Ⅲ_ⅰ
| 奴の魂にある翳りがどれほど強大であろうと、僕を守り抜くと誓ったんだ 力が及ばない内はせめて殺されてしまわないようここに招き 明日また立ち向かえるだけの強さを分けて 気が済むまで泣いてもいい 怒りは僕のものじゃない 笑う事を忘れてしまわないよう励まして 憎しみは僕のものじゃない 癒してあげたいだけ 必要なら俺が身代わりになるから いずれ導かれて集まる力が、手に入る事を信じていてほしい |
| 抜けるような青空に、満開の桜はよく似合った。一枚一枚は白いのに、集まって折り重なると何ともいいがたい鮮やかな桜色となり、風に揺れる柔らかさは優しさに満ちている。 通学路の遊歩道に植えられた桜の木は、下を通る新学年たちを祝うように花びらを散らせじっと見守っていた。 一年生は期待し、二年生は学生生活を満喫する為に、三年生は最後の一年間を過ごす。 始業式から一週間。生徒達はそれぞれのクラスに馴染み始めていた。 ただ、真物は例外だった。 六百人近い在校生の誰に尋ねても、同じ理由で「何も期待していない」と答える者は恐らくいないだろう。もしいるというなら、顔ぐらいは見てみたいものだと、考えた事もあった。意味のない事だが。 それでも最近はそう頻繁に神取に呼ばれる事がなかったので、精神的に安定した生活が送れるようになっていた。最も危惧した始業式当日は、常に稲葉がついていてくれたお陰か、心配していた症状も表れず無事過ごす事が出来た。 しかし完全になくなったわけではなかった。不意の物音や背後に立たれる事は、恐怖の対象として根強く残っている。見知らぬ人間には未だに過度の警戒心を抱いてしまうし、人と目を合わせる事は苦痛だった。 稲葉に対しても同じ反応をしてしまい、本当に申し訳なく思う。それでも彼はこちらの条件に合わせて接してくれる。当初抱いていた、離れていってしまう事に対する恐怖は、出会って一年過ぎた辺りから徐々に薄れてゆき、安心してもいいのかと思う気持ちにすりかわってきた。 いつか稲葉も、他の人間のように自分をいない者として振る舞うようになるに違いないと決め付け、極力関わらないように過ごしてきた自分が情けない。機会があったら、理由は言えないまでも謝罪したい。 生きている間に ＊ 新学期を迎え、体育館に貼り出されたクラス割の表を目にした稲葉は、揃いも揃った強烈な個性群に、真物の心配をせずにはいられなかった。並んで見上げていたのに、思わず真物の姿を探してしまうほどに。 ＊ 第一印象は最悪だった。 ＊ まるで小学校だな。それもかなり低レベルの。 |