Dominance&Submission

雨とみかん飴とあれ

 

 

 

 

 

 僚は静かに窓を開けると、軒より先に手を伸ばし空模様を確かめた。弱いながら、まだぽつぽつと雨は降り続いていた。空は明るく、今にも晴れ間がのぞきそうだが、今日はやはり一日雨だ。窓からひゅうと冷たい風が入り込む。急いで窓を閉め、背後のソファーでゆったりくつろいでいる男の隣に並ぶ。気のせいでなく暖かく、ほっと力が抜けると僚は寄り掛かった。
 神取はその肩を抱き、少し手をずらして頬の辺りを探った。

「……ん」

 何が目当てか察した僚は、先ほど男に貰った二つ目のみかん飴を舌で転がし、見つけやすいようにした。

「そろそろなくなる」
「そのようだね」

 神取は軽く笑い、さて、何をしようかと切り出した。

「勉強の方は、もう大丈夫かな」
「うん、ひとまず進んだから」

 お陰ではかどったと僚は笑顔を見せた。

「となると、あれか」
「うん、あれ」

 ソファーから立ち上がった男に続き、身振り手振りで伝えた。このくらいの大きなケースに入っていて、いい音がして、難しいけど楽しくなるもの、と口にする。
 所定のクローゼットを開き、そのものを前に神取は大げさに首をひねった。

「はて、うちにそんなものがあったかな」
「ああ、なかったっけ」

 チェロのケースを肩にひょいと担いだ男に、僚は笑いを零した。どうにか飲み込み、とぼける男に合わせる。

「残念ながらうちにはないね」
「そっか、ないのか。じゃあ代わりにこれをやろうかな」

 一緒に玄関に向かいながら、僚は声を張り上げた。

「うん、それがいい。そうしなさい」

 これもいい音がして、楽しくなるからと、神取は大いにすすめた。
 二人は笑って互いの肩を叩き、エレベーターに乗り込んだ。

 

目次