Dominance&Submission

君としか出来ない事

 

 

 

 

 

 寝室に戻った僚は、男に誘導されるままベッドに上体を倒れ込ませた。
 汚れた下部はトイレで綺麗に拭われ、その間何の手出しも出来ない事にひたすら恥じ入った。洗面所に連れられ、一旦椅子に座らされた。その後、何度か水道を使う音がした。男が行ったり来たりする足音と、物音から、トイレの床を拭いているのだとわかった。あちこちにまき散らして汚してしまった後始末をしているのだ。男がいると思われる方にごめんなさいと声をかける。引っ込みかけていた涙がまた滲み、どうにも止まらなかった。
 男は大丈夫だと優しく声をかけてきた。もしもこの男でなかったら、以前だったら、汚したところに顔を押し付けられ、それから……また浮かび上がってくる悪夢のような過去の記憶に、僚は身震いを放った。
 おそらくは床拭きの雑巾を洗っているのだろう、長く続いていた水音が止み、手を拭う音がして、無音になった。
「さあ、寝室に戻ろうか」
 そっと髪を撫でられる。手のひらから沁み込んでくる労わりに過去の記憶は砕けて飛び散り、僚はぼうっと頭が痺れるようであった。
 肩を抱かれてどうにか歩き、ベッドまで連れられた僚は、崩れるように倒れ込んだ。それほど長くない、ちょっとの時間であったが、とんでもない事を手伝わせてしまったと恥ずかしさが舞い戻ってきた。その上後始末までされ、合わせる顔がないとシーツに埋める。
 そこで目隠しが外された。

「もう泣き止んだかな」

 頭上からの穏やかな声に、僚はのろのろと目を動かした。男のいる方へ向けるが、見るのが怖く、また戻す。
 神取はふとひと息笑い、手にしたハンカチで丁寧に涙の痕を拭ってやった。
 その間僚はじっと、されるがままでいた。

「すっきり出来たかね」
「……うん、はい」
「それはよかった」

 男の嬉しげな声に僚は唇の内側を噛みしめた。恥ずかしさに身体がじっとり汗ばんで、そのせいかひんやりとした冷たさを感じる。落ち着かない感覚に自然呼吸が速まった。
 眼下で浅い呼吸を繰り返す僚に目を細め、神取はそっと髪に触れた。癖のある黒髪を手の中でしばし遊ばせ、ゆっくり頭を撫でる。繰り返していると、次第に呼吸はいつも通りに戻っていった。

「おかしなところはない? 痛みは?」
「だいじょうぶ……」
「そうか。なら、しっかり膝を伸ばしなさい」
「!……はい」

 言葉と同時に尻を叩かれ、僚はだらしなく突っ伏していた身体に力を込めた。

「いい子だ」

 神取はうっすらと赤味を帯びた尻に手を伸ばし、すべすべとした感触を楽しみながら手のひらを滑らせる。撫ででいると、時折僚の口から切なげな吐息がもれた。そこを重点的に狙って、神取は指先で丹念にたどった。
 ひとしきり満足し、窓際に置いた椅子を取りに行く。僚の間近に置いて座り、再び手を伸ばす。触れた瞬間背筋がびくりと強張り、そのまま撫で続けていると、先ほどより更に熱い息遣いが彼の口からもれた。
 微かだった息遣いはやがて甘い声へと変わり、それにつれて腰が不規則に揺れ出した。撫でる合間に、白い丸みを掴むようにして時折指を食い込ませ、神取はじっくりと肌を愛撫した。

 

「気持ちいいようだね」
「あぁ…あ」

 僚はぼんやりした目付きで、微かに頭を動かした。

「はっきりと言葉に出しなさい」

 神取は即座に尻を叩いた。
 衝撃に僚はびくりと身体を跳ねさせ、気持ち良いですともらす。
 叩いた箇所を優しく撫で、神取は満足げに笑った。

「そうだろうね。ここも、ひくひくと、とても嬉しそうだ」

 後孔を指先で何度もなぞる。その度に僚の太腿やふくらはぎが緊張し、見る男を愉しませた。

「あっ……あぁ!」
「尻を撫でられて、感じた? それとも、縄がそんなに気持ちいいかね?」
「あ…う……」

 何と答えてよいやらわからず、僚は口ごもる。答えねばまた平手が飛んでくると怯えるが、男はそうはせず、単調に上へ下へ指を動かし続けた。
 表面をなぞるだけの指に段々じれったさを感じ、僚はもじもじと尻を蠢かせた。こんなむず痒い、微少な刺激でなく、もっとはっきりとしたものが欲しい。僚は少しずつ男の方へ首を曲げ、口先に上った言葉を出すべきか迷いつつ見やった。
 神取はその視線を受け取り、指先で揉み込むように後孔を刺激した。

「あぁ……鷹久」
「中に入れてほしい?」
「ん……おねがい、ほしい」
 入れてください
「何本欲しい? 一本でいい?」

 言いながら神取は人差し指を飲み込ませ、すぐに引き抜いた。
 いやいやと僚は首を振りたくり、もっとと欲して足踏みをした。
 神取はわざとらしく首を傾げ、片手でぐいと尻を割って露わにすると、まとめた三本の指をあてがった。

「ならば二本がいい? いや、欲張りな君の事だ、三本入れてほしいかな」
「やだ、きついっ……ああ!」

 いきなりねじ込まれ、僚は詰まった呻きをもらした。
 ぎゅっと締まる孔に指を折られそうになる。神取はふふと笑い、根元まで押し込んで静止した。

「あぁ、あ……」
「きついと言う割には、きゅうきゅうと何度も締め付けてくるね。きつい方が好きなようだ」
「そんなこと……」

 僚はシーツに擦り付けるようにして小さく首を振った。
 無理やり拡げられ、腰が抜けそうな痛みが走りつらい。だのに、奥底から重苦しい快感が込み上げてくる。妖しい感触に身体がぶるぶる震えて止まらない。

「あっ…だめ……」
「駄目じゃない、ほら、戻りなさい」

 反射的に逃げてしまう身体を、神取は縄に指をかける事で引き寄せとどめた。そのまま後孔を蹂躙する。彼は多少ならば痛みやきつさを悦ぶ。しかし無理は禁物だ。神取はよく観察しながら、馴染むまで抜き差しの動きを繰り返し、少し緩んできたところで内部をほぐしだした。

 

「あ、あぁっ……指、なかで……あ、あ…あ……」

 始めは苦しそうだった声が、次第に甘くとろけたものに変化していく。
 もう逃げないだろうと、神取は縄から指を外した。思った通り、僚はベッドに伏せた状態で、甘く喘ぎながら身悶えた。
 そこで呆気なく指を引き抜く。
 あ、と漏れ出た声には明らかに不満がこもっており、耳にした神取は笑い僚ははっと息を飲んだ。

「ああ……」

 僚は喉を震わせ、背面で固定された手を何度も握りしめた。なんて声を出してしまったのかと頭の芯がかっと熱くなるが、一度火をつけられた身体はそう簡単に鎮まらない。まだ後ろに何かはまっているように思え、しかし窄めてもなんの手応えもなく、切ないような感覚に自然と顔が歪む。

「そう残念そうな顔をするな。指では、君の好きな奥まで届かないからね」

 神取は楽しげな笑みを向けると、ゆっくり立ち上がった。半ば無意識に僚は目で追い、クローゼットに向かう後姿を見送る。
 まさかと見守る先で男が取り出したそれに、僚はきつく眉を寄せた。思わずつばを飲み込む。
 正常に作動するかどうか、閉じた扉の前で男はスイッチを入れた。少し離れていても、僚の耳には慣れたモーター音が届いた。同時に、男が手にする性具が生々しい動きを繰り出す。

「あ……やだ」

 戻ってくる男に声を絞り出す。聞こえぬ振りで神取は椅子に腰かけると、嫌だ嫌だと尻を振って拒む僚に構わず追いかけ、強引に咥えさせた。

 

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