妄想02_3

「くぅ……」

　背後から男の熱いものでゆっくり貫かれ、真物は甘ったるい声を漏らして仰け反った。
　狭い内部をいっぱいに拡げられても、もう痛みを感じる事はほとんどなかった。あるのは、おぞましいほどの…快感。
　数えきれないほど犯された末の自身の変質を、頭のどこかでは激しく嫌悪していたが、実際こうして抱かれるとすぐに吹き飛んでしまい、ただ愉悦に身を委ねるだけになる。
　それほどまでに行為に侵されていた。
　神取は根元まで埋め込むと、じっくり味わうかのようにそこで動きを止めた。

「――あぅ、はっ…はぁ……」

　それまで詰めていた息をつき、真物は四つん這いの姿勢をわずかに崩した。
　もう何度、この場所、男の寝室でこうされたか分からない。数えきれない。
　どうでもいい。
　男の手が下部に回され、半ば勃起しかけたそれをゆるく握り込む。

「うっ……」

　抗議めいた声を上げながらも、真物は振り払う事をしなかった。どんなに泣いて訴えても、許しを乞うても、男は決して追及の手を緩めない。
　淫らな姿を晒すまで、いや、晒しても尚欲望の淵に追い詰める。
　恐怖と絶望の海に沈める。
　この身体がどんなに浅ましいものに変わり果てたか嗤いながら。
　どうせ惨めな思いをするなら、快楽に溺れ何も分からなくなってしまえばいい。
　どうせ…それでいい。

「あっ…んぅ……あ、ふ……んん」

　ゆっくりと繰り返される抽送に熱い吐息を漏らし、真物は自分のものを扱く男の手に合わせて腰をくねらせた。
　あれほど嫌っていた行為を自ら貪る真物の痴態を、神取は喉の奥で低く嗤った。

「すっかり、いやらしい子になったな」

　背後からの嘲りに、真物は小さく呻いた。
　それだけだった。
　しかし本人も気付いていないところで、抵抗はまだ残っていた。
　両手をきつく握りしめているのがそれだ。
　何も言えない、抵抗出来ない怒りと情けなさを、全部そこに握り込んでいた。

「だがまだ…本当の意味で素直になった訳ではないようだな」

　男はそれを見抜いていた。

「あ…あぅ――くるし、や、やだ……あぁ！」

　言葉と同時にいきなり激しく突かれ、真物は首を振って身悶えた。苦しいと訴えながらも声は甘く高く、媚びたような響きさえ含んでいた。

「苦しいのは好きだろう？　痛くされるのも」

　言って神取は扱いていた手を止め、少し強めに睾丸を揉みしだいた。

「うぐ！　それは――いや、です……！」

　許してください…真物は身を固くして重く呻いた。

「そうか、それは済まなかった」
「あうぅ……」

　再開された動きに、どこか悲しげな声で喘ぐ。
　しかしそれはすぐに甘さに覆い隠される。
　奥の方を熱く固いもので擦られながら、ペニスを扱かれ、見る間に高まっていく射精欲に目を眩ませて喘ぐ。

「あっ…うん……んん、あ……」
「素直ないい声だ」
「く……うぅ……ああっ！」
「犯されながらここを弄られるのが、よほどたまらないようだな」

　はいともいいえとも言わず、真物はただきつく手を握りしめ、身をくねらせた。

「あれほど嫌がったのが、嘘のようだな」

　言って神取は抱き起こし膝に乗せた。

「んんぅ！」

　より深く抉ってくる熱塊に、頭の芯が痺れるほどの強烈な快感を味わう。真物は咄嗟に神取の腕に捕まり、大きく仰け反った。

「あっ…はぅ……ああぁ！」
「本当にいい声だ……たまらない」

　偶然口元に寄せられた右の耳朶に甘く噛み付き、神取は腰を使って何度も突き上げた。

「だめっ……あぅ！　あっ！　い、ああ……ん！」

　強過ぎる刺激に続けざまに襲われ、真物は我を忘れて嬌声を上げ続けた。神取の腕を掴んだまま、自ら腰を擦り付ける。

「んん、も…もう……あ、はうぅ……！」

　ペニスの先端からはだらだらと涎が溢れ、もう少し擦ってやるだけで射精しそうに張り詰めていた。

「いきそうか？」
「う、う……」
「今更恥ずかしがる事もないだろう？　答えなさい、真物」
「く……は、はい……」

　ひっひっと小さくしゃくり上げなら、真物は頷いた。
　答えを聞き、嗤って、神取は扱く手を離した。

「や…あ……っ」

　不意に途切れた事に真物は息を詰めた。小さな動作で男を振り返る。

「いきたいなら、自分でやるんだ」

　言うなり神取は真物の手を取り、すっかり育ちきったそれへと導いた。

「！…」

　それを真物は強い力で拒んだ。
　ようやく抵抗らしい抵抗を見せた真物に、神取は口端を歪める。

「やりなさい」
「いやだ！　それ…いやっ……！」

　涙交じりの叫びは、男の嗜虐心を激しくかきむしった。
　妖しい疼きが背筋を撫で、下腹へと集中する。

「お前の身体はもう、後ろで充分感じるまでになったが、これでいくにはまだ少し届かない」

　両足を抱え大きく開かせると、神取は腰を使って何度も何度も深奥を擦った。

「あっ…あぁ！　ん！　はぅ！」

　突かれる度に高い悲鳴を上げ、真物はいやいやと首を振った。男の言う通り、強烈な快感はあるものの、射精したがって震えるだけで吐き出す一撃にはまだ足りないのだ。

「だから、いきたいなら自分の手でするんだ」
「んんぅっ！」

　内部を激しく行き来する男の怒漲に切なく鳴いて、真物は尚も首を振った。

「ならずっとこのままだ。私は構わんがね」

　神取は再び四つん這いの姿勢にさせると、覆いかぶさって真物の両手を上から押さえ付け、己が欲望を解放する動きで腰を突き込んだ。

「あ、はっ…ん！　んん！　ひっ……！」
　腰が砕けんばかりの激しさに真物はきつく目を瞑った。耳元に男のかすれた呻きがかかる。

「っ……！」

　ぶるりと震える。
　逃げたくても、後孔を穿たれ両手を押さえ込まれてはどこにも逃げられない。身の内で気も狂わんばかりに膨れ上がっていく射精欲から、逃げる事が出来ない。

「あっ……ああぁ！　いや！　いやだ！　あ、あ、あぁ……」

　せめて後ろの刺激から貪ろうとしても、より強まるばかりで最後の一撃までには届かない。
　切なさに頭がどうにかなってしまいそうだった。
　どんなに首を振っても追い払えない。
　ついに真物は口を開く。

「――します！　く……ああぁ――い、いきた……あうぅ！」

　押し付ける手を振りほどこうと男の下で大きくのたうち、悲鳴交じりに叫んだ。

「……好きなだけ、いくといい」

　嘲笑う声を必死に振りほどき、真物は解放された右手で自身の熱を慰めた。途端に目も眩むほどの痺れに包まれる。
　何をやっているのか…もうどうでもいい。

「あ…あぁ――んぅ……！」

　熱い腰の奥から込み上げてくるものに何度も震えながら、真物は思い切り白液を吐き出した。
　間を置かず男が激しいひと突きを打ち込み、内奥に熱いものを放つ。

「あぁっ……！」

　注ぎ込まれる感触にぶるぶるとわななき、真物は半ば恍惚とした表情で喘いだ。
　気の済むまで放出すると、神取は一気に腰を引いた。
　少しおぞ気のする感触に真物はまたわななき、だるそうにしながら四肢を投げ出した。

「く…うぅ……」

　熱が引くと同時に、空虚さが一気に押し寄せる。
　真物は、白いものにまみれた自分の手を遠ざけると、もう片方の手で顔を覆い隠した。
　その顔は、疲れきった笑いに歪んでいた。
　淫らで汚いものに作りかえられてゆく自分に、果てのない悲しみが込み上げる。それでも笑った顔のまま、真物はぼろぼろと涙を溢れさせた。
　男はそんな真物を褪めた目で見下ろし、何も感じない自分に嗤いながら再び覆いかぶさった。
　満足するまで何度も犯し、貪り尽くす為に。