Dominance&Submission

試食会

 

 

 

 

 

 寝室のベッドに優しく寝かされ、いつもながら男の丁寧な扱いに、僚は頭の後ろがぼうっと熱くなるのを感じていた。身体に窮屈なところはないかと配る眼差しがこちらを向くのを待って、腕を伸ばす。
 ゆっくり覆いかぶさってくる男を抱き寄せ、僚は唇を重ねた。ああ、このまま溺れてしまいたいほど気持ちがいい。なんて居心地がいいのだろう。
 僚は気の向くまま、興奮に任せて男の唇に自分の唇を押し付け、頬をすり寄せて愛撫した。背中をさすり、後ろ髪をまさぐり、もっともっとと熱を欲する。
 昂ぶりの赴くまま、僚は体勢を入れ替えて男を組み敷き、更に深く唇を貪った。そうしながら腰を押し付け、布の向こうにある互いの熱を確かめる。すでにお互いはっきり形をもっていた。そいつを、ぐりぐりと擦り付ける。

「っ……」

 キスで乱れていた息が、更に不規則になる。僚は一杯に吸い込みながらキスを続け、身動ぎを続け、男を味わう事に熱中した。男の襟元に手を寄せる。一つずつボタンを外しながら、徐々に露わになっていく肌のあちこちに唇を押し付ける。吸い込む男の匂いにうっとりと脳天がとろけるようで、僚は心地良さに震えながらよく鍛えられた男の身体を愉しんだ。
 そして、いつも苛められているお返しにと、そっと乳首に舌を這わせる。抱きしめる腕にこれといった反応はなかったが、確かに息遣いが違った。本当にかすかな違いだが、間違いなく耳にした。何より、舐めるにつれて硬く凝っていくのがわかって、感じているのがわかって、嬉しさにまた震えが走った。
 唾液に濡れた小さなそれを、そっと指先に摘まむ。押し付け、くっつけたままの下腹がびくりと反応した。

「っ――」

 だのに声が出たのは自分の方だった。寸でのところで飲み込み喉から先に行かなかったのは幸いだが、まるで自分がされたかのように反応してしまったのが恥ずかしくて、僚はしばし硬直した。
 それまで、ひっきりなしに肌をくすぐっていた呼吸まで止めて身を固くした僚に、神取は込み上げる笑いを止められなかった。
 たちまち歯を立てられる。鋭敏になった急所への不意の痛みはさすがに効くと、神取は口を噤んだ。しかし表情まで抑え込むのは難しく、上目遣いに睨んでくる顔の可愛さも相まって、愛でずにはいられなかった。
 僚は睨んだまま歯噛みした。男が何に気付き、何に笑っているのか、手に取るようにわかる。向こうがわかるように自分もわかる。それほど知れた仲だ。熱くなった顔をどうにか鎮めようと躍起になっていると、男の手が胸に伸び、親指で乳首をさすられた。ひゅっと声にならない声がもれる。

「はっ……だめ」

 駄目と言いつつ、僚は抵抗らしい抵抗をしない。時折身をよじるのは逃げる為ではなく、強い快感に痺れての事だ。
 神取は嬉しげに頬を緩ませた。布越しに摘まむように手指を動かし、覆いかぶさった少年がびくびくと身じろぐ様を思うまま愉しむ。

「だめだっ……そこ」

 僚は小さく首を振った。乳首を弄られる事で後ろまで疼いてしまう。
 しようもない切なさに苛まれ、僚は身をくねらせた。
 神取はそれからしばらく、熱い吐息をもらして身悶える様を堪能した。彼に愛されるのもいいが、こうして彼を愉しむのはもっといい。
 僚は薄く目を閉じて、睫毛を震わせ、唇を震わせ、乳首から流し込まれる快感に陶酔していた。
 いつまでも見ていたいほど可愛らしい。
 喘ぎながらひっきりなしに硬いものを擦り付け、素直に追い求める様は愉快でならない。
 起き上がって抱きしめ、口付ける。
 さっきよりもずっと熱い口中に、舌を差し入れ、ゆっくりと絡ませる。僚も応えて舌を舐ってきた。舌と吐息とが絡み合う。
 いつまでもこうして味わっていたいのを飲み込み、神取は顔を離した。
 僚はとろんと潤んだ目で男を見つめ、それからはっとしたように眼を眇めた。そこには悔しさがありありと滲んでいた。
 背筋にぞくぞくと響く。

「いい顔だね。私の好きな顔だ」
「……うるさい」

 僚は唇の先で零し、男の下腹を探った。澄ました顔をしているのがなんとも腹立たしい。余裕ぶった顔をして。そっちだって、もうこんなに硬くしているじゃないかと目をぶつける。

「おいで」
「……え」

 手を引かれ、僚は困惑しつつベッドから降りた。

「このままだと、後ろが寂しくてならないだろう。好きなのを選ばせてあげよう」

 クローゼットの例の棚まで連れて行き、神取は中身を示した。
 どれもこれも見知った形に僚は息をつめた。たちまちかっと頬が熱くなる。
 怒りのせいか、興奮か、判別がつかない。

「……いらない」
「我慢はよくない。さあ、どれで楽しみたい?」
「っ……」

 僚はゆっくりと息を吐いた。

 

 

 

 男の親指が、ぐいと尻肉を押し開く。

「っ……」

 露わになったそこに注がれる視線を感じて、僚は息をつめた。
 四つん這いになってベッドに押し付けていた頭を動かし、自分の股越しに背後の男を見やる。自分の向こうに座った足と、手と、今にも入れようと構えられた性具が垣間見えた。
 また息を飲む。
 選んだのは、七つの球体が連なった性具だった。
 無言でそれを指差した時、男は特にからかいの言葉を口にしなかったが、楽しそうに嗤う顔だけで僚には充分すぎるほどだった。
 たっぷりのローションにまみれたそれがついに、後孔に押し付けられる。

「……あっ」

 徐々に体内に入ってくる異物は始めそれほど圧迫感は無かったが、一粒ずつ大きさを増す球体が全部収まる頃になると、押し出されるように声がもれ出た。
 苦しかったからではない。
 最後の一粒が埋まっても、少しぞっとするくらいで、我慢出来ないほどではないのだが、中に入れられるとどうしても反射で締め付けてしまうのだ。そうしたくなってしまう。
 そうせずにいられない、
 自分から孔を狭めて、咥え込んだ異物を食い締める。
 そして感じてしまう。
 そんな浅ましい己の反応に、声が出てしまったのだ。
 握っていた手を更に握りしめる。

「さあ、これで寂しくないね」

 声に頭を跳ね上げ、僚は身体を起こした。一つ動く度に、奥に潜り込んだものがゆっくりうねり、緩慢に内襞を擦った。動けなくなるほど強烈なものではいが、どうしてもぎこちなくなってしまう。
 見る前からわかっている男の顔を、振り返って確かめる。案の定、それはそれは嬉しそうに自分を見つめていた。僚は力の入らぬ眼で精一杯睨み付けた。
 舌に噛み付いてやろうか。
 それとも下に歯型を残してやろうか。
 いずれもしないが、本当に思ってないからこその仕返しに瞳を揺らめかせ、僚は身体を寄せた。
 ふっと鼻先に、男の匂いが届く。
 噛み付くのも歯型もたちまち吹き飛び、僚は男の下腹に顔を埋めた。服の中から暴き出し、とうに硬くなっているそれを手中に収めると、頭の後ろに何か熱いものが染み出すのが感じられた。
 頭蓋骨のどこか隙間を走って頭全体に広がり、首から手足の先まで熱で充たされる。
 僚は潤んだ目で男を見つめながら、硬く張り詰めたそれをゆっくり扱いた。どこを触るとどんな風に変化するのかじっくり目に焼き付けたいからだ。今度は自分が食べる番。一時も一滴も漏らさず食べ尽くしてやる。
 そう思って始めたが、扱く内じわりと滲み出た先走りを欲して先端に口付けた途端頭から消え去って、あるのはただただ味わう事だけだった。
 口の中一杯に喉まで男のものを飲み込み吸い上げる。無理やり詰め込んで当然苦しさに咳が出そうになるが、どうしてか背筋がぞくぞくしてたまらなかった。自然と身体が震え、気付けば後ろに咥えた玩具を締め付けていた。

「う、くっ……むぅ……う」

 僚は窄めた唇で扱きながら舌先に力を込め、竿全体に愛撫を施した。くびれや裏側の感じるところを過ぎると、口中で男のそれがびくびくと反応する。頭上に降りかかる息遣いからも感じ取れる変化に僚は興奮を募らせた。
 開かれた男の脚に掴まり、夢中で頭を動かす。
 もっと味わいたい。
 もっと感じさせたい。
 もっと悦ばせたい。
 口の中で次第に大きくなっていく性器に夢中でしゃぶり付き、僚は余すところなく愛撫した。
 硬い。熱くて硬い。息苦しい。気持ちいい。
 涙が滲んでしようもなかった。
 口の中に男を感じれば感じるほど身体が昂ぶり、早く後ろで味わいたいと頭がそれで一杯になっていく。
 たまらずに僚は身動ぎ、後ろにはまり込んだ玩具に縋った。
 たちまちぞっとするような快感が背筋を駆け抜け、男のものを咥えたままぶるぶると身震いを放つ。
 くらくらと目眩がして、いっとき口がおろそかになる。
 ああ、いやだ、と僚は思った。
 駄目だと思うのに、 どうしても、自ら締め付けてしまう。それも何度も。物足りなさに切なくなるから、もう二度とすまいと思うのに、中にある事を主張する異物を締め付けずにはいられない。
 どんどんとやるせなさが募っていく。
 男のそれから口を外し、僚は震えながら舌を這わせた。
 男の良いところはよく知っている。どこをどうすれば喜ぶか口の中だけでなく身体全体に染み渡っている。だからそれをなぞればいいだけなのだが、自分の方が参ってしまって身が入らない。
 悦ばせられない。
 むきになって咥え、口の周りも顎もよだれでべとべとにしながら怒漲を頬張る。けれどそうすればするほど身体の奥に欲しくなって、どうして玩具で我慢しているのだろうと、朦朧としてしまう。
 知らず知らず僚は腰を振りたて、疑似的な繋がりを求めてのたうった。
 口淫もそこそこに淫らな一人遊びを始めた僚に、神取は息も止まるほど昂ぶりを覚え、ただ目を奪われた。
 彼の技巧はいつもながら的確で鋭く、しかし今日は玩具に阻まれているせいで鈍い。それがまたたまらなく快い。交互にやってくる快感とじれったさとが、彼の意図を外れて心を躍らせる。
 おざなりに手で擦りながら、半分以上は自分の快楽に溺れている僚を眺めしばし愉しんだ後、神取は口を開いた。

「出来ないなら無理をしなくていい」

 当然ながら僚はびくりと我に返り、弾かれたように見上げてきた。
 そして言うのだ。

「いやだ、出来るから…ちゃんと、飲むから」
 飲ませて

 うっすら涙を溜めた上目遣いが、心を鋭くかきむしる。痛みと興奮とに背筋がぞくぞくと疼くのを、神取は止められなかった。

「……そうだった、君が味わう番だったね。じゃあ、飲んでもらおうか」

 神取は両手で頭を押さえ込むと、充分深く咥えられた自身を更に奥へと突き込んだ。

「……ぅぐっ」

 容赦なく喉を突いてくる怒漲に僚はくぐもった呻きをもらし、ぐっと男の肌に指を食い込ませた。しかしそれ以上抵抗はしない。驚きに一瞬目を見開き、すぐに、自らも喉を開いて受け入れる。

「ああ……いい子だ。よく味わいなさい」

 神取はうっとりした声音で零し、大きく腰を動かした。先端で何度も僚の喉を突き、出し入れをして、また喉奥まで進めて静止する。

「おぶっ……おぇ」

 口の中一杯に満ちた男の熱塊に息が絞られる。それでも僚は最低限の呻きで抑え、こらえた。目尻から涙が垂れ落ちる。何度も込み上げる吐き気を必死に飲み込み、十を数えてもまだ退かない苦しさに耐える。二十を超えたが、男はまだ静止したままだった。
 あと、十は耐えられる。また零れた涙を瞬きで追いやり、僚は目を上げた。
 支配者の貌にはうっとりと笑みが滲み、とても嬉しそうに自分を見ていた。
 男が喜んでいる。
 玩具のように自分を扱い、好きなように振る舞う男に、ぞっとするほどの快感が込み上げる。
 息苦しさに朦朧とする中、僚もまた恍惚の笑みを浮かべた。
 男を食べるのって嗚呼気持ちいい。
 不意に口中でびくびくと熱塊が脈動し、出るのだと覚った直後、押し付けられたままで白濁がまき散らされた。
 目の前でちかちかと白が閃くのを見ながら、僚は呆然としたまま浴びせられた欲望を飲み下した。

「……ああ、僚は本当にいい子だね」

 出し切って萎えた性器を引きずり出し、神取はそっと頭を撫でた。
 ようやく解放された喉で必死に息を継ぎながら、僚は嬉しげに目を細めた。
 気付くと、男の出したもので濡れた唇を指先で弄って遊んでいた。
 そこに男の手が重なる。ぬるぬると擦り付けて遊ぶ男の指に、僚はぶるりと身震いを放った。

 

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