Dominance&Submission

答え合わせ

 

 

 

 

 

「あぐぅ……」

 拡げ、じわじわと入り込んでくる男の張り切ったそれに、腰が抜けそうになる。どうにか堪え、僚は呼吸を合わせて受け入れた。

「ああ……はいって……あうぅ」
「きつくて…とてもいいよ」
「うぅ……」

 やっと根元まで咥え込む。
 ぺったりと尻をついた僚を抱き直し、神取は馴染むまで待った。
 きりきりと容赦なく絞り込んでくるばかりだった後孔が、ふっと緩んではまた締まり、呼吸するように蠢いた。同時に強張っていた僚の身体も弛緩して、頃合いに神取は口を開いた。

「さあ、顔を見せてごらん」
「あっ……」
「君の、欲しがっている顔を私に見せてごらん」

 そう言われると反発したくなる。僚は俯き、背け、逃げようともがいた。男に貫かれた上では、どこにも逃げ場はない。ついに顔を両手で押さえ込まれ、ああ、と息を吐く。

「いいよ、たまらないねその顔」
「……そっちこそ」

 悔しまぎれに投げかけ、僚は鼻を啜った。まだ少し苦しくて、強張りから抜けきれない。一方男は、うっすらと笑んで支配者の貌をしている。たまらなく憎らしかった。
 いや、愛しかった。
 余裕ぶった仮面でごまかしたって無駄だ、もうわかる。
 僚は何度も目を瞬かせた。
 数えきれないほど、こうして目を見合わせてきたのだ。
 この、己を支配する美しく鋭い目が自分を見てきたように、自分も見てきた。

「っ……」
「!…」

 衝動が込み上げ、僚は抱き付いて唇を塞いだ。寸前、男の驚いたような息遣いがあった。それを引き出せた事に喜び、夢中になって舌を吸う。
 せっかちに貪ってくる舌を受け止め、神取もキスに溺れた。口中の、彼がより感じる箇所を舌先でつつくと、呼応して後孔がゆるゆると蠢いた。内部もうねって誘ってきた。
 応えないのは失礼だと、神取は腰をしっかり掴み、下から突き上げ始めた。

「んん、は、ああ……あ!」

 腰が砕けそうなほどの打ち込みに翻弄されながら、僚は頭の片隅でほらやっぱり、と思った。
 自分が欲しくて堪らないのと同じように、男も欲しがっている。こんなに硬くしておいて涼しい顔をするなんて、本当に憎たらしい奴だ。
 そう思ったのも束の間、速い動きでねちねちと後孔を擦られ、僚はたちまち絶頂へと追い詰められた。

「あぁ…あっ…おく、おく気持ちいい……ああぁ」

 男の肩に掴まり、喘ぎながら髪を振り乱す。
 自分の中で一杯に膨れた男のものに震えながら、僚は射精した。白液を放ちながら激しく喘ぐ。

「ああぁ、ああっ……あ――!」
「……本当にいい顔をする」

 今にも泣きそうに顔を歪め、その様子だけでもたまらないのに、きゅうきゅうと複雑に絞り込んでくる内襞の愛撫は強烈で、とても動かずにいられないと、神取は動きを止めずに抱き続けた。
 そうなれば当然、僚の口からうろたえる声が上がる。

「まって……いった、いったから!」
「そのまま抱かれるのが、君の好物だろう」

 それすらも可愛くて、神取は笑顔で一蹴しうっすら汗ばんだ尻を掴んだ。そこ目がけて腰を叩き付ける。

「いや、い、や……ああぁ!」

 僚は咳込むように喘ぎ、首を振りたくった。
 少し癖のある艶やかな黒髪が躍るのをうっとり見やり、神取は言った。

「いやじゃない。ほら、こうして奥をかき回されるのが好きだろう」
「ああそこ、そこっ……ああぁ」
「気持ちいいのだろう」
「んんん……すごい、ああっ…あ、そこ、奥……気持ちいい」
「……いい子だ」

 切羽詰まった声で拒絶していたのが、次第にとろけた嬌声に変わっていく。嗚呼背骨が甘く痺れ、今にも溶けてしまいそうだ。神取は込み上げる衝動のまま、己の上に乗った少年を貪り続けた。

「ああ…きもちいい……あ、だめ、ああぁ――ああ!」

 僚は混乱気味に喘ぎと否定を入り混じらせ、貫かれた身体を引き攣らせた。達して過敏になった身体を容赦なく揺さぶられ、あまりのつらさに泣きながら抵抗する。
 抗って突っ張る手をものともせず神取は抱きすくめ、より激しく突き上げた。

「いや……だめ、だめ! ああだめぇ……またいく――いくいく、ああぁっ!」

 その瞬間はすぐにやってきた。ぶわっと身体が膨れ上がる錯覚に脳天が痺れ、破裂しそうになる。
 僚は長く細い悲鳴を上げ、再び達した。
 最後の最後まで、神取は音がするほど強く己を突き入れ、最奥で動きを止めた。

「あああ――……!」

 あまりのきつさに視界が真っ白に染まる。
 息も満足に出来ないほどなのに、僚の口元には笑みが浮かんでいた。
 神取は瞬きも忘れ見入った。しっとりと汗を浮かべ、おののく頬と対照的な微笑の唇が、目を奪う。食い千切らんばかりに後孔が締まり、腹の底に鈍痛が走る。その痛みすらも今は心地良かった。
 ぜいぜいと喉を鳴らしながら、僚はぐったりと身体をもたせた。神取はしっかり抱き直し、頭を撫でた。
 大きな手が、優しく髪を撫でてくれる。うっとりするほどの気持ち良さに、僚は目を閉じた。

「鷹久の……おくまで、いっぱいに……」

 僚はところどころ息を弾ませ、ぼんやりとした口調で呟いた。内部で時折、男のものが呼吸するかのようにびくびくと動くのだ。肉で感じ取るそのわななきはむず痒く、恐ろしいほどに気持ちいい。いつまでもこうして、中で感じていたい。
 始めはそれで満足だと思った僚だが、すぐにそれでは物足りないと考えが変わる。もっともっと男を感じたい。一度や二度ぽっちでは、男を味わった内に入らない。
 もっと声がかれるほど男に抱かれて、感じて、一杯に満たしたい。
 湧き上がってくる貪欲な肉の疼きに衝かれ、僚はもじもじと腰を動かした。

「んん……」

 たちまちじいんと疼きが広がり、切なくなるような感覚が走る。少しおぞ気を感じるが、それまた気持ち良くて、僚は段々と動きを大きくしていった。
 腰をうねらせると、男のよく張った先端が内部のいいところを擦る。僚は自らそこに押し付け、腰を上下させ、快感を貪った。

「ああ、いいよ…とてもいい」
「あ、あ……鷹久もいい?」
「君の中は最高だね……溶けてしまいそうだ」
「もっと……ほしい?」

 僚はもたれていた身体を起こし、男の肩に掴まって、よりはっきりと腰を動かし始めた。
 挑発的な僚の眼差しに、神取はしばし見惚れた。彼はうっすらと笑って自分の上で淫らに踊り、誘惑してくる。目を奪われずにおれない。

「んっ…む……」

 神取は少しせっかちな動きで頭を抱き寄せた。素直に近付いてくる唇に吸い付き、舌を割り入れて舐る。
 そうして上の口を貪りながら、下の肉も存分に味わう。弾むように腰を突き上げ、すっかり柔らかくほぐれた内襞の締め付けを愉しむ。僚のそこはきゅうきゅうと複雑に蠢き、きつく締め付けたかと思うとふっと緩んでまた吸い付き、背筋がぞくぞくする快感を与えてくる。

「あぅっ……ああ!」

 先端で最奥を突くと、彼の口から可愛らしい喘ぎが零れた。少し動きをきつくするとうろたえるような息遣いに変わり、緩くすると、とろけるような甘い声をもらした。口付けたまま放たれるそれらの声は直接頭に響くようで、愛しくてたまらない。神取は様々に動きを変えて僚を鳴かせた。

「あ、あん…やだ、もっ…ああぁん……やっ」

 男に翻弄されるままに喘いでしまう自分が恥ずかしくてたまらず、僚は何度も唇をほどこうとしたが、頭を押さえ付ける手を振りほどく事は叶わなかった。
 本気で逃れたいわけではない。
 恥ずかしい声を聞かせるのも、痺れるほどの快感に溺れるのも、本当に嫌な訳ではない。
 羞恥に身の竦む思いさえも快感にすり替わるこの時間が、好きだ。
 たまらなく好き。

「んん!」

 ひと際高い声を上げ、僚は身をよじった。
 男の指が、胸の小さな突起を摘まんだのだ。咄嗟に男の手を掴み、いやいやと首を振る。
 神取は気にせず、指先にとらえた乳首を軽くひねった。

「こうすると、より中が締まるね」
「やぁ……やめろ」

 楽しそうに笑う男に厳しく首を振り、僚は身を反らせた。
 神取は逃すまいと腕を回し、今度は唇を寄せた。

「だめ――!」

 駄目と言いながら、本気で逃げるそぶりを見せない僚にほくそ笑み、そっと歯で挟む。びくびくと痙攣する肌に合わせて、奥の方も収縮を繰り返す。なんて敏感な、自分好みの身体に育っただろう。神取は締め付けを愉しみながら、強く腰を打ち込んだ。

「ああぁ――!」

 たちまち放たれる鋭い悲鳴が、更に脳天を痺れさせる。神取は乳首を弄りながら奥を突き、より僚を鳴かせた。
 何度も何度も、何度も突き上げ、嫌というほど乳首を擦り、もうやめてくれと泣き声を上げる僚を無視して、己の欲望で最奥を穿つ。

「だめ、だめ……あああぁあ!」

 ひと際大きく身体を震わせ、僚は白濁を放った。
 腹にかかる熱いもので、神取は彼が達したのを知った。

「ああ、そんなに気持ちいいのだね……なら、もっとよくしてあげよう」
「い、やだ……もう――ああぁ!」

 僚は激しく首を振り、何とか腕から逃れようともがいた。それより早く、ねっとりと這う熱い舌の感触が乳首を包む。その間も内襞を擦る男の怒漲は動きを止めず、達して鋭敏になった快感の胤を容赦なくごりごりと抉った。

「だめぇ……もうおかしくなる、だめ!」
「駄目じゃない……私を挑発しておいて、逃げられるとでも?」
「!…」

 すぐ間近で、支配者が嗤う。冴え冴えとした微笑に目が釘付けになる。見開き、すぐにとろんと目を潤ませ、僚は小刻みに震えた。

「あぁ、あ……」

 身体の内側が燃えるようであった。
 火種は男の逞しいそれ。こちらの肉を容赦なく抉っては、そこかしこに火をつける。あちこちから火の手が上がり、今や内も外も全身が真っ赤に燃えていた。
 そんな錯覚で脳天を疼かせ、僚は抱かれる悦びに何度も震えを放った。

「おいで、もっと可愛がってあげよう」
「……だめぇ」

 顔を引き寄せられる。一度は抵抗する僚だが、最後まで抵抗しきれず、舌を吸われ身体の力を奪われる。
 男のなすがまま貪られ、ますます震えが走った。
 繋がった個所から、にちゃにちゃといやらしい音が響いてくる。互いのいやらしいものが混ざり合って立てる音に、僚はぞっとなって首を振った。

「ああまたいくぅ……もうだめ、いくいく……いく!」
「いい顔だね……」

 無意識に逃げがちになる腰をがっちりと押さえ付け、神取は一層激しく奥を突いた。間を置かず僚の身体が大きく痙攣し、互いの身体に熱いものが飛び散る。

「……くっ」

 絶頂の直前、ふわっと緩んだ後孔が一気に収縮し、あまりの快さに神取は思わず呻いた。
 きつく絞り込んでくる内襞の動きは、まるで長い舌が隙間なく巻き付き締め上げてくるようだった。きつく締め上げてくるのに力加減は絶妙で、根元から先端までぴったりと吸い付き、それぞれを強く弱く刺激してくる。複雑に蠢いて射精を促してきた。何度も先送りにしてきたがもう限界だと、神取は自身の絶頂めがけて動き出した。

「いや、やだ……もうおわって、やだぁ!」

 達しても許されず責められる苦しさに、僚は涙を零してもがいた。
 神取はその抵抗を封じ、ソファーに寝かせると、音がするほどきつく腰を叩き付けた。
 おかしくなる、もう駄目、許して、鷹久。
 先程までとは打って変わった動き、容赦なく貪ってくる男の怒漲に、僚は身悶えながら何度もかすれた悲鳴を上げた。
 神取は膝裏を肘に抱えのしかかり、上から叩き付けるようにして腰を送った。奥を突く度自分の下でよがり泣き叫ぶ様が、更に興奮を煽る。
 唇を塞ぐと、代わりの出口を求めて後孔が締まった。神取はそこを抉じ開けようにして腰を使い、泣かせ、支配する悦びに浸った。

「ああ…また――またいく……ああぁ」

 好き勝手揺さぶられ、僚は視界が真っ白に染まるのを見た。
 直後、己を奥まで貪っていた熱塊がのたうち、おびただしい白液を放った。
 内壁に浴びせられる欲望は火傷しそうなほど熱く、僚は呆けたように喉を震わせ浸った。
 呆然としてわななく唇に、まるで花が咲くようにうっすらと笑みが浮かんだ。
 高揚感に包まれる中神取は、その愛らしい笑みに視線を注ぎ続けた。

 

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