とろけるくらい愛してる
夕飯前と後の二人。

とろけるくらい愛してる

 

 

 

 

 

 斉木さんちに戻って、少し休んだら料理開始だ。

 エプロンしめて、並んでごはん作り。
 オレは肉の処理、斉木さんは野菜担当。
 ああ、こんなのもいいなあ、こういうのって幸せだなあ。
 斉木さんと一緒って、なんでも幸せになるんだなあ。
 オレはそんな事を思いながら、下ごしらえに取り掛かった。
『野菜終わったぞ』
「さすが斉木さん、早いっスね。後はこっちでやりますんで、斉木さんはこたつで休んでて下さい」
 こたつのある和室を指差して、オレは見納めに斉木さんのエプロン姿を眺めた。
『鳥束』
「なんです?」
『アイス』
「アイス? アイスは冷凍庫に入れましたけど……食べたいんですか?」
 返答も反応もないが、顔を見れば食べたいのは一目瞭然だ。
 オレは小さくため息をついた。
「駄目ですよ斉木さん、夕飯前に」
『夕飯までには食べ終えるようにする』
「ならいいっスよ…じゃなくて、ダメっス、ごはんが入らなくなるでしょ、間食は駄目」
 わかりましたかと念を押しすと、斉木さんは見るからにつまらなそうな顔になった。
 ぐは…ついほだされそうになるが、ダメダメと心の中で首を振る。
 作業台に向き直り、オレはひき肉のパックに手を伸ばした。
 少しして、斉木さんはあっちへこっちへ目をやりだした。買い置きの缶詰を見ては考え、未開封のみりんを見ては考えと、目をあちこちに向けていた。
 何を探しているのだろうかと目線を追っている途中で、斉木さんの魂胆を覚る。
「どれアポ―トしようかなーしない!」
『勘がいいな、鳥束の癖に』
「くせにって…もー、斉木さん、めっ!」
『っち』
「舌打ちもめっ!」
 作業に戻る。
 少しして、オレの側にある冷蔵庫に異変があった。
 オレは横目でその異変に気付き、大きく息を吐いた。
「斉木さん、見えてますよ」
 小さな子が、母親の目を盗んでこっそり冷蔵庫を開けようとするがごとく、斉木さんは超能力でそろりそろりと冷蔵庫を開こうとしたのだ。
 片手で、開きかけた冷凍庫の扉を押し閉める。それから斉木さんに向き直ると、明らかにふてくされた顔で立っているのが目に入り、ぐぐは…となる。
 さっきもそうだけどその顔本当に反則とオレは参ってしまった。
「もー……ダメだって言ってるのに」
 仕方ない。
「斉木さんはまったく……しょうがない、一個だけですよ。どれにします?」
 オレはとうとう折れて、冷凍庫を覗き込んだ。
『抹茶』
「はいはい」
 棚の引き出しからスプーンを取り出し、抹茶のカップに添えて渡す。
 こたつのある和室に行くかと思いきや、斉木さんはなんとオレに寄りかかって食べ始めた。
「うわ、ちょ、なんスか」
『背中が寒い』
「だったらこたつ入ったらいいじゃないスか」
 うんともすんとも返答がない。
 こら、斉木さん、もしもし?
 身体を揺すって呼び掛けるが、動く気配はない。もくもくと食べている。
 包丁を使う作業はないのでそれほど危険ではないからと、オレは斉木さんのしたいようにさせた。
 しかし意外と重い、ずっしり重たい。
 全体重かけてるだろ。
 まったく、ダメって言われた仕返しだな。
 寒いの嫌いな癖に、我慢してまで仕返しとかまるで子供みたいだ。
 しょうがない人だと鼻から息を抜き、ボウルの中の引き肉をこねる。
 なんだかんだ、自分は斉木さんに甘い。甘々のゲロ甘だ。
 心底惚れているのだから仕方ない。
 ああもう、オレでよきゃいくらでもわがまま言って下さいよ。
 自然と笑みが浮かんできた。

 少しして、服を通して段々と背中が温まってくるのがわかった。
(斉木さんの体温……いいわ)
 いいなこれ。
 苦あれば楽あり。
 オレはだらしない顔で笑った。
「斉木さん、もう少しですから待ってて下さいね」
 頷く揺れが背中越しに伝わってきた。
 オレはまた顔をゆるませた。

 

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