Dominance&Submission
悪くない
ぐぐっとめり込んでくる熱塊の凄まじい圧迫感に、僚は声も出せなかった。腰が抜けそうな、身体が割かれるような重苦しい痛みに息も出来ない。口を開けたまま息を詰め、自然と滲む涙にきつく眉根を寄せる。痛い、苦しい…けれどそれが気持ちいい。泣きたくなるほど、嬉しかった。 ゆっくりと、しかし止まる事無く怒漲は奥へと進んでいく。ずぶずぶと埋め込まれる異物に合わせて息を整え、僚は受け入れようとした。 そうやって、本来そうは出来ていないそこに、何度この男を迎え入れただろう。 数えきれないほど咥え、形を覚え込むほど回数を重ねても、やはりこの瞬間は痛くて苦しくてつらい。でもそれをこえて馴染んでしまえば、後はもうとろけるばかりの快感が待っている。 その思いは、僚の顔にくっきりと表れていた。 きつく歯を食いしばって唸り、耐える表情でありながら、口元には期待の笑みが浮かんでいる。 それを目にした神取は、震えるほどの興奮に見舞われた。 「あっ……」 零れた声は自分のものか、彼のものか。 僚は縛られた手を顔の前に持っていき、零れんばかりに滲んだ涙を帯で拭った。ごしごしと、少し乱暴な仕草に神取は心配になり、すぐさま止めさせ舐め取った。 ん、と湿った声が一つ二つ、僚の口から零れる。甘える声音に、ますます興奮が募る。神取は差し込むようにして背中に腕を回して抱きしめ、ゆっくり腰をうねらせた。 ようやく根元まで入りきったところで、神取は一旦動きを止めた。互いに硬直して、息をするのが精一杯だ。 しかし僚の中は熱く熟れて蠢き、一杯に頬張った男のそれを味わうように締め付けた。 余りの気持ち良さに、男の熱塊がびくびくとのたうつ。 器官に伝わってくる震えはむず痒さと快感とを僚にもたらす。苦しさの中に混じる快さに、僚は途切れがちに息を啜った。眦や瞼を這う舌のねっとりとした熱さも気持ちよく、吸う傍から喘ぎがもれた。 神取はひとしきり涙を吸い取ると、今度は唇に接吻した。 二度三度ついばみ、健気に応えてくる唇に笑いかけ、動くよと告げる。 僚は重なってくる唇を受け止めながら頷いた。 「ん、んんぅ……うむぅ……んぁ」 舌を絡めながら揺さぶると、口の中で僚の喘ぎが響いた。頭の中にこだまする濡れた声を聞きながら、神取はひたすら奥を穿った。 何度も何度も奥を小突かれ。僚はやがて口の中だけでは我慢出来なくなり、男の唇を振りほどいて仰け反り、奥がいいと悲鳴混じりに喘いだ。 「ここかな」 「ん、うん……そこ! いい!」 僚はがくがくと忙しなく頷き、力強く穿ってくる腰に足を絡めた。結合がより深まり、奥まで男のものが届く度頭の芯ががーんと痺れた。痺れは全身に巡り、強烈な快感となって僚を包み込む。 次から次へ襲ってくる快感は薄い膜となって僚を取り囲み、極まりへと誘った。 「ああだめ……そんなにしたらいくっ」 「嫌かい?」 「いやじゃない……あぁっ…あ、いきたい」 「このままでいい?」 「うん……いやだ、もっと欲しい……ね、もっとしていいから」 好きにしていいから 切羽詰まった様子で叫ぶ僚の口を塞ぎ、深く舌を絡めて、神取は執拗に奥を貪った。わずかだった動きを激しく変えて、音がするほど肉を打ちながら、彼の悦ぶ最奥に怒漲を送り込む。 二度目の絶頂が、ほどなく僚に訪れた。 |
泣きじゃくり、甘い嬌声をまき散らしながら、僚は極まりを迎えた。 満足しきるまで力強く腰を打ち付け、最奥で動きを止めると、神取は絶頂の余韻に浸り痙攣する後孔の蠢きを愉しんだ。絶妙な力で絞り込んでくる襞のざわめきに目を瞑ってしばし陶酔する。 嗚呼なんてたまらない身体だろう。 僚はぜいぜいと胸を上下させて喘ぎ、濡れた瞼をだるそうに何度か瞬かせた。 「ああ……あぁ」 徐々に鎮まっていく息遣いを聞きながら、神取は静かに身体を起こした。 僚の脚はすっかり脱力し、片方は自分の脇に、もう一方はソファーの外へ放り投げられていた。 神取は左右の脚を丁寧に引き寄せ肘にかけると、まだぼんやりしている彼に喝を入れるように、一度強く腰を突き入れた。 「あぅっ!」 拉げた悲鳴ににやりと笑い、弾むように腰を打ち付ける。今のはさすがに痛かったろう、驚いたように見やってくる視線に少しばかり非難が混じっていた。神取は微笑んで受け止め、腕にした足を抱え直すと本格的に責め始めた。 「もっと、好きにさせてもらうよ」 未だ絶頂の強張りの残る後孔をかき分けるようにして、腰を前後させる。 |
先刻よりも更にきつい突き込みで僚を揺さぶり、泣き叫ぶのも無視して、神取は射精目指して穿ち続けた。 「だめ、ま…て、少し、おねがい……ああっ」 「好きにしていいと、言ったろう?」 「そう…だ、けど、あ、あっ……あ! すぐはだめぇ……あぁ!」 僚は拘束された手を突き出し、何とか抵抗を試みた。しかしどんなに押しやっても男の動きは変わらず、達して過敏になった内襞を嫌というほど擦り抜いた。 尚も僚はじたばたと足掻き、燃えるくさびから逃れようと抗う。 仕方ないと、神取は抱きしめる事で抵抗を封じ、蕩け切った僚の孔に深々と自身を突き刺し擦り上げた。 なんて硬くて、逞しい雄だろう。 僚はぼうっと霞む頭の奥でそんな事を思う。 腕も足も、男の身体全て、自分よりずっと美しく鍛え抜かれ無駄がない。 力強くて、まるで違う生き物のようだ。 でも、合わさった肌は同じように汗ばんで、熱くて、伝わってくる鼓動は行為に興奮して速まって、そこは同じ。 自分も男も、同じくらい相手にのめり込んでいる。 それが僚にはたまらなく嬉しかった。 男の手によって頭の向こうに押しやられた両手をぎゅっと握りしめる。 抱きしめられないのがもどかしい。 抱きしめさせてくれないのが腹立たしい。 これも、お仕置きの一つか。 どんなに気持ちいいか伝えられないのが悔しい。 だから僚は、せめてもの代わりに男を飲み込んだそこを強く締め付けた。 持てる技巧を尽くして、男に伝えようとした。 短い叫びが聞こえた気がした。 男が喘いだのだと気付いたのは、一拍遅れてからだ。 驚いたような、悦ぶような声音だった。 その証拠に、動きはますます速まり、一段膨らんで、もう射精は目前だ。 ああ、ちゃんと伝わったのだと安堵したと同時に、最奥に火傷しそうなほど熱いものがぶちまけられた。 |
「ひっ……あ……あつい――!」 中に出された欲望に触発され、僚も白液を放った。 絶頂に振り切れた身体を休みなく揺さぶられたせいで、涙が溢れて止まらなかった。痙攣めいた震えが何度も襲い、びくびくとのたうちながら、僚は必死に息を求めて喘いだ。 「あ――あぁ、いい……すき、たかひさ……たかひさ」 息を吐くのに合わせて、僚はうわ言のように呟いた。啜り泣きのように喉を引き攣らせる。 神取はゆっくり抱擁を解くと、思い出したようにびくりと震える僚を静かに見下ろした。そっと手を伸ばし頬に触れる。 ごく自然に、甘える素振りで頬をすり寄せる僚にふと笑い、神取は優しく撫でた。頬は、赤く火照った見た目のままに熱く、しっとり汗ばんでいた。首筋も耳の後ろも同じで、ただ撫でるだけの内にまた肉欲が込み上げてきた。 彼の孔に包まれていた自身に芯が通るのがわかった。 「っ……」 僚もまたその変化に気付いた。息をもらして男を見上げる。 神取はしばし目を見合わせ、緩く笑った。 「もっと好きにしてもいい?」 小さく揺れる僚の眼差しに目を細め、神取はゆっくりと抱き起して膝に乗せた。 「う、う……んん」 深まる結合に僚は喉の奥で呻いた。 「大丈夫、ゆっくり息を吐いてごらん」 「ん……」 ぎくしゃくと頷く僚に笑いかけ、神取は手首の帯を解きにかかった。柔らかいタオル地だったが、傷はついていないだろうか。 念入りに確かめる男の真剣な面に僚はしばし見惚れた。男の顔を見つめるだけで、どうしてこうも息が乱れるのだろう。おかしな自分に息を飲み込み、僚は落ち着こうと努めた。しかし未だ深々と繋がったままの身体、しっかり食い込んでいる男の怒漲を奥に感じるほどに身体は昂ぶり、息は上がり、その上すぐ正面には男の少しおっかないほどの真剣な貌がある。落ち着くなんてとても出来ない。到底無理だ。 と、確かめ終わったのか、男は掴んだ手を自分の背中に回させた。 ようやく抱きしめられる、隙間が埋まる、なくなる、その嬉しさに一層興奮が募った。 僚はありったけの力を込めて男に抱き付いた。汗ばんだ人の肌がこんなに気持ちいいなんて、嬉しく感じるものだなんて、知らなかった。 濡れたところから順繰りに溶けて一つに混ざり合えばいいのに。そんな思いに浸りながら、僚は熱い声をもらした。 穏やかに燃えていられたのはそこまでだった。 男の手が尻を掴んだかと思えば、次の瞬間には目がけて腰を突き込まれた。突如始まった激しい揺さぶりに僚は高い悲鳴を続けざまに放った。 腰が砕けそうなほど力強く突き込まれ、僚はひどくうろたえ咄嗟に男の腿を掴んだ。 |
嫌だと暴れる身体を強引に抱きしめる事で封じ、神取は片手を下ろした。自身が激しく出入りする孔を指先で弄る。 「あぁっだめ、それ……!」 震える頃が僚の口から迸る。そうされるのは弱く、僚はおこりのようにびくびくと繰り返し痙攣した。 男のものを咥えて一杯に広がった孔をなぞると、内部がきゅうっときつく締まる。 同時に抵抗が更に強まるが、神取は難なく抱きすくめた。 「ああ……いいね。たまらないよ」 「これ、それ…やだ…ゆるして、ね……やめてっ」 お願いだから 甘えた声で縋る僚を優しく抱きしめ、もっと泣いてごらんと神取は孔を弄り続けた。ぬるぬるするのは、先に放った自分の精液が漏れてるせいか。動く度ぐちゅぐちゅと卑猥な音が響く孔を、神取は思う存分弄り愉しむ。 「腹の中をかき回される気分はどうかな?」 「や、もぉ……おかしくなる」 ひっひっと息を引き攣らせ、僚は何度も首を振りたくった。ばさばさと乱れる髪が男の頬や耳を打つ。くすぐったさに思わず笑みが込み上げた。 「構わんよ。私はそれが見たい…見せてくれるね」 「いや、いやだぁ……あぁ、もう触るな……離して」 「嫌じゃない……中をかき回されるのも、ここを――」激しい責めにぷっくり膨れた縁を、触れるか触れないかの絶妙な接触で撫でる「弄られるのも、君は大好きだろう?」 「んんん……たかひさぁ」 泣き濡れ、僚は困ったように身をよじらせた。男の指が縁をなぞる度、身体の力が抜けていくようだった。ぞっとするおぞ気が走り、歯がかちかちと鳴る。 「ほら、好きといってごらん。気持ちいいと、言ってごらん」 「ひっ……やだ、あぁ……いい、気持ち良い」 「そういい子……もっと聞かせて」 送り込まれる怒漲から、恐ろしいほどの快美感が注ぎ込まれる。ぞっとする思いを味わいながら同時に快感をもたらされ、僚は混乱のさなかにあった。 だから、男に言われるまま同じ言葉を口にする。繰り返す度錯覚は強まり、本当に、気持ち良いと傾いていく。 「あぁ鷹久……指気持ちいい……鷹久の硬いの、すごく、いい……あぁ、だめ、だめだ……またいく、いきそう……ああぁ」 男の肩口に顔を埋め、僚はぜいぜいと胸を喘がせた。 休みなく突き上げてくる熱塊が、何度目かの絶頂へと身体を押し上げる。 僚はきつく目を瞑り、極まり目指して夢中で快感を貪った。 気付けば男の肌に歯を食い込ませていた。いけないとはっとなるも、急激に込み上げてくる凄まじい快楽に飲まれ、真っ白に染まる瞬間に飲まれ、僚はきつく噛み付きながら唸っていた。 食い荒らされる幻想に神取は強く目を瞑り、抱きしめた身体の奥深くで熱を吐き出した。 「あ、あ――!」 腹の奥に注がれるぞっとする感触に僚はかすれた悲鳴を上げ、ひと際大きく四肢を痙攣させた。 しばらくの間、二人分の乱れた息遣いが部屋にこだまする。やがて鎮まり、再び甘い声で充たされていった。 |