Dominance&Submission

ひと口足りない

 

 

 

 

 

 昨日もして、今朝もして、また今もする。
 昨日なんて情けない醜態さらして、泣くほどの痛みとわけがわからなくなるほどの快感を与えられて、だというのに寝起きから盛って、腹一杯になるまでもらったのに、今また――。
 毎度腹がはち切れそうになるまでご馳走をもらうのに、すぐ腹が減ってしまう自分はどこかおかしいんだろう。
 でも、男の傍にいるとどうしてかそうなってしまう。
 頭の中がそれ一色で染まって、欲せずにはいられない。
 寝室まで抱いて運ばれ、丁寧にベッドに寝かされた僚は、繰り返し受ける軽いキスにじんわり潤む目を何度も瞬かせ、間近にある男の顔を見つめ続けた。
 どんな深くても受け入れられるよう口を開くが、男は軽く舌を絡めるだけにとどめた。
 我慢が足りない。
 抱きたくてたまらなくなる。
 そう言っていたから、キスをするにも荒々しく貪ってくるものと予測したのだが、男はただただ穏やかに唇を吸うばかりだった。
 ゆったりとした、まるで眠りに誘うような優しい愛撫。
 そうじゃなくて、食い千切るくらい噛み付いて、吸い付いて、貪ってくれていいのに。
 僚は微かに震えながら施される愛撫に揺蕩い、一枚ずつはぎ取られていく服を見送った。
 肩が、腕が、腹が、脚が次第に露わになっていく。
 服の下にあった肌が現れる度、男は顔をずらして接吻して回った。

「ん、あぁ……」

 手のひらでゆっくり肌を撫で、さすりながらキスをする。
 それで足りるのだろうかと、僚の方が物足りない気分になる。
 もちろん、気持ち良い。とてもとても気持ち良くて、今にも瞼が閉じそうになる。
 それほど優しい愛撫だった。
 どういうつもりなのだろうと、僚は仰向けの身体でとろんと目を伏せ思う。
 気付いたのは、男の手のひらが太腿の外側を滑った時だった。
 決して性を煽るような触り方ではないのに、ひどく感じてしまったのだ。
 そして気付いてからは、どんどん、強い刺激が欲しくてたまらなくなっていった。
 身体中を撫でさすり、ついばむようなキスをあちこちに施して、そうされるごとに僚は腰の奥にじわじわと何かが溜まっていくのを感じた。

「ん……」

 わずかに首を振って身じろぐ。そんな些細な動きの、ほんの少し布が擦れる刺激さえ、大きく悶えて唸りたくなるほどだった。

「あっ……!」

 耳朶をきゅっと指で摘ままれ、なんて事はない接触なのにひどく感じてしまい、高い声を上げる。そんな自分が恥ずかしく、僚はもじもじと身じろいだ。
 微かに内股が引き攣った。
 見なくても、触って確認しなくてもわかる。これまでの愛撫で、中心が硬く勃起してしまったのだ。
 きっと、腹につきそうなくらいになっているだろう。
 恥ずかしい。
 ああ、ずきずきする。
 頭が、下腹が、ずきんずきんと痛い程脈打っている。
 背中も腰も脇腹も尻も触っているのに男の手は、まだ一度もそこには触れていない。内股の際どいところまでは進むが、足の付け根の皮膚が薄いところを指先でさするだけで、中心には触れない。

「んんっ……」

 そう思ったら、触って欲しくてたまらなくなった。僚は喉の奥で呻き、わずかに腰を浮かせた。

「足りないだろうね」
「!…」

 笑い混じりの小声に、僚はぎくりと眦を強張らせた。
 潤む目を何度も瞬きながら男を見やる。
 目が合った瞬間、僚は反射的に頷いた。
 神取は唇を滑らせていた脇腹から顔を離し、僚の顔の横に手をついてまっすぐ見下ろした。

「身体のそこかしこ、触って欲しくて腫れているよ」
「……うるさい」

 僚は一気に熱くなった顔を両手で隠し、ぶつけるように言った。言われなくたってわかっている。

「どうしてほしい?」

 僚は焦れた様子で手を口元に持っていき、投げるようにシーツに置いた。一度、二度口を開いては閉じ、ようやく言った。

「……もっと」
「もっと、なに? ……優しくしてほしい?」
「あぁっ――!」

 これまでより更に、かすめるような指先で身体を撫でられ、僚は悲鳴じみた声を上げながら首を振りたくった。
 いやだ、いや。
 もっと強く、激しくしてほしい。

「たかひさの、好きにしていい……おねがい……」
「わかった」

 男が美しい顔で微笑むのを見て、僚は息をつめた。

 

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