Dominance&Submission

いい勝負

 

 

 

 

 

「では、いい声を聞かせて」

 神取は薄く笑い、僚の尻から飛び出た玩具を握りなおした。
 あ、ともれた恥ずかしいほど高い声に、僚は慌てて口を噤んだ。玩具で内部を緩く捏ねられ、感じる箇所を抉られ、堪えても息が跳ねる。こんな玩具でなく男の硬いもので自分を圧倒してほしいと強く願うが、じれったいほどゆっくり刺激を与えられると、揺らいでいった。
 気持ちよくなれれば何でもいいのかと、浅ましい己の身体に泣きたくなる。

「や、あ……いや…あ、あ、ああぁ」

 しかしそれも、男の手が速まるにつれ薄れていく。後孔を蹂躙され、腰の奥から甘い痺れが込み上げてくる。それは体中に広がり、他の感じる箇所を刺激した。触られてもいないのに胸の一点ずつが痛いほど疼き、まるで肌の下で何かが這っているかのような脈動に僚は湿った吐息をもらした。
 熱で緩まったローションが、かき回される度ねちねちといやらしい音を響かせた。そこら中に飛び散る卑猥な音に僚は首を振りたて、追い払おうと試みた。しかしどうしても抗えず、腰の奥から込み上げてくる愉悦を素直に口から零した。
 少し高い、しっとりと濡れた喘ぎが絶え間なく紡がれる。
 神取は満足げに微笑んだ。

「気持ちいいかい」
「う、う……あぁ、いい、いい……気持ちいい」

 今にも泣きそうに顔を歪め、僚は緩慢に身悶えた。内部に潜む弱い個所を余さず責められ、身体が瞬く間に上り詰める。

「あ、だめ…だめ――いく、いく!」

 一気に持ち上げられる錯覚に目を眩ませると同時に、腰の奥で熱いものが一気に弾けた。視界がちかちかと白く閃き、気付けば白濁を噴き出していた。
 びくびくと震える性器の先端から、白い涎がたらりと垂れる。神取は一旦性具から手を離し、へその辺りに散らばった白液を指でなすった。

「あ……」

 なぞる指に腹部を緊張させ、僚はかすれた声をもらした。ぼんやり霞む目でのろのろと男を見上げると、丁度目が合った。優しく微笑む男に、半ば無意識に笑みを浮かべる。その顔がぎくりと強張った。肌を撫でる男の手が、再び性具を握ったからだ。

「いやっ…も……」

 舌がもつれ上手く言葉にならない。僚はうろたえた様子でもがいた。
 達したばかりの身体の抵抗は緩慢で、神取は難なく組み敷いて封じ、再び内部に刺激を送り始めた。
 僚の鋭い悲鳴が弾ける。

「もういった!」
「一度とは言っていないよ」

 楽しげに笑う支配者に、僚はきつく眉根を寄せた。涙が滲む目を何度も瞬き、抵抗の力を奪う甘く毒々しい愉悦に何とか逆らおうとした。しかし、これまで何度もこうして男に抱かれ、教えられ、すっかり馴染んだ身体は、僚の意思に反して快楽を貪り次の高みを欲した。
 力の抜けた身体は男の手によってうつ伏せに這わされ、その場に押さえ込まれる。
 浅ましい恰好で嬲られ、僚は啜り泣きに身を震わせた。

「やだ、そこやだ……いやだ」
「中は喜んでいるようだよ」
「ちがう……あぁっ!」

 否定の声を打ち消すように浅い部分を捏ねられ、たまらずに僚は大きく頭を仰け反らせた。達して鋭敏になった部分を絶妙な力で擦られ、腰が抜けそうになる。息苦しさに懸命に喘いでいると、再び腰の奥が熱くなる感触に見舞われた。もうすぐそこまで迫った絶頂に、僚は激しく首を振りたくった。力任せにシーツを握り込み、喉の奥で唸る。
 神取は楽しげに口端を緩め、一直線に僚を追い詰めた。

「あうぅ……ああぁ――!」

 だらしない喘ぎをもらし、僚はびくびくと四肢を震わせた。
 不規則に引き攣る腰を満足げに見つめ、神取は更に奥を穿った。達した直後は内部がきつく狭まり、少し力が要った。そこを強引に開くのがまた楽しい。

「い、いや……あぅう!」

 聞く者の興奮を掻き立てる甘い声が、僚の口から零れる。神取は半ば無意識にため息をもらした。
 強すぎる愉悦に喘ぎ、のたうつ身体を押さえ付けてさらなる快楽に溺れさせるのは、本当に楽しい。
 彼の身を襲う快楽が途切れぬよう、神取はあちこちに手を這わせ悦ぶ箇所を余さず愛撫した。
 首筋を舐め、耳朶に歯を立てる。乳首を摘まむと、何とも可愛らしいよがり声を上げて僚は身悶えた。引っ張るようにして刺激すると、よほどたまらないのか自ら手に押し付けてきた。
 僚は何度も喘ぎ、大きく息を吸い込んだ。休みなく内奥を捏ねられ、乳首を優しく扱かれ、繋がったかのような強烈な快感にどこまでも身体が溺れていく。溺れ切ってしまいたいと思う一方で、どうなってしまうのかと怖くもあった。必死に踏みとどまり、首を振る。

「ああだめ…おねがい、すこし……あ、あぁ…すこしまって」

 しかし男は楽しげに笑うばかりで手を止めない。
 感じる箇所を執拗に擦られ、抉られ、強制的に絶頂へと押し上げられる。
 やがて、何かを堪えるようだった僚の声が艶めいたそれに変わり、段々と上ずっていった。

「ほら、よくなってきたね」
「ん、ん……あっ…あぁ……そこ」
「ああ、ここが好きだね」
「あ――! あああ、いい、気持ちいい! ああ――たかひさ」

 素直に反応し、僚は自ら何度も後孔を締め付けた。男の手の動きに合わせて尻を振り、より感じるところに当たるよう腰をうねらせる。

「もっとよくなりたい?」
「うん……うん」

 貪欲な様に神取は喜び、そこで責める手を緩めた。

「あ…いや――」

 目前に迫ったものを取り上げられ、僚はぐすぐすと鼻を鳴らした。どうして意地悪をするのかと、男に首を曲げてねだる。

「……おねがい」

 いつの間にか零れていた頬の涙を乱暴に拭い、僚は何度も目を瞬いた。内股が痛く引き攣るほど張り詰めた己の下腹と男の顔を順繰りに見つめ、泣きそうに顔を歪める。

「いきたいなら、自分でしてごらん」
「……え」
「ほら、手をここへ」

 神取は右手を掴み、誘導した。僚の瞳が、思案の間しばし小刻みに揺れる。伺うように見上げてくる不安げな眼差しに神取は微笑み、促した。

「さあ、好きなように動かして」
「う、ぅ……」

 僚は指に触れる性具を自ら掴むと、もう一秒も我慢出来ないほど昂った身体を慰めにかかった。ぐいぐいと内部をかき回し、熱い吐息をもらして耽る。
 眼前で淫らに遊ぶ少年に、神取はうっとりと見入った。恥ずかしそうに顔を歪めているのに、視線は決して外さない。浅ましい姿を見せつける事に悦びすら感じているようだった。嗚呼彼と遊ぶのは本当にたまらない。
 夢中で遊ぶ少年の背に覆いかぶさるようにして、神取は汗ばんだ肌に唇を押し付けた。軽い接触にも僚は甘い声で応え、嬉しそうに身震いを放った。

「あ、も……もう」
「もういきそう?」

 聞くと、僚はシーツに擦り付けるようにして頷いた。こちらを向いた顔はだらしなく緩み、涎を垂らさんばかりに悦んでいた。

「た、たかひさ…いく、いく……あぁあ!」

 射精と同時に声を絞り出し、僚はきつく身を強張らせた。硬直したまま、手だけを動かし、満足するまで中を捏ねる。やがて気が済んだのか、僚は力の抜けた手をシーツに落とした。時折不規則に腰を跳ねさせ、針の振り切れた瞬間に浸る。
 神取はにやりと笑うと、玩具を掴み持ち上げるようにして動かした。内襞が絞り込むように蠢いているのが伝わってくる。

「……あぁ!」

 一拍遅れて、僚の口から叫びが迸った。うろたえ身悶える様に興奮が募る。神取はごくりと喉を鳴らし、執拗に内部を蹂躙した。

「やだ…あっ、あ、ああぁ!」
「逃げても無駄だよ」
「抜いてっ…もうやだ!」
「まだいきたいだろう?」

 こんなものでは、物足りないはずだ。
 男の手が腕や腰を撫でさする。僚は激しく髪を振り乱し、はあはあと胸を喘がせた。

「ひっ…あ、あっ……中が」
「中が?」
「だめ、お…おかしく……」
「おかしくなるほど、気持ちいい?」
「あぁっ…たかひさ――だめ!」

 もう許して、もうだめ。
 神取は泣き叫ぶ声を聞き入れず、しばらくの間激しい抜き差しを繰り返した。そうしながら、下腹に手を伸ばして様子を確かめる。繰り返し放った後だが、僚のそこは硬さを保ち先走りを滴らせていた。

「さ、わるな……」

 咳込むように呻き、僚はきつく顔を歪ませた。
 構わず神取は硬く張り詰めた竿の具合を確かめるように指を這わせた。たちまち僚の口から、熱く湿った喘ぎがほろほろと零れた。自ら擦り付けるように腰を振りたてている。
 好ましい反応に喜び、神取は手を離した。

「まだまだ、いけそうじゃないか」
「あぁ……」

 僚は切なげに喘いだ。男の言う通りであった。呼吸もままならないほど責め立てられても、身体はしっかり応えて、次の刺激を待ち望む。そういう風に躾けられた。自分がどれだけ貪欲かを思い知らされ、胸が苦しくなる。

「……いやだ」

 自分が怖くなるようで、男に縋る。
 神取は後ろを弄る手を緩め、弱々しくしゃくり上げる少年の頭をそっと撫でた。乱れていた呼吸が鎮まるまで待って、口を開く。

「本当に嫌な時はなんて言えばいいか、知っているね」

 僚は必死に息を飲み込み、悔しげに唇を引き結んだ。しばし男を見つめ、目を逸らす。
 思った通りの反応は思った以上に可愛らしく、神取は頬を緩めた。

「うっ……」

 男の手中にある自分が悔しくてたまらないと、僚は歯噛みした。こんなに追い詰めておいて、突き放そうとするなんて、嫌な奴だ。でも…もっともっと、こうして自分を支配してほしい。気付けば再び男の顔を見上げていた。悠然と微笑む支配者にうっとりと見惚れる。

「どうする? やめるか、それとも……続けてほしい?」

 神取は手にした玩具をゆっくり引き抜き始めた。

「あ……うぅ」

 徐々に内部から異物が去ってゆく。僚は小さく呻き、追いかけるようにして腰をうねらせた。
 微かな笑い声が聞こえた。

「い……いじわる」

 震える声で僚は呟いた。

「君が本当に喜ぶ事を、しているだけだよ」

 神取は頬を撫でた。汗ばみ、紅潮した頬は見た通り燃えるように熱い。それがたまらなく愛しかった。
 肌に触れる手のひらに顔を摺り寄せ、僚は息を啜った。
 小刻みにわななく唇に引き寄せられるようにして、神取は顔を近付けた。そっと塞ぐと、僚は積極的に舌を吸い、口付けてきた。
 二人はしばしの間、甘いキスに溺れた。

 

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