Dominance&Submission

おかわりはいかが

 

 

 

 

 

「あ、あぁ…あは……おくが」
「そう、奥まで開いたね……わかるかい」

 ゆっくり腰をうねらすと、僚は何度も頷きながら腹部を忙しなく震わせ喘いだ。

「熱くて柔らかくて、最高だよ」
「あ、あっ……鷹久」

 じっくり指でほぐしたが、やはり慣れるまでは少しかかる。ようやく僚の眉根から力が抜けたのを見届けると、神取は二度、三度、内部の締め付けを愉しむように腰を前後させた。もれ出る声が強張っていないのを聞き取ってから、本格的に貪る。

「や、あ…あぁ…こすれ、て……ああぁ――」

 少しずつ速まっていく動きに、僚は間延びした嬌声を放って応えた。
 神取は覆いかぶさってしっかり抱きしめると、腰を打ち付けながら僚に接吻した。

「ん、んふっ…あぁ……んむぅ」

 絶え間なく送り込まれる肉の快感に悶えながらも、僚は懸命にキスに応えた。声を出して逃す事が出来ないせいで、ひどく息苦しかった。それでもキスをやめない。男の舌や唇に吸い付くのをやめられない。

「や、あぅ……んんっむ、……んんん!」

 男のものが最奥に届く度、口から恥ずかしい声を溢れさせてしまう自分に悶えながらも、僚はキスを続けた。舐めるのが、舐められるのが気持ち良くてたまらない。いつまでも浸って、やめたくない。
 しかしいよいよ胸が破れそうになり、僚は半ば無意識に顔を振りほどいた。
 自分に焦れたように顔を歪める僚に口端で笑い、神取は乱れた髪をすいてやった。

「ひっ……いい、おく…おく気持ちいい」

 僚は男の腰に手を伸ばし、力強く抉ってくる動きに酔い痴れた。
 神取は胸に手のひらを這わせ、少し汗ばんだ感触を楽しんでから、膨れた乳首を摘まんだ。刺激と同時に、後ろがきゅっと後ろが締まる。僚の口からも、相応の可愛い悲鳴が上がる。

「本当に好きだね」
「や、あ……りょうほう、は……あぁ」
「気持ちいい?」
「んぅ――!」

 指の力がほんの少し強まる。強烈な愉悦に晒され、僚は首を振りたくって悦んだ。癖のある黒髪を乱し、激しく身悶える。

「一緒にされるのが好きだろう」

 神取は小刻みに奥を突きながら、乳首をこりこりと転がした。

「は、はぁう……だめぇ」

 うろたえた声をあげ、僚は慌てて手を掴んだ。
 引きはがそうと抵抗する手を掴み、神取は頭上へと押しやって接吻した。のたうつ身体を組み敷き、より激しく腰を打ち込む。

「ん――! んん――!」

 奥を抉られながらいやらしいキスを寄越され、僚はびくびくと身を震わせた。脳天がびりびりと痺れて、暴れずにいられない。押さえ付けられ不自由な身をよじりながら、ぎゅっと男の手を握り締める。
 しっとり汗ばんだ手のひらが強く縋り付いてくるのに、神取は喉が震える思いであった。よりきつく押さえ付け、そのまま顔をずらして首筋に何度もキスした後、乳首を唇ではさむ。

「あぁ、んっ……」

 たちまちもれる湿った声に聞き惚れ、舐め転がしながら大きな動きで最奥を穿った。

「だめ…深い、あぁ……も、いく、いく!」

 低く呻き、僚は責め続けられる腰を慄かせた。胸の左右の一点を、舌が交互に舐めてくる。じんじんと痺れるような愉悦が沁み込み広がって、腰の奥から送り込まれる強烈な快感と混ざり合い身体を絶頂へと引き上げる。
 きゅうきゅうとまとわりついてくる熱い内襞に喉を鳴らし、神取は焦らさず追い上げた。

「いきなさい……見ていてあげるよ」

 すぐ真上で、甘い低音がそう囁く。僚ははっと目を見開いた後、きつく眇め、右へ左へ顔を振りたくった。身体じゅうのどこも、どんな瞬間の顔も、全て知られているのに、改めて言われると恥ずかしさに目が潤む。
 手で隠したかったが、男に押さえ付けられ叶わない。隠せないのだと意識すると余計快感が増し、膨れ上がって、そして弾けた。

「やだ、だめ……」
「駄目じゃない……好きなここをたくさん――」
「ああだめっ…そこ、いい……いくいく――あうぅ」

 男に見守られる中、僚は食いしばった口から呻きを放ちながら絶頂を迎えた。目を開けていても見える真っ白な瞬間に、束の間意識を持っていかれる。

「くぅ……う」

 熱い白濁を噴き出すとともに、僚の狭い肉が、射精を促すように絞り込んでくる。神取はため息を零し、今まさに達して震える内奥を己のもので力強くかき回した。

「ああ……いいね。もっとよくしてあげるよ」
「やだ、まって――あぁ! すぐはだめ――!」

 うろたえ暴れる肢体を押さえ込み、神取は一層激しく腰を打ち込んだ。
 いやだ、待ってとうろたえた声をうっとり聞きながら、音がするほど突き込む。
 容赦なく揺さぶってくる男にきつく顔を歪め、僚は何度も叫びを上げた。苦痛を帯びながらも、芯には妖しい色気を含んだ声が、神取を魅了する。

「ああ…いい顔、いい声だ」
「だめ、そんなの……またいく……すぐ…ああぁ!」
「いいよ、何度でもいくといい」
 たっぷりと満足させてあげよう

 神取は薄く笑い、叫ぶ合間に必死に息を継ぐ僚の唇に接吻した。わざと卑猥な音を立てて舌を貪ると、喘ぎながらも僚も応えてきた。休みなく貪られるつらさに泣きじゃくりながらも、健気に応えてくれる彼が愛しくてたまらない。
 強すぎる刺激に身体が逃げがちになるが、本当はこういう扱いを望んでいる。こうしてきつく支配されるのが好きな彼。自分もまた、こうして支配する…されるのが好き。こちらだけが一方的に押し付けているようで、その実彼に操られているのだ。でもそれも、彼だけのわがままではない。
 お互いが絶妙に絡み合っているからこそたどり着けるここに、神取は身体の芯から喜んだ。

「ああっ……いく――!」

 ひと際大きな声を上げ、僚は身を強張らせた。射精の痙攣が、己が貫いている内側にまで伝わってくる。奥まで響いてくるわななきに、神取は喉を震わせた。
 僚はぜいぜいと胸を喘がせ、立て続けに迎えた絶頂に放心した。
 少し息が落ち着くまで、神取はぴったり肌を合わせたまま制止した。
 今すぐ、この痙攣が続いている間に熱いものをぶちまけたい。泣き叫ぶ彼を押さえ付けてもっと泣かせて、何度でも注ぎたい。
 なにせ彼の上げる声は絶品だから、何度でも聞きたくなる。
 表情もたまらない。今は絶頂の余韻に酔って、どこかをふわふわと漂っているようだ。その顔を己のもので慄かせて、散々に涙を搾り取りたい。
 しかし神取はそうはせず、しっとりと汗ばんだ身体を抱きしめ、口付けた。触れるだけの接触だが、むず痒いのか、僚の息遣いが微妙に変化する。それにともない、ぼんやりと潤んでいた瞳がこちらを見る。
 内部からいくらか強張りが抜けていく。
 神取は目を見合わせて微笑し、ゆっくりとした動きで僚の孔を味わった。
 たちまち僚の口から、熱い喘ぎが零れた。

「あ、あ…あっ……ああ、きもちいい」
「君の中はとても熱くて……きもちいいよ」
「あぁ…おく、いい……」

 うっとりとした響きが、男の背筋をくすぐる。
 とろんと緩んだ顔で嬉しそうに言われては、もっと悦ばせたくなるもの。神取は一回ずつ根元まで押し込み、更に腰を使って奥に届かせ、少しでも長く彼の顔が見られるよう動いた。

「ああ好き……たかひさ」

 僚はだるい手を持ち上げ、零れた涙を乱暴に拭った。
 神取はそれを途中でやめさせ、涙の後に接吻を繰り返し、眦に残った涙をそっと吸った。
 僚は目を瞑り、くすぐったさにふうと笑う息をもらした。だのに何だか胸がいっぱいになって、また泣きたくなる。
 男は、何度でも涙を飲んでくれるかな。

「あぁあ――いく、いきそう、もう……」
「いいね……身体を楽にして」
「ああ鷹久……いっちゃう」
「いいよ、しっかり抱いて……そう」

 僚は言われるまま男の背中にしがみ付いた。
 ゆったり前後するだけの、波に揺られるような…少し物足りなさを感じる行為なのに、もう何度も、身体の奥の方で熱い極まりを迎えていた。射精なしの、小波のような絶頂が、何度も襲ってきている。数えきれないほど真っ白な瞬間に放り込まれ、出られないまま、また眩しさに目がくらむ。

「だめぇ…も……うごくな」

 僚はひっひっと胸を喘がせ、男の身体を押しやろうと手を突っ張らせた。
 神取はそれをやすやすと振り払い、自分の首に回させ抱きしめた。それでも僚は抵抗を続けたが、繰り返し襲う絶頂に疲れ、思うように力が入らず、結局は男に組み敷かれた。

「まだ満足してないだろう?」
「やだ……もうだめになる」

 おかしくなると僚は弱々しくすすり泣き、大きく広げられた足をばたつかせた。
 神取はそれを、脇腹に手のひらを滑らせて声を上げさせる事で封じ、うろたえている隙を突いて僚の中心をやんわりと手の中に収めた。

「ほら……まだこんなに」
「い、やっ……さわるな――あぁ!」
「まだ足りないと言ってるね」
「ちがう、から……ああぁ!」

 もがく僚にひと息笑い、神取はゆっくりだった動きをしばし速めて鳴かせ、同時に手中の猛りをねちねちと扱いた。

「ああ、もう……もっ……い、く……いくいく、また出るぅ」

 とろけきった声を上げ、僚はびくびくと震えを放った。
 少し薄まった精液を搾り取り、神取は一旦身体を離した。

「あ……やだ」

 足りないと意味を含んで紡いだ言葉は無意識だったのか、発してから僚ははっと眼差しを強張らせた。

「や……ちがう」

 うろたえる様に神取はひと息笑い、欲張りな恋人の頬に接吻した。もちろん、これで終わりではない。終わらせない、満足させるのはこれから。
 すっかり力の抜けた僚の身体を四つん這いに誘導すると、神取は再び奥に潜り込ませた。

「あぁああ……」

 緩んだそこにずぶずぶと入り込んでくる逞しい男のものに、僚は長いため息をもらして悦んだ。息遣いの影響で、男を包み込む内襞が複雑に蠢き愛撫する。

「いいよ…そうやって、もっと締め付けて」
「ちがう、おれじゃ……んん」
「君の身体だろう」

 くすくすと笑いながら軽く突かれ、僚は喉を震わせた。首を曲げて睨み付け、うるさいと呟く。自分の身体だが、そんな奥の方は自分のあずかり知らぬもので、意識して出来る事なんてわずかなものだ。僚はもう一度うるさいと唇を動かし、背後の男に唇をかんだ。
 神取は小さくため息をはいた。天の邪鬼な態度を見せてくる彼が、無性に愛しいからだ。無防備な姿を晒し、全てを委ねてくれる彼が本当に――。
 もう一度、長く細く息を吐き出し、神取は眼下の少年に視線を注いだ。身体を屈め、背中にあちこちキスをする。汗ばんで匂いが増し、どこに口付けてもうっとりする。脳天がじんじんと痺れてどうにかなりそうだ。彼がいつも気にしているいくつかの傷を一つひとつ辿り、一つひとつに丁寧に唇を押し付け、慈しむ。
 途中、僚は居心地悪そうに身じろいだ。何をしているのか気付き、彼の事だ、申し訳なさに縮こまってしまったのだろう。
 うずくまったままじっとする僚をしっかりと抱きしめる。
 言葉が、気持ちが自然と込み上げてきた。

「好きだよ」
「っ……俺も」

 強く抱きしめてくる男の腕をしっかと掴み、僚は一杯に首を曲げた。キスをせがんで見上げると、丁度目が合い、望みが伝わる。
 ぺちゃぺちゃと舌を絡めてお喋りしながら、神取はゆっくり僚の身体を揺さぶった。

「あ、んん……あ、あ、あ、あぁっあぁ!」
「ここがいい?」

 聞きながら奥の方をぐりぐりと捏ねると、くうくうと鼻を鳴らして僚は頷いた。

「ああぁ、好き、そこ……そこいいっ」
「もっとしてあげるよ。いくらでも」
「たくさん……ああっだめ、感じすぎて……あぁう」
「ほら、もっと声を出して」
「ああぁ……たかひさ、そこ…そこだめぇ」
「ああ、いいよ…たまらない」
「あああ……ああ、たかひさ、あぁ――」

 閉じきれなくなった口から涎が垂れる。僚は慌てて拭い、手で押さえてシーツに顔を埋めた。後ろから絶え間なく送り込まれるすさまじいほどの愉悦に、震えが止まらない。男の熱く硬い滾りが、内部の弱い一点を狙い定めてごりごりと擦ってくる。痛みに届く一歩手前の、無性にむず痒く感じる強烈な快感に、身体がどんどんと高みに持ち上げられていく。

「もうだめ…もうだめ……とけちゃう……ああぁ!」

 男と繋がったところだけでなく、身体全体、指の先までとろとろに溶けてしまったように思える。
 僚はとめどなく喘ぎを紡ぎ、上手く喋れなくなった口でどうにか男の名を呼ぶ。

「……僚」

 神取は喉を震わせた。すっかりとろけ、濡れた声で名前を呼ばれる度、彼の熱い手で身体に撫でられる錯覚に見舞われる。声と同じだけの、沢山の手が、胸や腰や背中を覆い、全身を熱くさせる。神取は喘ぐように息を吸った。彼を抱いているのは自分なのに、意識の深い場所では、自分が彼に抱かれている。飲み込まれている。
 神取はより深く溺れて、無我夢中で僚を貪った。彼同様、自分も限界が近い。これ以上先送りにするのは無理のようだ。このまま一気に駆け抜けてしまいたいのを堪え、彼と抱き合う形で繋がる。

「鷹久……」

 緩んだ顔で、熱っぽく瞳を潤ませて、名前を呼んでくる。汗に濡れた腕で抱きしめられ、しがみつかれ、それだけで限界を迎える。
 神取は己の欲望を果たすべく、僚に叩き付けた。

「あ、あ、あっ…も、もう、いく……?」

 激しく揺さぶってくる男を抱きしめ、僚は喘ぎ喘ぎ聞いた。わかる、自分の中で一段膨らみを増した男の滾りに、身体がおののく。

「中に……なかに、おれの」
「いいかい……?」
「い、い…ああ、気持ち良い……いいから、中に」

 しきりに熱い吐息をもらしながら、僚はがくがくと頷いた。腰が抜けそうなほど激しい、単調な突きに、神経が擦り切れそうになる。あまりの快さにもう何も考えられない。真っ白な瞬間がもうすぐそこまで迫っている。

「鷹久……そこいい…いい、もっと、くる…出る……ああぁ!」

 僚はより一層力を込めて男に抱き付き、目を眩ませた。ひと息遅れて、身体の奥に男の熱いものがぶちまけられる。最奥で震える熱塊に小刻みに震え、僚は互いの絶頂に深く酔った。
 引き攣る喉で、懸命に息を吸う。

「すき……すき」

 伝えると涙がだらだらと溢れてきた。自分の感情がわからず困惑する。泣くつもりなどないのに止まらない涙に焦れる僚をしっかり抱きしめ、神取は愛してると耳元に告げた。

「あぁ――……」

 微かな吐息と共に、まるで花が咲くような笑顔が零れた。

 ――もっと食べて

 朦朧とする意識の中、僚は呟く。
 神取は抱き直し、もちろんだと僚を見つめた。
 気付けば互いの顔に、同じ笑みが浮かんでいた。
 束の間静まり返った部屋にまた、甘い喘ぎや悲鳴が満ちてゆく。
 神取は最後の最後まで僚を味わい、貪り尽くした。

 

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