妄想03_4

　最初に覚えたのは、「従順である事」だった。自分を取り巻く大人達の言う事には逆らわず、一から十までその通り従うよう教え込まれた。
　自我の芽は片っ端から摘み取られ、感情も取り上げられた。
　お陰で、意味が分からなくても大人達の言う事には条件反射で「はい」と答えるようになった。「いいえ」という答えもあると知ったのは、ずっと後になってからだ。

　わたしはずっと知恵遅れだった。

　自分で考える事、すなわち大人達の言う事に反発する事は罪悪だった。許されなかった。
　けれど子供の頃にはまだわたしにも半分ほど自我が残っていたので、悩みながらも質問した。見た、他の子達を引き合いに出した。
　それらは、わたしとは違うと大人達は言った。わたしの名前は特別で、それら、その他大勢はわたしの名前の価値には遠く及ばず、いても余り意味のない物だと言った。
わたし、すなわち我々は選ばれたのだ。

「はい」と答えるだけの頭しか持っていなかった。

　わたしの役目は、大人達の歩いた後を「はい」と答えながらついてゆき、脇目も振らずに進むことだった。簡単な作業。
　それが選ばれた者のする事。ただそれだけが。
　重要なのは。
　大人達は付け加える。わたしは「はい」と答える準備をした。
　大人達はわたしの答えに満足する。

　自分で考える事が出来ないからだ。

　わたしはそれほど必死にならなくても、道を進む事が出来た。
　従っていれば間違いないと言う大人達が、いつも手を引いてくれていたから。

　わたしはずっと知恵遅れだった。
「はい」と答えるだけの頭しか持っていなかった。
　自分で考える事が出来ないからだ。
『疑問』
　はある日突然、わたしの頭に降ってわいた。

　ずっとずっと、人の言い成りになって「わたし」というものを打ち消されてきたこのわたしに、考えるという行為が生まれたのだ。

　わたしは無視できなかった。考えれば考えるほどわたしは広がってゆき、深まってゆき、膨れ上がっていく。

　わたしは無視できなかった。考えれば考えるほど答えは無くなってゆき、姿を変えてゆき、意味を失っていく。

　わたしは「わたし」そのものがわからなくなった

　そこで初めて、わたしは大人達の元から離れた。
　答えを見つけるには時間が必要だったし、何より余分な意見を排除したかった。

　大人達はいつも同じ事しか言わない。平坦で、一方的な物の見方だ。
　理由も無く答えが存在するはずがない。
　わたしは知りたいのだ。

　わたしの存在意義

　わたしの存在価値

　わたしというもの

　名前が先か
　わたしが先か

　わたしのすべき事は何か
　わたしは何者なのか

　なにより知りたいのは

　何故わたしは生きるのか
　何故わたしは在るのか

　何の為に