Dominance&Submission

月が昇るまで

 

 

 

 

 

 時折びくりと身震いするが、すっかり反応は鈍くなっていた。
 この刺激ではこれ以上はもう出ないだろうと判断した神取は、ようやく指を抜き、玩具のスイッチを切った。
 僚は脱力し、すっかり汗にまみれた四肢を投げ出しぜいぜいと全身で息をついた。
 神取はそっと顎を掴み、自分の方に向けさせた。
 ぼんやりとした視線を宙に這わせていた僚は、遅れて男に気付き、のろのろと目を向けた。しようもないほど美しい支配者の貌に、束の間息が止まる。
 一瞬呆けた後、つぼみが開くようにゆっくり微笑む僚に、神取は息を飲んだ。薬で幾分曇っているが、愛くるしさはちっとも変わらない。普段天の邪鬼に隠している部分も全部見せて、素直に悦ぶむき出しの彼に、息の根が止まりそうだ。
 嗚呼もっと、彼を泣かせたい。彼を可愛がりたい。
 彼の好きな方法で。
 神取は顔を見つめたまま、下腹へ手を伸ばした。

「……う」

 一つ目のローターが引き抜かれ、僚はかすれた声をもらした。
 二つ目の時は声こそ出さないものの、抑えきれず腰が震えた。
 三つ目の時、驚いた事に、自ら締め付けた。そのせいで余計感じてしまい、一度目よりもずっと淫らな声が零れ出る。嫌というほど蹂躙され、熱く腫れた内部を擦られて、感じずにいられなかったのだ。
 コードを引っ張る神取も手ごたえを感じ、思わず笑う。

「君は本当に、これが好きだね」
「そんな……」
「ああ、そんな悲しい顔をしなくていい。喜んでもらえて嬉しいよ」
「……鷹久」

 僚はどう言ったらよいかわからず、複雑に顔をしかめて男を見やった。
 ついに最後の一つが引き出される。神取はわざと、時間をかけてゆっくり引っ張った。抵抗があれば手を止め、もどかしそうに身悶える僚の反応を愉しむ。
 内部がどのように蠢いているか、手応えで知る事が出来た。自ら飲み込もうとする時もあり、ちょっとした引っ張り合いをしては、更に彼を泣かせた。

「あ――!」

 ひと際大きな声が上がったのは、孔の奥から玩具が顔をのぞかせた時だった。拡がる感触がたまらないと、僚は上ずった声を切れ切れに零した。
 少年の下腹は、先ほどあれだけ吐き出したというのに少しも萎える事無く存在を主張し続けていた。狭い孔に刺激が走る度、そちらもゆらりと揺れる。

「うぁっ!」

 とうとう引き抜かれる。高い叫びを上げ、僚はぶるぶるとわなないた。
 ようやく身を苛むものが取り除かれたというのに、それを強く望んでいたのに、なくなった瞬間から寂しいような切ないような感覚に襲われ、僚はそんな馬鹿な、と顔を歪めた。
 しかし実際に、薬のもたらす効果でそれは起こり、確実に僚を蝕んだ。
 不意に、ぐいと片足が持ち上げられる。慌てて抵抗すると、散々蹂躙されたそこに視線を注ぐ男があった。

「見るな……」

 何度も強制的に絶頂を迎えたせいでろくに力が入らず、抵抗らしい抵抗が出来ない。ただ口先で拒むのが精々だ。

「少し、充血しているね。痛みは?」
「わかんな……あっ!」

 指先が触れてきた。僚はびくりと身を強張らせ、恐々と力を抜く。

「痛む?」
「……べつに」
「だろうね。触れた途端、奥へ欲しそうにひくついている」
「うるさい……」

 蚊の鳴くような声で僚は言った。男の言う通り、今のほんのちょっとの刺激も、全身がぞくっとするような快感に見舞われた。空っぽになった孔を埋めてほしくて、たまらなくなっている。自分のそこがどんな風に動いているか脳内を過ぎり、それを見て男が何を思っているか、震えが走る。
 でも。

「もう一度、これで遊ぶかい?」

 今しがた抜いたばかりの玩具に手が伸びるのを見て、僚は小さく首を振った。

「やだ……玩具、もうやだ」
「こんなに楽しんだのに」
「それは……鷹久とだから」

 男だから、どんな遊びも受け入れられるし、喜びに感じるのだ。こんな楽しみ方を教えてくれた男だからこそだ。

「私と遊ぶのが好き?」

 僚はせっかちな仕草で頷いた。その途端、どうしてか涙が滲んだ。激しい感情が込み上げてくるのだ。それが何かよくわからないが、みっともないほど涙が滲み、口元には笑みが広がった。

「好き……」

 僚は浅い呼吸を繰り返しながら告げた。
 神取は小さく息を飲み、美しい微笑を向ける僚にただただ見入った。
 しばらくして口を開く。

「君にまたがってもいい?」

 男の指が唇をなぞる。その意味するところを瞬時に理解し、僚は一瞬目付きを強張らせた。雄の臭いを感じ取ったように思え、たちまち頭の芯がとろける。
 僚はとろんと目を潤ませて見つめ、頷いた。
 神取は両手の拘束を解いて僚の頭に跨り、前を緩めた。

「あっ……」

 すぐ鼻先に男の怒漲を突き付けられ、僚は幻ではない本物の男の臭いに、ますます顔を緩ませた。喜んで口を開け、男のものを一杯に頬張る。
 神取は両手で頭を抱え、喉奥まで突き入れた。くぐもった呻きをもらして僚が身じろぐ。容赦せず、神取はゆっくり腰を動かし、同時に僚の頭も揺さぶった。
 僚は男の足にしがみ付き、必死に奉仕を続けた。頭を押さえ付けられ、好き勝手口の中を侵される。男の先端が無遠慮に喉奥を突いて、時々えづいてしまう。苦しさに涙が滲むが、僚は何とか堪えて口淫に耽った。
 そうされるのを許しているから、自分も望んでいるから、苦しくてたまらないのにそれがこの上なく気持ちいい。
 薬のせいもあった。全身が敏感になって、ひどく興奮して、男とする何もかもに身体が反応してしまう。心も連動していた。
 口の中も感じると、何度も教え込まれたが、今は更に強烈だ。舌はもちろん上あごも頬も、まるで性器になったみたいにどこもかしこも痺れるほど感じる。
 僚は小鼻を膨らませて必死に息を継ぎながら、持てる技巧を駆使して男に悦びを与えた。
 男が、自分の快いように腰を揺する。興奮している証に、自分も興奮する。さっきあれだけ精液を搾り取られたというのに、また、内股が痛いほど引き攣っている。見なくてもわかるほど勃起している。

「抵抗しても構わないよ」

 嗤う男にきつい眼差しをぶつけ、僚は無心で男のそれをしゃぶった。
 神取はますます笑みを深め、窄めた唇の奥へ自身を送った。まるで火傷しそうに熱い粘膜に包まれ、ぐねぐねと蠢く舌に刺激され、快感が急速に膨れ上がっていく。口の中に溜まった唾液をかき回すと、ひどく猥雑な音が響いた。時々聞こえる苦しげな声もたまらない。
 神取はいやらしく笑い、腰の動きを少し速めた。

「中に……出してもいいかい?」

 声に僚は一杯に目を開いて見上げ、何かを訴えてきた。しがみ付く力が増したのが、答えだった。

「そう……飲んでくれるか」

 僚は頷けない代わりに、疲れた唇を奮い立たせ、力一杯男のそれを締め付けた。
 散々に口の中を犯され、喉の奥で男の熱が弾ける。口内を打つ火傷しそうな白濁に、僚はぎゅっと目を瞑った。
 神取はすべて出し切るまで僚の頭を押さえたままにし、満足すると同時に腰を引いた。彼の上から退く。
 一拍遅れて、僚はごほ、とむせた。全て飲み干す気でいたが、仰向けでそれは難しく、激しく咳込む。
 頭を抱えるようにしてうずくまり、違う器官に入ってしまったものを必死に吐き出した。
 神取はそれを注意深く見守り、収まってきた頃、用意していた水のボトルを手渡した。
 僚は弱々しく首を振り、うずくまったまま悔し涙を滲ませた。

「嫌だから、吐いたわけじゃない……」

 全部受け止めるつもりでいたのに、叶わなかったのが悔しいと泣く様に、ぞっとするほどの昂ぶりが駆け抜ける。
 頭の芯が甘く痺れるようであった。たった今吐き出したばかりだというのに、またたくまに芯を帯びて起ち上る自身を支え、神取は覆いかぶさった。
 やっと息遣いが戻ったばかりの僚を仰向けに寝かせ、後孔に怒漲を押し付ける。

「あっ……」
「なら、こちらで全部飲んでくれればいい」
「それで……許してくれる?」

 答えの代わりに神取は口付け、舌を差し込むのと同時に己のものを埋め込んでいった。

「んっ……んん――!」

 二ヶ所の粘膜を侵す熱いそれらに、僚は全身をびくびくとわななかせた。
 神取もまた、背骨がとろけるような愉悦を味わっていた。蹂躙を受け、いつにもましてねっとりと妖しくまとわりついてくる僚の後孔に、震えが止まらない。少しせっかちに根元まで埋め込み、甘い喘ぎをもらす僚を腕に抱きしめる。
 僚もすぐに腕を回し、男の背を抱いた。
 抱き合い、互いに唇を貪りながら、ゆっくりと快感を与え合う。

「うう…ん。んん……ああ気持ちいい……ああすごく、ああぁ……」

 力強い男の腰遣いに、僚はとろけきった声を上げて身悶えた。身体にかかる男の重み、肌の熱さ、伝わってくる鼓動、何もかもがたまらない。男の動きに合わせて自分も腰を揺すり、より深くまで入ってくるよう動く。玩具より指より、男の熱が一番心地いい。最奥まで入り込んで抉ってくる硬く熱いものに、心まで満たされる。

「……僚はどこが好き? 浅いところ?」

 言いながら神取は腰を引き、先端でごりごりと擦った。

「あぁっ……い、いい、そこ好き」
「深いところは?」
「ああだめっ…はげしい、だめだめ、ああぁ!」

 音がするほど腰を叩き付けられ、最奥を嫌というほど突かれて、僚は混乱気味に首を振りたくった。
 駄目と言いながらとろけきった表情を見せる僚に、神取は薄く笑って同じ動きを繰り返した。やがて、強く弱く複雑な動きで自身を締め付けていた後孔がきゅうきゅうと食い締めてくるようになった。絶頂が近いのを察し、神取はより激しく腰を使い僚の内臓をかき回した。

「だめ、だめだ……ああ――!」

 男の巧みな動きが僚を一気に絶頂へと引き上げる。
 何度も搾り取られ、もう出ないと思っていたが、張り切った僚の先端から熱いものが迸った。
 絶頂を迎え、びくびくと蠢き絞り込んでくる僚の後孔に、神取はうっとりと浸った。

「君の中は本当に気持ちいいね」
「もっと……もっと感じて――!」

 足も絡めて拘束し、僚はいやらしく腰を振った。まだ、薬の効力が続いている。それ以上に、男への愛情が止まらない。ひゅうひゅうと息苦しさを堪え、男に応える。
 全身で愛情を訴えてくる僚に飲まれ、神取は飽きる事無く僚を抱いた。

 

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