Dominance&Submission

溢れて仕方ない

 

 

 

 

 

 口内に入り込んできた舌はやけに熱く、僚は小さくおののきながら受け入れた。吸い付き、しゃぶり、大きく絡め合う。そうしながら、抱きしめた男の背中を何度もまさぐる。柔らかな素材のシャツは触り心地がよく、布越しに感じる身体の逞しさを思う度、頭の芯がくらくらと揺らめいた。
 神取は口付けたまま僚の下腹をまさぐり、手触りを楽しんだ。ゆったりした部屋着越しでも、硬く膨らみ始めているのがわかった。掴み、輪郭を確かめるようにして弄っていると、もどかしくなった僚が自ら下衣を脱ぎ始めた。神取も手を貸す。

「全部剃ったところは、どうなっている?」
「……ちょっと、ちくちくする」

 見ればわかると、いくらか乱れた息で答え、僚は下着ごと脱ぎ去った。男を跨ぐようにして膝立ちになり、兆し始めた自身を晒す。

「なるほど」

 手触りを楽しみながら撫で回し、神取はにやりと笑った。羞恥にほんのり頬を染めているのに、見せびらかす格好になった彼の大胆さがたまらない。緊張からしきりに瞬きを繰り返して、初々しい反応もいい。
 へその下や性器の周りに指先を滑らすと、僚はもじもじと腰を動かした。くすぐったさからか、それとも中心を触ってほしいからか。雄の象徴はすっかり育って天を突き、時折不規則にふらついた。神取はあえて無視して、剃り跡ばかりなぞった。思い出したように気まぐれに指先で性器を摘み、すぐに手を放す。
 何度目かの時、我慢しきれなくなった僚は喉の奥で呻き不満を訴えた。
 神取はおかしそうに笑み、恨めしく見つめてくる少年を抱き寄せた。座った自分に寄り掛からせて背後から抱きしめ、頬に口付ける。抱きしめてすぐは強張って軽かった身体が、次第に許して重みを増していく。神取は完全に力が抜けるまで、頬や耳朶に繰り返し口付けて待った。
 僚は柔らかな唇が触れる度、喉の奥で小さく鳴いた。気を抜くと大きな声を出してしまいそうで、歯噛みして耐える。それを知ってか知らずか、男の手が身体の前面を優しく撫で回す。感じる箇所を的確に狙って動き回る十本の指に、僚はごくりと喉を鳴らした。

「んっ……」

 指先で乳首を捏ねられ、肩が強張る。僚は回された男の腕にしがみ付き、何とか声を堪えた。するとすぐ傍で、笑うような男の息遣いが聞こえた。明らかに楽しんでいるとわかり、腕の中で身じろぐ。
 神取は口端を緩め、人差し指を僚の唇に押し付けた。静かに、という仕草だ。言われなくてもわかっていると、僚は再び肩を揺すった。
 ここは男のマンションほど防音に優れてはいない。多少の生活音ならば響くこともなく、また許容範囲である為お互い様と聞き流す事も出来るが、こういったものは別だ。恥ずかしさに脳天がかっと熱くなる。唇に触れる指に噛み付いてやろうかと込み上げる。すると、まるで考えを読まれたように口の中に指が入り込んできた。一瞬うろたえ、すぐに受け入れる。もちろん、本気で噛み付くわけがない。戯れにそっと歯を当て、その後は唇を窄めて強く吸う。

「……いいよ」

 耳元で、低音が囁く。微かに触れた吐息に僚は顎を震わせた。腰の奥に響くひと言にじわりと目が潤む。
 神取は人差し指をしゃぶらせながら、もう一方の手で乳首を弄り続けた。摘まんでは引っ張り、押し込むように潰し、そのまま捏ねくる。それぞれに僚は違った吐息をもらし、特に捏ねる時によく反応した。
 指で塞がれているお陰か、はっきりと声を出すまではいかないが、全身を強張らせて敏感に反応した。
 神取は楽しげに笑い、身を縮ませて耐える僚を尚も弄った。摘まんだ小さな突起をくりくりといじくり、右と左と、交互に刺激を与える。

「あ……ん」

 僚は今にも零れそうになった唾液を慌てて飲み込んだ。そこでようやく、指が口内から退いた。ずっと力を入れていた唇が、疲れから小さく痙攣する。しかしほっとしたのも束の間、指の向かう先に僚はぎくりと目を見張った。慌てて膝を閉じて拒む。

「開いて、僚」

 当然のように神取が言う。僚は吐息をもらし、わななきを放った。

「開きなさい」

 支配者の声にまた震える。逆らえない。そうやって、従うものの自分に酔い痴れるのが僚は大好きだった。無意識で、あるいは演技と自覚している部分もあるが、今はそれが本当の自分であった。嘘の自分が段々と本当に重なってゆく。境界が曖昧で、それがまたひどく心地良い。
 僚は押し付けるようにして力んでいた膝から力を抜き、男の足を跨ぐようにして足を開いた。
 神取はいい子だと頬を撫で、足の間に指を差し入れた。その奥、慎ましく閉じている窄まりに、唾液で濡れた指を押し当てる。

「っ……」

 僚の身体がびくりと反応した。神取は二度三度後孔をなぞり、それからゆっくり押し込んだ。ねっとり絡み付いてくる内襞を撫で回しながら、根元まで休まず突き進める。

「もっと締め付けて。私の指を噛み千切るくらいに」
「く……」

 僚は呻き、肩を竦めた。顔がひどく熱い。鏡を見たら、きっとみっともないほど赤くなっているに違いない。脳裏に思い浮かぶ男の指…自分の体内に潜り込んだ長く細い異物を、僚は意識して噛みしめた。堪えても震えが込み上げ、たった一本の指で腰が抜けそうになった。

「いい子だ……そのまま」

 神取は言い付け、狭まった内部を堪能しながらゆっくり指を抜き差しした。指をくねらせ、揺すり、奥まで押し込んで更に突き上げ存分に翻弄する。
 僚は何度も頭を振りたくり、癖のある黒髪を振り乱した。
 ああだめ、鷹久。
 息を荒げて訴える。しかし男の蹂躙は一向に止まず、乳首への刺激も相まって僚を泣かせた。身体中が痺れ、もう声を我慢出来そうにない。

「いい顔だね」

 背後から覗き込み、神取は上気した頬に口付け耳を舐めた。
 それすらも感じると、僚はひっひっと息を啜った。

「君はこういう状況が好きなんだね。いいよ……もっとたくさん、苛めてあげよう」

 潜めた声で告げられ、僚は恍惚とした顔で震えを放った。神取はじっくりと弄った。意識して狭められた内部をあちこち指先で舐め、その度に変わる息遣いを愉しむ。
 ふと見ると僚の先端からは先走りが溢れ、ねっとりと絡み付いていた。ぽつぽつと黒いものが生え始めた中に屹立するそれは時折頭を揺らし、まるで触ってくれと誘っているようであった。

「ああ、君の好きな玩具を持ってくればよかった」

 そうすれば、もっとたくさん悦ばせる事が出来たのに。失敗したという響きで神取は囁いた。

「そうすれば、アパート中の住人に、君が夜ごと怪しい玩具で遊ぶ人間だと、教える事が出来たのに」

 僚は息を飲み、開いた眼で正面を凝視した。

「もちろん、本当にはしないさ」

 抱きしめる腕から怯えを感じ取り、神取は安心させる為に頭を優しく撫でた。

「だが、想像の中の君はどこまでも自由だ。一切の制限を取り払った時、君はどこまで行くかな」

 揺れる心を見透かされたように思え、僚はきつく眉根を寄せた。そんな僚を嗤うように、神取は後孔に埋めた指の動きを速めた。

「も、もう……だめ、やめろ」

 僚は緩慢に足をばたつかせ、切れ切れに綴った。なんとも可愛らしい抵抗なのは、本気でないからだ。その証拠に、ほんのわずか拘束を強めただけで僚は動きを止めた。

「やめたい?」
 それとも、もっとしてほしい?

 形ばかりの抵抗をやすやすと封じ、指をくねらせながら神取は聞いた。

「………」

 口を開くと声が迸ってしまいそうで、僚は必死に歯噛みして耐え、首を振った。
 そういった反応をするだろうと予測していた神取は、楽しげに笑い声をもらした。嗚呼、彼と遊ぶのはなんて楽しいのだろう。
 神取は一旦指を引き抜くと、ひくつき収縮する孔を指先でじっくりと撫で回した。時折少しだけ埋め、すぐに抜き去り、何か云うように蠢く感触を楽しんだ。

「ここに入れてもいいかい……私を」
「……だめ」

 ごく潜めた声で僚は首を振った。ふわふわとした動きはとても弱々しく、本気で拒んでいるようには見えなかった。そう、本当のところは入れてほしがっていたが、はっきりと言葉が出るまで、神取は焦らした。

「本当に、どうしても駄目かい?」

 言葉と同時に二本の指を咥えさせ、一層激しく中をかき回す。

「あ、あ、あ……んんんっ」

 腹部が忙しなく引き攣るのをうっとりと見つめ、神取はいっとき激しくした動きをすぐに緩めた。

「あ、あ……」

 僚の口から、明らかに物足りなさを訴える息遣いが零れる。すぐに自覚した僚は、歯噛みして追い払った。
 そんな強情も、男の淫撫の前ではあっけなく散ってしまう。神取はもう、僚のどこがどのように弱いか、全てわかっているのだ。本人すら知らなかったものまで掘り起こし、把握している。一番弱い、一番好きな愛撫をされて、耐えられるはずがない。
 神取は後ろに埋め込んだ指を蠢かせながら、そっと乳首を摘まんだ。

「……だめっ」

 声で抗っても、嘘はつけない。
 そうされたら、僚はもう我慢出来ない。自ら男の指に噛み付き、貪り、腰を振る。足をばたつかせているのは、抵抗ではなくより奥まで迎え入れる為だ。そしてもう、指だけではとても我慢出来なくなっていた。

「いやらしい君が出てきたね……いいよ」

 乳首を捏ねる合間にすっかり硬くなった性器を扱き、手触りを愉しむ。
 腰の奥に疼きが溜まっていくのを僚は感じていた。入れて、と、言葉が舌先まで迫ってくる。背後の男に頼めば、すぐに与えてもらえるだろう。

「僚…おねだりしてごらん」

 心を読んだかのように、微かな息遣いが耳朶をかすめる。僚は半ば無意識に笑みを浮かべ、入れて、と縋った。いっぱいに首を曲げて男を見やり、目を見合わせる。熱っぽく見つめてくる僚に引き寄せられるようにして、神取は口付けた。僚には少し窮屈な姿勢だったが、身体中を満たす幸せにすぐに薄れ、うっとりと酔い痴れた。
 唇が離れても、二人はしばし視線を絡め合わせていた。それから僚は腰を上げ、下で待ち構える男の元へゆっくり腰を下ろした。熱く滾る先端が触れた瞬間、身体に電流が走るようであった。狭い器官を力強く開き、男のものが入ってくる。背骨が引き攣れ、呼吸もままならない。しかし僚にはその苦しさがまたたまらなかった。びりびりとした強い痺れを伴って奥まで進む熱茎に、気付けば涙が零れていた。

「あ、う…くぅ……ふかい」

 わなわなと震え、僚は大きく仰け反った。倒れてしまわないようしっかり腕を回し、神取は抱きしめた。ようやく二人の肌が密着する。しゃくり上げるような僚の呼吸が整うのを待って、神取は腕に膝を抱えゆっくりと揺さぶりをかけた。
 待ち望んだ刺激に、僚は夢見心地で目を瞬いた。気を抜くと今にも声が迸ってしまいそうで、乱れる呼吸を必死に噛み殺す。その様が可愛くて、神取はもっと苛めたくなると背後でそっと笑んだ。

「きもちいい……」

 抑えた声で、僚はひっそり呟いた。

「どこがいい?」
「あ、あ……おく」

 くらくらするとかすれた声を放ち、僚は何度もつばを飲み込んで頭を揺らした。

「私も気持ちいいよ。熱くて、よく締め付けてきて」

 声を聞き取り、僚は後孔に意識を集中させた。脳裏に、自分を翻弄する男のものが閃く。あの太く硬いもので貫かれているのだと思うと、それだけでいってしまいそうになる。まだ繋がったばかりで、前も触られていないのに、達してしまいそうだ。

「もっとよくしてあげよう」

 僚はすぐさま首を振った。予想通りの反応に頬を緩め、神取は胸を撫でた。一歩遅れて僚の手が止めに入る。構わず、指先に小さな突起を挟みくりくりと刺激を送る。
 僚は歯噛みして耐え、絶え間なく送り込まれる切ないような刺激に身悶えた。

「んっ……」

 咳込むような喘ぎを聞きながら、乳首への刺激でより狭まった後孔を腰を使って大きく抉る。

「くうぅ……」

 僚は咄嗟に拳を口に押し付け、声を防いだ。いけないと思うせいで快感はより膨れ上がり、脳天を直撃した。僚は顎を上げ、わなわなと小刻みに震えた。
 その様子ならまだ耐えられるだろうと、神取は同じ動きで何度も何度も、繰り返し奥を狙った。そしてとうとう声が弾けるという寸前で、ゆっくりとした動きに切り替える。
 すすり泣くような声をもらし、僚は男の膝の上で痙攣めいた震えを放った。ほっとすると同時に、もやもやとした切なさが甘い毒のように身体中に広がった。

「……たかひさ」

 我慢はすぐに途切れた。男に抱かれて、我慢出来る事などないのだ。けれど。

「もっと激しくしてほしい?」

 頷きたいが…僚は唇を引き結んだ。

「僚…はいかいいえで答えてごらん。いきたい?」
「……はい」

 肩で息をつきながら、僚は絞り出した。中途半端に追い詰められて、頭が混乱していた。ここにいるのは現実の自分で、思うまま声を出してはいけない存在なのだが、先ほど男に言われたどこまでも自由な自分が頭の中でぐるぐると渦巻いて、境界がひどく曖昧になっていた。
 わからない。なんでもいいから、早く解放されたい。直後、ふわりと身体が浮く。気付くとベッドに上半身を乗せられ、後ろから貫かれていた。一度、音がするほど強く穿たれる。あまりの衝撃に声も出せない。
 神取は弾むように腰を動かし、僚の内奥を激しく穿った。休みなく突き込まれ、腰から下がどろどろに溶けてしまいそうに思え僚は喘ぎ喘ぎ首を振った。声は、ベッドに顔を埋める事で何とか防げた。けれどあえてそれは選ばなかった。無意識だったが、そうやってぎりぎりのところで男と遊んだ。
 次々と送り込まれる強烈な愉悦に身体が瞬く間に上り詰め、いきたくてたまらなくなる。男は、首筋を舐めたり乳首を弄ったりするが、性器には触れてくれなかった。両手でしっかりと腰を掴み、浅いところ、一番深いところを熱いもので嫌というほど抉った。そして時折片手を前に伸ばし、硬く凝った乳首を転がして僚を震えさせた。
 いい加減焦れた僚は、手を下腹に持っていき自ら扱き出した。いつの間にと思うほど先走りが溢れ、動かす度ににちゃにちゃといやらしい音がした。後ろから、そして前でもこんなにいやらしい音をさせて、なんて淫らな生き物だろうと自分におののく。そんな罵倒さえも己を興奮させる。僚はうっとりと笑みを浮かべた。その顔がぎくりと強張る。男に手を封じられたのだ。
 取り上げられ、僚は喉の奥で呻いて抗議した。
 構わず神取は力尽くで上に押さえ付け、泣いて愚図る様を楽しみながら後ろを嬲った。僚は何とか振り払おうと抵抗するが、本気ではなかった。ちらりと見える顔には、ぞっとするほどの色気が浮かんでいた。この場を本当に支配しているのは彼だと知り、神取は嬉しくなった。引き寄せられるまま頬に口付ける。僚は一杯に振り返り、舌を伸ばした。誘われ、神取は吸い付く。互いの口の中で悦びの声が淡く弾ける。果たしてどちらが発したのだろう。しばし舌を吸い合い、神取は言った。

「さあ……このまま、後ろだけでいってごらん」

 無理だと、潤んだ瞳を悲しげに揺らし僚は呟いた。縋る目で見つめられ頭の芯がかっと熱くなる。神取は左耳に唇を寄せ、駄目と咎める響きを無視してねっとり舌を這わせた。僚の息遣いが忙しなくなる。合わせて後孔もひくひくと不規則に収縮を繰り返し、男を悦ばせた。神取は抉じ開けるようにして腰をうねらせ、緊張する様を存分に味わった。ひとしきり楽しむと顔を放し、自分の下で激しく喘いでいる僚に微笑みかけた。

「なら、ここでやめるかい」

 ゆっくりとした動きで内襞を擦りながら訪ねる。僚はすぐさま嫌だと首を振り、腰をくねらせた。もっと寄越せというのだ。神取はふと笑みを零した。

「ではこのまま、後ろだけでいってごらん」
「で、も……」
「大丈夫、君なら出来るよ」

 言葉と同時に神取は腰を使って僚を追い詰めた。

「いや、鷹久……」

 激しくなった動きに僚はうろたえた声をもらした。手を振りほどこうともがくが、後ろから熱いもので支配され、思うように手足が動かせない。そんな状況が異様な興奮となって体内で渦巻く。これが自分かと、嘘だと僚は首を振るが、押さえ付けられ激しく責め立てられる事がたまらない快楽を生む。必死に声を殺すが、今にも溢れそうで仕方なかった。

「あっ…もうだめ……もうだめ」

 喉を引き攣らせて訴える。僚はしきりに右へ左へ顔を向け、背筋を引き攣らせ、緩んだ顔で熱く喘いだ。眼下の痴態を神取は満足げに眺め、よりきつく追い詰めた。ある時を境に内部が絞り込むように収縮を始める。絶頂が近いのだと察し、神取は一回ごとに深くまで押し込んで更にしゃくるように腰を使った。

「ほら……もういくかい」
「あ、あぁ……だめ」
 たかひさ

 僚は低い呻きを切れ切れにもらし、男の名を呼ばわって、ひと際大きく身体を痙攣させた。射精を促すように吸い付いてくる内襞の動きに誘われるまま、神取もまた深い場所で熱を解放した。

「あっ……!」

 最奥に熱いものを浴び、僚は高い声を上げて仰け反った。そのまましばし硬直し、ふっと脱力する。身体全体で息をつき、絶頂の余韻に浸る彼を見て神取も同じように肩で喘ぎ、甘く気だるいひと時に酔った。

 

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