Dominance&Submission

雨とみかん飴とあれ

 

 

 

 

 

 複雑な面持ちで僚は寝室の天井を見つめていた。ちらりと男に目をやると、少し強い顔付きで肌のあちこちに目を走らせている。異常がないか、くまなく確認しているのだ。それは十分わかっているし、自分も心配だからこうしてベッドに横になり自ら服をまくり上げた訳だが、煌々と明るい照明の下いつまでもはだけているのはなんだか間抜けで、恥ずかしさと共にじわじわと笑いが込み上げてくる。

「済まん、傷はないようだが悪かった」

 朝から痛みがあったかと聞かれ、僚は首を振る。今、初めて、触られて初めて気付いたものだ。

「では、じっとしていれば痛みはない?」
「うん、平気」
「そうか」

 険しかった顔をいくらか緩め、神取はまくった裾を元に戻した。僚は起き上がり、こんなの別になんともないと笑いかけた。正直に言うと、残ってて嬉しいと思う。強くされると少しつらいけど、男が愛してくれた証だから平気だ。
 触ってもらえない方が悲しい。

「いつも、痛がるとこ見て喜んでるくせに」
「ああ、だからたまには優しくしてあげたいんだ」
「うそつけ」

 触ってほしくてたまらなくなっている泣き顔を見たいだけだろ…僚は低く抑えた声で男を睨み付けた。

「ばれたか」
「……へんたい」

 尖らせた唇の先で呟く。男は笑って肩を竦めた。その余裕のある笑みを崩せないのが悔しくて、僚はひと睨みくれた後、噛み付くように口付けた。
 身体ごとぶつかったのに男はびくともせず受け止め、時々本当に舌を噛まれても笑って流し、キスを続けた。
 僚はわずかに離れると、唇の上で訴えた。いいから触って。お願い、疼いてたまらない。触ってもらえないと思うと、余計切なさが募って尖る。恥ずかしいが、自分はそういう身体なのだ。
 そうしたのは他でもない男。

「でも駄目だ、今日は他のとこで我慢しなさい。自分で触るのも禁止だ」

 だというのに、冷たく声は放たれる。僚は悲しく縋った。

「そんな……」

 恨みがましい視線をぶつけてくる僚に微笑み、神取は頬に触れた。軽く撫でるが、ふてくされた顔は元に戻らない。こればっかりは聞けないが、彼の顔を見るとどこまでも甘やかしてやりたくなる。いっぱい与えてとろけさせて、極上のもので包み込んでやりたい。その一方で、可愛い泣き顔が見たくてたまらなくなる。
 神取はわずかに目を細めた。

「わがままを言う悪い子には、お仕置きが必要だね」

 耳元で囁かれる低音に、僚は小刻みに瞳を揺らした。身体がぞくりと疼く。

「その後たっぷりご褒美を上げるよ」
 今日頑張ったご褒美をね

 僚は小さく息を飲み込んだ。お仕置き…また、お尻を叩かれるのだろうか。痛い、恥ずかしい目にあわされる。わがままを言った自分が悪い。その罰だ。自分が悪い、けれど嗚呼、身体の奥がじんじんと痺れる。

「さあ、私に言いなさい、僚」

 何を言うべきか、もうわかっているね…そう含む支配者の声に浮かされ、僚は小さく口を開いた。

「お仕置き、して…ください」
「……いい子だ」

 込み上げてくる興奮を脇に従え、神取は支配者の貌で笑った。

 

 

 

 再びベッドに横たわった僚は、先ほどよりもきつい目付きで天井を見つめた。傍には男が立っており、自分の格好を満足そうに見つめている。衣服はすべてはぎ取られ、下着一枚身に着けていない。代わりに、従う者の印である手足の枷と、首輪を巻いている。その格好になった自分を、男はじっくりと見つめた。
 不意に息苦しさを感じ、僚は胸を上下させた。それから、少し首を曲げてベッドに繋がれた両手を見やる。普段は見えない場所に隠されている細めの鎖はベッドの脚から伸びており、今は、手首に巻かれた赤い枷に繋がっていた。長さは十分で、肩の辺りまでは自由に動かせる。きつく引っ張られびくともしないほど拘束されるよりはずっと関節に負担はないが、なまじ余裕がある分もどかしくもあった。
 神取は少年に視線を注いだままゆっくりベッドに腰かけた。
 とうとう動き出した男に引っ張られるようにして、僚ははっと顔を向けた。静かに唇を寄せられ、わずかに息を飲む。重なってくる柔らかな唇に小さく口を開けると、たちまちするりと熱い舌が割り込んできた。背中を抱く事が出来ないもどかしさを、手を握り締める事で抑え、僚は口付けに応えた。交互に、同時に舌を舐め合い、絡ませ、お互いの吐息を飲み込む。
 神取はキスを続けながら、愛しい少年の身体を撫で始めた。

「ん、ん……」

 男の大きな手が髪をすく。いつも変わらず気持ちいい手のひらに喉の奥で笑い、僚は口中の舌を吸った。手を開いては握る。男の手は首筋から肩へ滑り、無防備な脇をくすぐってきた。指先だけでするするとなぞる動きに、くすぐったさと同時にぞくぞくとした妖しい感覚が腰の奥から込み上げてくる。少し切ないような、熱くなるような微妙な接触に僚はびくびくと身を強張らせた。

「……やぁだ」

 訴えても、男は軽く笑うだけでなぞるのをやめなかった。へその辺りの皮膚は、また感じ方が違った。指が触れていると思うだけで、独特のむず痒さはない。けれど、それが胸の辺りに這い上がってくると別だ。胸の左右の一点ずつが次第に敏感になって、見なくてもわかるほど硬く尖っていくのだ。全身の肌が鋭敏になり、感じなかったへその周りまでくすぐったくなって、その状態で触られると他の箇所同様腰の奥が疼いてくるのだ。
 しかし今日は、いつまで待っても欲しい刺激はやってこない。もたらされる事はない。
 男の手は、どこまでも優しい動きで腰や腿の外側を撫でている。
 とうとう我慢しきれなくなり、手に力をこめる。意地悪な鎖は寸前までしか伸びず、あと一歩届かない悔しさを僚に味わわせた。
 始めからわかっていた事だが、堪えきれず喉の奥で呻く。

「っ……」

 もじもじと居心地悪そうに身じろぐ僚にひと息笑い、どうしたと神取はゆったりした声を出した。一旦身体を起こし、恨めしそうに見やってくる顔を見下ろす。

「言ってごらん」

 答えのわかっている疑問を口にする男が憎い。しかし、どんなに睨み付けても手を動かされるだけで視線はほどけ、男が好むような甘い声を出してしまう。耳朶や首筋をねっとり舐められ、鎖骨にキスされると、憎らしさはあっという間に溶けて行ってしまう。

「触って……」

 愚図り、覆いかぶさる男に訴える。触っているだろう、と、肌の上で囁かれ、くすぐってくる吐息に僚はぶるぶると身震いを放った。熱い手のひらが腹を覆う。その手を、もっと上に持ってきてくれたらいいのに。
 でも…と胸の内で思う。でも、こうして制限されるのも気持ちいい。触られるほどに身体がどんどん鋭敏になり、頭がくらくらして止まらない。ぼんやり酔い痴れていると、男の声がした。

「ああ、こんなに腫れて……かわいそうに」

 そらぞらしい言葉を吐く男に、僚は唇を引き結んだ。込み上げる怒りのまま蹴りの一つもくれてやろうかと腹を立てるが、指が欲しいところの横を通り過ぎていくだけで、それどころではなくなってしまう。鼻をぐすぐすとさせながら、僚はじれったく身じろいだ。腰を揺すると、すっかり勃起した下腹が揺れ、引っ張られるようなむず痒さが肌に散った。淡い痺れは四方八方に駆け巡り、しようもなく切ない気分にさせた。
 あの時、声を出すのを我慢出来ていれば。少しくらい痛くたって、男に触ってもらえるならいくらでも我慢出来るのに。

「あぁっ」

 乳首のぎりぎりを唇でくすぐられ、僚は濡れた声をもらした。
 すすり泣きに似た声で震える僚を満足げに見つめながら、神取は用意したローションを手のひらにたっぷり落とした。不満を訴える目で見つめてくる僚に緩く笑いかけ、手にしたローションを下腹にまんべんなく塗り広げる。

「んっ…あぁ!」

 根元から先端にかけて、絶妙な力加減で何度も撫で回され、たまらずに僚は高い声を放った。気付けば男の手の動きに合わせて、腰を蠢かせていた。
 素直な反応を見せる僚に喜び、神取は特に震えが走るくびれや先端を丹念に愛撫した。覆いかぶさり、忙しなく熱い吐息を紡ぐ唇に軽く口付ける。僚はすぐに舌を伸ばして応え、ぴちゃぴちゃと絡め合った。

「あ…きもちいい……」

 うっとりと零れる声に神取は笑み、飽きもせず舌を吸った。そうしながら、愛撫の手をもっと奥へとずらす。

「そこ……!」

 ぬるぬるとした指で窄まりを撫でられ、僚はびくりと腰を引き攣らせた。反射的に閉じかけた足を自ら開き、男に身をゆだねる。

「どうしてほしい?」
「う、あ……」

 ぶるりと僚は身震いを放った。合わせて、指先に感じる窄まりもきゅっと締まる。表面を優しく揉みながら、神取は再度聞いた。

「ん……いじって」
「どんな風に?」
「あぁ……」

 声と同時に耳朶を舐められ、ねっとりと熱い感触に僚はおののいたように声を上げた。引き攣る息を何とか飲み込み、優しくしてほしいと告げる。少しして、細く長い異物がゆっくりと体内に入り込んできた。

「ああ――」

 僚は間延びした声を上げ、緩慢に身悶えた。
 神取は人差し指から始め、内部が馴染んだところで二本に増やし、僚の様子をうかがった。眉根を寄せ、悩ましく喘いでいる様に先を急ぎたくなる。堪えて飲み込み、十分にほぐれたところで三本目を咥えさせた。

「う…ふぅ……」

 僚は腹部を緊張させた。狭い孔を拡げられるのはきついけれど、痛みに届く一歩手前の、ずしんと腰に響き渡る重苦しさがかえって気持ちいい。そんな風に感じてしまう自分が恥ずかしいが、声が止まらない。

「あぁっあ、あ、あっ…こ、これが…お仕置き……?」

 身体全体が甘く痺れて、とろけてしまいそうだった。いつお尻を叩かれるかとびくびくしていた肩から力を抜き、僚は恐る恐る尋ねた。

「そうだよ」

 神取は動かしやすく指を二本にし、吸い付いてくるような内襞の感触を楽しみながら指先で内部をこそいだ。

「あ、やぁ…あ、ああ……」

 たちまち僚の口から、少し高めの、可愛い声が零れる。もっと聞こうと、根元まで埋め込み更に押し上げ、親指でぽってりと膨れた陰嚢を押して遊ぶ。

「ああだめ……あぁっ」
「だめ? 気持ちいいだろう」
「……うん。うん、気持ちいい……あ、そこ、そこいい……」
「好きなところだね。もっとよくしてあげるよ」

 優しい声音が本当に心地良い。僚はうっとりと酔い痴れ、望むままに身体を快楽で包んでくれる指に悶え、よがり、浸った。
 後ろを優しくほぐされ、いやらしい音が響いてくるにつれ、乳首を触ってほしくてたまらなくなってゆく。忙しなく息をつきながら、僚はぼんやりと思った。早く触ってくれたらいいのに。いつもの、あの繋がって互いに高める強烈な快感を与えてほしい。
 そこまで思ったところではっと目を瞬く。

「あぁ!」

 触ってもらえないのだと認識した途端、たまらなくなって僚は叫んだ。直後神取が唇を重ねる。僚は喉の奥で抗議めいた呻きを上げたが、どこまでも優しい舌の動きにすぐにとろけてしまう。それが悔しいと思いつつも、僚はキスに溺れた。

「うあぁ……!」

 男の手の動きが、急に速められた。キスは少しもどかしいくらいゆっくりなのに、粘膜をかき回す手は大きく激しく、落差に目が眩む。翻弄され、あっという間に僚は絶頂へと上り詰めた。切羽詰まった浅い呼吸、狭まる後孔に感じ取った神取は、一気に追い詰めた。

「いく……あぁ――!」

 口の中で僚の叫びが弾ける。心地良く聞きながら、神取は三本目の指を咥えさせた。きゅうきゅうと痙攣しながら締め付けてくる後孔に指をこじ入れると、僚はうろたえた声を上げて身悶えた。

「あ、いや……!」
「大丈夫、ほら…入れるよ」
「あぅ、あぁ…まって……」

 濡れた声で引き止める僚に薄く笑い、神取は力強く指で抉った。高く叫び、僚は大きく頭を反らせた。嬲られる腰をくねらせ、休まず責めてくる男の指に嬌声をまき散らす。

「ほら、わかるかい」
「あ…あ……たかひさ」

 僚は潤んだ目をしきりに瞬き、間近に見つめてくる男を見つめた。神取もしばし視線を絡めた後、彼の下腹へ目を向けた。先端から白い涎を垂らして彼の腹を汚し、放っても尚硬いままびくびくと震えている。内側からの刺激を喜んでいるのか、それとも物足りなくてもっとよこせと不満を訴えているのか。

「ひいぃっ……!」

 神取は埋め込んだ指で上方をぐりぐりと抉ってみた。たちまち僚は腰を引き攣らせ、口から甘い吐息をもらした。あわせてペニスもふらふら揺れた。

「一度いったくらいでは、満足しないだろう」

 怯えがちに震える唇に軽く口付け、神取は顔を下方へずらした。

「う、あ、だめ…あぁ……」

 身体の中心に沿って唇が触れてくる。熱い唇が押し付けられる度僚は喉を震わせ、男の愛撫に素直に応えた。何をするつもりなのかわかり、身体をくねらせて逃げようとするが、両手を拘束されている上、後ろに埋め込まれた指の激しい動きに翻弄され、思うように動けなかった。腰から下がひどく熱く、甘く痺れてたまらない。

「んん――!」

 とうとう、男の口内に包み込まれる。とろけそうな快感に僚はきつく仰け反った。

「あぁ……あつい…はぁ…あ……きもちいい」

 うっとりとした甘い声に気を良くし、神取は喉奥まで受け入れた熱茎を強く吸った。同時に後ろの指をくねらせ、内部に隠された快楽の芯を指先で刺激する。
 僚はシーツに擦り付けるようにして身じろいだ。

「あ――! だめ、だめぇ……また……!」
「遠慮せずいきなさい……ほら」

 唾液と先走りに濡れきつく反り返った僚の性器をくちゅくちゅと上下に扱き、神取は焦らさず追い詰めた。手を動かしながら先端に吸い付く。ああ、と僚の口から高い悲鳴が上がるのを楽しげに聞きながら、何度舐め取っても滲んでくる透明な蜜を啜る。

「だめ……いきそ、いきそう……!」

 低く、切羽詰まった声。口の中で熱茎がぐぐっと膨らみを増すのを感じ、神取はより強く性器を愛撫した。

「っ……!」

 ひゅうっと息を飲む音に続いて、口中に熱いものが満ちる。神取はむせないよう呼吸を合わせて受け止め、二度、三度と舌を打って震える性器から溢れる白液を残らず飲み込んだ。

「ああ、あ……」

 飲み込む動きは複雑で、舌や喉に性器を締め付けられ僚は切なげに泣いた。震えが止まらなくなる。意識して、また無意識に、後ろに飲み込んだ男の指を締め付けた。その刺激で僚は更に喉を震わせた。
 指をきつく食い締めてくる後孔に、神取は薄く笑みを浮かべた。咥えていた熱塊からそっと口を離す。そして逆らうように後孔を激しく蹂躙すると、達したばかりの身体にはつらいのだろう、より激しく僚は叫んだ。

「や――だめ!」
「駄目じゃない…ほら、奥の方まで震えているのがわかるかい」
「いやだ――ああ!」

 もうしばらく泣き声を上げさせ、神取はあっさり指を抜いた。その手ですかさずぐいと尻を割り開く。

「あっ……や、やめろ!」

 戸惑いの声を上げ、僚は注がれる視線から逃れようと腰をのたうたせた。
 神取は薄く笑い、いくらか緩んでひくひくと蠢く後孔を指でなぞった。

「やだ、や……見るな」
「どうなっているかわかるかい?」
「やっ……」

 僚は振り払うように首を左右した。逃げても追い、尚も神取は妖しく蠢く孔を指先で揉んだ。

「物欲しそうに動いているね」
「ちがう……」
「違わないよ」

 顔を背け、悔しげに唇を歪ませる僚に顔を寄せ、神取は楽しそうに笑った。弄っていた性器から手を離し、濡れた手を彼の口に近付ける。

「う……」

 自分の匂い…濃い雄の匂いにぴくりと頬を引き攣らせる。神取はその頬に指を擦り付けた。

「あぁ……」

 悲しげな声がたまらない。
 今にも泣きそうに眉根を寄せ、打ちひしがれる片隅で僚は汚された事に酔っていた。こんな風に苛められ、ひどい仕打ちに胸が疼いて仕方ない。身体が、心まで溺れてしまいそうになる。

「もっと弄ってほしい?」

 後孔を弄る指にほんの少し力をこめ、神取は囁いた。
 唇にかかる男の吐息に僚はわなないた。これ以上溺れたらどうなってしまうだろう。怖いと思うのに、支配者の美しい微笑に捕らえられ、首を振る事が出来なかった。
 もっと、もっと自分を支配してほしい。
 もっと自分を欲しがってくれたら。
 僚はぼうっと霞んだ目を向け、小さく頷いた。そっと唇が塞がれる。力強く入り込んでくる舌を無心で貪り、僚は緩慢に身悶えた。
 口付けたまま、男の手が身体を撫でる。脇や腰、腿の外側を絶妙な力加減でさすられ、僚は塞がれた口の中で熱く喘いだ。再び後孔に指が入り込んできた。今度は二本だとわかるほど、身体は男に馴染んでいた。

「あぅ……」

 胸の左右の一点が痛いほど尖るのがわかった。
 これがお仕置きなのだとわかった。
 さすられるほどに肌は鋭敏になり、一番触って欲しいところが切なくてたまらない。でも、今日は触ってもらえないのだ。指も唇も、そこだけを避けて通っていく。

「やだ……さわって」
「ああ、たくさん触ってあげるよ」

 神取は愉しげに笑い、すっかり濡れそぼった性器を扱きながら内襞を余さず指で探った。

「ああぁ……」

 再びつらい状態へ追い込まれ、僚は濡れた声で胸を反らせた。
 両手が自由なら自分で触れるのに。
 もどかしさに愚図り、僚は何度も手を握り締めた。首を曲げ、恨めしそうに鎖を見やる。それから男に顔を向ける。

「鷹久……これ、もう外して」
「自分で触りたい?」
「さわんないから……」
「どうかな」

 楽しげに笑う男に、僚は少しむきになって首を振った。

「触らない、ちがう……鷹久を、触りたいから……外して」

 神取は小さく息を飲んだ。何か一つ足りないと感じていて、それが何かわからずもやもやと不満を抱えていたが、彼があっさり解決してくれた。
 片方ずつ鎖から解放し、腕を撫でさすってから、神取は自分の首に回させた。
 僚は一杯に力をこめて抱きしめると、ぶつかる勢いで唇を重ねた。神取はしっとり汗ばんだ身体を抱き返し、息が苦しくなるほど激しいキスに酔った。その視界がぐるりと回る。背面にシーツを感じ、位置が入れ替わったのだと理解する。僚は馬乗りになり、更に膝に力をこめて男の胴を挟んだ。どこにも逃がすものかと絡めとる四肢に、神取は半ば無意識に微笑した。
 ようやく唇が解放される。
 僚もそうだが、神取もすっかり息が荒くなっていた。呼吸も忘れるほどキスに溺れていた事に少しおかしくなる。
 僚はしばし潤んだ目で熱っぽく男を見つめ続けた。短距離を全力で駆けた後のように喘ぎながら、目や鼻や口元に順繰りに視線を這わす。何を探っているのだろうと考えながら、神取もじっと僚に視線を注いだ。込み上げてくる愛しさのままに手を伸べ、頭を撫でる。
 僚はその手を掴むと、手の甲や指先に唇押し付けた。まだ少し、呼吸は乱れていた。ようやく鎮まり、一旦口を噤む。少しして小さくほどき、僚は愛しい男の名を呼んだ。

「たかひさ……」
「どうした」
「いたいの治ったら……いっぱい、触ってくれる?」

 神取は手を移し、覆うようにして胸に手を当てた。

「ああ、もちろん――たくさん苛めてあげるよ」

 僚は恍惚とした表情でわなないた。その顔がぎくりと強張る。後孔に男の熱いものを感じたからだ。

「んっ……」

 反射的におののく身体をしっかり支え、神取はゆっくり先端を飲み込ませた。
 孔を一杯に拡げ、じわじわと少しずつ入り込んでくる怒漲に、僚は小刻みに震えを放った。

「あ、あ、あ……おく…うぅ」
「ああ……奥まで、熱いね」

 指で散々にほぐした内部は燃えるように熱く男を包み込んだ。うねり、絶妙な力で吸い付いてくる内襞に喉を震わせ、神取は浸った。しっかり腰を抱き体勢を入れ替える。
 真上から注がれる支配者の眼差しをまっすぐ見つめ返し、僚は熱い吐息をもらした。一度強く、腰を打ち付けられる。

「……あぁっ!」

 ずしんと脳天に響く強烈な快感に僚は高い声を上げて応えた。目の前で白いものがちかちかと閃く。最奥に男のものを感じた瞬間、絶頂まで押し上げられたのだ。僚は何が起きたのかわからず、半ば呆然と目をさまよわせていた。
 その様子に神取はひと息笑う。

「始まったばかりだよ」
「あぁっ!」

 僚に再び強い突き込みをくれて呼び戻すと、神取は激しく腰を前後させた。まて、と、うろたえる悲鳴をうっとり聞きながら、達したばかりで過敏になった深奥をごりごりと責め抉る。

「ま、だ…ああぁ、まだだめ!」
「休みなく抱かれるのは好きだろう?」
「いや、だ…いや、ああぁ!」

 弱い個所を擦られ僚は激しく喘いだ。首を振って打ち消そうとするが、受け入れた孔は喜んで男のものをしゃぶった。

「数えきれないほどいかされないと、満足しないだろう?」
「うぅ――!」

 またたくまに絶頂に追い込まれ、僚は再び白液をまき散らした。突き込みに合わせて揺れる熱茎を神取は手の中に収めると、自身の動きに合わせて扱き始めた。

「ひぅっ……!」

 容赦のない蹂躙に僚は泣き叫び、男を押しやろうとがむしゃらに手を突っ張らせた。
 神取は抵抗する腕をやすやすと組み敷き、上から叩き付けるように腰を使った。

「おく……だめ、たかひさ――ああ、いや、ああ!」

 肩を押し付ける腕を掴み、僚は持ち上げた頭を何度も打ち振った。口からは絶えず高い叫びを上げる。
 両目からぼろぼろと涙を零し、激しく喘いでいる様は神取を大いに満足させた。忙しなく息を継ぐ唇を塞ぐと、僚はしゃくり上げながらも舌を絡ませてきた。自ら舌を伸ばし、淫らに吸い付いてくる。がむしゃらにしがみ付いた手で背中をまさぐられると、何とも言えぬ甘美な感覚に包まれ、神取はよりキスにのめりこんだ。

「あ、あ…たかひさ……」

 キスの合間に、僚の湿った声がもれる。ここにいると、神取は頬や頭を撫でて慈しんだ。
 一方的に貪り、苦しめているのではないと思わせてくれる抱擁とキスに頭の芯が痺れてたまらない。そう、自分だけが楽しんでいるのではない。彼もまたこの状況に陶酔しきっているのだ。本当の意味でこの場を支配しているのは彼の方なのだ。
 こうして身体を重ねる度思い知る真実が、神取はしようもなく嬉しかった。

「……愛してるよ、僚」

 思いのまま告げると、抱きしめる腕により一層力がこもった。だるそうに喘ぎながらも、尚キスを求めてくる僚に胸がいっぱいになる。髪を掴み、もっと寄越せとばかりに噛み付いて、余裕をなくした姿に神取は全身が熱くなる思いだった。
 急速に射精欲が込み上げる。絶頂に向けて一直線に動き出した男に喉を引き攣らせ、僚は必死に声を絞り出した。

「すき……すきっ」

 咳込むように告げられたのをきっかけに、男は深いところで熱を弾けさせた。

「う、ぐ……」
「あ、あ――……!」

 僚もまた真っ白な瞬間に見舞われ、しばしの硬直のあと、ぐったりと脱力した。それでもどうにか腕だけは男に絡め、火照った身体が鎮まるまで、抱き合ったまま過ごした。

 

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