Dominance&Submission

おかわりはいかが

 

 

 

 

 

 そろそろ五時の鐘が鳴り出す頃。空は、何とも表しがたい色に染まり、まるで太陽の行くのを惜しんでいるようだった。
 僚はその複雑に折り重なった色の具合をバルコニーに出て見渡しながら、ガラスの器に盛られたおかわりのジェラートを少しずつ味わった。
 今度はバニラとカシス。
 夕暮れ時の涼しい風が、僚の少し癖のある黒髪をわずかに揺らす。
 シャワーを浴びてさっぱりした後の涼風は格別の気持ち良さで、舌に感じるジェラートの濃厚な甘酸っぱさと相まって、僚は極上の笑みを浮かべた。

「美味しい、ありがとね」

 隣に寄り添うように立った男に、にこにこと笑いかける。
 神取は曖昧な微笑で応え、僚と同じ方へ目をやった。
 まいった。
 心の中で、顔を覆う。
 この後は彼をアパートへ安全に送り届ける予定だが、その前に、自分も「おかわり」をしたくなってしまったのだ。それは、次の楽しみに取っておこう、今は彼の喜ぶ顔で満たそう。

「ああ、ごちそうさまでした」

 心底満足したと、僚ははつらつとした声で言った。
 神取には何よりのご馳走であった。空になった器を受け取り、キッチンへと向かう。僚はその後に続いた。
 片付けは、帰ってきてからにしよう。

「では、そろそろ送ろうか」
「うん。……あ」
「どうした――!」

 何か忘れていた事を不意に思い出した、そんな声を上げた僚に顔を向けると同時に、唇が塞がれた。

「今の分、一緒に食べるの忘れてたから」

 自分だけ食べて悪かった、このキスでせめてかけらだけでも味わってほしいと、どこかばつが悪そうに笑う僚に、神取は言葉も出なかった。
 まったく、これだから。
 込み上げてくる愛しさに頬が緩む。

「あ……おかわり、いる?」

 今のでは足りなかったか…黙っているのをそう勘違いした僚に、神取は笑みを零した。

「では、いただこうか」

 ほっとした顔で笑い、どうぞと小さく腕を広げる僚を抱き寄せ、神取は唇に触れた。
 二人分の笑い声が零れた。

 

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