Dominance&Submission

二人の好物

 

 

 

 

 

「美味い……甘くて」

 すごくいい気分だと、僚はとろんと目を潤ませて呟いた。
 形良い唇に、ほんのりと愛くるしい微笑が浮かび上がっている。そのとろけるような表情に神取は瞬きも忘れて見入った。

「私も……君こそ」

 吸い寄せられるように唇を塞ぐ。

「んっ……ん」

 口付けたまま抱き起され、僚は喉の奥で小さく鳴いた。跨ぐ形で膝に乗せられ、背中を支える手の力強さと肌の熱さに、また喉が鳴る。服を通して伝わってくる男の体温を感じるほどに自分もほてりが増し、興奮が高まっていって、僚はしようもなくなった身体で男にしがみ付いた。
 神取は頬に唇をずらしてついばむように接吻しながら、背中に回した手を下着の奥に潜り込ませた、すべすべと手触りのいい尻を撫でると、腕に抱いた身体がわずかに硬直した。神取は小さく笑い、中心にある慎ましい窄まりに指を這わせ、更なる震えを引き寄せる。

「ふ……っ」

 ゆっくり揉みほぐしてくる指先に、僚は意識して口を噤んだ。頬や顎を優しくついばんでくる唇の感触さえ堪え難いのに、その上後孔を弄られては、今にも恥ずかしい声が出てしまう。
 僚の儚い抵抗がどこまで続くかと、神取は面白そうに笑ってゆっくり指先を中に埋めていった。

「あぁ……」

 たちまち僚の口から、わななく声が零れた。
 思った矢先に呆気なく破ってしまったが、我慢する彼も、甘く鳴く彼も、いずれにせよ大好物だ。どんな瞬間も背筋をぞくぞくとさせ楽しませてくれる。
 大好きでたまらない。
 神取はお礼の代わりに、より僚を悦ばせようと埋めた指を蠢かせた。彼の中は熱く、ねっとりと絡み付いてくる。いい力加減で食い締めてくる内部を、神取はあちこちに指先を当ててほぐしにかかった。

「あ、あぁ……」

 僚は男の肩に顎を乗せ、閉じていられなくなった口から途切れ途切れに嬌声をもらした。感じる箇所を指で捏ねられる度、腰が引き攣った。それほどに気持ち良い。自ら腰を揺すり、僚は与えられる快感を素直に貪った。やがて内股が強張り、痛いほど勃起している自身を自覚するほどに奥の方が切なくなっていった。

「あ、やっ……んん」
「嫌かい?」
「ちがう……ああ、きもちいい」
「ここが好きだね」
「うん……好き」

 もっと、と吐息を零す。
 神取は指を二本に増やし、ゆっくり大きくかき回した。僚の口からもれる湿った吐息が、耳朶をじりじりと炙る。

「広げるの……ああ」
「いいだろう……ここ」
「うん、あぁ……力…抜ける」

 男にしがみつき、僚は自ら腰をくねらせた。そうするほどにもどかしさが募っていく。

「ね……もっと、奥も」

 欲するが、指ではどうあっても届かないのはわかっていた。欲しいところに届かない。男はわかっていて、笑いながら囁く。

「どうしてほしい?」
「……奥に欲しい」

 僚は少し拗ねた声を出した。鷹久ので、奥まで一杯にしてほしい。自ら力をこめ指に噛み付く。そうすればそうするほど、切なくなっていく。

「ああお願い……これ」

 僚は自ら腰を擦り付けた。己の滾ったものを男の怒漲に押し付けて挑発し、誘う。
 布越しでもはっきりと感じる若い猛りに、神取は背筋がぞくっとざわめくのを感じた。

「鷹久の……入れて」

 僚は寄り掛かっていた身体を起こし、焦れた目を男にぶつけた。すっかり潤んだ双眸は、丁寧なカットを施された宝石のようにきらきらと美しく煌き、彼の内に流れる異国の血を瞬きほどに垣間見せた。
 褐色、緑、金色、様々に移ろい、見る者を魅了する。
 神取はそれを支配者の貌で受け止め、僚の表情を舐るようにじっくりと眺めた。

「では、おねだりしてごらん。私がその気になるように」

 僚は頭を引き寄せて唇を重ね、貪るように舌を吸った後、熱に潤んだ目で男を見ながら言った。

「乗っからせて」

 神取はますます背筋が疼くのを感じた。選んだ言葉はもちろん、今すぐしたくてたまらないと、すっかり余裕をなくした僚に、息も止まりそうになる。何とか吸い込んで、頬に手を差し伸べる。
 僚はその手を取って甲に口付けると、力任せに男の身体を押しやった。仰向けに押し倒し、覆いかぶさって唇を塞ぐ。

「っ……」

 せっかちな様子に神取は胸を高鳴らせた。彼にますます惚れると同時に、おかしさが込み上げるのを感じた。もちろん素直に出して笑うなんてへまはしない。自分の中だけで、静かに溶かして消し去る。嗚呼、彼の重みのなんと心地良いこと。
 頭の芯がびりびり痺れるほどだ。

「……朝に」

 うっとり浸っていると、呼吸に紛れて僚の声が耳に届いた。神取は即座に神経を集中させる。
 朝、目覚めてからずっと、身体の底の方が火照っていた。止まらない疼きを抱え、もどかしく過ごしていた。
 音楽を聴きながらおやつ作り、どの作業も何をするのも楽しいが、楽しいのに、男と目を見合わせる度いやらしく盛ってしまって、そんな自分を情けないと制してきたが、もう我慢出来ない。

「乗っかりたい……!」

 低い唸り声を聞き、神取は目を瞬いた。なんだ、自分だけではなかったと、安堵する。彼のあらゆる瞬間に胸をときめかせ、胸躍らせてこの時を待っていたのは、自分だけではなかった。
 彼も同じだった。
 自然と頬が緩む。
 その喜びの笑顔を僚は、嗤われたと受け取った。恥じ入る恐縮は一瞬で腹立ちに取って代わられ、めらめらと怒りが立ち上る。
 滾った激情はまっすぐ男へと向かい、僚は、責任を取らせる為に行動に出た。
 自分をこんな身体…どんな瞬間も男に支配され、一番に思い浮かぶほどに身体に覚え込ませた責任を取れと、男に襲い掛かる。

「!…」

 乱暴にベルトを引き抜き、暴き、無駄のない動きを見せる僚に圧倒され、神取はゆっくり唇を笑いに歪めた。
 僚の唇が、自分のそれを包み込む。
 神取は身を起こし、僚の奉仕に酔う。
 頭を動かし舌を絡め、ぺちゃぺちゃと美味そうにしゃぶる様にぞくぞくする。このまま、飲んでもらいたい。顔にかけるのもいい。彼の美しく整った顔を、己のもので汚したら…嗚呼考えるだけでくらくらと目眩がする。
 でも一番は、彼の奥に注ぐ事。散々に泣いてよがるほど抱いて、嫌というほど奥を突いて、その果てに一滴残らずぶちまけたい。
 その時の彼は、とてもいい顔をする。
 何度見てもたまらない。
 大好物だ。
 潤む目を何度も瞬かせて、喘いで、痙攣して…彼は何から何まで自分好みだ。一番酔わせてくれる。

「……おいで」

 思い浮かべた彼の痴態を本物として味わいたくて、神取は腕を引いた。背中を抱きしめて引き寄せ、自分の上に乗せる。

「ああ……」

 僚はせっかちに下着を脱ぎ捨てると、ぶるぶると震える手で男のものをそっと包み込み、自分の尻にあてがった。欲しくてたまらなくなっているのに、いざ男のそれが触れると、熱さのあまり腰が跳ねた。つばを飲み込み、ゆっくり腰を下ろす。

「あぁ…あ、あ、ううっ……」

 徐々に食い込んでくる怒漲が、狭い後孔をきりきりと拡げる。指であれだけほぐされても、やはりこの瞬間は少し苦しい。腰の骨が軋んで苦しいけれどそれが、たまらない。数えきれないほど抱かれた自分にはそれが、快感だった。
 半ばまで飲み込んだところで、不意に片足から力が抜けた。

「!…」

 一気に貫かれ、ずしんと脳天に突き抜けた衝撃に僚は喉を震わせた。

「ああ、ぁ……」

 ひと息遅れて、今の弾みで自分が射精した事に気付く。先端からだらりと零れる白液を、身体を痙攣させながら呆然と見つめる。確かめた途端全身から力が抜け、僚はくたりと男にもたれかかった。
 神取は一度抱きしめてから、顔を上げさせた。わざと髪を掴み、引っ張って覗き込む。

「なんて顔をしている」
「あ、ぅ……みるな」

 出した声は、情けないほど震えていた。どんな顔か確かめようもないが、ひどくだらしない表情になっているのはわかっていた。手で隠そうとするより早く、男に唇を塞がれる。

「んっ……む」

 するりと入り込んできた舌と、乱暴に髪を掴んでいた手で優しく頭を撫でられ、あっという間に抵抗を奪われる。僚は拒もうと引き寄せた手を背中に回して抱きしめ、甘いキスに浸った。
 神取は接吻したまま、ゆっくりと腰をうねらせた。達したばかりで狭くなった後孔が、うねるように吸い付いてくる。そこをやや強引に擦り、抉ると、僚は切なげな声で喘いだ。
 少し辛さの混じった艶のあるよがり声を聞きながら、神取は同じ動きで快感を貪った。

「入れただけでいくなんて、いい身体だね」
「やぁ…う……、うっ」

 男にしがみつき、僚はばさばさと髪を振りたくった。うるさい、と振り払いたいのに、喉が引き攣れて声が出ない。達して過敏になった奥に男のものが届く度、頭の後ろがびりびり痺れて仕方ない。反発に尖った心はあっという間に快感に押し流され、気付けば口からは甘ったるい声がもれ出ていた。

「やだぁ……あぁ、ああっ……」
「いやだじゃない……ほら」

 軽く突き上げる。僚は背筋をびくびくと引き攣らせ高い声を上げた。

「乗っかりたかったのだろう?」

 抱きしめ、耳朶に囁く。わななく様に愛しげに目を細め、神取は軽く歯を立てた。

「あぁっ……」

 たったそれだけの刺激でも、僚は敏感に反応し男を愉しませた。

「さあ、自分の好きなように動いてごらん」

 僚は喉を鳴らし、男にしがみ付くと、ゆっくり腰を動かし始めた。恐る恐るうねらせ、すぐに、男の上で弾むように腰を上下させる。

「あ、ああっ……あ、あ、あ……しびれて」
「気持ちいい?」
「うん……うん、あああ……」
「私もいいよ。とても……っ」
「おく、ああぁ……鷹久の……かたくて」
 もういきそう

 今にも泣きそうに高い声で喘ぐ僚に、神取も引きずられ、急速に射精欲が込み上げる。
 ごりごりと内襞を抉る男の怒漲によがりながら、僚は男の限界が近いのを悟った。必死に腹に力をこめ、咥えた男のものを愛撫する。そうすると余計自分が追い詰められ、男をいかせたいのにと、悔しさに頭がどうにかなりそうだった。

「やぁだ……やだ、いって、中で……!」

 自分の身体に興奮した証を、内に残してほしい。僚は泣き叫び、必死に技巧を凝らした。
 絶妙な力で食い締めてくる僚の後孔に追い立てられ、神取はややせっかちに内部を貪った。あんな甘い声で泣き縋られては、我慢も難しい。
 この場を完全に支配するのは難しい。
 彼に引きずられ、彼に支配され、流されるまま溺れるのが精々だ。
 情けないと過ぎるが、それもまた喜びだった。
 彼とこうして愉しむ時間を過ごせるなんて、この上ない喜び。
 神取は流れに身を任せ、限界まで膨れ上がった欲望を僚の中に一滴残らず注いだ。

 

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