手に繋げてきたな。オレは思わずくすりと笑い、はいと頷いた。 「あーほんと綺麗。やっぱりお値段もそれなり…ですよねー。ぐえっ!」 中には千円を超えるものもあり、つい渋い声が出る。 それはそれとして、いろんな形があるんだな。 あの独特の「そば」のようなクリームの盛り付けも、丸くずんぐりしたものから、背の高い山型のものから、千差万別だ。 あ、ねえ斉木さん、てっぺんにこの黄金色の栗一粒乗せるのって、日本独特なんですってね。 それと、そもそものモンブランが、フランスとイタリアとでは見え方が違う事から、それぞれの国でまるで形が違うっての、面白いっスよね。 釈迦に説法だなと思いながらも、オレはつい先日仕入れたばかりのうんちくを披露せずにいられなかった。 案の定斉木さんは呆れ顔になったが、すでに知っている事を得意げに語ったからではなく、その記憶力や熱意を勉強に生かせ、という意味からだった。 「うむぅ〜…でも斉木さんだって、別に勉強大好きってわけじゃないでしょ」 『なんだ藪から棒に』 「もし斉木さんが勉強大好き、もしも数学にメロメロだっていうなら、オレだって同じこと語る為に頑張ったかもしれませんけど、でも違うでしょ、別に勉強好きな訳じゃないでしょ」 何となくではあるが言いたい事を悟ってくれたらしい。斉木さんは苦々しい顔でやれやれとため息をついた。 それをきっかけにオレは口を噤んだ。自分でも段々何を言ってるんだって気分になってたし何より恥ずかしいので、この話題はここまでとする。 もとに戻って。 「それはいいですから、斉木さん、これ! これまずご馳走したいです」 『そうか、お前もこれか。気が合うな』 「そっスか、えへへ、嬉しいっスね」 『僕はあと、これとこれと、これと、これと――……』 「はい、はいはい! 全部っスね」 大丈夫っスよ斉木さん、ちゃんと、わかってますから。 そんなお喋りしてて、途中、斉木さんから『お前はすっきりしたシルエットの方が似合うと思う』と寄越される。 「はい、は……?」 何の話か一瞬わからず、ぽかんと口を開けた。 やがてじわじわと理解が追い付く。 斉木さんの言葉は、オレがさっきした質問、どれが似合うかというものに対する答えだ。 見てないようで見ていた、興味ないようで寄り添ってくれる優しさに、オレは顔中デレデレととろけさせた。 『ま、どれ着ようがそんなじゃ台無しだがな』 「わかりました。きりっとしたシルエットの服着て、きりっとしてるオレがお好きなんですもんね」 頑張ります! という端からとろけてしまうのだが。 だって、他人に一切興味ない人体模型に興味はもてないってバッサリの斉木さんがよ、、オレの為に一生懸命考えてくれたんだよ、身も心もとろけるっての。 女の子にモテるのも大事だけど、斉木さんがいいなって思ってくれるのを選ぶ方がずっと重要だ。 やっぱりさ、恋人の喜ぶ顔見たいじゃん。斉木さんの好きなのが、オレの好きなのになる。 嬉しくなったオレは大はしゃぎで再び画像を呼び出し、斉木さんに見せながら訪ねる。 「ね、ね、この中だったら、斉木さんおすすめってどれっスか?」 『うざい』 「いたっ」 パチンと、軽めの平手がオレの右頬を襲う。 うぅひでぇ。 頬っぺたを押さえ、ぐすんと鼻を啜る。なんだい、ちょっとくらいこっちの買い物にも乗ってくれたっていいだろ。 『すまん、つい反射で』 つい、ねぇ。斉木さんらしいことで! 半分ほどふくれっ面になったところで、斉木さんは告げてきた。 『真ん中右端と、左下だな』 「!…」 一瞬呼吸が危うくなる。 オレはすぐに画面に注目し、言われた個所に視線を集中した。 「んん…へぇ、斉木さんからすると、オレはこーいうのが似合いそうに見えるのか」 そっスか、うん…なんかむず痒いな。 すごく嬉しいな。 さっきよりも数倍だらしなく顔をたるませ、オレはモデルの上から下までじっくり眺めた。 「ねえ斉木さん、これ着たら、ますますオレに惚れちゃいます?」 『知らん。勝手に着てろ』 「もおー」 もうちょい、もうちょいだけ付き合ってよ。 すでに自分のスイーツ雑誌に夢中の斉木さん。その横顔に、寂しい光線を注ぐが、恋人の目を動かす事はついぞ叶わなかった。 でもわかってる。オレがそうすればそうするほど意固地になってオレを無視するのが、斉木さんの性分だって、わかってるから。 だからオレは、オレを一切無視して自分の世界に入り込む…ように見せかけてる斉木さんに、デレデレ顔が溶けていく。 そして気付いた時には、斉木さんを床に押し倒して唇を重ねていた。 『邪魔だ、どけ』 雑誌の続きを読ませろ。 腕で押しやられきつく睨まれる。一瞬怯むも、負けじと見つめ返しぐっと顔を近付ける。 殴られたって構うもんかと覚悟の上だ。 なら遠慮なくと斉木さんの拳がこめかみを狙う。 「でっ……」 いつもならそれで壁まで吹っ飛ぶところだが、今は顔をしかめて我慢出来る程度で、その一発で斉木さんは続きを許してくれた。 唇に触れる寸前、ふっと斉木さんの目が閉じられる。 オレはそれに力を得て、口付けた。 ふわっとほどけるように、斉木さんの口が開く。オレを受け入れる。 嬉しさに口端を持ち上げて、オレは舌を差し入れた。 斉木さんとするキス…いい、気持ち良い、たまんない。 もう、何十回となく柔らかなそれを重ね合ってるというのに、時々オレの頭にふっと、初めて斉木さんとキスした瞬間が過る事がある。 それほど強烈な、きっと一生忘れられない出来事なんだろう。 あの瞬間に思った事も、たった今、ついさっき体験した事のように思い出せる。 あたたかくて柔らかくて、あまりの気持ち良さに天にも昇る気分だった。 好きだという気持ちを伝えられず鬱々と籠っていた心が、一気に解き放たれた瞬間。 それからずっと今まで、もう数えきれないほどキスをした。 それ以上の事も、数えきれないほど。 斉木さんが好きだって気持ちは際限なく膨れるばかりで、キスもそれ以上も何度でもしたくなってしまう。 だって斉木さんときたら、この超能力者ときたら、もう何もかもが凄いんだ。 オレ、自分の一途さにはちょっとばかし自信があった。こんなにも尽くし体質だってのは、ちゃんと生きた人間と付き合って心を通わせるようになって初めて知ったけど、まあとにかくオレは自分で思った以上に相手を甘やかすタイプだった。 でも斉木さんは、そんなのを軽く凌駕する。 王道ツンデレの癖に…いや、だからか、意外に重たくてマメで細やかで、オレ以上に甘やかしを繰り出してくる。それを、正統派ツンデレで包み隠されてみろ、愛しさに悶絶する事間違いなし。 その上この人、……なんでもない。 キスの最中、殺人鬼のような迫力たっぷりの目を寄越されオレは慌てて思考を中断する。 しかし一歩遅かった、せっかく乗り気になってくれたというのに、斉木さんにキスまで中断される事となった。 さあこれからという時にオレが余計な事…斉木さんは××が強いと思いそうになった事で、斉木さんに力任せに身体を押しやられた。 あまりの恐ろしさにアレが縮み上がった。 オレはヤケッパチで斉木さんの胸に手を当てた。そのまますっと横にずらし、手のひらで乳首を刺激する。 「!…」 たちまち、斉木さんの手から力が抜ける。 しめたと、オレは服越しに乳首にむしゃぶりついた。 『馬鹿、ふざけんな』 痛い痛い、肩痛い、取れちゃうから力抜いて斉木さん。 「ふざけてない、大真面目。斉木さんも、こんなんで中断とかつまらないでしょ、ほら、素直に感じて」 アンタ、いろんな事覚えてる最中じゃない。この身体に。 この前は、乳首だけでいく事を覚えましたね。 「どんどんいやらしくなっていきますよね」 『お前が、そうしたんだろうが』 キッとばかりに斉木さんが睨み付ける。 「ええ、まあ…そうですけど、応える斉木さんも、相当素質がありますよ」 ヘタな、演技過剰のAVよりずっと腰にきた。エロイ顔、エロイ声、たまんなかったなー。 唾液でぐっしょり濡れた服越しに、くりくりと乳首を転がす。次第に硬く尖っていくそこにオレはふっと笑い、二本の指でそっと摘まんだ。 「っ……」 淡い喘ぎを零し、斉木さんは手の甲で口を覆った。 見るからに形の変わった股間に更に笑い、オレは執拗に乳首を弄り続けた。 時折、斉木さんの腰ががくがくと跳ねる。触ってほしいのか、それとも絶頂が近くてじっとしていられないのか。 「いきそうなの?」 『違う』 「ほんとう?」 いきそうなんでしょ 重ねて聞くと、斉木さんはわかるかわからないかくらいのささやかさで頷いた。 いい子。 覚えが早くて、可愛いね斉木さん。 「汚す前に、脱いじゃいましょ」 『やめろ……』 「ほら、力抜いて。腰上げて、はい」 オレは手早くズボンの前を緩め、下着ごと脱がせた。若干抵抗があったが、オレは宥めすかし全部脱がせる。 そして、このまま床で続きをするのは身体に良くないので、オレはベッドに運んだ。 独特な白さの肌と、ほっそりした手足のわりに立派な斉木さんの斉木さんに、ついうっとり見入ってしてしまう。 まずい、あんまり見てるとしゃぶりたくなるな。今は乳首でいってほしいのに、こっちも可愛がってあげたい。 あとで、あとで。 オレは自分に暗示をかけ、再び乳首に吸い付いた。 「ふっ……!」 服越しもいいけど、直にすると更に反応がいい。 オレは唇と舌と歯と総動員して、ちっちゃな乳首をじっくりたっぷり舐って焦らさず追い上げた。 斉木さんの息遣いがどんどん乱れていく。どんな顔してるのか見たかったけど、おしゃぶり楽しくてやめられない。 どうにか指に交代して顔を上げる。 それよりずっと前からオレを見ていたのか、斉木さんの視線とかち合った。 おののいたような、もしくは嬉しがるような、何とも言えぬ表情でオレのする事を見ている。 その、とろんと潤んだ目の色っぽいことといったら。斉木さんをいかせようとしているオレの方が、いきそうになったくらいだ。 目付き一つでオレを煽るなんて、斉木さん、ほんとやばい。 お返しに技巧を駆使して追い上げた。 ――鳥束! 焼け付くような息遣いがオレの鼓膜を震わせる。と同時に、斉木さんの身体がびくびくっとのたうった。 見なくても手応えでわかった。 ふふ、今日も上手に、乳首でいけましたね、斉木さん。 にこにこと顔を見つめると、ふいっと目を逸らされた。 でもその顔はとても気持ちよさそうで、オレはたまらなくなっていい子と頭を撫でた。 すぐに振り払われついむっとなるが、大きく胸を喘がせ、満足そうに横たわる斉木さんを目にすると、顔が緩んでしようがなかった。 「ここまで飛ばしてる」 斉木さんの白い肌に飛び散った、白い濁りを二本の指でなすり、斉木さんの口元に持っていく。 噛み千切るぞって目を寄越され心臓がひゅっと縮むが、舐めてとお願いすると、渋々ながら口を開けてくれた。 だからオレは、また、いい子と頭を撫でながら疑似フェラをさせた。 口の中唾液で一杯にして、斉木さんがオレの指をしゃぶる。 抜き差しすると、ちゃんと唇をすぼめて吸ってくれた。 いやらしい顔…ぞくぞくする。 お返しにオレは、斉木さんの舌や口の中をくすぐってあげた。 たちまちとろんと目を潤ませて、斉木さんは気持ちよさそうに吐息をもらした。 気持ち良い事、ほんと好きですよね。 「ねえ、斉木さん」 『……嫌いじゃない』 うわ言のようにふらふら頼りないテレパシーに、オレはだらしなく笑った。 じゃあ、もっと気持ち良い事しましょうね。 斉木さんの唾液でぐしょぐしょになった指で、後ろを丁寧にほぐしていく。 『あぁ……気持ち良い』 「良かったね。ね、斉木さん、中をぐりぐりされるのと、孔のとこ拡げられるのと、どっちがいい?」 「ん……んっ」 『どっちも、いい』 「はは、欲張りっスね」 『うるさい……おまえがそうしたんだから、そうしろ』 「そうでしたね。じゃ、もっともっと良くしてあげます」 『……いらない』 素っ気ない返答に、斉木さんの素直さが見え隠れする。 正直に欲しいって云えない人にそっと笑い、オレは中のシコリをくりくり刺激しながら、乳首を舐めた。 『鳥束、いらない!』 両方いっぺんにされるのは嫌だと、斉木さんが逃げようとのたうつ。 けれどその抵抗は弱く、本当には嫌がってない事をオレに教えた。 感じすぎてつらいけど、気持ち良い事だから嫌じゃない。 ああ…可愛いね、可愛い人だ。 大丈夫ですよ斉木さん、もっと素直に気持ち良くなっていいんですよ。 「そんな、首振って…もう、素直じゃないっスね」 『とりつか――いやだ!』 「嫌じゃない、気持ち良いんでしょ」 オレは集中して乳首を舐った。 同時に後ろもぐりぐりと強めに刺激する。 「こうやって、二か所を繋げて、これからする時はどっちか一方を弄られる度もう片方が欲しくてたまらなくなる。ね斉木さん」 どんどんいやらしくなっていってね。 『うるさい…ふざけるな』 (ふざけてなんかいませんよ) (オレは、斉木さんとする気持ち良い事が、大好きですもん) (斉木さんが気持ち良くなってくれるのが、何より嬉しいですもん) (オレのする事一つひとつに反応して、エロい顔でひゃんひゃん鳴いてくれる斉木さんが大好き) 「うるさい……うるさい」 とりつか 目に涙を一杯に溜めて、斉木さんがオレを呼ぶ。 「なぁに、斉木さん」 ここにいますよ オレは乳首から顔を離し、後ろの指はそのままに斉木さんの顔を覗き込んだ。 あは…いい顔してる。ここクリクリされるの、そんなに気持ち良いですか。 斉木さんは一度素直に頷いた後、すぐさま首を振った。 「気持ち良くないの? ここ、嫌い?」 『……嫌いじゃない』でも、早くお前のが欲しい『足りない、お前のじゃないと足りない』 早く挿れてくれと濡れた目でねだる斉木さんに、喉が変な音を立てる。 ああ、そう…いらないって言葉の意味、そうだったんスね。 「……わかりました。今、あげますからね」 オレはにやりと唇を歪め、指を抜く。すかさず自身のものに手を添え孔にあてがう。 「あぁぁ……!」 甘ったるい声に喉を震わせ、斉木さんはビクビクと腰を痙攣させた。 入れただけでいっちゃうなんて、斉木さんやらしー。 忘我の境地に漂う斉木さんにそっと囁く。 「きもちいい……きもちいい」 すっかり快楽に振り切れているのか、うるさいと振り払う事もせず、斉木さんはすっかりのぼせた顔で呟きを繰り返した。 可愛い、ああ、素敵…斉木さん、オレも気持ち良いっスよ。オレのを、口でしゃぶるみたいにキュッキュッと締め付けて、たまんないったら。 二度三度と繰り返し白液を放つ斉木さんのそれに、オレはそっと指を絡めた。優しく摘まみ、上下にゆるゆると扱く。 『あ、あ……鳥束、そこだめだ、駄目! だめ!』 「ダメじゃないでしょ」 好きでしょ 気持ち良いでしょ 「斉木さんは――」 先っぽくりくりされるのが好き 袋くにゅくにゅされるのも好き 指先で裏筋撫でられるのも好き 「ね、でしょ」 言いながらその通り手を動かす。どの刺激にも、斉木さんは深い快楽に包まれて、甘ったるい善がり声をもらした。 『とりつか、ああ……いや、いや……あひ…気持ち良い』 「気持ち良い? どこ?」 『どこも……かしこも』 お前の触るとこ、全部。 内緒話のようなひっそりとした呟きは、頭に響いたのか耳で拾ったのか。 オレはだらしなく笑った。 「でしょ、好きでしょ」 斉木さんはシーツに擦り付けるようにして頭を動かした。 『お前に、されるの……が』 「好き?」 また頭が動く。 と、それまで羞恥に濡れ逸らされていた瞳が、オレの方にぎろりと向いた。 うっ…怖い、可愛いのが目一杯だけど、ちょっと怖い。 『お前が、僕の身体で気持ち良くなってるのが――』 「………」 斉木さんの口が、今にも「好き」と綴りそうに震えたがしかし、ついに声にはならなかった。 「――!」 びりびりっと電流めいたものが全身を駆け巡る。 首筋や背骨に瞬間的な痛みが走る。錯覚かもしれないが、それくらいの威力があった。 オレはしばし呼吸を忘れて、斉木さんと目を見合わせていた。 ね、斉木さん―― 「好きって言って」 この口で。 求めて、オレはもう片方の手を斉木さんの唇に添えた。 「言ってくれたら、もっとしてあげます」 もっともっと、気持ち良くしてあげます 斉木さんの喉が、ぐうっと低い音をもらす。 あんまりこういったいじめ方はしないけど、今日は何だか頭がひどく茹だって、するりと言葉が零れ出た。 斉木さんは、こんな時でも、好きって言葉を使わない。 聞けば何度でも頷いてはくれる。それでオレは充分満足してる。してるはずなのに、どうして今日に限ってこんなに追及したくなるんだろう。 「アンタか、あんまり可愛いからですよ」 告げると、斉木さんは身体を捻ってオレを睨み付けてきた。 ああ…だめだめ斉木さん、そんなほてった顔で睨んだって全然効かない、むしろオレを煽るだけっス。 だから大人しく、聞かれた事に答えて。 オレは手の動きを再開した。 透明な涎をひっきりなしにもらす先端に親指を押し付け、ちょっと強めに刺激する。 「あ、ぁ――」 「やらしー声出して、ビクビク腰振って、そんなに気持ち良い?」 「……うん」 「こうされるの、好き?」 「……うん」 「教えて」 口で。 オレは瞬きを堪えて斉木さんの唇に集中した。 何度か言おうとする素振りは見せるのだが、呻きがもれるだけでとうとう言葉は出てこなかった。 とりつか まぼろしのような囁きに、オレはたちまち胸が痛んだ。 「ああ、斉木さん、そんな泣きそうな顔しないで」 オレはすぐさま頭を撫でる。何度も何度も、くしゃくしゃになってしまった髪を優しくすいて、頭を撫でて、つらそうに眉根を寄せる斉木さんを慰める。 いいです、ちゃんと聞こえたから、通じたから、言わなくてもわかったからいいですよ。 いじめてごめんね。 可愛い可愛い斉木さん。 「すきです……」 頬に口付け、オレは半ば無意識に呟いた。 斉木さんの頭がほんの少し揺れた。 「きもちいい…とりつか、またいく、きちゃう! いく!」 今にも崩れそうな四つん這いの斉木さんを、後ろから好きなようにガンガンついていると上ずった声をもらし斉木さんが悶えた。 「いいよ斉木さん、どこでいきたい?」 中で? それとも×××? 「あ、だ、出したい……」 すっかり快楽に飲まれ緩んだ顔で、斉木さんは自らのものを扱き出した。 「じゃあ見せて。斉木さんの×××が白いの出すとこ、オレに見せて」 「いや、いやだ……うるさい」 斉木さんは振り払うように首を左右するが、扱く手は止めなかった。 うるさいうるさいって…もう、強情だね、こんなに可愛いもの見せつけておいて。 うずくまって隠そうとするのを、オレは強引に抱き起こす。両足の膝を腕に抱え、大きく開かせ、オレは目一杯揺さぶった。 「うあっ…鳥束、これ」 こんな格好は嫌だと、斉木さんが駄々をこねる。それでも扱くのは続けるんだから、ほんと貪欲。アンタ、本当に気持ち良い事好きだよね。 そんで、ちょっとだけ、いじめられるのが好き。身体を痛めつけられたり心がつらくなるのは嫌だけど、こんな風に、恥ずかしい格好させられたりちょっとだけ思い通りにいかなかったりするのを、アンタは好む。 いくらでも逃れる方法あるのに、わざと屈して従って、でも表面上は嫌々言って駄々こねて、オレを自在に操ってくる。 そう、オレが主体でやってるようで、本当のところは斉木さんに誘導されているのだ。 当然だろ、誰が、超能力者を好きに出来るというのだ。 すべては斉木さんの意思によるもの。こんな茶番も、気分次第で乗ってくれる。 お互い、気持ち良くなることが大好きだから。 相手を気持ち良くすることが大好きだから。 ね、そうですよね斉木さん。 『……うるさいんだよ』 そんな顔したって無駄ですよ。 オレは首筋に吸い付き、跡が残るくらい強く吸った。 「やあぁっ……!」 もう、どこを触られても敏感になってる斉木さんには堪えがたい刺激だったようで、濡れた善がり声と共に射精した。飛び出した精液は弧を描いてシーツに降り注ぎ、オレらの目を奪った。 「う、うっ……」 まき散らしたのが恥ずかしかったのか、斉木さんはうろたえ顔を伏せた。 なんで、今更そんなのが恥ずかしいの。 もっとすごいもの、オレに見せてるのに。 「斉木さん……こっち向いて。キスして」 肩越しに呼び掛ける。しかし斉木さんは小さく首を振って拒んだ。 少しむっとして、少し寂しくなって、オレは代わりに真っ赤にほてった頬に唇を押し付けた。見るからに真っ赤な頬は、その通り、触れると火傷しそうに熱く、心なしか甘い匂いをまとわりつかせていた。 汗の匂いかな。 オレは舌を伸ばし、舐めては吸って味わった。 『……くすぐったい』 焦れたような声に、じゃあキスさせてとオレは重ねて告げた。 ほんの少しだけ、斉木さんの頭が動く。 「ほら、ね、こっち向いて。オレの事見て」 ついに斉木さんはオレを振り返った。 うわ…いったあとの斉木さん、すっげえ可愛い。エロイ。目付きがとろんとして、沢山喘いだ唇は食べちゃいたいくらい美味しそう。 逸る気持ちを抑え、オレは、身体ごと自分に向けさせようと、繋がったままゆっくり姿勢をずらしていった。 ようやく向かい合ったところで顔を寄せる。 斉木さんは恥ずかしがるように顔を背けた。 この…まだ抵抗するなんて。 オレは両手で押さえつけ、軽く結ばれた唇に口付けた。 表面をそっと舐めると、斉木さんは口を開きオレの舌を迎え入れた。 ちゅうちゅうと舌を絡め合いながら、オレは静かに斉木さんを寝かせた。 オレの肩に遠慮がちに掴まる斉木さんの手を首に回させ、オレもしっかり抱きしめて、より深くキスに溺れる。 またしても、初めての瞬間が鮮烈に込み上げる。 キスするだけで背一杯だったオレが、今では、こんな風に斉木さんを抱くまでになった。 たまらない興奮に、オレは音がするほど強く腰を打ち付けた。 「いぁっ!」 仰け反り、高い悲鳴を上げる。 オレは同じ突き込みを二度三度繰り返し、その度に上がる高音にうっとりと聞き入った。 孔の奥を抉られる快感にすっかりとろけ、斉木さんは悩ましい表情で喘ぎ続けた。 眉根を寄せ、どこか切ないような顔付きに腹の底がぞくぞくする。 もう、今すぐにも射精したくなって、オレはがむしゃらに腰を振った。 「あ、あっあん…とりつか、激しい、あうぅ」 オレの首に回していた腕をほどき、斉木さんは肩や腕をさすった。本人としては、押しやりたいんだと思う。でも、こうまで快感に飲まれていては力の加減が難しく、思うまま力を込めれば確実にオレの身体がバラバラになる。それを恐れて、斉木さんはたださするのだ。 オレは腰を突き入れながら、抵抗とも呼べない抵抗を試みる手を掴むと、小刻みに震える指に接吻した。 「んぅっ……」 もう、そんな接触すら感じてしまうようだ。 斉木さんは切なげに喘ぎ、大きく手をわななかせた。 「気持ち良い?」 「お、おかしくなりそう」 「いいじゃん……なって、おかしくなるとこ見せて」 そう言われたら、斉木さんは絶対に首を振る。だからオレはその口が嫌だって動く前にキスで塞ぐ。 掴んだ両手をベッドに押し付け、口を塞ぎ、ひたすら奥を突く。 たっぷりと口の中を楽しんだ後、オレは胸元に顔をずらして、思う存分乳首を吸った。 「い、ひぃ…ん、あぁっ……ちくび、いい」 そうだね、いいよね斉木さん。 ここ、大好きだものね 乳首だけでいくくらい、敏感になったものね そのご褒美に今日は、乳首とお尻の孔と、いっぱい気持ち良くしてあげますね オレの下でひんひん可愛く鳴いて善がる斉木さんにますます興奮し、オレは何度も何度も、何度も腰を打ち付けた。指を組み合わせて手を繋ぎ、ぎゅっと握り締める。斉木さんが握り返してくれる事はない。それどころかまるで力が入ってない。でもわかってる、だから大丈夫。 大丈夫です、斉木さん うんと気持ち良くなって 好きなだけいっていいから オレに、溺れて 『とっくだ』 「!…」 見える反応とは裏腹に冷静な応答が、オレの息を止める。 それが引き金となり、オレは絶頂を迎えた。 斉木さんの奥に勢いよく噴出していると、斉木さんもまたそれをきっかけに達した。 白い熱いものを噴き出し、奥まで孔を締め付けて、斉木さんが絶頂の快感に陶酔する。 だらしなく零れるかすれた声は、一体どちらのものだろう。 すっかり上がった息とともに漏れる喘ぎ声を遠く聞きながら、オレは抱きしめた斉木さんの胸に顔を埋め、目を閉じた。 ベッドに寝転がり、事後の心地良さ、眠たさにしょぼつく目で、オレはぼんやりとスマホを眺めていた。見ているのはさっきの続き、秋物服のあれこれ。 隣では斉木さんが腹這いになって、スイーツ雑誌を静かにめくっていた。お淑やかな所作とは裏腹に目はらんらんと輝き、端っこからは今にもちょびっと出そうなほど口は緩んでいる。 エッチの時とはまた違う欲望丸出しの顔がたまらなく可愛くて、オレはしばしうっとりと見惚れた。 自分の欲しい秋物も気になるが、斉木さんのふにゃっととろけた顔も気になる。 画面と横顔と目を行ったり来たりさせながら、オレは気付けば呟いていた。 ――あー…いつ買いにいこっかな。 それを自覚した時、一気に衝動が込み上げた。 「ね、買い物、いっしょに行ってくれます?」 もちろん、モンブランご馳走しますから オレは横顔に語り掛けた。斉木さんのこの集中具合じゃ返事はしばし先だろうと思っていたが、思いがけず返答があった。 『じゃ明日』 斉木さんは更に、何時にどこでと、時間と場所も指定していた。 「はえぇな!」 スイーツ絡むと最速だね。はは、それでこそ斉木さんだね。 段々強まっていくおかしさにオレは腹を抱えた。 あ、あ、そう怒らないで。斉木さんストップ。 「ストップって言ったのに! 顔面ギブ! ストップストップ!」 確実に食い込んでくる指にオレは涙を滲ませ、両手で掴んで降参の意を伝える。 何度目かのタップで、斉木さんはようやく手を離してくれた。 「うっ……うっ……」 部屋に、オレのすすり泣く音と、雑誌をめくる音が、静かに響いた。 しばらくして復活したオレは、斉木さんをならって腹這いになると、ぎゅっと肩を寄せて語り掛けた。 斉木さんのも、一緒に見ましょうね。 似合うの見つかるといいっスね。 いっそお揃いってのもあり…ないっスね、はい、わかってます。 うん、まあそれはそれとして、写真に残したくなるような、すごく決まってるの買いますんで、またオレの事つけ回してね。 |