おまけ
おまけクッキー

秋:純喫茶魔美

 

 

 

 

 

 今度から、コーヒーにおまけでクッキーをつけて出そうと思ってるんだけどね、常連さんの君たちに意見聞きたいから、ちょっと食べてみてくれないかな。

 店長にそうこそっと耳打ちされ、出された三種類三枚のクッキー。
 そりゃ、結構責任重大だな。てかオレこういうの初めて。
 個人でやってる店の常連になるとか、生まれて初めて。
 オレも常連さん?
「うわ、はは、なんかちょっとテンション上がりますね。ね、斉木さん」
 摘まんだクッキーをひとしきり眺め、斉木さんに目を向ける。
 早速食べてる。脇目もふらず、一心不乱に。
 駄目だなこりゃ、この人にかかったら全部「悪くない=良い」でお話になんない。
『なんだ鳥束、失礼な奴だな。僕ほど味にうるさい奴はそういないぞ』
「へー」
『さて、どれが一番か、か…どれも一番だな。どれも悪くない、嫌いじゃない』
 全然駄目じゃん!
 もう斉木さんはほっとこう。

 オレは腕組みして唸った。
 うーむ、コーヒーに合うのといったら。
 ちらっと斉木さんの様子をうかがう。
 コーヒーゼリーに夢中で頼りにならん。
 オレは一生懸命真剣に考えた。
 この…四角いのがいいんじゃないかなあ。
 こっちの丸いのは甘すぎてちょっとくどくなるし、こっちのフィンガータイプは逆にあっさりでコーヒーに負けてる気がする。
『僕も同意見だ』
「うそ! どれも美味い美味いってぱくついてたじゃん」
『失礼な。ちゃんと考えてた』
「ほんとっスかあ?」
『どれも悪くない』
「ほら、もー。だからそれじゃ駄目なんですってば」
『全部入れればいいのに』
「うんまあ、斉木さんにはそれが一番嬉しいでしょうけど」
 コーヒーに合うのっていったらやっぱりこの四角ですね。
『僕も同感だ』
「斉木さぁん」
『三つセットでコーヒーのお供とか』
「んー、斉木さんには丁度いいでしょうけど、他のお客はどうっスかねえ。オレ、そこまでコーヒー通じゃないから、ごく一般的な意見になっちゃいますけど」
『僕もまあ似たり寄ったりだ、そこまで詳しい訳じゃない』
「んー……ねえ」

『クッキー、おかわりもらえるかな』
「斉木さんそりゃちと図々しい」
『じゃあコーヒーおかわりするから、またつけてもらおうか』
「斉木さん、もちょっと真面目に」
『真面目に考えてるから、三つでセットだ』
「うん……言われ続けると段々オレもそんな気がしてきましたよ」
『だろ、ちゃんと考えた結果だ』
「あ、何かマインドコントロールとかしてません?」
『してません』
「まあしてもいいですけど、その際はオレにもちょっとくらいおこぼれ――」
『してねぇって言ってるだろ』
「すんません」

 せっかく頼りにされてんだから、ちょっとは応えないとな。
 うーむ。メニューに何かヒントは隠されてないかな。
『鳥束』
「なんスか」
『帰りに、お前んちの方のスーパー寄りたい』
「えっとあの、県道沿いのあそこっスか」
『そうだ。視たらこのクッキー、あそこで売ってるから、帰りに寄って買ってく』
「ああ、ふふ、はい、買ってくって、オレが買うんスね」
『買ってくれるのか、鳥束お前良い奴だな』
「ったく、乗せられたわ。いっスよもう、気に入ったんでしょ、美味しいの食べましょうよ」
『よし、じゃあおまけはこの四角のに決定だな』
 斉木さんてば、買う方に心が傾いたせいかそわそわしだしたよ。クッキーに思いを馳せてそわそわする無敵超能力者、可愛すぎるだろ。
 クッキーもコーヒーもコーヒーゼリーも綺麗に残さず平らげて、早く出るぞと急かしてくる。
「はいはい、あ、店長さん来ましたよ」
 さっきあんなに熱入れてオレに語ってたから、三つセットをすすめるかと思いきや、四角一押しだと斉木さん。
 斉木君がそういうなら間違いないね、今度からおまけにつけると店長さん。
 それでいいんスか。
 オレ、結構真面目に悩んだのに。

 店を出て、オレたちはまっすぐスーパーを目指した。
「ねえ斉木さん、あの四角のにしたのって、オレが言ったからっスか?」
 斉木さんはじろっとオレを見て、別にそんなじゃない、早くあのクッキー買いに行きたいからだと返した。
「へえ、ふうん、そっスか」
 でも何か嬉しいんでそれでいいっス。
「次から、魔美通うの楽しみっスね」
『ああ、そうだな』
 段々と斉木さんの足取りが早くなっていく。
 オレは遅れないよう早足になって、必死に隣にくっついた。

 斉木さん、スーパーは夜十時まで開いてますから大丈夫っスよ。
『もし売り切れてたら、タダじゃ置かないからな』
 大丈夫っスよ…多分。
 オレは道中ずっと、祈り続けていた。

 

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