神取の部屋に連れてこられた真物は、全裸になるよう命じられバスルームへ連れて行かれた。 　逃げる事も隠す事も出来ない。 　全てをありのまま晒す真物の裸体を背後から抱きすくめ、神取は当然とばかりにペニスに手を伸ばした。 「うっ…いや……く！」 　避けようと腰を引くと、神取の半ば勃ちかけた肉塊が腰骨に触れた。硬直し、息さえも詰める。 「少し身体が冷えているな」 　そう言って神取はシャワーの栓に手を伸ばした。たちまち暖かい雫が二人に降り注ぐ。 　それは真物の肌を温くしたが、怯えて冷え切った心にまでは届かなかった。 「石鹸を持って、よく泡立てるんだ」 　神取の指先が指示する。 　真物は言われた通り手を伸ばすが、掴んだ途端、男の手がゆっくり動き始めた。 「あぅっ……」 　思わず漏れた呻きを、浴室のタイルが必要以上に反響する。その自らの声と、下腹から広がる快感とに、真物は竦み上がる。 　屈んだまま動けなくなった真物の身体を腕に抱え、神取は熱を帯びかたくなったそれをよりはっきり上下に扱いた。 「あ、はぅっ……んんっ！」 　強い快感のうねりに襲われ真物は喘いだ。 「手を動かせ」 　ほくそ笑んで耳元に囁きかける。 「はっ…い……」 　表情を見られまいと、真物は必死に顔を背けぎこちなく手を擦り合わせた。 「それくらいでいいだろう」 　泡まみれになった真物の手から石鹸を受け取り、元の場所に戻す。その間も片方の手は真物のペニスを弄くり、熱を吸い寄せる。もう一方の手で真物の右手を掴み、背中に回させる。 　何をさせられるのか不安に感じ、真物はわずかばかりの抵抗を見せた。 「今日は自分でするんだ。私がいつもお前にしてあげている事をね」 　言われても、すぐには理解出来なかった。 「まずは中指からだ」 「う…い、嫌だ！」 　導かれた先が、自分の尻の合間だと知るや、真物はより強く抵抗した。 「大丈夫、恐くはないよ。それに、お前はもう後ろで充分、感じる事が出来るのだから」 　無理矢理中指を立てた形に握り込み、尻の穴に添えさせる。 「いや、だ……」 「ゆっくり、入れるんだ」 　拒む真物を強引に抑え込み、指を咥えさせる。 「んん――！」 　石鹸のぬめりによって、指は難なく入ってゆく。内壁がねっとりと絡み付く感触は何とも言えぬおぞましさに満ち、真物を震わせた。 　こんな事をさせられる悔しさに激しく目が眩む。 　抜きたくても、神取に押さえられ自由はきかない。 「根元まで埋め込んだら、静かに指先を動かしてごらん」 　あまりの恥ずかしさに喘ぎながら、真物は小さく首を振った。 「ならこうしてもいい」 「あっ…はぅ！」 　意思とは無関係に抜き差しさせられ、真物は喉の奥から湿った吐息を漏らした。 「自分でも解るだろう？　お前のそこはね、とても複雑に動いて絡み付いてくるんだよ」 　耳元に囁かれ、真物は耐え切れずわなないた。 「もう…抜かせてくださ……」 「まだ始めたばかりじゃないか。ここはこんなに悦んでいるのに」 　神取はペニスの先端を指先で擦り、先走りの涎を撫で付けた。 「あ、あぁ…あ……」 　真物の息が上がる。 　神取の両の手が動く度に、震え上がるほどの痺れが背筋を駆け抜けて、たまらず声を漏らす。 「こちらを向きなさい。指は入れたままだ。足りなければ、二本でも三本でも増やすといい。抜く事は許さないよ」 　言い放ち、肩を掴んで振り向かせる。 　言い付けに背けば更に責められると、身体の芯まで教え込まれた真物は、指を突っ込んでいる姿勢にじっと耐えた。少し前かがみになった、しようもなく情けない恰好。 「次に何をすればいいか、解るか？」 　俯いたままかすかに首を振る。 「左手を出して」 　言われた通り、おずおずと左手を差し出す。やおら手首を掴まれ、真物はびくっと身体を強張らせた。 「力を抜け。左手はここだ。しゃがんで、咥えるんだ」 　神取の怒漲したそれを握らされ、真物は顔面蒼白になった。 　硬直したままの真物の顎をとらえ、親指で唇をなぞる。 「どうした？　初めてではないんだ、出来るだろう？」 　言っても、一向に動こうとしない。 　その反応はある程度予測していた。自慰をしながら奉仕しろと言われて、素直に従える彼ではない。 　だからこそ言うのだ。 『そうすればより極上の恐怖と絶望が、手に入るものね』 　妖艶な声を響かせ「彼」が嗤う。 「やりなさい」 　穏やかな口調で命令する。彼を従わせるには、こうして静かに言い聞かせる方が効果があった。 　現に、手を引っ込めようとする力が今の一言でほとんど失われた。そういう意味では、彼は幼少の頃から聞き分けが良かったのだろう。 　本人にとっては最悪の条件反射に違いないが。 「………」 　何事か呟き、ようやく真物はぎくしゃくとしゃがみ込んだ。 　かすかに聞こえた妹の名に、神取はにやりとほくそ笑んだ。妹をたてにとられては、素直に従うしかない彼の境遇を憐れみ嘲る。 「う……」 　真物は喉の奥で呻き、逸らしていた目を恐々と神取のそれに向けた。手の中にある熱の確かな手応えを感じながら、ゆっくりと顔を近付けてゆく。 「さあ、やるんだ」 　覚悟を決めて、真物は眼前の熱塊を咥え込んだ。瞬間、口の中で男のそれがぴくりと跳ねる。 「――！」 　口内を圧迫する熱い塊に吐き気が込み上げる。ぐっと堪えて、神取に教え込まれたように舌を絡め唇で扱く。 「とてもいい――」 　呟いて、真物の濡れた髪をすいてやる。 「指で扱く事も忘れるな。音を立てるのもいい。舌先で裏筋を舐めて――そう、いい子だ」 　嫌々ながらも応じる真物に、冷やかな一瞥をくれる。 　他の一切を頭から追い払い、無心で口を動かす真物に、神取は歪んだ愛しさを感じ始めた。 　人から奪い取ったおもちゃを我が物顔で使う子供さながらに。 「君の方が物足りないだろう？　二本の指で、入れてすぐの所を弄くってごらん。それでいく事が出来たら、これを止めてもいい」 　頬を撫で、囁く。真物の動きが一瞬止まり、戸惑う眼差しが左右に揺れた。 「弄くればすぐに分かる。お前のそこで――いきたがっているものによく響いて、手で扱くのとはまた違った感触が味わえるよ。さあ、やるんだ」 　手の甲で額をさすり促す。 　真物は、握り込んだものから口を離し、非難めいた眼差しで神取を見上げた。 　いっそ死んでしまいたいくらいだった。 「どちらもやめる、というのは許さないよ」 　冷たく言い放ち、しかし真物が自分から動くまで神取は辛抱強く待った。「彼」が、真物の内部から恐怖を思う存分啜ってくれるお陰で半分は満たされている。残りは、直接的な快楽で満たしたい。 　ただ暮らしていたのでは、永遠に手にする事の出来ない無垢な魂を汚して。 　小刻みに震える唇を大きく開き、真物は再び口の中に受け入れた。そして、石鹸の泡にまみれた薬指を中指に添えて、後孔を押し開き内部へと埋め込んでゆく。 　頭の一部はとても冷静で、淫行に飲まれる自分に激怒していた。けれど、身体は恐ろしいほど淫らに貪欲に快楽をねだり、疲れ果てて気を失うまで犯されるのを悦ぶのだ。 　一度始めてしまったら、抵抗は、上辺だけかもしれない。 「…っ！」 　闇雲に動かした指先が、内部に隠れた性感帯を探り当てた。苦悶の表情が一転して愉悦に蕩ける。 「解るか？　そこにあるのが」 　すかさず神取が言う。驚き一瞬で離れたそこに、真物は恐る恐る指を近付けた。かたくしこった疼きに指を擦り付け、抉るように動かす。 「ん、んん！」 　脳天を直撃する快感にきつく抱きしめられ、真物は我を忘れて腰を振った。自制心などとうに吹き飛び、ただ射精を目指して熱を煽る。 　この上もなく破廉恥な格好で自慰を続け、同時に神取の熱を扱き高めてゆく。 「いっ……あ、あぁっ…はぁ――あああぁっ！」 　ぐうっとせり上がる絶頂感に真物は髪を振り乱して仰のき、しとどに嬌声を迸らせた。 　埋め込んだ指で内部を何度も擦り、抉り、ついに果てる。 　破裂せんばかりに育ったペニスがその瞬間大きくわななき、先端から二度三度と白濁した液を吐き出す。 「……いい子だ」 　ややおいて頭上から声がかけられる。 　真物は自分の中に埋め込んでいた指をゆっくり引き抜くと、しゃくり上げるように全身を震わせながらその場にうずくまった。あれほど昂ぶっていた波は瞬く間に引いてゆき、沈んでいた理性が底から現れ始める。 　なんて、事を…… 　背中に降り注ぐ雫の一粒一粒が、視線の先にある白いそれを押し流してゆく。神取に命じられるまま吐き出した、欲望の―― 　見たくなくて、きつく目を瞑る。 「良かっただろう？」 　首が触れない。頷いてしまいそうになる。 「だがやはり、指だけでは物足りなかっただろう？　お前の本当に欲しい物をくれてやる」 　いやだ。欲しくない。 　しかし身体はまさにそれを望んでおり、背後に回った神取に気付いていながらも、抵抗など微塵も起きはなかった。 　信じられない。 「身体を楽にして」 　熱塊の先端が、尻の穴を探って擦り付けられる。 「う、……」 　小さく呻き、真物は自ら膝を開いた。 　ほんのわずかに。 　それだけでも神取は充分満足出来た。 　そして「彼」も。 『あれになる器といえども、所詮は子供。無垢であるが故に快楽に溺れ易いもの。絶望するであろう？』 　神取は覆いかぶさるようにして腰を進めた。 「うっ…ん…あぁ――！」 　ゆっくり侵入してくる熱くかたいそれに、真物は純粋な悦びの声を上げた。痛みはもうない。ただ狂おしいほどの快感が身体中を満たし、声がとめどなく零れ落ちる。 　深い呼吸を繰り返す真物に合わせて、ゆっくりと抜き差しを始める。深く穿たれる度に真物の口から鼻にかかった甘い嬌声が零れ、喉元を晒して仰け反る様はこの上もない征服感を神取にもたらした。 「もっとだ。もっと……！」 　這いつくばった真物の身体を抱え起こすと、膝に乗せ大きく腰を揺すった。 「ああぁっ！」 　自らの重みでより深い所まで犯され、たまらずに真物は絶叫した。恍惚とした表情はぞっとするほど艶かしく、また蠱惑的でもあった。 「そんなに嬉しいか？　あれほど嫌がっていたというのに」 　神取の囁きに、真物は一瞬呼吸を止めた。だが神取は、現実をぶつけておきながら考える間を与える事はせず、ペニスをやんわりと包み責め上げた。内壁の刺激に触発され、真物のそこは下腹に届かんばかりに屹立していた。 「あっ…それは……」 　止めさせようと、真物は神取の手に自らの手を重ねた。 「今更だろう？　それとも、自分の手でいきたいのか？」 　唇を噛んで、真物は俯いた。 「触ってごらん。君の中に入っているよ」 　力の失せた真物の手を自らの下腹に導き、貫いている個所を触らせる。 「っ……！」 　信じがたいほど広げられた後孔と、神取のペニスとが指先に触れ、穿つ卑猥な音が耳に触れ、手が震える。真物は声もなく呻いた。 　神取は再び真物を四つ這いにさせると、激しく腰を突き込んだ。 「あっ…あぁ、苦し……」 　内臓を押し上げられるような圧迫感に見舞われ、真物は思わずそう口走った。しかしその表情は愉悦に満ちており、口元はうすく笑みをかたどっている。 「思う存分鳴くといい」 　淫靡な音を響かせながら、神取は真物のペニスを追い上げた。 　敏感な場所を同時に責められ、浮遊する感覚に蕩けそうになる。はちきれんばかりに反り返ったペニスは、先端からとめどなく透明な液を溢れさせ硬く張り切っていた。 「もうやだっ…いやだ許して……こんな…いやだ……！」 　苦しい息の下から必死に許しを乞う。嫌なのに、もっと快感を欲していやらしくねだってしまう自分など、もう晒したくない。見せたくない。 　そんな自分は見たくない。 　しかし神取は聞き入れなかった。小刻みに腰を打ち付け、かと思うと奥の奥までねじ込んで捏ねくり、ペニスの裏筋を執拗に責め立て、真物を追い詰める。 「あぁ…も――やだっ……だめ、だめ……んんん！」 　必死に抗うが、もう限界だった。男の動きに合わせて腰を揺らし、自分から貪る。 　そして…一度目は自分の手で、二度目は神取の手で果てる。 「ああぁ――……」 　かすれた悲鳴を上げながら真物は熱いものを飛び散らせた。 「……こんなの」 　あまりに情けなくて、泣き出してしまいたかった。 「気に病むな。欲望に正直なのは悪い事ではない。今のお前はとても魅力的だ」 　言って、背中に覆い被さりうなじに軽く口付ける。 「あっ…く、くるし……う！」 　抽送が一段と激しさを増す。極まりを報せる神取の低いうめきが耳朶にかかり、真物はびくっと身体を震わせた。その直後、腰の深奥に達した神取のペニスが大きくのたうち、内壁を打たれる感触とともに熱い雫がぶちまけられた。 「ひっ……！」 　一際強く腰を突き出し、熱を解放した神取は、ゆっくりとペニスを引き抜いた。 「んうっ……」 　ずるりと引き抜かれる感触に思わず声を上げ、真物はその場にうずくまった。身体は疲れきって弛緩し、このまま眠ってしまいそうになる。 「まだだ、真物」 　しかし神取はそれを許さなかった。 「！…」 　背後から抱えられ無理矢理立たされた真物は、逃げるようによろめき壁に手を付いた。 「もういやです…お願いだから……」 　これ以上痴態を晒すのは耐えられない。 「また嘘を吐く」 　真物を抱き寄せ、緩んだままの後孔に二本の指を差し込む。抵抗なく受け入れたそこは、更なる刺激を欲しがってひくひくと蠢いた。 「嫌だ、出来ないと口で言っておきながら、犯されれば素直に悦ぶ」 　ぐいっとねじりながら突き上げる。 「だめ……っ！」 　身悶えて首を振る様はまるで、わざと嫌がる素振りを見せて男を欲情させる娼婦のよう。 「すべて、私を誘っているようにしか見えない」 　頭一つ分低い小柄な身体を抱きすくめ、 「どうだ？」 　耳元にそう囁きかけ、今にも泣きそうな顔で俯く真物を、上辺だけの優しさで愛撫する。心の中は、更なる恥辱を与えたくて疼いていた。 「私を満足させるのが、条件だったろう？」 　言って真物の顎に手をかけ強引に上向かせると、露になった喉元に舌を這わせ吸い付く。もう一方の手は休む事なく後孔をまさぐり刺激する。 「うっ、くぅ……」 　神取の言葉通り、もたらされる快感に反応してしまう自分の身体を恨みながらも、真物は声を殺す事も出来ず喘ぎ続けた。 「こんなに溢れさせて。欲しくてたまらないだろう？」 　手を下ろし、視線の先で蠢く真物のペニスをやわやわと包み込む。抵抗とは異なる動きで、真物は腰をくねらせた。 「欲しいと言ってごらん？」 「嫌だっ！」 　即座に拒絶する。けれど揺れる腰は止められない。 「本当は欲しいんだろう？」 「………」 　真物の腰骨にペニスをこすりつけ、挑発する。 「これが」 「あぁっ……」 　触れた硬いペニスに、ため息を漏らす。 「君のももう…ほら、こんなになっている」 　自身のものを強引に握らされ、羞恥の余り頭が眩む。だというのに何故身体はこんな反応をするのだろう。あれほど嫌だったはずなのに。 『こいつホントに諦めがわりぃな。バカか？』 　呆れた口調の「彼」に神取は曖昧に笑って見せた。「彼」とて解っているのだ。ここで真物が欲求に負け「欲しい」と口にしても、心の芯からは従っていない事を。苛立ちが見え隠れする。 （あれになる器……か） 　目も眩むほどの怒りが沸き起こる。 『冷静さを失うなよ。一歩間違えればあれを呼びかねんからな』 「彼」にたしなめられ、神取は我に返った。行き場を失った怒りの名残を、目の前の真物にぶつける事でせめて気を晴らそうとする。 　真物の片足を持ち上げ身体を支えると、神取は半ば起ち上がった己のペニスに手を添え、後孔に押し付けた。 「んんっ……ああぁ――！」 　ずぶずぶと押し込まれる張り詰めた熱に、真物は悦びの声を上げた。 「声も出なくなるほどがいいか。腰が立たなくなるまで犯してやろうか……それともお前が、二度と光を宿せなくなるくらい、徹底的に――！」 　耳朶に食らい付き、とめどなく漏れる喘ぎに紛れて神取は言う。 　心の奥底で震えていた真物は、いっそ発狂するのを望むように、快楽の底にダイブした。 ――奴がいくら手を尽くしても、結局は無駄な事だ。僕を守ると決めた以上、俺は死に物狂いで抵抗してやる。決して負けはしない。 　決して穢れはしない！

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