D&S38一晩中

　神取の腕に抱かれ、僚は寝室のベッドに運ばれた。静かに慎重に横たえる腕の優しさにしようもなく胸が高鳴って、愛しさが溢れてきて、唇に触れずにはいられなかった。掴まっていた腕でしっかり抱きしめ、男の目を見つめる。まっすぐ力強くぶつかってくる眼差しを見ると、それだけでじわりと涙が滲んだ。僚は男の視界から隠す意味も込めて口付けた。

「っ……」

　僚の唇から零れる淡い吐息を飲み込むようにして、神取は唇を重ねた。背中に回された彼の腕が熱い。熱は肌に沁み込んで、身体の芯まで痺れさせる。自分の熱も伝わるよう同じく抱き返し、神取は舌を絡め合わせた。
　また、僚はため息を零した。口内に入り込んできた男の舌は動く度に甘い疼きをもたらし、自然と息が上がった。懸命に息を吸いながら、僚は口付けに応えた。
　優しく舐ってくる舌を何度も吸い味わっていると、次第に頭の芯が熱く痺れてきた。脳天がくらむのをぼんやり感じながら、キスに耽る。
　神取はキスを続けながら僚の服を脱がせにかかった。僚はうっとりキスに酔いながらも、半ば無意識に身じろいで手伝った。次第に露わになっていく肌に男の唇が触れる。首筋、肩、腕。薄っぺらな胸板をついばみながら、唇があちこち移動する。

「ん……」

　少しむず痒いキスに自然と笑みが浮かんだ。何度唇が触れたか数えられるくらい、一回ごとに身体が疼いた。
　どこを触られても感じてしまうという身体ではないはずだが、今はやけに男のキスが震えを呼ぶ。一回ごとに響いて、震えて、びくびくと痙攣し、口から甘い吐息が飛び出す。そんなものだから、少し弱い脇腹や腰に唇が触れた時、腿の内側をさすられた時、自分でもびっくりするような恥ずかしい声が零れた。こらえてもまるで駄目で、むしろ過敏になって、男の手と指と唇に敏感に反応した。

「う、あぁっ……」

　服を全部脱がされ、余さず男に晒す格好になった羞恥から反応していた下腹が、ちょっとの愛撫だけでもう完全に寸前まで追い詰められていた。直接触られてもおらず、弱いところを責められたわけでもないのに、内股が痛いほど引き攣るまでに昂っていた。

「………」

　僚はごくりと喉を鳴らした。
　男の愛撫は、まだ感じるところに届かない。後のお楽しみというように、わざと避けているのは明白だった。それでもこんなに感じてしまうのは、男の言葉のせい。
　あの時馬鹿な選択をしなかったから、自分は今ここにいる。ここにいて、こうして男に愛されている。
　馬鹿な事をしなくて本当に良かったと思ったら、ただ触れてくる手にさえひどく感じて、恥ずかしい声が止まらないのだ。
　手が触れるのさえ痺れるのに、身体中撫でられてキスされたら止まらないのも当然だ。
　どういうわけか無性に泣きたくなり、僚は堪えるために深呼吸を繰り返した。我慢しようとしたのがいけなかったのか、飲み込む筈が高い声となって口から飛び出した。
　神取は笑うようにため息をついた。

「今日はいつも以上にいい声だね」

　脇腹の辺りをさすっていた手で頬を包み込み、火照った肌の感触を愉しむ。見るからに赤くなっていたが、触れてみると思った以上に熱い。目も潤んで、それでも熱心に見上げてくるものだから可愛くてしようがない。引き寄せられるまま神取は口付けた。口の中も舌も、さっきよりずっと熱を帯びていた。

「とても興奮して……どうしてだろう」

　問いかけると、僚は云い難そうにもごもごと口を動かした。

「鷹久が……触るから」
　触ってくれるから

　ありのままを全部伝えるのは恥ずかしく、しかし隠すのも嫌で、半分だけ正直に答えた。

「そうか」

　喉も胸元もほんのり朱に染めて、ちらちら視線を送りながら答える様がしようもなく愛しい。
　神取は足の間に手を伸ばし、奥でひっそり息づく小さな口を指先で探り当てた。
　あ、とうろたえる声が僚の口から零れる。神取は窄まりをゆるゆると揉みながら緩く笑んだ。

「……なら、ここもいつもより熱いかな」

　駄目、と切羽詰まった声を無視して、人差し指を押し込む。抵抗して力んでいたが、それでもふっと緩む瞬間があった。その隙を突いて埋め込む。思った通り中は焼けるように熱く、吸い付き、締め付けてきた。

「あ、あ……」

　僚はいくらか忙しない息遣いで胸を喘がせた。
　男の指が、自分の中に入ってくる。あの、長い綺麗な指が、自分の中に…頬がほてって仕方なかった。脳裏に思い浮かべるだけで腰の奥がぞくぞくする。
　こんな状態で男のものを入れられたら、どうなってしまうだろう…想像するとさらに感度が上がった。
　うっとりと見つめ浅い呼吸を繰り返す僚に口付け、神取は根元まで埋め込んだ指で後孔を捏ねくった。

「んむ――んん！」

　硬く反り返った性器が内部からの刺激でびくびくと震える。内股はさらに緊張して、僚はたまらないとばかりに腰を揺すった。

「早く入れてほしくてたまらないようだね」
「！…」

　考えを読み取られ、僚はますます顔を赤くした。今みたいに、男のものでかき回されたい…浅ましいと思いつつも、妄想が止められない。
　気付けば、咥えた男の指を強く噛みしめていた。

「そんなにされたら指が痛いよ」

　くすくすと笑い交じりに言われ、僚は耳朶が痛くなるほど熱くなるのを感じた。しばしの硬直の後、ごく小さく頷く。
　熱くなった頬を愛しげにさすり、神取は微笑んだ。

「中も熱いが、ここも相当だ」
「鷹久が……煽るから」
「いや。君が生きているからだよ」

　僚は目を瞬いた。

「血の通った身体だから、こんな風に……」

　先走りの涎を垂らす性器に指を絡め、神取は親指の腹で先端を優しく嘗め回した。

「あぅっ…う！」

　びくびくと震えながら僚は仰け反った。敏感な反応に神取は満足げに微笑み、身体を屈めた。

「あ…ま、まって……」

　力ない声で引き止めるのを無視して、神取は下腹に顔を寄せた。頭上から忙しなく降ってくる湿った吐息が、自身の腰を熱くさせる。うっとり聞きながら舌を伸ばし、先走りの蜜が滲むペニスを舐める。

「あぁ……」

　うろたえるような声と共にベッドが軋んだ。神取は閉じようとする足に手をかけ阻み、ぺろりぺろりと舐め取るように舌を動かした。

「あぅ…や……あぁ！」

　僚は腰をうねらせて身悶え、熱く絡み付いてくる柔らかな舌に慄いた。同時に内部に埋め込まれた指をくねくねと動かされ、腰をとろけさせる愛撫にしきりに髪を振り乱した。

「あ、あ、あっ……」

　内と外とどちらも気持ちいい。呼吸が乱れて仕方ない。
　このまま飲んでもらえるかと僚はうっとり浸り、閉じられなくなった口に手の甲を押し当てぼんやりと天井を見つめた。声が出そうになる度強く手を押し付けるのだが、塞ぐ事は叶わず、男に愛撫されるまま高い声をしとどにもらし続けた。

「あ…あふ……うぅ」

　神取は喉奥まで一杯に含み、舌と歯でもって丁寧に愛撫を加えた。口に迎え入れる前から昂っていたそれはあっという間に上り詰め、限界が近いのを訴えるようにびくびくと震えを放った。舐め取る端から先走りが滲み、溺れそうになる。
　神取はそこでそっと口を離し、間近に見つめた。ぬらぬらと唾液に濡れ、やや色付いて反り返るそれは今にもはちきれそうに成長し、とどめの一撃を欲してびくびくと不規則に揺れた。そっと指で摘まむと、ああ、と可愛らしい声が聞こえてきた。
　神取は後ろに咥えさせた指はそのままに、僚に覆いかぶさるようにして口付けた。

「あ…ん……んふ…んんん」

　埋めた指をゆっくり前後させながら舌を絡める。
　僚は夢中になって男の舌を吸った。中で休みなくくねる指が気持ちよくてたまらない。嗚呼もっと強くしてくれてもいいのに。込み上げる不満を訴えるように僚は口内の舌を貪った。
　やがて顔が離れ、僚はまたしゃぶってもらえると期待するが、男が向かったのは別の場所だった。

「！…」

　興奮からいやらしく膨れ凝った乳首に吐息を感じ、僚は咄嗟に身を固くした。後孔と乳首を同時に責められる強烈さが瞬時に肌によみがえり、思わず逃げるように身じろぐ。

「あぁっ！」

　直後男の唇にねっとりと挟まれ、僚はおこりのように身をのたうたせた。後孔からずきずきとむず痒いほどの疼きが駆け上がってきて、胸から沁み込む甘い愉悦と絡み合うのを、僚は呆然と受け取った。二ヶ所が繋がったかのようなとろけんばかりの快感に、自分でも驚くほど高い悲鳴を上げる。
　もう何度もこうして同時に責められ、射精するまで緩む事のない愛撫に追い詰められた。その記憶と実際の強烈な快感とに追い立てられ、僚は嬌声を振りまいて身悶えた。
　眦に涙が滲み、今にも零れそうになる。ぼやける視界に何度も目を瞬き、僚は素直に声を上げ続けた。やがて来るだろうあの少しぞっとするような猛烈な愉悦に身構える。
　しかし、内部の指は浅い個所をゆるゆる撫でるばかりでそれ以上激しくなる気配はなかった。物足りないと、次第にもどかしさが募っていく。

「あ、ああぁ…たかひさ……」

　戸惑う声が耳朶をかすめるが、神取は聞こえない振りで同じ愛撫を続けた。右と左と乳首を交互に吸い、時折歯を立て刺激する。目の端で腹部がびくびくと緊張するのが見えた。それと同時に内襞も複雑にうねって、もっと奥まで来てほしいとねだってきた。ねっとりと吸い付いてくる誘惑はとても甘いが、神取はそれも無視して、彼が自分の口で言うのを待った。こちらももどかしいが、実に愉しい時間だ。

「ん、んん……」

　我慢出来ず僚は自分から腰をうねらせ、深くまで飲み込もうとするが、動いた分だけ指は遠ざかった。どれだけ追っても、望むような刺激は得られなかった。

「なんで、いやだ……」

　濡れた声で愚図る僚に、神取は口端を緩めた。

「なにがいや？」
「あ、あ……しり、の」
「弄るのをやめてほしい？」

　神取は意地悪く笑い、抜く素振りを見せた。
　僚は慌てて首を振りたくった。左耳のピアスがちかちかと光り、一緒に抗議するように男の目を射した。

「ちが……ちがう、いや」
「何が嫌か、言ってごらん」
「しり……あぁ…もっと、おくに」
「奥に入れてもらいたい？」

　神取は指を二本に増やし、浅いところをねちねちとかき回した。
　僚はがくがくと頷いた。

「ゆ、ゆびじゃ…なくて、たかひさの……あぁ！」

　乳首をそっと噛まれ、僚はびくりと腰を跳ねさせた。同時に指をぐるりとねじられ、身体の奥に走る強烈な快感に一瞬息が止まる。

「私の、なに？」
「あ、あ、あ……鷹久の、おおきいの……」はあはあと喘ぎを交えて続ける「奥まで、入れて……」
「他には何をしてほしい？」
「あ……あぁ」

　乳首を指先で弾かれ、僚は何度も身震いを放った。反射的に身体が力み、はからずも後ろの指を締め付ける。ずきんと脳天に突き抜ける強烈な疼きにますます息が苦しくなる。

「奥までいれて……あぁ…お尻、叩いて」
「お尻を叩いてほしい？」
「ん…ん……たくさん、鷹久をたくさん感じたい」

　僚はがくがくと頷きながら、幻の熱に浮かされ小刻みに震えを放った。まだほんの浅いところしか弄られていないのに、深くまで貫かれたように全身が痺れた。早く、本物が欲しい。

「してほしい？」
「おねがい…あ、だめ……！」

　指が去っていくのにおののき、僚は身じろいだ。しかしあっけなく指は引き抜かれ、段々と消え去っていく刺激に僚は今にも泣きそうに顔を歪めた。
　神取は強張った頬を優しく撫で、唇を重ねた。わなわなと震える唇を、上も下も丁寧に舐める。

「僚、ほら……そんな顔をしないで。泣くのはまだ早いよ」

　唇の上で囁き、神取は己のものを僚のそこにあてがった。触れたそこはひくひくとわななき、早く入れてくれとせがんでいるようだった。唇が自然と笑みの形に歪む。