D&S56早く来い来い

　神取は腕に抱いた少年を優しくベッドに寝かせると、足先まで気を配り、それから顔に目を戻した。
　彼はそれよりずっと前から自分を見ていて、ようやく目が合うと嬉しそうに笑った。ほのかな変化だが、胸にじわりと沁み込んでくる微笑に、神取もまた微笑んだ。
　間近にしばし見つめ合い、顔を寄せる。
　神取は口付けたまま、僚の服を一枚ずつはぎ取っていった。

「ん、あっ……」

　唇が触れ合い、舌が重なり、そうする内に段々と息が上がっていく。
　僚は自分の口から零れる熱いため息を何度も飲み込み、緩慢に男を抱きしめた。背中に回していた腕を肩に戻し、首の後ろに回し、また肩を掴む。どこに触れても男の身体は熱く、手のひらに伝わってくる体温に自分もまた気分が高まっていく。
　まだいくらかまとわりついていた恥ずかしさが、男に触れ男と唇を重ねる度薄れていく。代わりにじんじんとした疼きが込み上げ、早く繋がりたくてたまらなくなった。
　どれだけ興奮してしまっているか、見なくてもわかるほどだ。さっきから内股が引き攣ってしようがない。
　これから服を脱ぐのかと、もどかしさに少し倦んだところで、すっかり全裸になっていた事に気付いた。
　羞恥よりも驚きの方が強く、そして、男ならばそれくらいたやすいと、感心もする。
　相変わらず小憎らしい奴だと、間近にある男の眼差しをしっかと捉える。どことなく得意げに見えるそれに自分の眼をぶつけ、僚は小さく笑った。
　男も同じように微笑し、腰の辺りを手のひらで撫でさすった。
　僚はそっとため息を零した。腰骨を覆うように、手のひらがすべる。ただそれだけなのに、肌全体を撫でられたようで、ひどく感じた。びりびりとした疼きが手足の先まで広がり、胸の左右の一点にも響く。

「……んっ」

　思わず声がもれる。僚は男から天井へ目を逸らし、どこもかしこも硬くしている自分の身体にごくりとつばを飲み込んだ。
　腰や腿を滑っている手が早く中心に来ないかな…ぼんやり願いながら、僚は少しまた少しと足を開いていった。
　嗚呼でも、口の中を舐められているだけでそれだけでいってしまいそうだ。
　抱き合い、互いに身体を弄りながら交わすキスにすっかり溺れて、僚はうっとりと浸った。
　神取は抱き合って舌を絡めながら、片手は僚の頭を抱き、もう一方は身体を愛撫して、全身で彼を感じていた。まだまだ足りない。熱い吐息を飲んで、ちょっとのため息を聞いただけ、とても足りない。　
　楽しむのはこれから。
　彼だって、本当に触って欲しいところに来てもらえなくてじれったくしている。触れ合った箇所からこれでもかと伝わってくる。自分だって早く触りたい。あっちもこっちも触りたい。味わいたい。楽しみたい。
　一度に出来ればいいのに叶わなくて、もどかしく思っている。
　じれったさを手のひらに込め、神取はあちこち撫でさすった。
　舌を、吸っても吸っても足りなくて、時折頬や顎に口付けてはまた戻し、瞼に鼻先に接吻して、肌を撫でて、飽きる事無く舌を吸い合う。
　どこかいいところに差し掛かると僚の息遣いが変わり、それを聞くのが愉しくて、神取はやめられずにいた。
　そしてもっと、ため息だけではなくはっきりとした声が聞きたいと思って、彼がより感じる箇所に手を伸ばす。

「！…」

　舌を絡めながら乳首を摘まむと、思った以上に反応があった。たちまち身を固くした僚に唇の端で笑い、神取は指先に挟んだ小さな突起を優しく可愛がった。

「すっかり硬くなっているね」
「あ、あぁっ……ん」

　僚はキスから逃げるように首を振り、胸の一点から流し込まれる強烈な快感にびくびくと震えを放った。
　神取は腕に抱えるようにして頭を押さえ込むと、唇を塞ぎ、そのまま乳首を弄った。

「んんっ…んむ、うぁ……あむぅ」

　口の中で僚の叫びが弾ける。頭全体で聞く彼の甘い叫びに神取はすっかり酔い痴れ、尚も乳首を責めた。それまで背中にあった腕が肩に移り、押しやろうとしてきた。神取は無視を決め込み、舌を貪りながら摘まんだ一点を扱いたり押し潰したり戯れる。
　始めは逃げがちだった僚だが、いつしか自分から押し付けるようにして悶え始めた。肩で抵抗していた手も抱きしめる形になり、全身で、もっとしてくれと訴えていた。
　腰がもじもじと落ち着かないのは、乳首への刺激で後孔も疼き出しているからだろう。シーツに擦り付けるようにして、僚は乱れた。

「あ、んん……ううぅ」

　神取はそこでようやくキスから離れた。頭に響く声を聞いたから、今度はどんな顔をしているか見たくなったのだ。
　僚は薄く目を閉じ、眦をほんのり朱に染めて、濡れた唇から絶えず吐息をもらして浸っていた。
　思った以上に可愛らしい反応に、神取はいやらしく唇を歪めた。
　しっとり汗ばんだ肌からは甘い匂いが立ち上り鼻腔をくすぐってくる。神取は引き寄せられるまま首筋に顔を埋め、何度もついばむキスをくれた。

「あ、あっ……」

　腕の中で、僚が淡い反応をする。すっかり浸っているのか、何とも言えぬ顔付きでもじもじと腰を動かしていた。うっとり酔い痴れて緩んだ頬、小さくほどけた唇に目が釘付けになる。目の端には、すっかり成長した彼の雄がちらついていた。神取はそちらへ顔を向けた。左右の足をだらしなく投げ出した様はまるで誘うようで、ひどく興奮した。彼を丸ごと飲み込んで自分のものにしてしまいたい、そんな愚かな妄想さえ過ぎる。
　彼の身体はどこもかしこも愛おしく、どれだけ触ってもキスしても飽き足らない。

「ねえ……ここ」

　他愛ない妄想に耽っていると、濡れた声が聞こえてきた。すぐさま目をやると、遠慮がちにしながらも挑む強さで僚が見つめてくる。早くここを触って、と言いたいのだろう。
　神取はそっと頬を撫で、続きの言葉を促した。

「ほら、もっと足を開いて、触って欲しいところを見せてごらん」
「んっ……」

　僚は息を飲んだ。男の手が膝裏に伸び、押しやってくる。一瞬抵抗した僚だが、すぐに力を抜き、疼いてしようもなくなった箇所を男に晒す。ちらりと羞恥が過ぎったが、それよりも慰めてほしい気持ちの方がずっと強い。僚はすぐさま振り払い、縋る目で男を見つめた。
　腰を揺すりながら訴える。

「ここ……ここ」
「ここを、どうしてほしい？」
「ああ、んっ……触って」

　湿った吐息をもらす唇から下腹へと目を移し、神取は緩く笑った。そこはすっかり育ち切って、時折びくびくと震える様はまるで甘えているようだった。

「まずは」僚の手を取り、下腹に導く「自分で好きなように触ってごらん」

　抵抗するのを強引に握らせ、神取は自慰を強制した。

「う、あ……」

　嫌々ながらも自分から握ったのを確認し、神取は手を離した。

「上手に出来たら、触ってあげよう」
「……ほんとう？」

　僚は潤む双眸を何度も瞬かせた。
　熱っぽい眼差しを間近に見つめ返し、神取はもちろんと頷く。

「う、……ん」

　僚はしばし戸惑い、困った顔で眉根を寄せ、それからゆっくり手を動かした。すっかり反り返り硬く張り切った己のものを、遠慮がちに擦る。

「ああ……」

　先端から溢れた涎が竿に垂れて、いくらもしない内にねちねちといやらしい音が響き始める。
　僚は慌てて声を重ねた。

「やだ……見るな」
「ちゃんと見てるよ」

　答えると、泣きそうにしながらも唇には淡い笑みが浮かんだ。恥ずかしい状況に追い込まれるのがどうにも堪えるのに、それが悦びでもある。そう物語る表情はとても愛おしく、男の胸を昂らせた。

「う……うっ…んん」

　小さく開いた唇からいくつもため息を零し、僚は手を上下させた。男の視線が注がれているのに気付き、はっとなって口を噤むのだが、すぐにまたほどけて、熱い吐息がもれる。やがて気分が乗ってきたのか、少しずつ手の動きが早くなっていった。
　嫌々だったのが自発に変わったのを見て取った神取は、邪魔しないよう声を潜め、耳元で囁いた。

「どこをいじるのが好き？」

　僚は二度ほどためらった後、途切れ途切れに答えた。

「ああ……くびれのとこ……袋も……あと、先っぽ」
「そこをいじると、どうなる？」
「あぁ…ああ、腰が……」

　顔と下腹と視線を行き来させ、神取はもっと教えて、と促した。にちゃにちゃと淫靡な音が辺りに響き渡る。

「あの、背筋も、んんっぞくぞくして、たまらない……あぁったかひさ」
「ここにいるよ。君が涎を垂らしているのも、いやらしい声を出しているのも、全部見ている」
「ああ……やだ、やだぁ」

　僚は首を振るが、自ら見せつけるように大きく足を割り開いた。手の動きも止まらない。羞恥に顔を真っ赤に染めているのに、ひどく大胆だ。そんな自分に興奮してますます顔を赤らめ、息も荒げて、浸っている。
　嗚呼彼は本当に、こちらの心をくすぐるのが上手い。
　神取はじっくりと愉しんだ。

「やだ、気持ち良い…たかひさ……ああここ……ここが……ああ！」

　僚は親指と人差し指とで交互に先端を擦り、次々溢れる雫を塗り付けた。ぬるぬると擦れる感触がよほどたまらないのだろう、始めのためらいなどすっかり忘れた様子で、自慰を見せつけてきた。
　神取は背筋がぞくぞくするのを感じていた。

「そこが好き？」
「ああ……いい」

　僚は緩慢に頭を揺らし、手を動かし続けた。右へ左で首を振る度、間接照明に反射してピアスがちかちかと閃き、男の目を射抜く。まるで何かの合図を送っているようだった。
　神取は嬉しげに頬を緩め、下腹に顔をずらした。　

「上手に出来たご褒美を上げようね」
「ああっ…鷹久――あ、そんなっ……」

　吐息で感じ取った僚は首を曲げて見やり、おののいたように身体を震わせた。
　反射的に閉じようとする足を掴んで押しやり、神取は唇で包み込んだ。

「あぁあ――！」

　間延びした声を上げ、僚は大きく仰け反った。
　男の口の中で、僚の張り詰めたそれがびくびくっと震えを放つ。
　神取は僚の手に自分の手を重ね、一緒に扱きながら、先端を舌で責めた。

「ああ…そこっ……あ！」

　よほどたまらないのか、僚の内股が小刻みに痙攣する。神取はその辺りを手で撫でさすりながら、口に含んだ熱塊を丹念に舐った。もう片方の手は僚に重ねて一緒に扱き、時折袋を弄って喘がせ、それぞれの反応を愉しんだ。
　先端を舌でくじると、とりわけ大きな声が放たれた。神取はそこを重点的に責め、絶頂へと誘う。
　それまで高く上ずった声を溢れさせていた僚は、男の執拗な愛撫にたちまち追い詰められ、間近に迫った絶頂に低い呻きをしとどにもらした。

「んんっだめ、だめぇ…いっちゃう、いくいく……うぅ――！」

　ねっとりと絡む熱い粘膜に涙を滲ませ、僚は何度も繰り返した。
　じっとしていられないと、僚は突き出すように腰をうねらせた。その度に喉奥までついてくる熱塊に神取は、まるで彼に犯されている錯覚に見舞われ、いつもと逆の立ち位置にひどく昂ぶりを感じていた。
　自然口淫に熱が入る。むせてしまいそうなのを堪えて彼を受け入れ、唾液を絡めるようにして舌を使う。
　すぐに絶頂はやってきた。口の中で熱茎がぐぐっと膨らみを増し、もうすぐだと神取は息を合わせて強く吸った。
　直後口の中に白液が弾ける。全て受け止め、飲み下す。

「あぁ、あっ……」

　僚は大きく喘ぎながら頭を起こし、済まなそうに男を見やった。熱が引き鎮まるにつれて、更に後悔が押し寄せる。
　神取は口元を拭うと起き上がり、僚に手を伸ばした。

「そんな顔をしなくていい」
「いや、でも……」

　そっと頬に触れる手のひらにわずかに俯き、僚は口ごもった。
　最中はあんなに乱れる癖に、こういう可愛い顔も見せてくる。
　神取は腹の底に走る興奮に目を細めた。

「いいね、その顔。君が恥ずかしそうにしているのを見るのは、大好きだよ」
「……へんたい」

　僚はあっちへこっちへ視線をさまよわせ、その合間にちらちらと男を見やって小さく零した。

「そうだね。でも、違うよ」

　神取は覆いかぶさって眦にそっと口付けた。顔を離すと、僚の口から知ってるといつものひと言が零れた。
　どこかふてくされた物言い。それかえって可愛いと男が愛でていると、僚の腕が伸び背中を抱いてきた。
　もう一度知ってると囁きがもれ、耳朶をくすぐる息遣いに、神取は目を閉じて浸った。