Dominance&Submission

二人の好物

 

 

 

 

 

「……あ」

 僚は全身を突っ張らせ、深奥に浴びせられる男の熱いものに浸った。腹の底がぞっとするような感触に、自然と涙が滲む。身体の奥に食い込んだ男のそれがびくびくと痙攣しているのがわかる。ほんの小さな動きだが、脳内で再現されるそれは腹を突き破りそうに暴れてのたうち、今にも身を裂くようであった。

「あ、あ、あ――!」

 僚は切れ切れに喘ぎ、自らも白液を放った。
 おこりのように震えを放ち、僚は絶頂に酔い痴れた。欲望を吐き出して尚、男のものは硬いまま主張を続けていた。
 だから、仰向けに寝かされ一旦引き出される時、甘ったるく恥ずかしい声を抑える事が出来なかった。
 絶頂を迎え腫れぼったくなった粘膜を、そのよく張った先端でこそぎながら、男の怒張が退いていく。あちこちのいいところを余さず刺激され、僚は上ずった声を切れ切れにもらした。
 何もなくなったがしかし、今の今まで自分を支配し圧倒していたそれの存在感は大きく、まだ何か挟まっているような錯覚に見舞われる。反射で孔がひくついて仕方ない。
 だらしなく開かれた足の中心、わずかに緩んだ孔から、白いものがたらりと零れる。普段は慎ましく閉じて、なにものの侵入も許さぬほどなのに、今は打って変わって淫らにひくついている。神取はわずかに目を細め、手を伸ばした。

「……あっ」

 指先で触れると、たちまちきゅっと孔が狭まる。その瞬間の、全身を貫くぞくっとした快感に衝かれるまま、神取は再び覆いかぶさって自身を飲み込ませた。
 先端をあてがい、ひと息に最奥まで貫く。

「ひぃっ……!」

 ずしんと脳天に突き抜ける快感に、僚は喉を詰まらせた。何とか息を吸おうとあがいていると、男の唇が重ねられた。しっとりと濡れた薄い皮膚に半ば無意識に吸い付き、舌を絡める。

「んっ…んむ、んぅ、いや……あむぅ!」

 神取は一回ごとに先端まで引き抜き、一気に押し込んではまた引いて、強く突き込んで、強烈な一撃を何度もくれた。
 その度に先に放った白濁がかき回され、何とも卑猥な音を立てた。
 その度に僚はどこか苦しげな、それでいて嗜虐心をかきむしる熱い喘ぎをもらした。

「ああ……たまらないね」

 独特のぬめりが動きを助け、絡まってくる感触は病み付きになる。神取は己のもので執拗に僚の最奥を穿った。

「あぁっ……激しい、ああ」なんで、こんな「昨日もしたのにい……」

 昨夜あれほど互いに抱き合ったのに。
 硬いまま、勢いを変えず貪ってくる男に、僚はおののきの声を上げた。これ以上はもう勘弁してくれと、ばさばさと髪を振り乱す。
 神取は背中に腕を回して抱きしめ、小刻みに腰を打ち込んだ。慌てたように掴み縋ってくる手がたまらなく愛しい。

「君だって」
「っ……なに?」
「あれほどしたのに、私を離そうとしない。とんだ欲張りじゃないか」
「あぅっ…あ、だって……鷹久が、鷹久と……ああぁ!」

 嫌というほど腰を叩き付けられ、喋るのもままならない。身体が粉々に砕けてしまいそうに激しく抱かれ、苦しくてたまらない。息を吸うのがやっとだ。でもそれが、男にこうして求められるのが、たまらなく嬉しい。たまらなく興奮する。
 好きで好きでたまらない。とろけそう、うっとりするほど甘くて、嬉しくて、僚は力一杯男を抱きしめた。足までも絡め、逃すまいと叫びを上げる。

「あぁうっ……!」

 不意に抱き起され、深まる結合に喉に詰まった声をもらす。思わず逃げがちになる腰を、男が阻む。

「だめ、こわれる……こわれる!」
「ならやめるかい?」
「だめっ……!」

 切羽詰まった叫びは、恐怖に圧されているようにも聞こえた。抱きしめてくる腕が一層力を増す。
 悪かったと、神取は頭を撫でて宥めた。ただの、ひねくれもののざれ言だ。
 誰が、離すものか。
 抱きしめ、首筋に唇を寄せる。汗ばみ、匂いの濃くなった肌を何度もついばむ。そうしながら指先で乳首を摘まむと、何とも可愛らしい声が弾けて、背筋を痺れさせた。ゆっくり捏ねながら、腰を使って内部を抉る。
 僚の背がたわみ、反って、どれほど気持ちいいか教えてきた。
 それに加えて、とろけるような声。いや、と甘い声で首を振りながら、もっとしてくれとばかりに自分から押し付けてくる。期待に応えて、少し強めにつねる。

「いたいぃ……!」

 甘えた声をぶつけ、僚は後孔をきりきりと絞り込んだ。半ば無意識の動きに、神取は満足げに笑う。

「痛いのに、そんな声を出すなんて……君は本当に」

 神取は抱き直し、腰をぶつけながら接吻した。
 激しい突き込みに僚は身悶え、何とか顔を離そうとあがくが、しっかりと押さえ込まれどこにも逃げ場はなかった。与えられる快感はあっという間に腰の奥に溜まり、再びやってきた絶頂の瞬間に男の口の中で何度も叫ぶ。
 必死に唇をずらし、僚は低く呻いた。

「いくいく……もう、だめ……ああぅ――!」

 きゅうきゅうと締め付ける後孔を抉じ開けるようにして、神取は己のものをきつく突き入れた。彼の声と顔とが、自分までも追い詰める。
 何かに耐える声に続いて、僚の身体がびくびくと痙攣を放つ。ひと際強く、無遠慮に絞り込んでくる粘膜に苛まれ、神取は、彼がまた極まりを迎えたと、口端を歪めた。しばし動きを止め、痛いほどの粘膜の収縮を味わう。
 しっかり抱きしめた腕の中で、僚が喘ぐように息をつく。
 神取は再びベッドに横たえ、抱き直した。首にしがみ付くようにして僚が腕を絡める。神取はふとひと息笑い、腰を前後させながら言った。

「……君が」
「あっ……なに?」

 真っ白な瞬間に漂い眩む目を、僚は何とか見開いて、耳を澄ませた。

「君が……果物が好きだという度、この世から全て消し去りたくなる」
「っ……」

 腕の中で、快感に震えるのとは違った硬直が走る。神取は身体を起こして、間近に顔を覗き込んだ。

「ああ、その顔……素敵だよ」

 悲しむような、怒っているような険しさに、目を細める。

「でもね……君が好物を食べて幸せになる顔を見るのは」この上ない幸せだ「だからしないよ……思わない。絶対に」

 僚の顔にいくつもの感情が浮かんだ。しょうがない奴だと笑い、困って、どこか呆れたような眼差しは、胸に深く沁み込むようであった。

「……鷹久」

 名を呼ぶ声は決して柔らかいものではなかったが、包み込む優しさに満ちていた。

「……変態」
「そうだね……でも――」
「違うよ、知ってるよ」

 駆け足の勢いで、僚は言葉を放った。もっと余裕ぶっで応えたかったが、息は乱れ声は震え、ひどく無様だ。それでも、男の貌を一瞬でも崩してやった。してやったりだ。

「君が好きだよ……君が」

 もう我慢出来ない。熱い粘膜をごりごりと抉り、神取は一番奥で動きを止め解放した。
 瞬間、僚の身体がびくりと反応する。
 ひと際大きな声を上げ、僚は絶頂の瞬間に酔った。紛れて神取も密かに喘ぎをもらし、極上の喜びを味わった。

 

目次