Dominance&Submission

早く来い来い

 

 

 

 

 

 男の唇が身体のあちこちを移動する。感じる箇所、そうでない箇所をまんべんなくたどっていく。その後に手のひらが続き、そこかしこで快感が弾けた。

「あ、あぁ……あ」

 ついばむようなキスとあやす手のひらに、僚は片足ずつ曲げては伸ばして身悶えた。回した腕で男の背中をまさぐり、何度も喘ぐ。

「んっ…くぅ」

 自分ばかりが息を乱している――不意に癪に障った僚は、抱きしめていた腕をずらし男の下腹へ持っていった。
 襟元のボタンを一つ二つ緩めたくらいの格好でいつまでも澄ましているな、どれだけこちらに興奮しているかもう知っているのだ…今すぐ暴いてやると、逆手に男のものを探り当てる。

「っ……」

 思った以上に硬く膨れ上がった欲望を手にして、わかっていたのに僚は息をつめた。同時に、男が息を飲む音がした。聞こえた気がした。下腹から顔へ目を移すと、何とも言い表しがたい、うっとりしているような挑むような目付きで、男は笑っていた。

「あ……」

 僚は手の中にあるそれを、慈しむように大切に扱った。弄るほどに身体が、特に後ろの一点が疼いてたまらず、これで一杯に満たしてほしいと欲望が膨れ上がる。
 男が動く。わずかに腰を揺すり、手のひらにこすりつけてきた。僚は合わせて指を動かし、目をじっと見つめたまま快感を送った。早く入れてほしい。早く。
 まっすぐぶつかってくるぎらぎらと激しい眼差しにふと笑い、神取もまた僚の下腹を手の中に包み込んだ。途端にぴくりと僚の目が反応する。

「ね……もう入れて」
 今すぐ

 ため息ほどの声で訴えてくる僚の身体を、うつ伏せに誘導する。
 僚は抗いつつも従い、首を曲げて男を見やった。もう一度、入れて、と喉を震わす。

「何が欲しい?」

 神取は背中に覆いかぶさり、頬へ口付けながら聞き返した。
 僚はいっとき目を見合わせてから、右手を男の股間へ伸ばした。うつ伏せのまま、しっかりはまったベルトを外し、ボタンを緩める。正面から行うより難しい、片手ではなお難しい作業を躍起になってこなし、ようやく手の入るようになった下着の奥へ、求めて伸ばす。

「っ……」

 熱い滾りに指先が届く。窮屈そうに収まっている男のそれを外へ引きずりだし、僚は唇を震わせた。
 これ、ともれた熱い吐息に、神取は背筋がぞくりと疼くのを感じた。
 僚は捕らえたそれを、ゆっくり上下に扱いた。
 男はしばし愉しんだ後、また訊いた。

「どこに欲しい?」

 僚は掴んだまま、自分の身体をそちらへずらしていった。

「ここ……おねがい、ここに」

 男のものを支えたまま、自分で後ろにあてがう。飛び上がりそうに熱く、思わずああとため息がもれる。
 神取は竿で表面を擦りながら再度聞いた。

「ここに入れてほしい?」
「あぁ……あっ」

 中に感じるのとはまた違った奇妙な刺激に、僚は開いた唇をわなわなと震わせた。息を飲み込み、何度も頷く。

「はやく……たかひさ」

 縋り付く息遣いにいやらしく笑い、神取はじわじわと先端を埋めていった。

「くっ……うぅ」

 硬く張り切ったもので徐々に拡げられ、腰の抜けそうな鈍痛に僚は押し殺した呻きをもらした。
 昨日もその前も男に散々に抱かれたが、この瞬間だけは手足の先まで痺れるような感触に見舞われる。
 僚は半ば無意識に首を振った。打ち消す為だ。
 底の方を這う重苦しさに見舞われるが、つらくはない、嫌じゃない、否定しての事だ。

「ああ……ああぁっ」

 大きく開けた口で息を整え、後ろに男を飲み込む。
 ずぶずぶと割り込んでくる熱塊に震え、のたうち、ようやく僚は全てを受け入れた。ぺったりと押し付けられた男の腰に、ああ、と安堵する。
 神取もまた小さく喘いでいた。この数日続けて抱いたからか後孔のきつさはそれほど感じないものの、内襞のうねりはいつにもまして強烈で、絶妙な熱さと力加減で絞り込んで腰をとろけさせた。
 包み込まれる快感にともすれば持っていかれそうになる。
 今にも出してしまいそうだ。
 それほど、彼の中は格別だった。
 なりふり構わず動いて末に吐き出してしまいたいのをぐっと堪え、神取はゆっくり腰をうねらせた。

「あぁ……奥まで」

 僚はうっとりとした声音で呟いた。そこではっとなり、自分の下腹を見やる。何か漏らしたような感触があったのだ。
 見ると、今にも破裂しそうに勃起している自身があった。先端からはだらしなく涎を垂らし、後ろに受け入れた男を悦んでわなないていた。
 一杯まで拡げられ、腰が砕けそうであったが、たまらなく心地良かった。このまま、ひと息に出してしまいたい。
 深いため息に交えてもらす。

「奥、あぁ……気持ちいい」
「いいかい?」
「うん……うん」
 奥まで、いっぱい

 そっと流し込まれる低音にがくがくと頷き、僚は欲望の赴くまま手を伸ばした。
 触れる寸前、神取はそれを取り上げた。

「駄目だよ、まだ、もっと楽しもう」
「そんな……やだぁ」

 手を掴まれ、僚は緩慢に身悶えた。
 嫌だと言いながら本気で抵抗しないのは、本当はこうして拘束され不自由な中で快感に溺れるのが好きだからだ。
 巧みに仮面を使い分け場を操る僚の才能に、神取は嬉しがりまた興奮した。

「私の許可なく、触ってはいけない」
「そんな……」

 言葉に反応して、僚のそこがきゅうっと収縮する。神取はいやらしく微笑み、言葉を重ねた。

「もし勝手に触ったら、お尻を叩いてお仕置きするよ」
「いやだ……いや」

 ふっと緩んではまた締まる後孔が、自身を刺激する。神取は欲望の赴くまま腰を前後させた。

「あぁ……やだぁ」

 僚は大きく首を打ち振った。それでも言われた通り手は前に置いたまま、後ろから流し込まれるすさまじい快感にのたうつ。

「ああ……いい締め付けだ。君の身体は本当にたまらない」

 神取は腰を動かしながら背中に覆いかぶさり、堪える僚の耳元でそう囁いた。

「あ、あぁ……俺も……たまんない、鷹久……くうぅ」

 甘える声でそんな事を言われてはたまらない。
 神取は両手でしっかり腰を掴むと、叩き付けるように腰を前後させた。

「ああっ……はげしい、奥、奥に……ああぅ」
「もっと奥に欲しい?」
「うん、うんっ…ついて、もっとして」
「あげるよ、いっぱい」
「あぁ――ああぁ、あぅ、くうぅ」

 突き込まれる度に熱塊が揺れ、ひたひたと肌を打つ。後ろから絶え間なく送り込まれるすさまじい快感と、瞬間的な快感とが、僚をより狂わせる。
 涎を垂らさんばかりによがり、仰け反っては背をたわませ、僚は強烈な愉悦に酔った。ごりごりと内襞を抉ってくる男の怒漲に何度も声を放ち、動きに合わせて自らも腰を押し付ける。

「ああすごい……いくぅ、もう……!」

 激しい突き込みに陶酔し、僚は緩んだ声で仰け反った。
 そこで神取は不意に動きを緩め、ゆっくりとした動きに変えた。当然ながら、僚の口から不満が零れる。

「あ……やだぁ……」

 濡れた、甘える声に神取はほくそ笑み、僚の呼吸が荒いそれから落ち着いたものに変わるまで、単調な前後だけを繰り返した。

「あっ!」

 神取は笑いながら乳首をそっと摘まんだ。たちまち後孔がきゅうっと締め付けてくる。力が抜けたような、弱々しい喘ぎもたまらない。

「あっ、……いやぁ……」

 僚は緩慢に首を振りたて、後孔と乳首からもたらされる微弱な快感に震えた。
 神取はしばらく捏ねるように腰を動かし、やがて止めた。乳首を弄る手だけは残し、じわじわと僚をなぶる。

「なんで……あぁ」

 動いてほしいのに、なんでこんな意地悪を。
 僚は焦れて腰を動かすが、その分男が退くので、思ったように快感が得られなかった。それもまた、僚を泣かせた。
 眼下で淫らにくねる肢体を見つめ、男は満足げに微笑む。
 忙しなかった息遣いはやがて深いため息へと変わり、不満を抱えて唸るようなものへと移った。
 僚は何とか快感を得ようと身動ぎ、孔を締め付け、持てる技巧を尽くして男を貪った。しかしまるで足りず、今にも抜けそうに腰を引いた男にああと眉根を寄せる。
 神取はぎりぎりまで自身を引き抜くと、そこから一気に僚を貫いた。

「ぐぅっ」

 思ってもいなかった一撃に僚は拉げた悲鳴を上げ、きつく背を反らせた。頭の芯にがーんと響く愉悦に一瞬息が止まる。男の責めはそれで終わりではなく、抉るようにして激しく腰を使われ、鎮まりかけていた熱が一気にぶり返した、瞬く間に絶頂まで押し上げられついていけずに、くらくらと目眩に見舞われる。
 僚は陶然として笑みを浮かべ、目前に迫った解放の瞬間に手を伸ばした。
 しかし今度も、あと一歩のところで男は動きを緩めた。

「いや……いきたい」

 背後の男へ、僚はぐすぐすと濡れた声をもらした。

「もうだめ…やだ、がまんできない……」
「駄目じゃない……君はこういうのも、好きだろう?」
「そ…ちがう、好きじゃ……」
「好きじゃない?」
「うぅ……」

 耳元で男が意地悪く笑う。僚は振り払うように首を振り、ぎゅっと両手を握り締めた。ゆっくりとした抜き差し、気まぐれに乳首を摘まむ手、どれもこれも物足りない。
 もっと、息が止まるほど激しく抉ってほしい。痛いくらいつねってもいい。

「いきたい……いかせて」
「もっと楽しもう、僚」
「あぁ……たかひさ」

 自分だって同じだ、ずっとこうして男に抱かれていたい。でもこんなの、つらすぎる。
 自分で扱いて、熱を解放したい。後ろから与えられる愉悦もたまらないが、思い切り吐き出したい。とうとう堪えきれなくなった僚は、言い付けも忘れて下腹に手を伸ばした。
 それを待っていた神取は、素早く掴んで背中にひとまとめに握り込むと、もう一方の手を振り上げた。
 動きでそうと察した僚は、咄嗟にぎゅっと目を瞑った。

「!…うあぁっ」
「触ってはいけないと言ったろう、悪い子だ」
 悪い子にはお仕置きだよ

 尻で男の平手が弾ける。反射的に後孔を締め付け、そこに存在する男に悶絶する。

「あぅ……うう」

 びくびくっとのたうつ僚に口端で嗤い、神取は狭まった孔をこじ開けるように腰を前後させた。

「や、あっ…だめ、あぁだめっ!」

 短く叫び、じたばたともがく僚を無視して、神取は尻を平手で打ちながら腰を突き込んだ。
 泣き叫ぶ彼を痛め付ける目的でなく叩くのは、ひどく心地良かった。肉で得る快感もすさまじいが、それ以上に頭の芯が痺れ昂った。今にも手加減を忘れてしまいそうになり、かろうじて制する。
 音が派手なだけの、痛みを与えない平手で何度も打ち据える。

「ほら、よく反省しなさい」
「ああぁ……もう、も、ぶたないで……やだ、いたいぃ」

 許して、ごめんなさいと声が続く。神取はそれらを無視して、突き込みながら手を振り下ろし続けた。
 いずれも手加減しているが、これだけ重なれば痛みも湧いてくるだろう。
 時には加減を誤る事もある。
 その為に停止のワードを決めている。
 僚は出そうとしなかった。
 容赦なく打ち据えられる尻を振りたて、逃げられない中で哀れにすすり泣く自分に酔っていた。
 ただの痛みは嫌い、怖い、嫌悪の対象。でも男は違う。楽しむ為という言葉通り、見極めて手を振るう。
 だから自分は安心して、嫌悪する事なく、遊びに没頭できる。

「おねがい、あぁっ…たかひさ」
「反省したかい?」
「あぁ……ごめんなさい」
「君がもっといい子になるように、もっともっと叩いてあげよう」
「やだぁ――!」

 シーツに顔を擦り付けて涙を拭い、僚は叫んだ。
 いやというほど平手でぶたれ、更に重ねられ、ひりひりと痛んで仕方なかった。熱を帯びて腫れたように感じ、もうこれ以上はしないでほしいと思うのに、もっとぶたれたい、叩かれて惨めに泣いてしまいたい気持ちも強くあった。
 こんな風に扱われる自分にひどく酔う。
 たまらなく快いのだ。
 神取は繰り返し叩きながら僚を揺さぶった。尻を打つ度、きつく締まる、一瞬痛みが走るが、それもまた快感で、神取は叩く尻がほんのり染まるほどに平手を重ねた。

「やだ、やだもう……おかしくなるっ…あぁあ」
「どうおかしくなる?」

 神取は前へ這って逃げようとする僚をしっかり押さえ込み、小刻みに最奥を穿った。

「だめ――いく、いきます……あぁもう出る……!」

 直後、ひと際大きな叫びと共に僚は四肢を強張らせた。先端から白液が放たれる。
 強烈な絞り込みに見舞われ、神取もまた奥に熱を吐き出した。ぴったりと腰を押し付け、最奥に思いの丈を流し込む。

「ひぃ、い……」

 僚はかすれた声を上げ、奥に注がれる白液に小刻みに震えた。
 最後まで出し切って、神取は一旦身を離した。
 けれど一度だけじゃ満足できない。
 僚はそのままぐったりと手足を投げ出し、ベッドに伏してぜいぜいと全身で喘いだ。
 すっかり汗ばみ濡れた肌、尻は左右ともうっすら色付いていて、とても蠱惑的だった。少し目線をずらす。すぐには閉じきれない後孔から、とろりと白液が垂れ落ちる。散々に侵され擦られて、いくらか腫れたそこはひどく淫らで、まるで息づくようにひくひくと蠢いていた。
 それが誘っているように思え、神取はそっと指先で触れてみた。

「あぅ……」

 僚の腰がびくりと強張る。零れた声は艶を含み、男の背筋を妖しくくすぐる。
 一度だけじゃ満足できない――。
 神取は丁寧に仰向けにさせると、下腹で寝そべる僚の性器を手の中に包み、ゆっくり刺激を送った。

「いや、だめ――まだだめっ」

 達して過敏になった性器を扱かれ、僚は鋭い静止の声と共に髪を振り乱した。それでも男の手は止まらず、堪らずに抵抗するが、思うように力が入らず男の身体を押しやる事が出来ない。

「だめ……おねがい」
「だめじゃない、ほら」

 神取は笑顔で封じると、手ごたえがないのも構わず揉みしだいた。つらさに泣いて暴れる様が心をかきむしる。彼の泣き顔は本当にたまらない。中に放って満足した自身に、再び芯が通る。
 神取はもうしばらく性器を弄んで僚を泣かせ、ようやく手を離した。

「ああ、あぁ……」

 僚も抵抗を弱め、男の肩を掴んでいた手で零れた涙を拭った。

「擦っては駄目だよ」

 神取はそっと離させ、涙を吸い取る。僚はしばし恨めしそうに睨んだ後、素直に目を閉じた。
 身体からいい具合に力が抜けたのを見て取ると、神取は後ろに自身をあてがい、貫きながら僚の唇を吸った。

「んん――んむぅ」

 再び襲ってきた強烈な悦楽に、僚は身悶えよがった。
 男が収まっているのは身体のほんの一部だが、全身が男の形になってしまった錯覚に見舞われ、卑猥さに、幸福感に、僚は震えが止められなかった。
 身体が一気に絶頂へと押し上げられる。

「あぁ……ああ、すごい、たかひさぁ……」

 僚のとろけきった声は温い蜂蜜のようで、甘い幸福感を伴い男の全身を包み込んだ。神取はしっかり腕を回して抱きしめ引き起こし、膝に乗せた。

「い、あ……! ああぁ……」

 自身の重みで更なる奥まで潜り込んだ男の怒漲に、僚はだらしないよがり声をもらして仰け反った。男の腕がしっかり自分を支えているのを確かめるように、一杯に力を込める。これだけ好き勝手しても、倒れてしまわない。男の腕の中にちゃんと抱かれている。
 脳天に響く強烈な愉悦と幸福感とに、僚はぶるぶると震えながら笑みを浮かべた。
 感じるままによがり、暴れる僚を、神取も躍起になって抱きしめた。どこへも逃がすまいと、腕に力を込める。その分僚は好きに腰をくねらせ身じろいで、まるで試すように奔放に跳ねた。
 そんな僚に煽られるようにして、神取は激しく貪った。
 互いに身体をぶつけあうようにして、快感を貪る。
 接吻というよりはもはや噛み付き合いで、双方むきになって相手の唇や舌に自分のそれを押し付け、歯で挟み、吸った。
 それほどに身体の内側で快感が滾っていた。
 向かい合って抱きしめ、その格好でもう二度、男は奥に注いでいた。僚も、男の射精に煽られる形で、何度目になるかわからない絶頂に見舞われ少し薄まった精液をだらしなく垂れ流していた。そしてそれ以上に、腰の奥では大小の絶頂を迎えていた。

「あああぁ……はあぁ」

 しがみつき、男の肩にもたれて唸る。しかし僚自身、そんなだらしない声を出している自覚は無かった。
 男を迎え入れたそこだけは鮮烈で、その他は曖昧に滲んでいた。
 ぜいぜいと苦しさに喘ぎ、疲れ切っていたが、どうにか男を抱きしめ、腕に感じる幸せに浸る。
 男も同じく抱き返し、一つに溶け合った錯覚に酔い痴れていた。
 どちらからともなく好きと言葉が零れ、自分もだと返す声が続き、そんな風にやり取りのできる相手がいる事に、お互いこの上ない幸福を感じていた。

 

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