お泊りシリーズ
休みの日くらいゆっくり過ごしましょう。

朝寝坊

 

 

 

 

 

 去年の終わり頃に翌年のカレンダーを買い、その日の内に各月をざっと見回した時はそれほど何も思わなかった。めくりながら、この月は三連休がある、この月は無い、ある、無い。ただの確認で終わったが、月日が流れ来月に三連休があるというところまで迫ると色々思い浮かぶもので、その日は斉木さんとどんな風に過ごそうかどこかへ行こうか…なんて、オレはワクワクしてくるのを止められなかった。
 翌日早速、予定の取り付けに斉木さんの元へ向かう。
 空いてますかと尋ねると、斉木さんは何とも微妙な表情になりしばし沈黙した。斉木さんのいつもの天邪鬼が出たのかと思ったが、どこか困ったような顔にオレは即座に違う事を知り、潔く取り下げた。
「あの、何か予定あるならいいスよ」
 正直言えば大いにガッカリだが、その日以外斉木さんと会えない遊べないって事はないのだ。こうして毎日学校でも会ってるし、週末だって割と頻繁に出かけている。欲を言えば片時も離れず斉木さんと過ごしたいくらいだけど、いっそ共に暮らしたいほどだけど、そいつは無理なのでぐっと我慢だ。
 いいや、我慢は身体によくないな。
 本音を言えばがっくりきた。三連休だから、お泊りくらい望めるかなって思ったのだ。おはようからおやすみまで、斉木さんと一緒に過ごしたいって、望んだ。
 でも、ダメならしょうがない。
『予定はあるが、駄目とは言ってない』
「いいんスか?」
 潔く諦めるというオレにはちょっと難しい事に挑戦しかけた時、斉木さんから返事を貰う。
『土曜の昼までなら。それでもいいなら来い』
「いいですいいです、行きます行きます!」
 オレは声を張り上げた。即座に『うるさい』と斉木さんからお叱りを受けるが、世界がバラ色に見えて仕方ないのだ、どうかお許しを。
 でも、じゃあさっきの微妙な顔は何だったのだろう。
 日曜の午後から、どっか出掛ける予定があるのかな。
 まさか、浮気じゃないですよね斉木さん――斉木さんから最も遠い、最もあり得ない事を思い浮かべ、オレは逆側から安心しようとした。
 斉木さんはあまりそういった冗談を好まない。
『ふざけた事を抜かすと引きちぎるぞ』
「ハイ……すんません」
 以後気を付けます。
 案の定目線で半殺しの目に遭ったオレは、青息吐息で謝った。実際には無傷だが、内臓をごっそり持っていかれた気分だ。オレは半ば無意識に腹を押さえた。
 斉木さんはオレからふいっと目を逸らすと、『自分の教室に戻れ』と追い払った。
「あ、あの、来月の……」
『ちゃんと予定に入れた』
 次に寄越された目線には、もう殺気は含まれていなかった。いつもの味も素っ気もない顔だが、いつも通りである事にオレは大いに安心した。
「じゃ、斉木さん、また後で」
 昼にでも。
 オレは軽く手を上げて自分の教室に向かった。来なくていいなんて背中に投げ付けられるが、確定は揺らがなかった。
 やった、斉木さんとお泊り、決定だ。

 

 土曜の昼までという区切りなのは、その日の午後斉木さんママさんの田舎に行く予定だからだった。
 昼休みに食堂でそう説明を受け、オレは目を丸くした。
『父が金曜の午後から半休を取ったから、両親は午後に出掛けて夜に着く予定だ』
 そして斉木さんは、翌日の午後に合流する予定だそうだ。
「でもそれ……いいんスか?」
 斉木さんちは、いつも家族一緒に行動しているイメージが強い。斉木さんは色々零すけど、何だかんだでご両親と同じくらい家族ってものを大事にしてるのを、オレは知ってる。
 それを自分が崩してしまっていいのだろうか。
『もう決めたからいい』
 そんな困惑をよそに、斉木さんは特に抑揚のない声で言った。日替わり定食の肉野菜炒めを口に入れ、白飯を頬張り、もくもくと食事を進めている。
 一見すると誰かと食事している風には思えないけど、この人の心はちゃんとオレに向かってくれている。
 ――もう決めたからいい。
 斉木さんの言葉を頭の中で反芻する。
 ああ、そうっスか…嬉しさに唇がむずむずする。オレはついにやけてしまう。
 それってつまり、それだけオレと過ごす方を重要視してくれたって事で、斉木さんはそれほどまでにオレを――。
『黙れ』
 槍の一突きのような鋭いテレパシーに、オレは瞬時に竦み上がった。
 びしっと口を噤んだオレを見て、斉木さんは極上の微笑みを浮かべた。
『僕が我慢強くて良かったな鳥束。そうでなかったら、今頃、お前は水浸しだったろうよ』
 いやいや斉木さん、オレにしたら テレパシーで精神串刺しにされる方がダメージでかいスよ。
 コップの水引っかけられる方がずっとマシです、かわいいもんです。
 春めく穏やかな気候の中、オレだけ極寒の地に放り出された気分だ。
 もー、ほんとこの人は素直じゃねえんだから。
 そこにベタ惚れのオレは、本当にどうしようもないんだから。

 

 日が過ぎて、いよいよ今週末にという月曜日、オレはあらためて斉木さんに話を向けた。夕飯をどうしようか、という相談だ。
「ママさんたちいないわけだから、どこか、外で食べましょうか」
 たとえば駅前のファミレスとか、
「今あそこ、春のイチゴフェアやってるんですって」
 パフェにパンケーキにサンデーにクレープと、より取り見取りです。
「ぜひ行きましょう斉木さん!」」
 斉木さんの机に両手をついて前のめりになり、オレは畳みかけた。
 斉木さんはオレの手を見てからオレを見上げて小さく息を吐いた。
『なるほど。あそこが一番、お前好みの女の子が揃ってるんだな』
 オレは顔に笑顔を張り付けたまま凍り付いた。背中にじわじわと汗が滲む。
『わかりやすいなお前は』
 冷ややかなテレパシーが頭に響く。斉木さんからゆっくり目を逸らし、オレは秋も終わりのような声でぼそぼそと言った。
「好きなのどれでもご馳走しますんで、行きませんか?」
『全部食べていいなら行ってもいい』
 全部とな――!
 オレは思わず絶句したが、やけくそになって胸を叩く。
 そりゃ、可愛い女の子目当てなのは否定しない出来ないけど、一番見たいのは斉木さんの喜ぶ顔なんですよ。それが自分にとっても幸せを感じる時間だから。
 何とか弁解出来ないものかと言葉を探す。
『もういい。わかったから自分の教室に戻れ』
 斉木さんは背中を向け、窓の方に頬杖をついた。そうなってはもう取り付く島もない。オレはがっくり肩を落とし、とぼとぼと戸口に向かった。
 その時後ろで、チワワ君の声がした。
「む、どうした斉木、よほどいい事があったらしいな」
『別にない』
 短い返答だったけど、嬉しさで膨らんだ風船がふわふわ浮かんでいるイメージが見えて、オレは思わずにんまりと笑った。
 よし、なんとしてでも絶対に、斉木さんを喜ばせるぞ。
 決意に拳を握る。

 

 あの日の決意は変わらないけど、いざ当日になるとやはりちょびっとだけ涙が滲んだ。こっそり財布を覗き込み、店を出る時にはお前たちはもういないんだな、なんて感傷に浸ったりもした。
 けれど意外にというか、斉木さんは一品頼むだけで勘弁してくれた。
 お前もセットでデザートを頼め、そして寄越せと言われたけど、それくらいは予想の範囲内だったので、オレはもちろんと大喜びで応えた。
 キラキラと眩いイチゴフェアのメニューブックから、斉木さんはパフェとクレープを選び、極上の笑顔で満喫した。
 ああ、お腹も胸も一杯だよ斉木さん。
 オレは舞い上がり、軽い足取りで店を出た。
 にしてもこの人、この身体によくまあ二つも入ったな。いや、二つくらい斉木さんには軽いものか。
 すぐ先を行く背中を見つめ、オレはこっそり笑った。
 今日はこれから斉木さんちにお泊り。誰もいないお家に二人きり。
 二人の夜の始まりだ。
(うふふ斉木さん、今日は寝かせませんよ)
 そんな事を思ってると、突然がしりと顎を掴まれた。砕かんばかりの勢いにオレは竦み上がる。
 間近に斉木さんの鋭い眼差しが迫る。薄暗い街灯の明かりでよく見えにくいが、オレは必死に目を凝らした。
『その言葉忘れるなよ』
 どんな脅し文句を頂戴するかと震え上がるオレに投げかけられたのは、獣みたいな熱を孕んだ挑発だった。
 心臓が破裂するかと思うほど胸が高鳴った。
「い……いっそもうそこの公園で――!」
『家まで待て。さもなくば睾丸を一つ潰す』
 すみませんでした!
 乱暴にオレを突き飛ばして立ち去る斉木さんを追い、オレも小走りになる。

 

 斉木さんの家に着いて、玄関の鍵が閉まる音がした時、オレは軽い目眩に襲われ倒れそうになった。
 何とか堪えて目を凝らし、斉木さんと連れ立って風呂場に向かう。
 お互い、言葉もなく、テレパシーすら交わさなかった。けれどお互い考えている事は一緒だった。
 それがオレにはものすごく、天にも昇るほどに嬉しかった。
 乱暴に服を脱ぎ去り、斉木さんの手を引いて浴室に入る。
 その前から斉木さんの超能力によってシャワーのコックが捻られていて、湯気で満たされ浴室はそれほど寒くは感じなかった。
 オレは降り注ぐ雫をざっと浴びて、斉木さんに向き直った。つい、ごくりと喉が鳴る。
 焦る気持ちをため息に乗せて追い出し、オレは手を伸ばした。それに合わせて斉木さんが一歩踏み出すものだから、オレはたまらなくなって抱き寄せ、噛み付くように唇を塞いだ。
 触れると薄く唇が開き、誘われるままオレは中に舌を差し入れた。浴室の壁に押し付けるようにして斉木さんを抱きしめ、しつこく舌を絡める。
「っ……、ふ……」
「逃げないで斉木さん……」
 斉木さんは途中何度も、痺れてたまらないって風に顔を背けるけど、オレはそれを許さず追いかけてキスを続けた。
 唇も舌も甘い匂いで一杯で、オレはひと口も食べてないのにイチゴの味に包まれる。
 斉木さんの匂いに包まれる。
 それは言いようもない程幸せな事で、ぬるりと触れ合う舌の感触に背筋を震わせながら、オレは飽きる事無くキスに溺れた。
 キスをしながら、斉木さんの身体を弄る。親指の腹で乳首を擦り、次第に硬くなっていく感触を楽しむ。
 右と左と乳首を捏ねながら、斉木さんの舌をちゅうちゅう吸う。
『しつこい……』
 斉木さんは手の甲を唇に当ててオレを拒み、潤んだ眼差しでオレを見やってきた。
(その目だめだ……斉木さん、エロいよ)
 まだシャワーを浴びただけなのに、長湯してのぼせたように上気した頬が何とも愛くるしい。オレはそっちにも唇を押し当てる。こちらを向く斉木さんの手のひらに、指先に、手首に順繰り接吻する。
『とりつか』
 焦れた呼びかけと、何か云いたげな目の動き。斉木さんはオレの目を見て、それから自分の身体を見下ろす。動きにつられてオレも目をやれば、斉木さんはわずかに足を広げた。それで、オレは理解する。
「どっちに触って欲しいんスか」
 こっち?
 それともこっち?
 すでに真上を向いている斉木さんのそれと、お尻の奥とを順に指先で探る。可愛らしい誘い方に笑うオレの顔が、後ろを弄った時、少し驚きに染まる。
「っ……」
 同時に斉木さんの身体がびくりと跳ねる。
「……ほんとに好きっスよね、アンタ」
 難なく飲み込まれていく人差し指に半分驚き半分喜び、オレは斉木さんの目を覗き込んだ。
 この人は、そうであるのに性欲が強いって言われると怒る。オレの命を脅かすほどに。怒る気持ちもわかるけど斉木さん、アンタ本当にたまらないっス。
 笑うオレを一瞬だけ睨み、斉木さんはさっとよそへ逸らした。小さく喘ぎながら、しきりに瞬きを繰り返している。
「いつ、どこで、どんな顔してこんな事したんスか?」
 その時、何を考えてた?
 いつもはきつく窄まっているのに、今は柔らかくとろとろにほぐれている。埋め込んだ二本の指で捏ね回しながら、オレは眼前のとろけた顔にキスをした。
「あっ……」
 ぬるりと舌を掬い取ると、だらしなく開いた斉木さんの口から、可愛らしい声が零れた。
 どうにも我慢しきれないともれた声と、斉木さんの熱い舌が、オレを骨抜きにする。
(ねえ斉木さん、教えて)
(こんな身体で、どんな気持ちで、スイーツ食べてたんです?)
(自分でいじってる時、オレの事欲しくてたまらなかった?)
――うるさい
 斉木さんは唇てそう綴り、啜り泣きのような呼吸を繰り返しながらオレの股間に手を伸ばした。
「!…」
 ああ、斉木さんの手すごくいい、気持ち良い。もっと扱いて、もっと。
 舌が乾くかと思うほどはあはあ喘ぎ、オレはぼうっと霞む目で見下ろした。
『くそ……お前、もう…早く入れろ』
 扱いていた手を離して握り締め、斉木さんはオレの脇腹を叩いた。じれったがる声と、斉木さんのいやらしい腰の動きに、オレはたまらなくなって指を引き抜いた。その手で自身を掴み、小さな孔を目指す。片方の脚を腕に支え、大きく開かせて、露わになったそこに自分のものをあてがう。
 寸前目を見合わせれば、熱に浮かされ喜ぶ斉木さんの顔がそこにあった。見るだけでいってしまいそうなほど、甘くとろけている。
 オレは奥まで入れようと一歩踏み出し、ずぶずぶとゆっくり埋め込んでいった。
 腕に抱えた斉木さんの脚がびくびくと引き攣り、同時にひっと息を飲む音がした。
 辛いのかと顔をうかがえば、よだれを垂らさんばかりにだらしなく緩み、オレの目を釘付けにした。
 気持ち良いね、斉木さん、早くこうしてほしくて、自分で準備までしたんですものね。
「オレも、たまらないっス……」
 最後にひと押し、根元まで埋め込む。同時に、斉木さんの性器から白いものが飛び散った。声もなく仰け反り、斉木さんはびくびくと痙攣を繰り返した。
「はは……すげぇ」
 入れただけで、いっちゃった。
 オレは半ば呆然として目の前の痴態に見入った。
 斉木さんは歯を食いしばって必死に声を食い止めていたけど、オレが動き出すとすぐに決壊して、高く可愛らしい声を飛び散らせた。
 オレはもっと聞きたくて、締め付けてくる斉木さんの中を抉るように腰を動かした。
「やっ……っ!」
「あ、あっ……斉木さん、すげぇいい」
 アンタの中熱くて、最高だ。
 きゅうきゅう絞り込んでくるところがたまらない。
 斉木さんは泣きそうな顔になって口元に手の甲を押し付け、小さく首を振った。きっといったばかりで動かれるのがつらいのだろう。感じすぎておかしくなりそうなのだろう。顔を見れば一目瞭然だ。
 もう少し待ってあげたいけれど、ごめんなさい斉木さん、オレも早くいきたくてたまらないんです。
 アンタのそんな顔見せられたら我慢なんてとても出来ない。
 その代わりうんと気持ち良くしてあげますから、だから斉木さん、そんなに睨まないで、お願い。
「ね、斉木さん……キスしたい」
『……いやだ』
「お願い、手をどけて」
『いやだ……とりつか』
 お願い、斉木さん。
 オレはお願いし続けた。オレがどう頑張ったって、斉木さんの力に敵うわけがない。だからお願いするしかない。
 とはいえ、じっと待っているのもつらい。オレは小刻みに震える斉木さんの指先に吸い付き、舌を這わせた。そうしながら腰を動かす。
(ああだめだ斉木さん、お願いキスさせて)
(キスしながらいきたい、いきたい)
(斉木さん――)
 ついに手が外される。
 うっとりと酔いしれる斉木さんの顔に唇を近付けると、開いた口から赤い舌がわずかに覗いて見えた。わなわなと震えていて、たまらずにオレは吸い付いた。
 気持ち良い。
 たまらない、
 もっとして、鳥束。
 するりと背中に回る斉木さんの腕に抱きしめられ、オレはたまらずに喘いだ。馬鹿みたいに腰を動かしながら、斉木さんの口の中を舐め回す。
『ああいく……またいく、いくから!』
(いいよ斉木さん、オレも…もう……!)
 背筋がぞくぞくする粘膜の触れ合いに、オレは間を置かず射精した。斉木さんの一番深いところに思いきり腰を押し付けて、解放感に酔いしれる。
 斉木さんは抱き着いていた腕を自分から壁に押し付けて、きつく握りしめ、全身を震わせた。きっとあのままでいたら、オレの肉を抉っていた事だろう。かろうじて残る理性でオレを気遣いそうした斉木さんに、オレはいいようのない興奮を覚えた。
「あっ……!」
 おののいたように斉木さんが叫ぶ。
 射精しながら突き続けるオレに驚いての事だ。だってこんなに気持ち良いのに、じっとなんてしていられない。
 オレは自ら壁に磔になった斉木さんの腕に手のひらを滑らせ、掴むと、もう一度唇を塞いだ。
 出しても萎えないオレのもので、斉木さんがいくまで、オレは何度も何度も、何度も内側を擦った。

 

 あの後もう一度斉木さんの中に出して、斉木さんもいって、それから部屋に移ったオレたちは、時間も忘れて互いを貪った。
 うつ伏せになって這いつくばる斉木さんに覆いかぶさり、ぎゅっと握り締められた手を包み込んで拘束し、熱を送り込む。
「ねえ斉木さん…中に、中に出していい?」
 音がするほど叩き付けながら聞くと、斉木さんは何度も頷きながら自ら腰を押し付けてきた。
 その仕草にオレの熱が一気に破裂する。
「あ、あ――」
 掠れた嬌声をもらし、オレの腕の中で斉木さんの身体がわななく。吐き出す快感にオレは顔を歪め、だらしない声で笑った。
 一旦引き抜き、斉木さんの身体を仰向けに寝かせる。
「さいきさん……」
 抱きしめて顔を近付ける。すっかり快感に飲まれ、眼差しも唇もいやらしくとろけていた。オレは手探りで脚を掴んで大きく開かせ、自身を飲み込ませた。軽く動かすと、何度も出した自分のものがぐちゅぐちゅと卑猥な音を立てた。
 かき回すとたちまち斉木さんはたまらないって顔になって、シーツの上で身をよじった。
『お前……何回出せば気が済むんだ』
 胸を喘がせながら、斉木さんが見やってきた。
 わからない。
 どんだけやっても足りないよ、斉木さん。
「そう言う斉木さんこそ、オレの締め付けて離さないじゃないっスか」
 少し強めに腰を打ち付けると、あ、と高い声が一つ零れた。
 まだ足りないんでしょ
 もっと突いてほしいんでしょ
 オレは身体を起こすと、両の膝裏を掴んでしゃくるように腰を動かした。
 ひっひっと息を啜り、斉木さんはしなやかに背を反らせた。
「ほら、ねえ……斉木さん」
 掴んだ脚を胸の方に押しやって、自分の身体をぶつけながら聞くと、斉木さんはよだれを垂らさんばかりに緩んだ顔で頷いた。
 もっとしたい、もっと欲しい。
 泣きながら甘ったるい善がり声を上げる斉木さんにオレは息もままならない。
「ああ……斉木さん」
 好き
 声も出せない。
 だからオレは代わりに目の前の身体をしっかり抱きしめた。
 斉木さんは抱き返す事はしなかったけど、オレに頬を摺り寄せて、優しく名前を呼んでくれた。

 

 いつ終えて、いつ眠ったのか、記憶が曖昧だ。時計なんて見たかどうか覚えてもいない。
 気が付けば外はすっかり明るく、確認した時刻はいつも起きる時間より一時間遅かった。
 一人冷や汗を滲ませながら、隣で眠る斉木さんの様子をうかがう。
 すうすうと静かな寝息にオレはにんまりと頬を緩めた。
 無性に頬を撫でたくなって、オレは手を引き寄せようとした。が、起こしてしまうかもしれないと思いとどまり、見つめるだけにする。
 ぐっすりだ、しばらく起きそうにないな。
 昨日は、かなり……やり過ぎたからなあ。
 最後の方なんて、斉木さん声に出して泣くくらいだったし。
『泣いてないぞ、嘘言うな』
 あ、さ、斉木さん
 冷ややかなテレパシーにオレはびくりと肩を弾ませた。
(いや嘘じゃないんスけどね)
『うるさい、まだ起きるな』
「んん……でも、朝ご飯食べないと」
 今日、お出かけするんスよね、食べないともちませんよ。
『……もう少し』
 そんなテレパシーと共に抱き着かれ、口から心臓が飛び出しそうになる。
 いやもしかしたらこれ、何かの罠かもしれない。
 そんな馬鹿げた事を思いながら、おでこをくっつけ、間近に斉木さんの顔をうかがう。
 無防備な、ともすればちょっと間抜けな寝顔にオレは胸が一杯になった。
 あとで腹が減ったとか言ってきたって、オレは知りませんからね。
 そんな事を思う傍からオレは、斉木さんは何が食べたいって言い出すかな、すぐ買いに行ける範囲のものだったらいいな、なんて、どうやってこの人を甘やかそうかとそればかり考えていた。

 

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