お泊りシリーズ
夏は斉木さんが優しい季節、今回も健在。
水風呂は十分以内で上がること、水分をたっぷりとること、冷たいもので必要以上に内臓を冷やさないこと、激しい運動は控えること。

水風呂

 

 

 

 

 

「お邪魔するっス……」
 斉木さんちの玄関に入って、ようやく夏のぎらついた陽光から免れたオレは、大きく肩を落としてため息を吐いた。
『なんだその姿勢は、寺生まれのくせに』
「や、斉木さん……それは勘弁して」
 毎日のように猛暑だ酷暑だお天気お姉さんが朝に脅してきて、そしてその通りの過酷な気温に、さすがのオレもだれますって。
『お前はいつもだれてるだろ。だれてない日を教えてくれ』
 オレは苦笑いを向けた。こんな、本気で人を殺しにきてるだろって熱波の中、汗一つかかず平然と歩いていられるのは、斉木さん、超能力者のアンタだけっスよ。
 ここはクーラーが効いてないけど、外に比べればずっとましだ。早く斉木さんの部屋でクーラーに当たって涼みたい。
『まずは汗を流すのが先だな』
 風呂の用意をしろと、斉木さんが浴室の方を指差す。嬉しい心遣いに、オレは少し回復した身体をまっすぐにして、にっこり笑った。

 

 ぬるめのシャワーを浴びるのかと思っていたオレは、用意された水風呂に小さく目を見開いた。まずはシャワーで汚れを流し、それから浸かる。
「……はあー、冷たくて気持ちいい」
 常温とはいえ、すっかり火照っていた身体には心地良い。すうっと鎮まっていく感覚にオレは大きく息を吐いた。
 向かいに浸かる斉木さんに何気なく目を向け、オレは驚いた。
「あー斉木さん、自分だけアイスとかずるいっスよ、オレの分は?」
 ざばりと水面を揺らす。
『ない』
「ないって、ちょ――」
『ちゃんと冷凍庫に入ってるから、お前は出てからにしろ』
「えー…てか見せびらかしながらとか、そりゃないっすよ」
 食べたくなるじゃないっスか
 ねえちょっと斉木さん、無視しないで下さいよ、ねえ、ねえ!
 どんなに呼びかけても斉木さんは知らんぷりで取り合わず、優雅にカップアイスをひと匙ずつ口に運んでいた。
 オレはぎりぎりと奥歯を鳴らし、またざぶりと水面を揺らした。
 もういいっスよいじけてやるから、ふーんだ
「斉木さんなんかなあ、お腹壊して寝込んじゃえばいいんだ!」
(んでオレが看病してあれしてこれしてぐふふ……)
『その気持ち悪い煩悩をどうにかしろ』
「むりっスー、だってこれがオレなんですから! どうにもしようがないですー」
 オレはわざと憎々しげに言ってやった。
 斉木さんはそっぽを向いてふんと鼻を鳴らし、ゆっくりアイスを口に運んだ。
「くそー、ひと口くらいくれたっていいのに」
 膝を抱え、オレは尖らせた唇の先でぶつぶつ文句を零した。
 そこでようやく斉木さんの心を動かせたのか、スプーンが差し出された。
『やれやれ仕方ない、後でひと口返せよ』
「え、うわマジっスか、やった!」
 オレはぱあっと顔を輝かせた。
 斉木さん大好き!
『と思ったが、やっぱり鳥束ごときにやるのはもったいないな、自分で食べよう』
 目前で引き返すスプーンに、オレは大きく目を見開いた。
「……オレのアイス!」
 慌てて食べにいく。斉木さんの唇を塞ぎ、オレは塊を舐め取った。
『お前……!』
(いただきます)
 間近に睨む斉木さんににんまりと笑い、オレはそのままキスを続けた。
 すぐ突き飛ばされるかと思ったけど、抵抗は最初の一瞬だけで、斉木さんはすぐにオレに身を委ねてきた。
 顔を離した時、ものすげえ殺意たっぷりに睨まれた。
 斉木さん、そんな顔しないで。
「ちゃんとひと口返しますから。その時は斉木さん、取りに来てくださいね」
『……ああ、お前の舌を噛み千切ってでも取りにいくよ』
「ええ、ちょと! 斉木さぁん」
『近所迷惑だぞ、静かにしろ』
「もーう、ほんと、斉木さんのそういうとこ」
 横目に見やる。
 好きだよまったく、ちくしょうめ、ほんと好きだ。
 もう一度キスしようと近付いた時、調子に乗るなと斉木さんに頬をつねられ思いきり引っ張られた。
「いででで!」
『足の指でもものを摘まめるが、手の指ほど加減がきかなくてな。ちょっと試してみるか?』
 背後でざぶりと音がした。おそらく、斉木さんが片足を水面から出したのだろう。オレはひぃと震え上がった。
「いい! 試さない!」
『そうか。じゃあ出るぞ』
 空になったアイスの容器とスプーンをオレに押し付け、斉木さんはさっさと風呂を上がった。
 オレはとほほと嘆きながら後に続いた。

 

『そら、お前の分だ』
 斉木さんの部屋に戻って早速、テーブルに置かれたカップアイスに、オレは斉木さん大好きともろ手を挙げた。
 ではただきますと蓋を開ける。
 ちょうどよく溶けかけになっているところに斉木さんの愛情を感じて、オレの顔も溶ける。
 ああ、至福。
 オレは身体の芯に染み入る美味さに震えながら、ひと口ずつ味わった。
 最後のひと口を少し多めに残し、斉木さんにスプーンを向ける。
「お待たせ、はい斉木さん」
 本当は最初のひと口から欲しいのを我慢してたの、知ってますよ。
 恋人とイチャイチャしたい目じゃなくて、早く食らいたい捕食者の目でずっとオレを見てましたものね。
 それでも我慢してじっと椅子に座って、すごい忍耐力っスね。オレにはとても真似出来そうにないっス。
『ごちゃごちゃうるさいぞ鳥束』
「さーせん」
 苦笑い。
『食べろ、そうでないと奪いにいけないだろ』
 心をくすぐる文句だが、さっきも言ったように斉木さんの目が尋常じゃないほどぎらついてて、正直怖いんですけど。
 恐る恐る口に入れる。斉木さんが取りやすいよう塊で残して待っていると、オレを踏み付けんばかりに影が近付き、圧倒される。
 オレはぎくしゃくと上を向いた。斉木さん、食べるのはアイスだけにして下さいね。
 唇が塞がれるが、オレはすぐには口を開けられなかった。斉木さんの舌に促されそっと緩める。顎を掴む指に力がこもり、それを合図にオレは更に口を開いた。
 びくびくしていたのはここまでで、そこからは別のびくびくにオレは見舞われた。もう、いっそ、舌べろまで食われちゃってもいいってくらい、気持ち良かった。パンツの中でオレのものが窮屈な事になってしまうくらい、凄まじかった。
 斉木さんの前を触ると、同じくらい硬くなってるのがわかった。
「斉木さん、エッロ」
 不機嫌そうに睨まれる。
 そんな顔しないで斉木さん、オレだって同じなんスから。
 斉木さんの手を掴み、自分の股間に持っていく。
『ほらねじゃねぇよ』
 唇に残るアイスを、斉木さんの舌先が舐め取る。本人は最後までスイーツを楽しんだってだけでしょうけど、オレには誘ってるようにしか見えない。オレの前でそんな仕草するなんてひどいっすよ斉木さん。
 オレは斉木さんを伴ってベッドに乗り上げた。斉木さんに自分のを触らせ、オレは斉木さんのを撫でる。
『せっかく水風呂で涼んだのに』
「じゃあ、ここでやめます?」
 尋ねると、さっきよりもずっと熱を含んだ目が迷って揺れる。ほら、アンタも止められないでしょ。それに、終わった後また入ればいいじゃないですか。
 ねえ斉木さん。
 顔を近付けてキスする。上になろうとするも制され、斉木さんが馬乗りに跨ってきた。ベッドに肩を押し付けられ、オレは背筋をぞくぞくさせながら斉木さんを見上げた。
 うっすらと、楽しげに笑っている顔に目が引き寄せられる。
(斉木さん、その顔ずるい……すげぇエロい)
 斉木さんは躊躇う事無くオレの口を塞ぎ、キスしたまま股間を擦り付けてきた。
「うわっ……」
 背骨が痺れるほどの快感にオレは間抜けな声をもらす。そのまま数回弄ばれ腰が抜けそうになるが、されるがままなんて情けないとオレは斉木さんの方へ手を伸ばした。
 触ろうとする寸前で阻まれ、くそ、と思う間にオレは呆気なく両手を一掴みに拘束されていた。頭上でひとまとめに押し付けられ、自由の利かない身に喉を引き攣らせる。
『悪いようにはしないから、もっと力を抜け』
 そうは言うけど、斉木さん……わかっててもちょっと怖いです。斉木さんが怖いっていうんじゃなく、本能的な方の怖いだ。
 斉木さんはにやりと笑って、オレの舌を絡め取ってきた。
 どんなに力んでもびくともしない拘束に縮こまった身体が、斉木さんのキスで次第に弛緩していく。
(ああ気持ち良い…たまんない、斉木さんの舌いい……)
 もっと舐めてほしくて、オレはだらしなく口を開けた。
 その時、股間にすさまじい快感が走った。
 いつの間にかむき出しにされたオレのものに、斉木さんの生の熱が擦り付けられたのだ。
「うわ、うぅ……!」
 驚くオレの口を斉木さんは塞ぎ、同時に互いのものをひとまとめにして扱き始めた。
(ああ、これをされるのか……)
 じんじんと脳天が痺れる中、オレは自然と動いてしまう腰を揺すって斉木さんに擦り付け、自ら快楽を貪った。
(あぁ……さいきさん、すげえいい……気持ち良い!)
 オレは夢中になって腰を動かし、斉木さんの口の中を舐め回し、恥ずかしい声をいくつももらして、絶頂を目指した。
 互いの先走りが混ざり合って、ぐちゅぐちゅといやらしく音を立てる。恥ずかしいのにそれもまた気持ち良くて、オレはもっともっとと斉木さんにねだった。
 涙にぼやける目で、必死に斉木さんを見る。
(斉木さん……すげぇいい顔、エロい…エロい……)
(ねえ、斉木さんも気持ち良い? オレは……もういきそう、いく!)
「も……出ちゃう……さいきさん」
 だらしなくよだれを垂らしながら、オレは涙混じりに言った。
『我慢せずいけ』
「いく、やだ……さいきさん、も、いっしょに……」
(一緒に、ねえ)
 それまで、少し余裕の感じられた斉木さんの綺麗な顔が、艶めかしい色に染まり歪むのを見る。
 目にした途端腰の奥から込み上げる何かに押され、オレは熱を吐き出した。
 目の奥で明滅する白い光に眩みながら、オレは激しく胸を喘がせた。
 斉木さんの手がようやく外れ、オレは自由になった手で斉木さんを抱きしめた。
 斉木さんもオレを抱き返す。
 ああ、気持ち良いな。
 そのまま、互いの鼓動が鎮まるまで抱き合って過ごした。

 

「ちょ! また自分だけっスか!」
 その後オレたちは水風呂に直行した。
 そしてそこで、一度目と同じく自分だけ、今度はアイスキャンディーをかじる斉木さんに目をむく。
 こんなの、誰が見たって文句を言うにきまってる。
『騒ぐなうるさい、ちゃんとお前の分もある』
「あるんスか」
 ならいいです、と笑顔になったオレだが、差し出された常温のスポーツドリンクに再び憤慨する。
 斉木さんは冷たくて甘くて美味しいアイスで、オレはぬるぅいスポドリとか不公平だ!
「もう、マジで斉木さんお腹壊せ! 冷えろ! 下せ!」
 文句をぶつけながら、仕方なくキャップを開けて飲む。
 不味いとは思わないけど、キンキンに冷えてたらもっと美味しいのに!
「あーあ、美味しいなあ」
 嫌味を垂れるが、斉木さんは笑うばかりで取り合ってもくれない。
 オレはプリプリしながら斉木さんを睨み付けるが、いつもしないような優しい目を寄越されて、すぐに毒気は抜けてしまった。
 オレは大人しく膝を抱えて、残りを飲み干した。
『上がったら夕飯の支度だからな。きびきび働けよ』
「わかってるっス」
 今日は斉木さんちにお泊り。心弾むオレは、笑顔で応えた。

 

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