衣替え
夏服への衣替え:6月1日

夏:買わなくていい

 

 

 

 

 

 衣替え、夏服といえば…露わになる無防備な二の腕!
 魅惑の生足!
 夏ばんざい、女の子ばんざい!

 そんなハァハァな気持ちを内に秘め、オレは通学路をたどっていた。
『いや、全然秘められてないぞ』
 その犯罪者ヅラを何とかしろ。
 横を歩く斉木さんから、冷えに冷えたひと言をもらい、オレはふはっと鼻息をもらした。
 たちまち『それだそれ』と嫌悪丸出しの顔で指摘される。
『目は血走ってギラギラ、息遣いもおかしい目の動きもおかしい挙動も不振、どこから見ても犯罪者そのものだ』
 ぐぐ、いやいや、これが普通でしょ。これで普通でしょ。オレが普通の年頃の男子っスよ、斉木さんが淡白すぎるんスよ。
「それより、今日のお天気お姉さんの服、見ました?」
 いやー、夏最高っスよね!
 道行く女の子の装いも露出が多くて…肌色が多くて…ぐふ、たまりませんなあ。
 襟の開き具合とか、胸元のフリフリとか、見えそうで見えない肩の焦らし具合とか、あー熱上がりそ。
『上がり切って今すぐいってくれたら、世の中少し平和になるんだがな』
 いっそ僕が手を下してやろうか?
「ひっ……! 結構です結構です!」
 自分の左手を見つめる斉木さんに、オレは目ん玉ひんむいて大急ぎで手を振った。

「夏服っていや、学食のおば…お姉さん方も、半袖の人増えたっスね」
 ふっと過ったので、話題を変える。
 なんでも、支給される白衣に半袖が加わったそうで、やっと快適になったのよとおば…お姉さんが話してくれたのは、昨日の昼時。
 斉木さんがお弁当なしなので、オレが学食まで飛んでった時の事だ。
 そういや、長袖を折り返してたっけ。今までなかったとか大変だよね。
 最近の夏の暑さは尋常じゃないものね、いいことだ。
 厨房過酷だもんな、常に火の側だし、湯気やなんや熱がこもって大変だよな。
 冬場は冷水と熱気とで大変、夏場は熱と湿気とで大変、とにかく大変な環境だ。
 自分の下宿先の寺の台所を思い浮かべながら、オレはつい考えに耽った。

『お前こそ、夏バテでぶっ倒れるなよ』
 人の事より自分の事心配しろと、斉木さんのテレパシーがオレの思考を切り裂く。
「えへへ、オレは、斉木さんがよく見ててくれるから平気っスよ」
 あれから自分でも、気を付けてますし。
「あざっス!」
『そうしろ。もう二度と僕の手を煩わせるなよ』
「了解、お任せくださいっス!」
 オレはぐっとこぶしを握り締めた。
 死んでほしいとか言いながら斉木さん、これだもんな。涙が出そうなほどありがたい。


 あつい…だるい――でも!
 体育の時間さいっこう!
 午後一番の授業は体育。昼飯後の運動とかかったるくてやってらんないとこだけど、今の季節は別だ、別格だ。
 揺れるおっぱい、透けるブラ、さいこーです!
 それ見る為にサボらず参加したと言っても過言ではない。
 炎天下で校庭グルグルとか地獄だけど、揺れるおっぱいちゃんに巡り会えたなら何の不満もないっス。
 地獄で仏とはまさにこの事っス!

 喉が焼き切れそうなほど無様にふうふうぜいぜい息をつきながら走っていると、突如足がもつれた。
「うっ……――!」
 いくら暑さでくたくたになっているとはいえ、まだ倒れるには早い。こんな醜態さらすほど疲れてない。
 ということは――つまり斉木さんの仕業だ。
 オレは頑張ってけんけんで持ちこたえたが、努力むなしく校庭に倒れ込んだ。
 斉木さん!
『真面目にやれ』
 こりゃひどいと文句をつけると、斉木さんの冷え冷えとした声が脳天に響いた。
 一緒に走ってたタカユキたちがどよめき、怪我してるのに気付く。
(あーあ、膝すりむけた)
(うわ、擦過傷。かっこわりぃ)
(いてー、いてぇ)
 恥ずかしさに立ち上がれずもたもたしていると、松崎がやってきて傷口の具合を調べ始めた。
 その時ふっと、この場にいない斉木さんの視線が感じられた。
 オレの事、きっと呆れ果てた顔で見ているんだろうな。目に浮かぶようだ。
 今頃きっと笑ってるんだろうな。
 くう〜、悔しい。
 ちょっとよそ見しただけなのに。
 はぁ、ダサ、いったぁい、カッコ悪い。
 ええい、もういい。
 オレはいっそ開き直り、一人で保健室へ向かった。


「……先生いねーし」
 ドアにかけられた札に今一度目を通す。
「午後は出張で不在です…か」
 緊急の場合は、代理の大理先生が職員室にいます云々は斜め読みして、オレは一人中に入った。
 まあ、このくらいの怪我なら自分で処置出来るから問題ないけど。
 勝手知ったるで棚をさぐり、絆創膏を机に用意する。
 おーいて、おーいてぇ。うわ、きれーにすりむけてら。
「高校生にもなって膝すりむくとか、だっせぇ」
 恥ずかしさをごまかす為、オレはわざと口に出した。
 高校生になっても、膝すりむいたらやっぱり痛いんだな。
 ガキの頃みたいにピーギャー泣き喚いたりはしないけど、高校生でも痛いものは痛いし、涙も滲む。
 ぐすんと鼻を啜り傷口を洗い流していると、背にした入り口の扉がからからと閉まる音がした。
「あ、せんせー、傷の手当てしてます――!」
 言いながら振り返り、オレはあんぐりと口を開けた。
 そこにいたのは代理の先生ではなく、斉木さんだったからだ。
「斉木さん……」
『本当にダサいな』
 斉木さんは後ろ手にドアを閉めると、あきれ果てたって顔で鼻を鳴らした。
『まったく。僕の手を煩わすなと言った矢先に』
 ええ〜。でもこれはだって、アンタの仕業じゃないですか。
 けど、その原因を作ったのは他でもない自分自身なので、オレはぎゅっと口を結んだ。
 斉木さんの目がすっと細くなる。笑うように。
『天罰が下ったようだな』
「……そうみたいっスね。よそ見した罰が当たりました」
 神より仏よりずっとおっかない、斉木さまの罰が当たったんです。

「サボりっスか?」
『間抜けなお前を笑いに来たんだ』
「へーそう……」
 じゃあまあ、存分に見て下さい。
「膝小僧すりむいて、涙目になってるみっともないオレを、どーぞ見てってくださいな」
 オレは開き直り、いっそ笑ってみせた。

 椅子に座って手当する間、斉木さんは傍に立ちただ黙って見ていた。
 綺麗に洗い流した傷口を、速やかに保護テープで覆う。これで半日もすれば綺麗さっぱり治るだろう。
「これで……よっし」
 膝を曲げ伸ばししてはがれない事を確認する。
 オレは目を上げ、至近距離の斉木さんに視線を注いだ。
「夏はいい季節っスよ斉木さん」
 女の子の肌色が一年で最も多く見られる季節、オレにとって天国。

「まあ、オレはよそ見しまくりですけど、でも、正面には必ず斉木さんがいますからね」
 アンタの肌色が一番股間にくるし。
 言いながら、オレは斉木さんの腕を手首から肩に向かって撫で上げた。半袖の口にちょろっと指を潜り込ませる。
 斉木さんはそれを、何の感慨もないようで実は何かを含んだ目でじっと追っていた。
『なんにも嬉しくないな』
「ほんとに?」
 オレをこんなに骨抜きにしといてさ、本人が自覚無しとか、ちょっと頭きちゃうんすけど。
 斉木さんの腰に腕を回して抱き寄せる。
 殴られるのも覚悟の上だったが、意外に素直に腕に収まって、オレびっくり。ちょっと、変な音が喉からもれるくらい驚く。
「……ねえ、オレがこれからなにしたいか、わかってますよね」
『わかってる』
「うんっ……」
『予知夢で見たんだ。お前を転ばせた直後にな』
「どんなっスか?」
『お前とここでやってる夢だ』
「っ……!」
『それを回避するには、ここに来なきゃいいだけ』
「でもっ……!」
 でも斉木さんは来た。てことはつまり――。
「オレと、したいから……」
 斉木さんは一秒だけオレと目を見合わせ、すぐに逸らした。けどそれは気まずいとかの感情じゃなく、この人なりの肯定のサイン。
「いいんスか……?」
『好きにしろ』
「――!」

 どういうわけかちょっと歩きにくい。すりむいた膝小僧のせいじゃなくてとにかく、ちょっと歩きにくくなった足を運び、オレは四つあるベッド…廊下側二つは女子用、窓側二つは男子用…の窓側一番端に腰かけた。
 斉木さんは、オレから数歩の所で立ち止まり、オレと向かい合って突っ立っている。
「ねえ、ネクタイ解くとこ見たいんすけど。見せてくれます?」
 こうやって、と、仕草で伝える。斉木さんは心底呆れた顔になった。
「もー、聞いて。あのね…斉木さん、いつもきちっと制服着て偉いね。暑くないの?」
 調節してるから平気?
 あっそ。
 くぅ羨ましい〜。
「それはそれとしてね、斉木さん。こんな風に綺麗に整ってるの見ると、崩したくなるんスよ」
 斉木さんの崩れてくところが見たい。
 おぞましさに顔を歪めるも、斉木さんは言う通りやってくれた。
 一つため息を吐いた後、人差し指をネクタイの結び目にかけ、すすすと緩めた。ほどいて、襟から抜いて、ぞんざいに折り畳みベッドに放る。
「ああ…いいっスね。じゃあ、自分で脱ぐとこも見せて」
「………」
 深いため息のあと、斉木さんは両手を服の襟元に持っていった。
 一つひとつ外されていくボタンを目で追う。
 段々露わになる肌に思わず喉が鳴る。
 斉木さんの肌は、独特の白さがある。
 不健康な白でもない。日本人らしい色白ともまた少し違う。といって、異国の血が混じった白でもない。およそ見た事ないような白い肌。
 血の気が感じられない訳じゃなく、ちゃんと生きている人の肌で、触ればもちろんぬくもりがあって、鼓動も伝わってくる。
 オレはまた喉を鳴らし、欲求に逆らわず手を引っ張り唇を寄せた。
 触れる寸前、不思議な甘い匂いがした。何だか無性に嬉しくなるような、その一方で妖しい気分になるような、何とも言えぬ魅力的な匂い。
 斉木さんの匂い。
 好き、大好き。
 シャツを脱がせながら、オレは胸に顔を埋めて存分に吸い込んだ。

 裸身を抱きしめ好きなようにふがふがやっていると、鼻息気持ち悪いとテレパシーが叩きつけられる。
「……いいですよ、何とでも言って」
 自分でもここまでなんてちょっとおかしいだろ、って思うけど、でもやめられないのだ。
 斉木さんの身体の匂い、もっといっぱい体内に取り込みたくてしょうがない。
 開いた口の奥から舌を伸ばし、うっすらと目立つ喉仏に這わせる。
 それにさ、味も。
 匂いも味も感触も、全部身体に叩き込みたいのだ。
「しても…いい?」
 こんな時間から、こんなとこでする事じゃないけど、してもいい?
 アンタの予知夢通りに、ここでやってもいい?
 オレはぎゅっと抱きしめ、それから斉木さんを見上げた。
 ダメって言ってもきっとやめられませんけど。
 斉木さんは黙っったままだ。と、突如オレのヘアバンドをむしり取って机に放った。それから前髪をすき上げて額を丸出しにさせた。乱雑な指先がコツコツと何度もおでこに当たる。
 いて、いてて、なんすか。
 嫌だっていう意思表示なの?
 その割には、優しいキスを寄越してきますね。
 斉木さんは額に唇を押し当てると、今度は目蓋、次に鼻先と、少しずつずらしながらキスを繰り返した。
 柔らかくてあたたかくて、少しむず痒い。
 自然と唇が緩んだ。
 そしてとうとう、唇同士が重ねられた。
 唇に何度も吸い付いてくる。
 くすぐったい、気持ち良い。
 斉木さん愛しい…幸せ。
 浸っていると右手を掴まれ引っ張られる。誘導された先は斉木さんの股間。
 ああ…はい、わかりました。
 迅速に、続きをいたします。
 形を主張しつつある斉木さんの雄にオレはにんまりと唇を歪め、自分の意思できゅっと包み込んだ。
「っ…」
 かすかな吐息が、斉木さんの口からもれる。目をやると、うっすらと笑みを浮かべていた。

 恋人の色っぽい仕草が見たくて、ネクタイ外すところ見せてとねだった。
 斉木さんはその通りしてくれて、外されたネクタイは無造作に四つ折りにされベッドに放られている。
 何の気なしに見た瞬間、ある考えが頭を過った。突き抜けるようにそれが閃き、オレはぐっと息を詰めた。
 と同時に斉木さんの手が素早く動いて、ネクタイを掴み取った。
「!…」
 思わずしゃくり上げる。オレの脳内から考えを読み取り、そうはさせるかと先手を打ったのだろう。
 でもオレも、取り上げられて簡単に諦める玉じゃない。
 引き止めるように斉木さんの手を掴み、じっと目を覗き込む。
 したい、したい…これで斉木さんを縛って、思う存分抱きたい。
「ダメっスか……?」
 斉木さんの眼差しが鋭くオレを貫く。怒りを込めているようにも見えるし、どことなく不安げにも見える。
 それとも…期待?
 いやいや、それはないな。
 さすがにそいつは都合のいい解釈だと押し込めようとした時、斉木さんの手から力が抜けた。

 ベッドに座ったオレの丁度目の高さにある斉木さんの両手を、背中でひとまとめにネクタイで結ぶ。
 簡単な蝶結びを終え、オレはますます夢見心地になる。
 それを、斉木さんが引き戻す。
『思わずちぎっても、文句を言うなよ』
 力の加減を誤って、超人みたいに引きちぎっても興醒めするなよと斉木さんが念を押す。
 背中を向けたままそんな事を云う斉木さんを自分の方に向かせ、立ち上がって目を覗き込む。
 これでこの人は、オレのする事全部に抵抗出来なくなった。でもそんなのは茶番に過ぎず、やろうと思えば超能力でいくらでも出来る。
 けれどアンタは自分の意思で茶番に乗っかった。だから。
「しません…というか、斉木さんもしません。大丈夫」
 オレも頑張りますから、斉木さんも協力してね。
 気持ち良いこと、しましょ。
 斉木さんは顔を背けた。それを自分の方に向けさせ、オレは唇を重ねた。

 再びベッドに座ったオレの足元にうずくまり、斉木さんが口でしゃぶっている。
 さっき、これでもかってほど絡め合わせた舌が、今はオレのに絡み付いて、這いずり回って、気持ち良い事この上ない。
 これはオレが頼んだものじゃなく、斉木さんが始めたものだった。キスしながら、斉木さんが脚でオレの股間を刺激したのが始まり。
 両手が使えなくても、お前を翻弄するなんて造作もないって云わんばかりの挑発に、頭が一気に熱くなった。脳天が芯まで痺れた。
 だめだめ、このまま脚で擦られていっちゃう、そんなのやだやだ。
 でも気持ち良くて、自分からも腰振っちゃって、情けないみっともない、でもああ気持ち良いってぐるぐる葛藤していたら、ふっと斉木さんの動きが止まった。
 ええ、もう終わっちゃうのと名残惜しく斉木さんの顔見たら、なんと、丸く開けた口の下唇に赤い舌乗せて…つまり口でする時みたいになって、オレを上目遣いに見てきた。
 その顔見たらもう我慢なんて出来ない。
 オレは今にも窒息しそうにはぁはぁしながらベルト外してファスナー下ろして、下着から自分の引っ張り出して、それでいて斉木さんを半信半疑見つめていた。
 斉木さんは舌を引っ込めてにやりと笑うと、その場に跪いた。
 頭に血がのぼりすぎて、一瞬目がかすんだ。そのくらい興奮した。
 そんな感じで、斉木さんの奉仕が始まった。

 斉木さんが口でしてくれる事って、実は数えるほどに少ない。
 オレがそもそも頼む事がないからかもしれない。嫌いじゃないけどね、むしろ好き大好きな方、たまに無性にAVが見たくなって、その中のそういうシーンに自分を重ねて、斉木さんを配置して、それでいった回数は果てしない。
 そのくらい好きなんだけど、頼みづらいって訳でもないんだけど、あんまりやってない。
 斉木さんからも、するって方向にはいかないし。
 なんだろ、手コキや斉木さんのお尻で満足してるからかね。
『お前がせっかちで、すぐ僕に入れたがるからだろ』
「うっ…ぅえ」
 熱心で、ともすると下品なおしゃぶりからは程遠い静かで冷静な語り掛けに、オレはおかしな声を跳ねさせた。
 ただでさえ興奮して熱い顔に羞恥が加わり、火を噴きそうになる。
 じゃあ、今回はどうしてこうなった?
 なんでやってくれてるの?
 そんな、SMまがいの格好も、すんなり受け入れてくれたのはなんで?
『さぁな……』
 またあやふやな回答で煙に巻かれるのかと眉尻を提げた時、言葉の続きが頭に響いた。
『興が乗ったからだ。お前、こういうの好きだろ』
 たまにはそれに素直に応えても、罰は当たらないだろ。
 喉奥まで飲み込んで、斉木さんはそこからオレを見上げてきた。
 ごくっと、自分でもびっくりするほど喉が鳴った。
 う……わっ、やべぇ。その顔やばいよ。
 すげぇスケベ、斉木さんスケベ過ぎ。
 反則だよ、それ。
 だってさ、オレのその、下の、黒紫の毛がさ、斉木さんの顔にちょこっと触れてるわけよ。それも興奮するし、オレのを全部飲み込んだ斉木さんの、いかにもいっぱいに頬張ってるって顔にも興奮するし、斉木さんも少なからず興奮してて目が潤んでて、ほっぺたも上気してて、そんなんで見つめられたら、心臓口から出ちゃいそうなほど興奮しちゃうのも無理はないだろ。
 しかも――。
「あ……つぁ……いい、すっげ、きもちいい」
 多分、先端は斉木さんの喉の半ばに入ってるんだろう、硬めの感触が不規則に締め付けてきて、たまらないほどの快感に見舞われる。自然と腰が動いた。
 オレは恐る恐る斉木さんの後頭部に手をやった。
 ねえ、ねえ、やってもいい?
 オレのしたい事を脳内から読み取って、斉木さんの目付きが険しくなる。
「斉木さん……だめ?」
『好きなようにしろ』
 斉木さんの返答と共に、オレはぐっと手に力を込めた。そのまま腰を送る。

 おえ、っとくぐもった声をどこか遠く聞きながら、オレは斉木さんの口の中を好き勝手蹂躙していた。
「あ、あ…きもちい…斉木さん、いきそうだよ」
 オレは小刻みに揺すっていた腰をぐっと奥まで押し込み、射精する。
 押さえている身体がびくっと弾んだ。
 それでもオレは離さず、出し切るまで斉木さんの頭を固定し続けた。
 すっきりして、それから、どっと申し訳なさが込み上げる。
「飲んでくれたの……ありがとう斉木さん」
『お前…いつもより長いしデカいし、ふざけんな』
 げほ、と咳き込む斉木さん。
 オレは慌てて背中をさすった。
「ご、ごめんなさい。ついあの、興奮して。我を忘れました」
 だってその格好、ほんとクるんスよ。
 超能力者を拘束なんて、ありえないじゃない。だから、だから。

「……ところで斉木さん、オレのって、いつもはちっさくて短いっスか?」
『はぁ?』
「いや、あの…実はその、割と気にしてまして」
 目を合わせないよう俯き、オレは両手の指先をもじもじ絡めて手遊びする。
 斉木さんは呆れたと云うようにぐるりと目玉を回した。
 む。そりゃ、手も足も身長も可変可能な斉木さんからしたら取るに足らない悩みかもしれませんが、今の態度、全国の悩める男子を敵に回しかねませんよ。
『はいはい。で、お前のブツが、なんだって?』
「え、えへ、ですからその、オレので、いつも満足してますか?」
『……してる。お前のそれ、体格に見合ったブツだと思うぞ』
「そっスかねえ。斉木さんと擦りっこする時、胴回りがほぼ変わりなくて、いつもちょっと頭に引っかかってんですよね」
『長さは……』
 斉木さんの目が泳ぐ。それ、言うのがはばかられる時にする仕草!
 やっぱり短い?
 満足してない?
 オレは顔を強張らせ、斉木さんの返答を待った。
『うるせぇ、散々人を悶絶させておいて、何が「みじかい?」だ!』
 あんまりふざけた事抜かすと噛み千切るぞ
「ひぃっ……!」
 照れ隠しにしたって狂暴過ぎ!
 縮み上がっちゃうから勘弁して斉木さん。
 もう聞かないから。
 これからは自信をもって抱きますから。
『……ふん』
 斉木さんは顔を真っ赤に染めると、複雑な表情になってそっぽを向いた。
 あ、はは。ごめんなさい。

 じゃあ次は斉木さんが気持ち良くなる番ね。
 って言いたいけど、その前に。
 乳首で善がる斉木さんが見たい。すごく見たい。乳首だけでいく時、どんな声出すのか聞きたい。
 座った自分に跨る形で座らせ、オレはそこでにやりと笑った。
 何も言ってないが、斉木さんには筒抜けだ。オレの思考を読み取り、たちまち顔が嫌悪で歪む。
『いやだ』
「そう言わず」
 身をよじって逃げようとするのを、オレは抱きしめる事で封じる。
『やめろ、するな!』
 鋭いテレパシー、鋭い目付き。熱に潤んで、色っぽくて、やらしくて、オレの股間をこれでもかと攻撃してくる。
 見ると、斉木さんのはさっきよりもかたく張りつめていた。
 縛られて妖しい気分になっちゃった?
 オレのしゃぶって、喉の奥までゴリゴリされて、感じちゃった?
「それとも……これからされる事に期待して、大きくなっちゃった?」
『……馬鹿言え――あ!』
 ズボンのホックに手をかけると、斉木さんの身体がびくりと反応する。
「ほら、その目が証拠」
『……うるさい』
 送られてくる声も勢いがない。そりゃそうだ、だって斉木さんったら、明らかに熱を孕んだ目で自分の股間見てるんだもの。誰だってわかる。
 なんか感動しちゃう。
 ファスナーを下ろし、下着の上からでもはっきりわかるほど形づいたそれに触らないようぎりぎりまで手を近付け、下から上に撫でる仕草をした。
 斉木さんの呼吸が乱れる。思わず口端が緩む。オレは、オレに跨り大きく足を開いたその腿をさすり、手を動かしながら斉木さんの表情に注目した。
 斉木さんはもう、自分のそこしか見ていなかった。自分じゃ触れない、オレに頼って発散するしかない熱に切なげに目を細め、浅い呼吸を繰り返していた。
 オレはにんまりと笑い、斉木さんの意識がそっちに向いている隙を突いて…なんで無理だけど、出来るだけ素早く、胸に手のひらを当てた。
「!…」
 悔しそうに顔を歪め、斉木さんははっ…とため息を漏らした。

 親指と人差し指でそっと摘まんだ乳首を、ゆっくりゆっくり捏ねる。
『いやだ……鳥束』
 後ろ手の身体をくねくねさせて、ああたまんないな、これ。
「ねえその仕草、もっとイジメてくれって言ってるみたいっスよ」
『ふざけんな…鳥束……とりつかぁ』
 その顔…グッとくる。
 舐めて、チュッチュ吸って、唾液でぬるぬるになったのを指でスリスリして、オレは刺激を与え続けた。
 頭上からひっきりなしに熱い吐息が降ってくる。
 ふと見上げると、さっきまで怒りに染まっていた斉木さんの表情が、今は懇願に変わっていた。
 ああやべ…自分がそうさせているのだと思うと腰の後ろがカーッと熱くなった。
 オレは斉木さんの顔に注目したまま、手探りで乳首を捉え、くりくりと弄り続けた。
 斉木さんはオレの膝の上で、絶え間なく身をくねらせた。啜るような息遣いにオレも大いに興奮する。
『なあ鳥束…これ、ほんといやだ…やめてくれ』
「ウソばっかり」
 斉木さんの眼差しが、ぐっときつくなる。嘘じゃないという訴えか、見抜かれた気まずさか。
「オレ、もう、斉木さんの好きなやり方知ってますからね」
 こうやって気持ち良いとこ弄られるの、大好きですよね。
 嫌だなんて言わせませんよ。
 強く荒々しくされるより、優しく、そっと扱われるのを好みますよね。
 そして、気分が乗ってきた時にちょっとだけ強くされると、更に喜ぶ。
 表情を注意深く伺い、オレは頃合いを見計らって指先に力を込めた。
「っ……っ……!」
 しゃくりあげる熱い息遣いに、自然と顔が緩んだ。
 痛い、と訴えるように竦んだ身体に、すぐさま優しい愛撫を加える。オレはひどくした乳首に吸い付き、詫びを込めて優しく舐った。
『んん……ああ』
 斉木さんの全身が、小刻みに震える。
「いきそう? もういく?」
 目に涙を滲ませ、斉木さんは首を振った。違うというのではなく、もうこれ以上は耐えきれないって意思表示だ。
『うぅ…やだ、鳥束、触れ……さわって』
 腰をかくかくオレの方に突き出しながら、斉木さんが乞う。
 オレは乳首を弄りながら聞き返す。
「何を触ってほしいの?」
 どこのこと?
 意地悪く問うと、斉木さんの表情がきっときつくなる。怒りで唇まで震えていたが、今のオレには興奮材料にしかならなかった。
「ねえ斉木さん、頭で思うだけでいいんだから、そう難しくないでしょ」
 ねえ、この状況を受け入れるほど興が乗ったって言うなら、こんなプレイにも、乗っかってくれるでしょ。
 いいよね、斉木さん。
 オレは背中に手のひらを当てると、歯が当たらないよう充分気を付けて、唇だけで小さな突起を舐った。
 たちまち斉木さんの喉がひゅうっと鳴る。

『とりつか……もうやだっ、乳首やだっ!』
 悲鳴のようなテレパシーに背筋がぞくぞくっと痺れた。
 ぷっくり膨れた乳首に甘噛みを繰り返しながら、オレは半ば無意識に笑った。
「うそ、斉木さんの大好きなとこなのに」
 嫌なのは、他の好きなとこ触ってくれないからでしょ。
 乳首に吸い付き唇でくすぐっていると、頷く動作が伝わってきた。
「どこ触ってほしいの? おしえて斉木さん」
 ほら、乳首こんなビンビンに尖らせて…いやらしい人だなもう。あーあ、×××もガチガチ、我慢汁ダラダラで下着ぐしょぐしょ。ちょっと擦ったらすぐ出ちゃいますね、これ。
 でもダメ、今は乳首だけでいくとこ見せて。斉木さんなら、もう出来るよね。ほら、乳首一杯可愛がってあげますから出すとこ見せて。
『無理だ……むり』
「どうして? 前は出来たじゃないですか」
『あの時は……お前のが中にあったから』
 だからいけた。
 だから今は無理だと弱々しく首を振る斉木さんに興奮のあまり震えが走る。
「オレのは、あとでちゃんと上げますから。うんと気持ち良くしてあげますから、ほら、今は乳首だけで」
『むり…できない』
「大丈夫、斉木さんやらしーから、すぐ出来るようになりますよ。乳首でいくまで、弄るのやめてあげません」
 小さいながらも存在を主張する乳首に吸い付き、もう一方は指先でくにくにと転がす。
 逃げたがる身体を抱きしめて固定し、オレは一杯に伸ばした舌の端から端で乳首を刺激した。
『もうやだぁ……鳥束、いきたい…いきたい…さわって……』
「……×××さわって」
「――!」
「あっ……!」
 まさか声に出して訴えてくるなんて、思ってもなかった。驚きにぴたりと静止した途端、斉木さんの身体がひと際大きく震えを放った。
 おこりのようにびくびくと痙攣を繰り返している。
 どうやら口にした言葉が引き金になり、それでいってしまったようだ。
 触って確かめようとすると、やめろと鋭い声が頭を切り裂く。一瞬手がびくついたが、オレは構わず性器に触れた。まだガチガチに硬いが、下着越しにぬるついた感触が伝わってきた。
「あっ……っ……」
 やっと射精出来た喜びに震え、斉木さんは恍惚とした表情を浮かべていた。目が釘付けになる。見てるだけで何か出そうだった。実際ちょっと何か出た。
 これ…病み付きになりそう。

 と、強張っていた斉木さんの身体から一気に力が抜け、オレにもたれかかってきた。ぜいぜいと全身んで息をついて、ひどく苦しそうで、身体はびっくりするほど熱い。
「気持ち良かった?」
『うるせえ』
 精一杯棘だらけにしたのだろうが、目に見える反応は可愛くてエロくて、とても素直。
 だからオレはしっかり抱きとめ、おりこうさんと頭を撫でた。
 上手にいけたご褒美に、もっともっと、気持ち良くしてあげますからね。
 耳元に囁く。吐息にも感じるのか、斉木さんは小さくわなないた。
「下着、汚れちゃいましたね」
『誰のせいだ』
「すんません。ちゃんと、新品買ってお返ししますから、許して下さい、ね」
『……知るか』
「さ、下も全部脱いじゃいましょうか」
 頷くように、頭が微かに揺れた。
 斉木さんの身体を抱いて支えたまま、オレはゆっくり前にずれた。
「立てますか?」
『平気だ』
 云う通り自分からおりたが、ひどく心もとない。
 オレは身体を支えて、ベッドに上半身をうつ伏せに寝かせた。
 それから、ズボンと下着を脱がせる。

 三本の指で丹念にほぐして柔らかくした後孔に、オレは自身の先端をあてがった。
「入れますよ」
『早く……とりつか』
 斉木さんはもじもじと足を動かし、濡れた声でオレを急かした。
 オレは背中に圧し掛かるようにして一気に奥まで挿入した。
「っ……!」
「あー……斉木さん気持ち良い、ナカきもちいい」
 音がするほど腰を叩き付けながら、オレはうっとり呟いた。
 さっきは焦らしてごめんね、ちゃんと触ってあげますね。
 腰を打ち付けながらオレは前に回した手で勃起したものを扱いた。
「あはぁ……」
 たちまち斉木さんの口から、だらしない喘ぎが零れた。
「気持ち良いの斉木さん」
 うんうんと頷く。
『鳥束の手、いい』
「ねえ、こっちは?」
 ぐぐっと根元まで送り込む。
「あっ……」
『奥、奥がいい!』
「ここがいい?」
 またうんうん。
「オレの、気持ち良い?」
 ズボズボ出し入れしながらオレは閉じ込めるようにして腕を回し、ほんのり上気した頬に唇を寄せた。触れた肌は驚くほど熱い。
「オレもいいっス……斉木さんのここ、きつきつなの」
 たまらない。
『両方、だめ……いく! とりつか、もういく、いく……いく!』
 後ろを擦りながら、同時に前も弄っているせいか、いつもより早く絶頂が訪れた。
「いいよ、ほら、いっていいよ斉木さん」
 オレはより一層熱を入れて扱き、絶頂へと導いた。
「っ――、あっ……!」
 組み敷いた斉木さんの身体が強張る。内部もきゅうっと締め付けを増し、オレのをしゃぶった。
(うわ…たまんね……)
(×××とけそ……)
 踏ん張って射精を堪える。

 オレの下で、斉木さんが絶頂の余韻にビクビクと腰を引き攣らせていた。
 それが抜けきらない内に、オレは斉木さんの右膝をベッドに乗せ、自分も右足をかけて、角度を変え大きく抜き差しを繰り返す。
『あぁ……とりつか、それ…ああ、それ』
「いいっスか?」
「うん……いい」
 きもちいい
 口からもれた甘ったるい呟きに力を得たオレは、同じ動きで快感を送り続けた。
「嬉しいな…ね、もっと気持ち良くなって、斉木さん」
「あぁっ……あぁっ」
 奥まで突き刺す度に斉木さんはため息交じりの喘ぎをもらし、緩慢に見悶えた。しなやかな動きに目が奪われる。
 時々、縛られた手を握っては開く動きに、更に目が釘付けになる。声を出すのもそうだし、動きの一つひとつが、オレとする気持ち良い事に溺れていってるようで、気持ちは昂る一方だった。

『鳥束、激しい……だめ、だめ!』
 斉木さんの白く丸い尻に何度も下腹をぶつけ、オレは自身の解放に向けて動いた。
「ごめん斉木さん、苦しい?」
『平気だ、もっと寄越せ!』
 喉から、高い音をひぃひぃ漏らしながら、斉木さんが求める。
 あー…すっげえ興奮する。
 斉木さんを縛って転がして、後ろから突っ込んでる…とまんない、止まんない!
 オレは身体に圧し掛かるようにしてベッドに乗り上げ、斉木さんの身体を抱き起こした。しっかり腕を回して抱きしめ、下から突き上げるように揺する。動く度、キシキシとベッドのスプリングが微かに音を立てる。
『やだっ……深い、ああ奥、おくが』
「奥がなに?」
『当たって…お前のが当たってる!』
「うん、斉木さんの一番深いとこ、ゴリゴリしてる」
『気持ち良い……ああもう……』
「もう、なに?」
 いきそう?
 斉木さんはビクビクと全身を痙攣させながら、何度も頷いた。
 その動きの最中、ひと際強く震えを放ち、斉木さんは白液を噴き上げた。
「ぐっ……ふ……あうぅっ!」
 堪えに堪えて、それでも我慢出来ずにもれる低い唸り声が、オレを更に興奮させる。

 きつく強張る身体にオレはにやりとだらしなく笑い、休む間も与えず揺さぶった。
『うぁっ……とりつか、いった、いった!』
 わかってます、だってアンタの中、搾り取るみたいにきゅうきゅううねってるもの。
 そんで、そうしている時に、こうやって抉じ開けるように捏ねられるのが大好きだって事も。
「ちゃんとわかってる……スよ!」
 オレは持っていかれないよう下っ腹に力を込め、踏ん張った。
「あぁっ……!」
 斉木さんの身体が何度ものたうつ。両足をばたつかせて、何とか前に逃げようとしている。でもそれは本当に嫌だからじゃなくて、あまりに激しい快楽で反射でそうなってしまうのだ。
 オレがそうさせてる、オレのせいでそうなっているのだと思うと、興奮のあまり全身の血が煮えるようであった。
 あっ…もうだめだ
「いくよ、斉木さん――出すよ!」
 告げながらオレは直線的な動きで最奥を何度も突いた。
 数回の抜き差しの後、ぐっと突き刺して射精する。
 一番深いところに熱いものを浴びせられ、その衝撃でか斉木さんはまた精液をまき散らした。
「あぁ……あ――」
 だらしない善がり声をもらして、斉木さんは小刻みに震えを放った。

 斉木さんの身体から強張りが抜け、だらりと脱力する。
 前に倒れそうになる身体をしっかり抱いて、オレはそっと慎重に寝かせた。 
『まだ……硬いな』
「ええ……まあ」
 だって、アンタの中とんでもなく気持ち良いんですもの。先っぽも根元もまんべんなく締め付けて、きゅうきゅう包み込んできて、ほんとにたまらないっス。
 斉木さんもまだまだ、満足しきってないですよね。
 確かめる為に前に手を回す。
『よせ……』
 斉木さんは身体をのたうたせて逃げを打つが、繋がったままでは逃げ場もない。容易にオレにとらえられ、半勃ちのそれを握られて、高い悲鳴を上げた。
「やぁっ……!」
「あ…その声、いいっスね」
『うるさい、くたばれ』
 やだ、斉木さん満足させてないからくたばんない。
「だから、もっとしてもいい?」
『まて、まだ……!』
 制止も聞かず、オレは一度強く腰を突き入れた。
『動くな!』
 頭痛がしそうなほど大きな声が頭に響く。
 それでいて斉木さんったら、オレに腰を押し付けてもっととねだってくる。
「すごいよ…腰抜けそう」
 斉木さん、アンタが満足するまで、中を気持ち良くさせてあげますからね。
 両手で腰を掴んで、自分に引き寄せるようにしながら自らも激しく腰を打ち込んだ。
 さっき出したものをぐちゅぐちゅかき混ぜるように腰を使う。しゃくるようにうねらせると、斉木さんの汗まみれの背中が妖しくのたうった。
『あ……くそ、なんで』
 気持ち良い
「あぁっ……う、んん!」
 斉木さんの口から、抑えきれない嬌声がぽろぽろと零れ落ちる。素直に垂れ流してオレをとろけさせ、かと思うとはっと我に返ってぐっと歯を食いしばって我慢して、いずれにしろオレはそんな斉木さんの反応にドロドロに溶けてしまう。
 もう、この期に及んでまだ抵抗するなんて、どこまでもオレを喜ばせてくれますね。
 オレはより一層熱を入れて抱いた。

 あー…すごい、油断すると持ってかれそう。
「斉木さんの中、奥の方までぬるぬるで最高っス」
 単調な動きを何度も何度も、何度も繰り返していると、斉木さんの身体がまた激しく痙攣した。前に手を回して確認するが、出してないようだ。ナカでいっちゃったんだ…はは、可愛いな、斉木さん。
「かわいい……」
『うるさい……』
 しね
 弱々しい悪態がかえってオレを昂らせる。オレはある意味何度も死んでる、アンタに殺されてる。
 だからアンタも、オレと一緒にいきましょう。
「ねぇ……斉木さん」
 ぴったりと身を寄せ、耳元でそう囁く。
 吐息がくすぐったいと、斉木さんが頭を振りたくる。
 頬っぺたも耳たぶも綺麗に朱色、始める前は不思議な白だった肌も、今はうっすらと桃色に染まっている。
 ああ、綺麗だね…可愛いね斉木さん。
 また、うるさいと呟きがもれた。
 それすらも可愛くてゾクゾクくるんだから、オレも大概だ。

 ずっとバックからだったのを一旦抜いて、自分の膝に乗せ、抱き合う形で繋がる。この体位だとより深くまでオレのが届いて、それが嫌だからか、斉木さんは抵抗した。
『これ、やだ』
 首を振って拒み、それでもオレがやめないとなると、足をばたつかせて逃げようとした。
 両手を封じてるけど、超能力を封じた訳じゃない、斉木さんが逃げる方法なんていくらでもある。それをせず、こんな抵抗とも呼べないあがきを見せるなんて、オレを煽るだけだ。
 本気で逃げたいと思ってない表れ。
「もう先っぽ入っちゃってるから、諦めて斉木さん」
「いやだ……」
 足を踏ん張り、斉木さんは何とか逃れようとする。
 オレはがっしり掴んだ腰目がけて、自身を突き立てていった。
 柔らかくなった肉の中に、ずぶずぶと飲み込まれていくのがたまらない。
「やだぁ……おく、やだ」
 ああ、可愛い斉木さん。今、うんと気持ち良くしてあげますからね。
 いやだ、いやだと駄々をこねる斉木さんを、ゆっくり自分の上に座らせていく。
「やだぁ……なんで、あぁ……とりつか」
 すんすんとべそをかきながら、斉木さんはオレの肩に頭を預けてきた。
 ああもう、本当に可愛いな、もう!
 座らせるのを一旦中断して、オレは両手でしっかり斉木さんを抱きしめた。
 しゃくり上げる身体の震えとか、息遣いとか、熱くなった身体、これから可愛がってあげるとこ、どこもかしこも何もかも、愛しくてたまらない。

「斉木さん、斉木さん……」
 嫌がって…というより怖がって泣く斉木さんに、そっと囁きかける。
 なんでって、オレはもとよりアンタが気持ち良い事、大好きだからですよ。
 奥の奥まで暴かれるの、大好きでしょ。
 窄まったそこをオレの先っぽでごりごり扱かれるの、大好きでしょ。
 初めてやった時、アンタ、呼吸の仕方も忘れたみたいに感じまくって、叫びまくって、気持ちよさそうにしてましたものね。
 あんな斉木さん、見た事なかった。
 感じやすいアンタにはちょっとつらいでしょうけど、すごく良さそうでしたよ。
 オレのアレの伸び具合によるから、いつも出来るわけじゃないけど、今日は届きそうな気がするんで、いっぱい可愛がってあげますね。
『……やっぱり嫌だ』
 斉木さんは何とか逃げようともがき始めた。しかし、オレの上にぺったり尻がつく…奥の奥まで届く方が少しだけ早かった。えぐい音と共に入った感触に、オレも凄まじい快楽を味わう。
 オレの目眩以上に、斉木さんの感じっぷりは激しかった。
「っ……――!」
 喉から拉げた叫びを上げ、斉木さんの身体がきつく仰け反る。強烈な電気ショックを浴びたかのようにびくびくっと全身を震わせ、最初に一度叫んだ切りあとは声もなく、ただ口を開けたまま激しい快感に揺さぶられていた。
「斉木さん……好きだ…好き」
 繰り返し呟きながら、オレは馬鹿みたいに腰を振り続けた。

「く、うぁ……深い! あぁっ、かは、苦しい……おく、いやだ……あぁ!」
「嫌って言わないで…そんなとろけた顔で、ねえ…斉木さん」
 オレの膝の上で、斉木さんが乱れ狂う。
「やだ、やだ、鳥束、またいく、いく…いってる……いくぅ!」
 奥の奥まで届くオレのもので容赦なく擦られて、斉木さんはもう声を抑える事も忘れて、オレの耳元でひっきりなしに善がった。
 ひっひっとしゃくり上げ、斉木さんは出さないまま絶頂を迎えた。天を突く性器は破裂しそうなほど張り詰め、しかしたらりと濁ったものを垂らすだけ。
「ひっ…いやだ、おかしい…おかしい……!」
 いいよ、おかしくなって構わないよ斉木さん。オレが全部見てあげる、全部受け止めてあげるから、もっともっとオレに狂って、斉木さん。
 オレはうっとりと目を細め、濃桃色の髪を振り乱してひゅうひゅうとしゃくり上げるように喘いでいる斉木さんに見入る。
「あっ…とりつか」
 怖い。
 苦しい。
 気持ち良い。
 おかしくなる。
 オレの頭の中に、斉木さんの訴えが次々殺到して、少し頭がくらりとした。軽い吐き気を伴う得も言われぬ高揚感に、全身が熱くなるようだった。
「あー…さいきさん、オレもいきそー…もういくよ」
 あまりの快美感にオレはだらしなく呟いた。
「いけ、はやく……早くよこせっ」
 斉木さんは自ら腰をうねらせた。両の目からはいつの間にか涙が零れ、顎まで伝っていた。口の端から垂れた涎と混じって、肌を濡らしている。
 ひどく感じ入って、すっかりとろけた顔が、オレの背骨をびりびりと刺激する。
(ああ…いやらしい、斉木さんエロイ)
(そんなに感じてくれて嬉しい)
(ああ好きだ、すごく!)

「斉木さんもいって! ほら! いって!」
 互いの身体に挟まれ、ぐしょ濡れのそれに指を絡め、オレは擦り上げた。
「い――! ああぁあ!」
 先端を親指でぐりぐり刺激すると斉木さんは頭を反らせて悦び、泣きそうな声を上げた。
 オレは性器だけじゃなく、乳首も摘まんで転がし、更には首筋に吸い付いて、出来る限りの快感を与えて同時に貪った。
『ああ…だめだ!』
「またいく――!」
 斉木さんはぐっと息を詰め、硬直した。孔の中も狭まり、オレは逆らわず熱を吐き出した。
 とりつか――!
 まぼろしのような斉木さんの叫びに混じって、何か割れるような音が過った。
 けれどオレは訪れた絶頂に脳天が痺れてよく聞き取れず、気にする余裕もなく、斉木さんの身体に溺れていた。


『重い』
 いつの間にか、斉木さんと一緒にベッドにばったり倒れ込んでいた。しかも、斉木さんを下敷きにして。
 そのまま少しまどろんでいたようで、斉木さんのテレパシーでオレははっと目を見開いた。
「す、すんません」
 すぐ退きます。
 まだ少し気怠いが、オレは青ざめ大急ぎで手足を動かした。
「そうだ、手!」
 ずっと縛ったままで、痛かったでしょ斉木さん。
 更に顔面蒼白になる。
「痕は……ついてる!」
 え、どうしよ!
 こすれて赤く…痛そう!
 うわヤバイ、こんなの誰かに見られたら!
 斉木さんにヘンな趣味あるとか、誤解される!
 どうしよぉ……
「い、痛むっスか?」
 恐る恐る尋ねる。
 それに対して、斉木さんははぁっと大きく息を吐いた。
『こんなもの、すぐ治る』
 なんなら復元するから、そううろたえるな。
「ああっ、しかもネクタイ破れかけてるぅ!」
『いちいちうるさい、それこそ復元するから騒ぐな。大体お前、最初に僕の下着台無しにしておいて今更……やれやれ』
 すんません
 オレは申し訳なさから、小さく縮こまった。
 さっきした割れるような音の正体はこれ、布が千切れかけた音だったのだ。
 そのくらい暴れれば、いくら斉木さんといえど傷を負う。
 オレはどう詫びたらよいかわからず、ただ頭を垂れていた。
 ネクタイは代金で弁償するとして、傷の方はどうしよう。
 どうしたら。
 途方に暮れる。

 淡々と服を着込む斉木さんを、オレは黙って見ていた。
 復元したネクタイを結び終えたところで、斉木さんはオレに目を向けた。
「すんませんっ」
 反射的に言葉を繰り出す。
 斉木さんは小さくため息をついた。
『膝、まだ痛むか?』
「えっ……? え、いえ、ああ。ええ、斉木さんとイイ事したからかすっかり忘れてました」
 そんで言われた途端、痛いのがぶり返してきました。でも、もうほんとちょっとだけっス。
「斉木さんこそ、痛みますか?」
『少し熱くて痒い』
「すんません……つらいっスね」
『ま、これでおあいこな』
 え……なんですって?
「斉木さん…アンタ」
 もしかして、オレすっ転ばせて怪我させたの気にして、それでこんな真似を?
 え、え、あの斉木さんが、まさかそんな――。
 こんなもん気にしなくてもいいのに。元はと言えばオレがよろしくないよそ見をしたのが悪いんだし。
『そうだ、お前が悪い』
「はい……ええ、ほんとそう、自業自得っス」
 だからこれは、と、斉木さんは自身の両手をずいっとオレに突き出した。
 布がこすれてついた赤い痕にオレは少し目を細めた。
『一つ貸しだ。今日のところは、コーヒーゼリーで許してやる』
 最高級のやつだぞ。
 ちゃんと買って来いよ。
「ええ、はい。それでどうか一つ、お願いします」
 本格的なお詫びは、斉木さんの望む通りに。
『そうか、なら――』
 授業終了のチャイムが鳴り響いた。

 オレはつい反射的にスピーカーを見上げた。
 すぐにはっとなって、顔を戻す。さっさと教室に戻れと、斉木さんが促す。
 気付けば、斉木さんの肩にスクールバッグがある。
 え、あれ、いつの間に。アポートとかで取り寄せたんですか?
『馬鹿言え、最初からあった。持ってきた』
 早退するつもりだったからな
「あっ…そ、スか」
 最初からあったってよ…うわぁ恥ずかしい。顔から火を噴くわ。オレ、どんだけ斉木さんしか見てなかったのかな。
『本当にな。僕はこのまま帰る。お前も、さっさと戻って着替えて、さっさと帰り支度して、速やかに買い物してうちに来いよ』
「……うっス」
 オレは殊勝な顔で頷いた。申し訳なさで胸が一杯だが、その一方で、今のほんとに良かった、またやりたいと興奮している。
 ああ、済まなく思ってるのは本当なのに。頭を抱える。
『うるさいな』
「だってぇ」
『いいだろ、たまには。僕だってたまにはこういうのも、悪くないと思ってる』
「でもぉ……」
『いいからほら、早く行け』

 昇降口に向かう斉木さんの後について、とぼとぼと廊下を歩く。
『一つ貸しの分だがな」
「はい!」
 何でも言って下さい、どんな事でも応えます。
『じゃあまた、今日みたいにしてくれ』
「……え? え?」
 受け取った言葉が信じられず、オレは目を真ん丸にした。
 斉木さんは意味ありげに視線を寄越すと、すぐに顔を逸らし、早足で歩き出した。
『返事は?』
「……はいっス!」
 廊下の窓ガラスをビリビリさせるほど大声を張り上げ、続きは心の中で一心に念じる。

 今度までに、肌に優しい素材のもの、買っときますです!

 

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