Dominance&Submission

答え合わせ

 

 

 

 

 

 神取は僚を伴ってソファーに座り、再び口付けた。両手を頭の後ろと腰に回しで抱きしめ、僚の腕が背中に回ったのを確認すると、接吻したまま支えて横たわらせる。
 触れ合う舌は驚くほど熱く、じんじんと痺れるようであった。むず痒さに引っ込めたくなるが、堪えて絡めると気持ち良さに変わり、もっとしたくてたまらなくなった。
 僚もまた同じ思いで、それに加え頭をしっかり押さえる男の手が脳天まで痺れさせて、中々キスをやめられなかった。
 互いに、息苦しいのを堪えてキスに耽る。
 互いに、もうこのまま頂点まで身体が上り詰めるのではないかと錯覚する。
 僚は間違いなくそうであった。
 ついにキスが終わり、男がそっと顔を離す。
 僚は閉じていた目を開き、すぐ傍にある愛しい顔にほんのり笑んだ。
 熱を含み、とろんとした目付きで見つめてくる僚に軽く笑いかけ、神取はもう一度、今度は触れるだけのキスをした。
 身体を起こし、優しく囁く。

「さあほら、目を閉じて」

 言葉と共に手のひらで覆われ、僚は戸惑いながらも従った。二度ほど瞬きして、それから目を瞑る。
 手のひらと指先とに睫毛がかすめ、くすぐったさに神取は思わず口端を緩めた。手を退け、その手でいい子だと頭を撫でる。はっきりと表情が変わる事はなかったが、眦や口元に微笑みの相が見て取れた。素直な反応を見せる僚に、ますます愛しさが募る。本当に、いい子だ。
 いたずらに不安を煽らぬよう、自分がどこにいるかはっきりさせる為に頭に手を置いたまま、口を開く。

「僚、どこにキスしてほしい?」
「え、あ……」
「どこでも、好きなところを言ってごらん」
「あの、あ……瞼に」
「仰せのままに」

 おっかなびっくり告げると、男は優しい低音で答え、それからすぐに柔らかい唇が触れてきた。少しくすぐったい。二度ほど触れてきた薄い皮膚の優しさに、唇が緩む。こんな遊びなら、もっとしたい。

「次はどこ?」
「ほっぺた……それから、唇」
「目は閉じたままで」
「……うん」

 ため息ほどに小さく応える。頬に触れた熱が、唇に触れてくる。僚は目を瞑ったままうっとりと浸った。じきに唇は離れた。もっとたくさん浸っていたかったのに。もう一度唇を希望する。
 二度目は、すぐに離れる事はなかった。
 ゆっくりゆっくり、食むようについばんでくる。
 僚がその熱にうっとり浸っている間に、神取は服を全てはぎ取った。身体を撫でる動きに合わせて脱がせ、下着ごとするすると足から引き抜く。もう少しで足首も抜けるというところでようやく気付いたらしく、それまで力の抜けていた手足が不意に強張った。

「っ……」

 僚は小さく息を飲んだ。まただと唇を引き結ぶ。いつもそう、優しい接吻や抱擁にいい気分だとうっとりしている間に、自分はこうして素っ裸にされる。
 僚は閉じた瞼に力を込めた。目を開けていいと言われていないので、瞑ったままだ。そうやって暗がりに目を凝らしていると、男の視線が自分のどこを見ているかひどく気になってきて、意識するほどに肌が鋭敏になっていった。
 緊張から、僚はわずかに身じろいだ。

「次は、どこにほしい?」

 顎の先。喉仏。右…いや左の鎖骨。男にキスされるごとに、息が上がっていく。僚はぼうっと酔ったようになって、夢中で男の唇を求めた。自分がより感じるところを次々に口にし、その通り応えてくれる快感に打ち震える。
 乳首、と口に出す。そこはもう、軽い接吻だけでは物足りなかった。噛んでほしいとねだる。

「強くてもいいから、お願い」

 困ったように眉根を寄せ、縋る声を出してくる僚に、神取はそっと息を啜った。気付かれぬよう密かに唾を飲み、すっかり酔った痴態に見惚れる。彼が好きな力加減はわかっている。

「あ、あっ……」

 その通りにすると、何ともたまらぬ声が放たれ神取を痺れさせた。

「うぅん……」

 敏感な箇所に歯を当てられ、じいんと後孔に響く鮮烈な疼きに、僚は身を悶えさせた。半ば無意識に手を下半身に持っていく。触る前から、自分のそこがどうなっているかわかっていた。早く、触って慰めたい。思う存分擦って解放したい。

「……あ」

 しかし神取はそれを直前で阻んだ。当然、僚は不満げな息を吐く。
 むずかる手を掴んだまま神取は、欲しいところは口で言うよう促した。
 僚は掴まれた手を握り締め、言い淀んだ。

「ここの……あぁ」
「どこかな。言ってごらん」

 過去の記憶が絡んで、彼はどうしても口に出来ない。わかっていて神取は意地悪をする。そうすると、彼の可愛い顔が見られるからだ。今にも泣きそうに歪んで、物欲しそうになって、たまらない。目を開けていたらきっと、強い眼差しで睨まれた事だろう。そこがまたたまらなく可愛いのだ。
 しかしやりすぎは注意だ。苦しめるのが目的ではないのだから。
 神取は掴んでいた手をそっと身体の横に置いた。触りたがる動きを見せたが、すぐにまた元の場所に戻った。
 いい子だと、神取は頭を撫でる。

「ほら、僚、ちゃんと言いなさい。どんな風になっているところ?」
「あの、触って欲しくて……たまらなくなってるとこ」
「ああ、ひくひく震えているね」
「……そこ」
「すっかり硬くなって、実に立派だ」
「く……」

 男の嗤う声に顔を歪ませ、僚は唾を飲み込んだ。

「それに、先端から涎まで垂らしている。物欲しそうに揺れて」
「やめろ……」
「ここに、キスしてほしい?」
「……ほしい、お願い」
「キスして、吸って、喉の奥まで飲み込んでほしい?」

 もう声も出せないのか、僚は大きく喘ぎながら何度も頷いた。
 これ以上焦らすのは気の毒か。何より自分が限界だ、早く彼を味わいたくて我慢出来なくなっている。彼が目を閉じていて本当に良かった。どんな浅ましい顔をしているか見られず済む。そう自嘲気味に笑い、神取は身をかがめた。

「あっ……!」

 息遣いを感じ取って、僚は高い声を一つ上げた。続けて、熱い粘膜に包まれ安堵するため息をもらす。

「気持ちいい……」

 とろりと熱く溶けた呟きと共に、すでに硬かったものがますます硬化する。無遠慮に喉を突いてくる僚のそれに、神取も悦びを感じていた。

「ん、あっ……うく」

 くびれのところを狙って唇で扱かれ、たまらずに僚は一つ二つと喘ぎを零した。目を閉じているせいか、男の舌がどこでどんな風に動いているか、絡み付いているか、いちいち瞼の裏に映し出してしまう。それがより興奮を呼び、僚は閉じていられなくなった口からしとどに嬌声を放った。己の高い声に恥じてぐっと歯噛みするのだが、絶妙な力加減で肉茎を扱きながら先端を吸われるとすぐにほどけて、男の思い通りに声を上げる事になった。

「ああだめ……そこ、そこ……うぅ」

 僚の腰ががくがくと弾む。ここが弱いのはもう知っているのだと神取は口端で笑い、彼がそこと繰り返す先端を、舌先で嫌というほどくじった。そうしながら、ぽてりと重たくなった袋を撫で回して刺激を与え、絶頂へと押し上げる。
 彼を味わうまで、それほどかからなかった。弾むような高い声が一転して低い呻きに変わり、もうすぐかと思うと同時に、口の中に熱いものが溢れた。
 びくびくとわななきながら白液を放つ僚のそれをしっかり咥えたまま、神取は喉を鳴らした。最後の一滴までしっかり飲み込み、ゆっくり顔を離す。
 思い出したように途切れ途切れに僚の身体がびくりと痙攣する。なんて可愛らしい反応だろうと、神取は身体を起こしじっくり眺めた。
 うっすら汗ばみ、息も荒く、目を閉じて横たわる姿はとても美しかった。半ば萎え、起ちかけている下腹も淫らでいい。余韻に浸っているのか、二度ほど、びくびくとわななきを放った。視線を感じ取って反応したような錯覚に見舞われる。もしかしたら、このまま見続けるだけで射精するかもしれない。そんな馬鹿げた妄想を愉しんでいると、少しかすれた声が聞こえてきた。

「おれも……する」

 はっと目を移すと、こちらを探してもがく僚の姿があった。すぐさま手を伸ばして支え、抱きとめる。
 僚はその腕から辿って、目を瞑ったまま男の下腹に顔を埋めた。指先の感触を頼りにせっかちにベルトを引き抜き、緩め、下着の奥にいるそれを暴く。
 僚の勢いに圧倒され、思わず腰が引けた己に神取は密かに笑った。すぐに、緩めていた唇を引き結ぶ。僚の薄い皮膚が、自身に触れてきたのだ。軽い口付けが繰り返される。むず痒いような感触、熱、それに加え僚のうっとりとした顔に、腹の底からぞくぞくと疼きが込み上げてくる。神取はそっとため息をもらした。

「ああ、そう……」
「気持ちいい?」
「ああとても……だからもっとしてくれるかい」
「っ……」

 僚は応える代わりにまた飲み込み、男の反応が特にいい箇所を狙って舌を使った。目を閉じているからか、殊更耳を澄ませなくてもよく聞こえた。空気の揺れ、ほんのわずかな息遣いさえも聞き取ろうと、僚は熱中した。
 付け根の辺りを摘まんで扱きながら、頭を動かす。
 たちまち男のそれは口に含み切れないほど成長し、圧倒してきた。窒息しそうになる、それがたまらなく気持ちいい。この硬く逞しいもので奥を突いてもらえたら、どんなに快いだろう。
 早く欲しい。早く。
 ふと息苦しさを感じ、僚は反射的に口を離した。離そうとした。その直前、男に後頭部を押さえ込まれ阻止される。そのまま緩く喉奥をつつかれ、苦しさに涙が滲む。

「んっ……んむ」

 咄嗟に抵抗した手から力を抜き、僚は男が満足するまで、同じ姿勢でじっと耐えた。
 小鼻を膨らませ必死に息を継ぐ。まるで足りず段々身体全体が痺れてくるが、男の手はまだ緩まない。まだ許されないと悲しさが過ぎるも、それすら僚には快感だった。こんな風に扱われる自分が、たまらなく心地良い。耳にする男の息遣いがどれだけ興奮しているか聞くだけで、自分もいってしまいそうになる。
 本当に内股が引き攣っていた。こんな目にあわされてむしろ興奮するなんて、どれだけ変態なんだ。嗚呼おかしくて笑ってしまいそうだ。
 眦から一粒、涙が零れた。
 そこでようやく解放される。
 僚は思い切り息を吸い込み、咳込んで、胸を喘がせた。ほら、まだ余裕があった。憎たらしいが、見極める目は確かだ。男に任せておけば安全なのだ。
 だからもっと、好きなようにこの身体を扱ってほしい。
 あんたのものだって、もっと思わせてほしい。
 疲れた身体を元に戻そうと呼吸を繰り返していると、男に抱き寄せられる。僚はおずおずと、遠慮がちに甘えて腕を回した。

「もっとしっかり抱いて」
「……ん」

 肩に頭を乗せ、僚はもたれかかった。
 神取は腰を上げさせ、後ろにあてがった。

「あっ……」

 とうとう入れてもらえるのだと、僚は震えが止まらなかった。

「もう見ていい? 目を開けていい?」

 肩にしがみ付いてねだる。
 神取は応えず、やや強引に僚の後孔を抉じ開けた。

 

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