とろけるくらい愛してる
夕飯前と後の二人。
とろけるくらい愛してる
| 腹も膨れた夕食後。 オレたちは食休みを兼ねて、いい気分でテレビを見ていた。 オレの横には斉木さんがいて、満腹で、こたつはぬくぬくと暖かく、もう最高だ。 あんまり快適でこたつから出られない。 食後のアイスはとても魅力的だけど、こうもとろけてはとても抜け出せそうにない。 うーん、さてどうするか…ええい仕方ない、いくぞよし、あと十秒したらこたつを出る。 そう意気込んだ時、斉木さんから呼びかけがあった。 『鳥束』 「なんです?」 『アイス』 「あ……はいはい、今丁度行こうとしたところスよ。でも斉木さん、さっき食べたのに」 『食べたい』 じいっと斉木さんの目が向けられる。 「まあ、斉木さんがいいなら、いいですよ」 またじいっと見てくる。 「食べていいですって。……あ、斉木さん、もしかして自分のも持ってこいって?」 しれっとした顔で斉木さんはこくこく頷いた。 早く持ってこないかなーという目に、オレは一度額を押さえた。 別に持ってくるのはいいんですよ、いいんですけど、あのねえ斉木さん、そういう時は――。 「持ってきて下さいでしょ」 『持ってきて下さい』 意外に素直で面食らう。 もう、言えるんじゃないか。 「てかそうだ斉木さん、今こそ超能力で持ってくればいいじゃないっスか」 『お前がいるのにそんな事するなんて、お前を無視しているみたいで嫌だ』 一見可愛らしい言い回しに息が詰まるが、騙されませんよ斉木さん。体よく使いたいだけなのバレバレです。 ほん…とにもう、この人は。 『っち』 「もう、だから舌打ちめっ!」 しょうがないとオレは立ち上がる。 「いいですよ、持ってきてあげますから。何にします?」 『ストロベリー』 「はいはい。オレはなんにしようかな」 無難に王道のバニラを選んで戻ると、待ってましたとばかりに斉木さんが両手をまっすぐ差し出してきた。 眩しく思え、オレは一瞬息が詰まった。 なんなんだろこの人、こんな可愛い人見た事ないや。 寒い廊下を行き来した甲斐がある。 すぐ食べるかと思いきや、斉木さんはアイスのカップを両手に包み込んで何やら始めた。 手の熱…いや超能力で溶かしてるのだと、すぐに気付いた。自分たちなら結構時間がかかる作業も、斉木さんならあっという間だ。 そうか、斉木さんは少し溶けて柔らかくなったのが好きなんだな。自分と同じで、ほんの小さな事なのに無性に嬉しくなる。 『お前もやるか?』 「お願いしてもいいスか」 オレは自分のバニラを差し出した。 いつもならば、風呂に入る前に冷凍庫から出して調節するところを、目の前ですぐにやってもらえるのだ、ありがたいなあ。 『全部溶けても、悪く思うなよ』 「ええ、それはちょっと」 『お前への愛がそれだけ強いんだよ』 「また、斉木さんは、上手い事言っちゃって」 バニラが返される。オレはすぐに蓋を開け、ちょうどよく柔らかくなったバニラをいただきますと口に運んだ。 おかしいな、いつもの軽口だってわかっているのに、なんでこんな顔が熱くなるんだろ。 まいったなと斉木さんに目をやると、もうすっかりストロベリーのとりこで、この甘酸っぱさが格別なのだとセリフをつけたくなるような顔で味わっていた。 はあ、可愛い可愛い、斉木さん本当に可愛らしいなあ、美味そうに食べるなあ。好きだなあ。 「斉木さん、ごはん前とごはん後とアイス食べて、お腹冷えちゃいません?」 『あとでお前にあっためてもらうから平気だ』 「ああ……はい」 斉木さん、オレは平気じゃないス。 いてーな…少し俯く。 |