Dominance&Submission

オレンジ

 

 

 

 

 

 バスタオルを敷いた上に四つ這いになって、僚は背後にいる男に向かって腰を高く上げた。
 体温とほぼ同程度にあたためられた薬液が、静かに流し込まれる。ほとんど違和感はなく、器具の細い口が抜き取られる時になってはじめて、入った事を知る。
 バスタオルに頬をこすり付け、僚は息を飲んだ。

「異変を感じたら、すぐに言いなさい」

 器具をボウルに戻し、神取は背後からそう声をかけた。動くのが怖いのか、僚は腰を高く上げた姿勢のままじっとしていた。
 思わず笑みを浮かべてしまう。
 緊張をほぐそうと、手を伸ばして僚の腰に触れる。途端に身体がびくんと跳ね、怯えたようなうめきが耳に届いた。

「そんなに、怖がらなくても大丈夫だよ」

 男の言葉を、僚は黙って聞いていた。怖い気持ちも、少しはある。
 どうしても、以前の非道な行いを思い出してしまうのだ。
 だが、もう大分薄れた。おぼろげに頭を過ぎるだけで、嫌悪感に身体が震えたりはしない。
 ただ、感じるのだ。
 宥めるように肌を撫でる男の手に、中途半端に煽られた身体が過剰に反応して、感じてしまうのだ。
 何でもない時なら、それに浸って上り詰めてしまえばいい。だが今は、少しでも気を抜くと粗相してしまうのではないかとそればかりがちらついて、複雑な感覚に苛まれる。
 いつもなら、待つ間は栓をあてがうのに、今日に限ってそれをしないからとまさか自分から言い出すわけにもいかず、僚はバスタオルに押し付けた顔を不安そうに曇らせた。
 時折思い出したように息をつき、静か過ぎる時を過ごす。
 やがて、下腹の辺りで重苦しい鈍痛が起こった。同時に、意識して締め付けていた後孔が一瞬緩んでしまったように思え、僚は顔面蒼白になった。

「あ、あ……」

 かすれた声をもらし、それまで以上に身体を強張らせる。
 手のひらに伝わる感触で察した神取は、ぴたりと手を止め、静かに様子を見守った。しばし間を置いて、手の動きを再開させる。
 腰骨の辺りから脇腹、足の付け根までを、手のひらで優しく撫でさする。指の先でかすめると、僚の身体は反射的に震えを放ち、びくびくと跳ねた。
 何度繰り返しても同じ反応を見せるのが楽しくて、つい手を動かしてしまう。
 やがて僚の全身が、うっすらと汗ばんできた。

「く……」

 押し殺したうめきが、食いしばった歯の合間から零れた。
 焼け付くような痛みが、次第に強まっていく。食中りを起こしても、これほどひどい腹痛を味わう事はめったにない。
 それこそ、あまりの苦しさになりふり構わず転げまわってしまいたいくらい、ひどいものだった。
 それでも僚は、口を噤んだままでいた。
 出来る事なら、少しでも先に延ばしたい。
 だがそれは、悪戯に自分を追い詰めるだけだった。避けられない瞬間を少しでも先延ばししようと、手のひらにバスタオルをきつく握り締め激しい痛みに耐える。
 無駄に等しい意地を張る僚に肩を竦め、神取は下腹の辺りに手を伸ばした。
 触れる寸前に気付いた僚は、咄嗟にその手を振り払い、喉の奥で拒絶の声を上げた。
 神取は再度手を伸ばし、嫌がるのも構わず臍の辺りに手を当てた。

「無理に我慢すると、具合を悪くしてしまうよ」

 言って、ほんの少し力を込める。
 僚は怯えた声を上げ、ぶるぶるとわなないた。ただでさえ、腹の中で熱い塊がぐるぐると渦巻いているかのような激しい痛みに苛まれているというのに、そこをさらに圧迫され、一瞬目の前が真っ白になる。
 喉の奥から込み上げる吐き気に、僚は小さくえづいた。

「僚」

 呼びかける声と同時に男の手を掴み、辛うじてわかるほど微かに首を振る。
 身体はとっくに、限界を迎えていた。
 それでも拒むのは、あの瞬間を…排泄を、迎えたくないからだ。こんな状態で、それが無理なのはわかっている。だが、排泄の間中ずっと注がれる男の眼差しを思い浮かべると、背筋が凍りつくような、えもいわれぬ感覚に見舞われる。
 恐怖と、目も眩む快感が入り混じった、ひどく恥ずかしい気持ちにさせる感覚。
 それだけではない…僚はかたく目を閉じた。額に脂汗が浮かぶ。激しい拒絶と、早く楽になりたい気持ちが交互に襲い掛かる。
 浅い呼吸を繰り返す僚に向かって、神取は言った。

「ここでしたいというなら、私は構わないよ」

 その言葉で、遠退きかけた意識が瞬時に引き戻される。

「いやだ……トイレ…行かせ…て……」

 あまりの苦しさに目に涙を浮かべ、僚は背後の男に縋った。
 息をするのもやっとだった。
 助け起こされ、そのまま抱き上げられる。
 弾みで涙が頬に零れたが、拭う気力も、それどころか涙が流れた事さえ、わかっていなかった。
 早く楽になりたい。
 どうしてこんなになるまで拒絶していたのか、自分でも忘れかけてしまうほど、切迫していた。

「いいよ」

 耳元で囁く男の声に、僚ははっと目を見開いた。いつの間にか便座に腰かけていた。理解した途端、強張っていた身体が一気に緩む。もうそこまで迫っていたものを吐き出そうと、後孔がひくひくと収縮を繰り返した。

「!…」

 喉の奥から引きつったうめきをもらし、僚は全身でそれを拒んだ。無意識に掴んでいた自分の両肩から手を離し、男に向かって突き出す。

「あっちへ……行け……」

 ほとんど力の入らない僚の手を難なく掴み取ると、神取は顔を近付けた。

「やだ…あっ……!」

 拒絶の言葉を紡ぐ唇を己のそれで塞ぎ、舌を挿し入れる。

「んん……」

 男の舌で口内を舐められた途端、恐れていた瞬間が僚に襲い掛かった。
 激しい破裂音に続いて、酷い悪臭が鼻をつく。
 いっそ消えてしまいたいほどの羞恥に、僚は半狂乱になって悲鳴を上げた。
 それでも神取は僚を放してやらず、薬液によって溶かされた便を完全に出してしまうまで、口付けを続けた。
 立て続けに上がる悲鳴はやがて啜り泣きに変わり、僚の口から弱々しく零れ落ちた。肩を震わせてしゃくり上げ。ぽろぽろと涙を溢れさせる。
 眉根を寄せ、羞恥に泣き濡れる僚の姿が神取の興奮を煽る。
 キスの合間に、見るなと訴える微かな声に気持ちは更に昂ぶり、貪るように舌を絡める。

「や…あっ……あぁ……」

 男の愛撫から逃れようと、僚は必死になってもがいた。しかし、一度緩んでしまった身体は思うように動かず、羞恥と屈辱に苛まれたまま、キスを受けるしかなかった。
 こうなるとわかっていたのに、どうして拒みきれなかったのかと、泣きながら頭の隅で虚しく繰り返す。
 押しやろうとして男に掴まれた僚の手が、いつしか縋りつく形に変わっていた。
 背中に回された手に応え、神取も抱き返した。
 舌の絡まる湿った音と、排泄の音が、二人をそれぞれに昂ぶらせた。
 ようやく全てを出し切り、弛緩してうなだれる僚の背中を優しくさすりながら、神取は片方の手を便座のスイッチに伸ばし、温水で汚れた部分を洗い流してやる。
 勢いよく噴出した微温湯が尻を打った瞬間、僚の身体がびくんと弾んだ。
 そこで静かに、神取は身体を離した。
 キスによって上げさせられた顎をぎこちなく引き、僚は目を伏せた。濡れた頬を手の甲で拭い、鼻を啜る。
 すぐ傍には男の顔。しかし目を見るのがどうしても怖くて、僚は視線を落としたままでいた。
 まだ幾分乱れた息を、口を噤んで抑え込む。
 時折肩を震わせてしゃくり上げ、所在投げに俯く僚の姿を、神取はじっと見つめていた。
 どうにも興奮が収まらない。
 いっそのこと、この段階で抱いてしまいたい。
 はやる気持ちをぐっとこらえ、神取は再びスイッチを押した。
 微温湯の噴出が止まる。
 一定の強さで刺激されていたそこは、すぐに感覚が麻痺してわからなくなっていたが、収まった途端、自分でも驚くほどの疼きが瞬く間に広がり、僚を揺さぶる。
 じんじんとした甘い疼きが、腰の奥に絡み付いてくる。僚は眉をひそめた。唇がわななく。
 そんなはずはないと追いやろうとした直後、下腹が熱く脈動し、更に僚を驚かせた。咄嗟に目を向ける。

「あ……」

 あれほど苦しい思いをしたというのに、自分のそこは萎えもせず、熱を滾らせていた。
 信じられないと、怯えた表情で目を見張る。
 神取はふっと口端を持ち上げると、再び顔を近付けた。口付けの寸前で動きを止め、僚の目を覗き込む。目を逸らそうとするのを、顎を掴んで制し、ぎこちなく揺れる瞳をじっと見つめる。

「排泄も、気持ちいいんだね」
「ちがっ……んん……!」

 打ち消そうとするより早く唇を塞ぎ、言葉を飲み込む。
 僚は心の中で、何度も違うと繰り返した。
 唇が触れる瞬間咄嗟に閉じた目を開くと、それより以前から見つめていた男の瞳がそこにあった。
 鋭くも美しい眼差しに射抜かれ、背筋がぞくりとざわめく。
 間近にある支配者の貌に、僚は瞬きも忘れて見入った。
 ただ触れるだけの接吻に、否定が薄れていく。
 素直に身を委ねて、僚は目を閉じた。
 再び浴室に連れてこられる。
 一度で終わるはずがないのはわかっていたが、もしかしたらと抱いた期待が崩れていくのを感じながら、僚はバスタオルの上に四つ這いになった。

「今度は、我慢しないで言いなさい」

 頷く事は、出来なかった。
 羞恥と屈辱、そして強烈な快感を伴う口付けは、もう二度と味わいたくない。頭は混乱し、わけがわからなくなる。激しい後悔に見舞われるのに、泣き喚く唇を塞がれるだけで、身動きが取れなくなる。心も身体も持っていかれて、感覚だけに支配されてしまうのだ。

 二度と味わいたくないのに……

 それを許さない状況に、男は巧みに誘導する。
 結局は、お願いするしかなかった。
 二度目も同じく、排泄の間中激しい口付けを受け続けた。拒んでも聞き入れてもらえず、顎を鷲掴みにされ唇を塞がれる。舌を強く吸われた瞬間、腰の奥から甘い疼きが生じ、勃起の状態を続ける熱茎にまで響いた。
 気が付けば、まるで粗相をしたかのように下腹を濡らしていた。

「やっぱり、気持ちいいんじゃないか」

 くすくすと笑いながら、男が耳元で囁く。
 耳まで真っ赤に染め、僚は深く俯いた。
 理由はよくわかっている。
 お前のせいだと言いたいのをぐっとこらえ、口を引き結ぶ。
 そうだ。男が見ているから、感じてしまうのだ。
 かつてあんなに嫌っていた行為でさえ、快感にすりかえてしまう男が見ているから、抑えが利かないのだ。

「……違う」

 僚は濡れた頬を拭い、首を振った。

「素直じゃないね」

 神取は楽しそうに笑うと、半ば足の萎えた僚を抱き上げて浴室に向かった。
 バスタオルの上にそっと寝かせ、優しく言い放つ。

「さあ、もう一度四つ這いになって」

 その言葉に、僚はまさかと眉をひそめた。だが、当然とばかりに微笑む男に何も言えず、諦めて言われた通りの姿勢を取る。
 高く上げられた尻の奥で、立て続けに排泄を強制されたせいでぷっくりと盛り上がった僚の後孔がひくひくと蠢いている。視線を少し下方にずらすと、硬く張り詰めた熱塊がわなないているのが見えた。
 神取は手を伸ばし、新たな雫を溢れさせて濡れる僚の前方に触れた。

「はっ…あ……」

 びくんと、僚は反射的に身体を弾ませた。
 神取はすぐに手を離し、僚の顔を覗き込んだ。一瞬の接触が物足りないのか、困ったように眉根を寄せ、濡れた睫毛を震わせている。見れば、ほんのわずか腰も揺れていた。
 思わず笑みが零れる。もっと触れたい衝動を辛うじて飲み込むと、神取は手にした器具で薬液を吸い上げ、物欲しそうにひくつく僚の後孔に静かに挿し込み、ゆっくりと押し入れた。
 三度目ともなると、あらかじめあたためておいた薬液もすっかり冷えてしまい、それまでは違和感のなかった注入に、僚は不快の声を上げて身じろいだ。

「動くと危険だ」

 背後からの警告に、喉の奥で応える。だが、少しずつ注ぎ込まれる冷たい薬液の感触はひどく不快で、どうしてもじっとしていられなかった。
 何度か注意を繰り返してようやく注入が終わる。
 五分弱して個室に運ばれた僚は、この時も男を拒絶してもがいたが結局はねじ伏せられ、弱々しくすすり泣きながら口付けに応えた。

「も…いやだ……」

 かすれた声を上げて拒みながらも、僚の下腹は全く別の感覚を貪ってひくひくとわなないていた。
 目の端でそれを見て取り、男は密かに笑みを浮かべた。
 もう涙を拭う気力もないのか、排泄が終わっても僚はうなだれたまま啜り泣いていた。

「そんなに泣いては、いい男が台無しだ」

 顎に添えられた手に従い、僚は素直に顔を上げた。
 これほどの苦痛と屈辱と羞恥を与える男の顔…支配者の貌に、僚は瞬きも忘れて見入った。

「もう、嫌かい?」

 ためらいがちに、小さく頷く。

「なら、次で最後にしよう」

 僚はおどおどと首を振った。
 聞こえない振りを決め込んで笑みを浮かべる男に、もう一度、嫌だと首を振る。
 それでも神取は聞き入れず、抵抗する身体をたやすく抱え上げ浴室に運んだ。バスタオルの上に座らせ、両腕を掴んで同じ姿勢を取るよう言い付ける。

「いやだ…お願い……」

 膝立ちになってもがき、僚は懇願した。不意に男の右手が下腹に伸ばされる。何をされるのか瞬時に察し、寸前でそれを拒む。しかし、度重なる浣腸で疲弊した身体は言う事を聞かず、男の手が触れるのを簡単に許してしまった。
 尻の奥に滑り込んだ男の手が、中心で息づく小さな口にたどりつく。

「う……」

 押し殺したうめきをもらし、僚はびくんと身体を弾ませた。三度強制された排泄にそこはすっかり緩み、はっきりわかるほど盛り上がって熱を帯びていた。
 神取は試しに中指を埋め込んだ。

「あっ……」

 驚くほど敏感になった箇所への刺激に、恥ずかしいほど高い声を上げる。

「痛いか?」

 耳元で尋ねると、僚は顔を赤らめて小さく首を振った。答えに安心した男は指を根元まで埋め込み、内壁を強く抉った。

「あぁっ……!」

 途端に僚の口から、少し高めの悲鳴が上がった。苦痛を訴えるものではなく、明らかに悦んでいるそれだった。
 神取はふっと頬を緩めると、指を増やし、奔放に蠢かせて更に鳴かせた。

「ふぅ…んん……ん……あっ…あ……」

 望んだ以上の反応を見せる僚に笑みを深め、何度も指で突き上げる。

「く…あぁっ……は……!」

 鼻にかかった甘い声を続けざまにもらし、僚は激しく身悶えた。
 見ると、内側からの愛撫に触発された下腹のそれが、おびただしい量の雫を溢れさせながらびくびくと震えを放っていた。
 満足そうに胸を喘がせ、更に指を増やす。
 適度に熟れた僚の後孔は三本の指を難なく飲み込み、嬉しそうに何度も締め付けた。

「や、だっ…あぁ……あ……」

 予想もしなかった自身の反応に怯えた声を上げ、僚は激しく首を振った。

「……嫌かい?」

 内部で最も敏感な部分を擦りながら、神取は問い掛けた。

「ん…んん――!」

 一際大きく身体を震わせ、僚は仰け反った。倒れてしまわぬようにと抱き寄せ、神取は執拗に同じ箇所を責め続けた。

「こんなにここで感じているのに、嫌なのかい?」

 耳朶に吐息を吹きかけながら、くすくすと笑う。

「僚…次で最後にするから、うんと言ってごらん」

 わざと卑猥な音をさせて内部をかき回し、神取は優しく言った。

「もうあれは入れないから。お湯で中を綺麗にして、それで終わりにするから、うんと言ってごらん」

 内部に埋め込んだ三本の指をそれぞれに蠢かせ、親指でふっくらと張り詰めた睾丸を刺激する。
 特に、根元を狙ってぐりぐりと押してやると、余程たまらないのか、僚は官能的な表情でしとどに喘ぎをもらした。
 答える余裕も、何を答えるべきなのかも、遠く霞んでしまっているようだ。
 神取は構わず指を動かし続けた。
 わずかに眉を寄せ、震える唇から紡がれる僚の嬌声に、腰の奥が熱く滾る。
 今にもとろけてしまいそうだ。
 笑みを浮かべ、神取は胸を喘がせた。
 僚もまた、溢れんばかりの快楽に溺れて、今にも絶頂を迎えようとしていた。過敏になった内部をあますことなく刺激する指に合わせて、自ら腰をくねらせる。何度も締め付け、愛撫し、あられもない声を上げて鳴いた。
 そこまで追い詰めておきながら、後一撃というところで神取は呆気なく指を抜き去った。

「!…」

 びくんと身体を弾ませ、僚は声にならない声を上げた。唐突に取り上げられた刺激の余韻に縋り付いて、もぞもぞと内股をすり合わせる。そして、快感に滲んだ涙を浮かべた目で、ぎこちなく男を見上げる。
 僚の視線を受け止めるまでになんとか自分を取り繕い、神取は口端に笑みを浮かべて見つめ返した。

「どうした。そんなに、物欲しそうな目をして」
「っ……」

 僚は慌てて目を逸らした。自分でもそうだとわかっている。だが、男に指摘されるのはたまらなく恥ずかしかった。

「いきたいのかい?」

 強引に顔を向けさせ、神取は問い詰めた。

「ん……」

 顎を掴まれ、恥じ入りながらも頷く。

「なんでも…するから……」

 唇をわななかせながら、僚は言った。

「なんでも? 本当に君は、いやらしい子だね」

 くすくすと笑う声に、全身がかっと熱くなる。
 羞恥なのか、屈辱なのか。
 それとも。

「……」

 俯く。

「いく為なら、なんでもするなんて……」
「……」

 くっとうめいて、僚は唇を噛んだ。

「本当に、なんでもするんだね?」
「……する…から……」

 頷く。限界だ。

「じゃあ……」
 耳元で囁く。

 お湯を入れた後、君の中で一回イきたい――

 驚きに目を見張る。

「うんと言うまで、君はこのままだ」

 両手を掴んで動きを封じる。
 絶頂の寸前までのぼりつめた身体では、我慢出来る筈もなかった。
 僚は途方に暮れた表情で何度も目を瞬き、ついに、縋る眼差しで男を見た。
 視線が向けられるのを待っていた神取は、目が合うと同時に耳元に顔を寄せ、切り札を口にした。

 チケットが、欲しいだろう?

 耳孔にかかる吐息にぶるぶるとわななきながら、僚は小さく頷いた。

「……いい子だ」

 言って、笑みを浮かべた唇で優しく口付ける。

 

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