Dominance&Submission

禁断症状

 

 

 

 

 

「息を合わせて」
「あうぅ……ぐ、くぅ」

 苦しげに呻く僚に構わず神取は腰を押し進めた。きつく狭まる孔に、強引に自身を押し込んでいく。僚は抵抗するが、指で散々にほぐされたそこはまるで喜ぶように綻び、男を迎え入れた。
 くびれを飲み込ませ、半ばまで埋めたところで、神取は背中に腕を差し込み抱きしめ、引き起こした。

「ひっ……い、あぁあ!」

 後ろ手に拘束され不自由な体では抵抗も虚しく、僚は喉から叫びを絞り出して仰け反った。
 今にも倒れそうな細身を力強く抱き寄せ、神取は自分の膝に乗せる形で僚と繋がった。
 半ばまで入り込んでいた男の灼熱が、僚の狭い孔をかき分けずぶずぶと埋まっていく。

「い、や……おくが、ああ、奥まで……!」

 敏感な粘膜を擦り奥深くまで暴こうとする男のそれに、僚は意識がぼんやり霞みそうになった。

「ほら……全部入った」
「あ、あぁっ……」

 男の声をどこか遠くに聞き、僚は朦朧とする中呻いた。仰け反って硬直していた身体を弛緩させ、力強く抱きしめる男に任せて肩に頭を乗せる。そのまましばらく、僚はぜいぜいと胸を喘がせた。
 この身を圧倒する男の逞しいものに、息が弾んでならない。もしも前を戒められていなかったら、今の挿入で簡単に達していただろう。それほど、強烈な快感であった。
 しかし今は禁じられ、幾重にも巻かれた革紐で封じられている。それが余計に僚を昂らせた。感じるままにいきたいのにいけない悲しさに、余計感じ入ってしまう。そのせいで中々呼吸が鎮まらない。
 自分を意のままに支配し、一滴残らず貪り尽くす男に、身も心も奪われる。きつく支配され、徹底的に追い詰められる事が、たまらない悦びとなっていた。
 こんな風に惨めな格好にされ好き勝手嬲られると、腹の底から妖しい喜悦がぞくぞくと込み上げて、どこまでも止まらなくなってしまう。
 自分が怖い、自分をそんな風にした男が怖いと思う一方で、何もかもわからなくなるあの真っ白な瞬間に連れて行ってほしいと、僚は密かな期待を抱いた。

「う……う、あぁ……」

 自分の中に分け入った男のものが、脈打つように時折わななく。その度に腰にずきんと甘い疼きが広がり、僚はおののいたように小さく声をもらした。
 ぐったりと肩にもたれていると、男の手が顎を持ち上げてきた。
 まだ乱れた息を繰り返す僚の唇を塞ぎ、神取は舌を絡めた。すぐに僚も応えて男の舌を吸い、極上の甘い菓子のように舐りしゃぶった。
 そうしてぺちゃぺちゃと淫らに口付けていると、僚は下半身が疼くのを感じていた。中に深々と食い込んで動きを止めた男のそれを、自身の穴が不規則に締め付ける。意識しての行為ではないので、僚は自らの蠢きに自ら苛まれ、悩まされ、男と重ね合わせた口の中で何度も呻いた。
 神取は唇を塞いだまま、ゆっくり腰をうねらせた。

「んんっ…ん、あふ……」

 背に回した腕でしっかり抱きしめ、小波のように揺らして内部を擦っていると、いくらもしない内に僚の身体がびくびくっと跳ねた。
 僚はおののいたように仰のき、ひっひっとしゃくり上げた。腰の奥で熱いものが弾け、とろけるような快感が全身に広がる。頭の後ろがひどく熱くなり、恥ずかしい声を出すのがやめられない。

「うぁ……あぁん……すごい、ああぁ――」
「いいね……何度も締め付けてきて、気持ち良いよ僚」

 神取は腕にした身体をしっかりと抱き直し、本格的に貪り始めた。
 どんなに僚が泣き叫んでも、神取は責めの手を緩めなかった。
 男の容赦ない突き上げに、僚は何度も身体の奥で達した。余韻に浸る事は許されず、繰り返して絶頂する腰を休みなく抉られる。次第に僚は身体が己のものではなくなるような感覚に陥り、何もかもがぼんやりと霞んでいった。
 もう許して、外して、出したい。
 いきすぎて苦しと、僚は息も絶え絶えに懇願した。涙と涎とで顔中濡らし、どちらもだらしなく溢れさせながら、男に泣き縋る。

「鷹久……おねがい」
「いい顔だ……耐える君を見るのが好きだよ。我慢出来なくなり、頭の中が出す事で一杯になって、私で一杯になって、無我夢中で求める君が好きだよ」

 小刻みに腰を打ち付ける。何度も何度も、何度も奥に怒漲を送り、嫌というほど抉りぬく。最奥に届く度僚は上ずったよがり声をもらして乱れ、男を喜ばせた。

「君も、散々に我慢してから解放するのが、好きだろう?」

 絶えず身体を揺すりながら、神取は囁いた。汗ばみ、甘く匂い立つ肌に繰り返し唇を寄せる。そんな接触にすらひどく感じて、僚は止まらない身震いを放ち続けた。
 飽きる事なく腰を突き込んで貪っていると、時折、ひと際大きく痙攣する事があった。射精なしの絶頂を迎えた時だ。神取はその間も腰を打ち込むのを止めなかった。達して鋭敏になった内部をごりごりと容赦なく抉られる辛さに僚が泣き叫ぶのを、うっとりとした顔で聞き惚れる。
 繰り返し襲い来るすさまじい快感に僚は喘ぎ、よがり、時に苦痛を訴え、感じるままに声を放った。幾度も脳天が真っ白に塗り潰される、けれど、出せないままに迎える絶頂はすぐに次へとうなりを上げて僚を苛み、休む間もなく挑んでくる男の熱を歓んで迎えた。
 白い瞬間は途切れる事無く身を襲い、ただひたすら悦びに染まる。
 苦しくて苦しくて、早く解放されたいとそればかり頭に思い、僚は力強く抱いてくる男に無我夢中で縋った。
 そしてとうとう、これ以上は耐え切れないと意識が薄れかけた時、奥深くに食い込んだ男の熱が弾けて、燃えるような欲望が勢いよく飛び散った。

「あぁ……ああぁ」

 それを僚はぼんやりと霞む意識で感じ取り、おこりのように何度も身体を震わせた。
 何もかもわからなくなった瞬間、下腹の戒めが外される。
 身体の最奥で弾ける男の熱に圧されるようにして、僚もまた熱いものを放出した。散々我慢させられた末の射精はひどく長く、だらしなく流れ出ていく。
 神取はそれを最後まで搾り取るように手を動かし、ついには出るものがなくなっても扱き続けた。

「やめろっ…あぁ! やだぁ!」

 達して過敏になった性器を執拗に擦られ、耐え切れず僚はがむしゃらに暴れて抵抗した。
 構わず神取は手を動かし、先端を強めに刺激する。
 濁った叫びを上げ、僚は四肢を突っ張らせた。直後、おびただしい量の透明な液がまき散らされる。身体のあちこちにかかる熱いしぶきに陶然と浸り、神取はようやく手を離した。
 自分に身体を預け、脱力する僚の拘束を解くと、身体を繋げたままそっとベッドに寝かせた。
 下半身が全て溶けてしまったように思え、僚はぐったりと手足を投げ出しぜいぜいと息をついた。
 指先まで痺れてしまったように動かせない。
 ただ、気持ち良い。抱きしめてくる男の腕は力強く、とても心地良く、重なる唇は柔らかくて、とろけるようだった。
 こんなにも自分を欲しがる男に抱かれて、なんと幸せだろう。手を動かすのもだるいほど疲れ切っていたが、心は満ち足りていた。
 自分のものらしい荒い息遣いを遠くに聞きながら、僚は優しい抱擁に身を委ね、目を閉じた。

 

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