Dominance&Submission

いつでも優しい

 

 

 

 

 

 ほのかに灯る間接照明の下、僚はベッドに仰向けに横たわり男のキスを受けていた。
 甘食みを繰り返してくる柔らかな唇に応え、肩や背中を手のひらで撫でる。よく鍛えられた身体をたどっていると妙に胸が高鳴って、キスと同じくらいに興奮が募った。一点に集まってあっという間に形を成すそれに、僚は半ば無意識に腰を揺すった。
 神取はわずかに顔を離し、間近で僚の瞳を見つめながら下腹に手を伸ばした。逆手に包み込むと、面白いほど揺れ動いた。しっとりと濡れた褐色の綺麗なそれが、恥じらうように揺れながら見上げてくる。変化をあまさず捕らえながら、神取は手にした勃ちかけのそれを緩く撫でまわした。

「ん……」

 吐息をもらし、僚は腰を緊張させた。そのままずっと、熱い手のひらで撫でていてほしいが、手はすぐに離れてしまった。物足りなさにつばを飲み込む。けれど、その前にというように身体を撫で始めた事で、呆気なく機嫌が直る。なんて単純だろうと笑いたくなるが、どこでも、男に撫でてもらえるなら自分は満足なのだ。僚はこっそりと唇を笑う形に曲げた。
 神取は横たわったしなやかな肢体に順繰りに口付け、吸って、その度に小さく震える反応を愉しんだ。左耳から辿る首筋と、鎖骨の辺り、そして他にもたくさん。これまで抱いてきた中で見つけたそれぞれを唇と舌と手でたどりながら、たっぷり愛撫する。どこにふれてもほんのりと石鹸が香り、その奥から彼の臭いが現れて鼻孔をくすぐった。あちこちに唾をつけ、自分のものにしていく。僚は震え、時にため息をもらして、どこに触れても敏感に応え好ましい反応をした。
 下腹にさしかかろうというところで、起き上がろうとするような身じろぎがあった。
 続けて、遠慮がちな声が上がる。

「あの……」

 神取は手のひらで脇腹をさすりながら、目を向けた。

「あし……あざ、汚くてごめんな」
「ここかい」
「……うん」

 僚は肩を竦めた。男の唇がまさにそこに触れてきたのだ。

「痛みは?」
「もう、全然」

 その心配はないと、急いで首を振る。ただただ、申し訳なかった。

「……そうか」

 神取は温める時するように手のひらで覆い、もう一度接吻した。気まずそうに見上げてくる僚に、唇を引き結ぶ。この程度で萎える人間だと思うのかと、込み上げるものがあった。その一方で気持ちもわかると鎮まりかける。せめぎ合う二つに突かれるまま、神取は覆いかぶさって抱きしめた。

「はっ……あ、ん」

 肌の上をゆっくり這い回る指と舌に、僚は何度も小さな身震いを放った。うつ伏せの姿勢にされ、今にも崩れそうな四つん這いになって、男の愛撫に身を委ねる。背骨に沿って移動するキスが気持ち良くて、僚は喘ぎながら笑う形に唇を開いた。
 指先がするすると肌の上をすべる。貝殻骨の下はぞくっと気持ち良くて、脇腹の辺りはくすぐったい。駄目だと身を揺すると、わざと悪戯する手付きで脇腹をつつかれる。

「んん……」

 僚は甘える声音で抗議した。
 指はやがて足の方へと移っていった。腿の外側を丁寧に撫でられ、むず痒いような快感に声が上ずる。僚はごくりと喉を鳴らし、身じろいでしっかり膝立ちになった。間から手が入ってきて触ってくれないかと、脚を開いて期待する。

「あっ……」

 男の指にぐいと尻を割り開かれ、露わになった後孔に小さく声を上げる。何度か指でなぞられた後、吐息を感じ、僚ははっと息を飲んだ。

「あぁっ……!」

 一段高くなった声を聞きながら、神取は慎ましく閉じている窄まりにねっとりと舌を這わせた。さする脚がびくびくと強張るのが感じられた。首を振る動きも伝わってくる。
 己の唾液に濡れいやらしく光るそこを、神取は時間をかけて舐めほぐした。

「う、ん……!」

 熱くぬめる舌が表面をじっくりと這う。ぞくぞくっと背筋が痺れるような快感に、僚は堪えず嬌声をもらし続けた。綺麗にしておいてよかった。高い、すすり泣くような自分の声が恥ずかしくてたまらないが、どんなに口を噤んでもすぐにほどけて、男が送り込んでくるとろけるような刺激に震えてしまう。

「あぁ…あ……きもちいい……」

 僚は頭を抱えるようにしてシーツに顔を埋め、背後から襲う目も眩むような愉悦に熱く喘いだ。
「どこが気持ちいい?」
 神取は身体を起こし、小さなボトルを傾けた。尾てい骨の辺りに滴るとろりとした液体にも過敏に反応し、僚は小さく驚きの声を上げた後、理解して力を抜き、恥ずかしそうに口を開いた。

「しり……の」
「……ここかい」

 指先で塗り広げると、僚はびくびくと震えながら頷いた。

「中を弄られるのは好き?」
「あっ…や、あ……ん」

 充分に指に塗り付け、まずは人差し指をゆっくり押し込む。抵抗なくするすると指は潜り込んでいった。痛みを与えていないのは、僚の口から迸る甘い鳴き声でわかった。

「それとも嫌い?」
「あ、ああっ……す、き……すき!」
「正直ないい子だね……ご褒美を上げよう」

 中指を揃え、二本一緒に根元まで押し進める。

「あぁ……ああ――!」

 間延びした声を上げ、僚は震えながら仰け反った。しなやかに反り返る背骨と、張り詰めた肌、そしてまだほぐれていないせいで二本の指に噛み付いてくる後孔の熱さに、神取はうっとりと目を細めた。右手の二本を中に残したまま、左手で尻や脚の付け根をさすってやる。ひどく緊張しているのが伝わってくる。少しでも和らぐように、ゆっくり手をすべらせた。脇腹を撫でると、内部が不規則な収縮を見せた。
 内部が異物にいくらか馴染んだ頃合いに、神取は静かに右へ左へ捻る動きを始めた。忙しない息遣いを紡いでいた唇から高い悲鳴を迸らせ、僚は敏感に反応した。
 内部のいいところを探り当て指先で軽く引っかくと、僚はひっと息を飲み、それまで以上に背骨を引き攣らせた。
 きりきりと遠慮なく締め付けてくる後孔の動きで、神取は何が起きたのかを察した。口端をにやりと歪める。彼の敏感な身体は、今の刺激で軽い絶頂に達したのだ。

「いったかな」

 弾むようだった息遣いがいくらか鎮まったところで、神取は尋ねた。
 何か云う気配は見せるが、僚は言葉を出そうとはしなかった。もぞもぞと動いて肩越しに振り返り、気まずそうな視線を寄越すばかりだ。
 行動はどこまでも大胆な癖に、こんな風に恥ずかしがる。そこが、たまらなく可愛いのだ。
 神取は覆いかぶさるようにして背骨の一つに口付け、内部に残っている指を軽く捻った。

「……あっ!」
「これくらいじゃ満足出来ないのは、知っているよ」

 囁きながら静かに指を引き抜き、仰向けにさせる。達した余韻が残っているのか、僚は力なく手足を投げ出し小さく胸を喘がせていた。時折顎がびくりと弾むのが何とも可愛らしかった。
 神取は再び二本の指を咥えさせ、呼吸に上下する胸から愛撫を始めた。
 たちまち僚の身体がびくびくと跳ねる。反応に満足して、神取はよりねちねちと僚の身体を弄った。

「あぁっ…そこ、あ、あ、ああ!」

 内部に隠れた一点を指先で執拗に転がされ、僚は身をのたうたせた。神取はそれを押さえ込み、押しやろうとする手に構わず乳首に顔を寄せた。

「だめ――そこ!」

 吐息にさえ敏感になっている肌に、男の唇がねっとりと吸い付く。弱い箇所を二点同時に責められ、達したばかりの身体はあっという間に限界まで持ち上げられた。
 がくがくと腰を弾ませながら、僚は先端から白液を飛び散らせた。忙しなく上下する腹に散らばる白いものに満足げに笑み、神取は指先でなすった。

「あ……やだ」

 僚は怠そうに手を動かし、眦に滲んだ涙を拭った。力任せに擦る手をそっと退けさせ、神取はまず手の方に接吻した。それから震える睫毛に口付け、溜まった涙を吸い取ってやる。
 くすぐったさに僚は身を竦めるが、優しく舐め取る舌の熱さがじんわりと肌に染みて、とても心地良かった。薄い皮膚を舐められるのが気持ちいい。たまらなく感じる。
 僚がおずおずと目を開ける。神取はしばし視線を絡ませ、うっすらと開いた唇に触れた。口内で舌を動かすのに合わせて、後ろの指をくねらせる。

「ん――……んむ、んんん、うぁっ…ん!」

 二ヶ所の粘膜を指と舌とで翻弄され、僚はうろたえた声を上げた。全て、男の口内に飲み込まれる。達したばかりの身体を続けざまに責められ、休みなく与えられる愉悦に脳天がとろけそうだった。
 顔を振りほどき、押しやろうともがくが、優しいキスに飲み込まれ思うように動けない。ただ、甘い声で身悶えるしかなかった。
 口内を舐る男の舌を夢中でしゃぶり、没頭する。誰かのいやらしい声が遠くに聞こえる。自分が出しているのだと気付くと同時に、薄れかけていた意識が戻る。僚はより大きく目を見開いた。
 駄目、鷹久、もう駄目、お願い。
 動きを封じるように圧し掛かる男の身体の下で、僚は何度も泣き叫んだ。
 しかし男の責めは一向に緩む事はなかった。決して激しくはない、ゆっくりうねるような愛撫が、休みなく身を襲う。腰から下が溶けてしまったように麻痺し、僚は何度も首を振り立てた。
 そうやって逃れてもまた男に捕らえられ、唇を重ねられ、身も心も溶かすようなうっとりするほどのキスをされる。
 またも絶頂に駆け上がる。
 僚は男の口の中で何度も叫び、後ろを弄る手に押し出されるように射精した。
 腹にかかる熱いものに腹部を痙攣させ、僚はおこりのように何度も身を竦ませた。
 激しく喘ぎながら訴える。

「もっ……もう」
「もう? まだだよ、僚」

 わななく唇に微笑して、神取は二度三度接吻した。薄い皮膚はしっとりと濡れて朱く染まり、頬も同じようにのぼせた色を乗せていた。肌は汗ばみ、首筋から良い匂いが立ち上ってくる。神取は引き寄せられるままに顔を埋め、後ろの指を動かしながらついばむキスを繰り返した。

「ああぁ……も、お……や、尻、いやだ」

 熱く腫れぼったくなった内襞を指先で執拗に舐められ、僚はびくびくと身悶えながら愚図った。

「ああ、もう指では満足出来ないね」

 それ以上のものが欲しくて、何度も締め付けてくるのを感じるよ。
 腹の方、尻の方を押しこくり、神取は指を引き抜きにかかった。
 内側からゆっくり去ってゆく異物に僚は喉を引き攣らせた。奔放に動き回り散々泣かせたが、なくなってしまうのは嫌だった。どうか、早く、もっと大きなもので…男の硬く張り切ったもので満たしてほしい。

「うぅ……」

 よそを睨んでから男に目を向け、僚は小さく頷いた。涙の溜まった瞳を何度も瞬き、ひっひっとしゃくり上げる。
 引き攣る呼吸が収まるように、神取は優しく頬を撫でてやった。

「口で言うんだ」
「がまん……で、できない」
「どこが我慢出来ないのか、足を開いて見せてごらん」
「ん……」喉の奥で呻き、自ら抱えて足を広げる「ここ……」

 自分で覗き込むように頭を持ち上げ、僚は小さくしゃくり上げた。

「ああ……ひくひくしているね」
「あ……!」

 神取はそっと指を押し当てた。途端に窄まりがきゅっと締まり、僚の口から熱い吐息が零れた。

「おねだりしてごらん……私がその気になるように」

 神取は指を退けた。
 僚は二度ほどしゃくり上げると、膝にあった手を脚の付け根にずらし、どこに欲しいかよくわかるように自ら開いた。

「ここに……い、いれて」
「僚はいい子だ……本当に」

 頭を撫でると、泣き顔に歪んでいたのがほのかな笑みに変わった。嬉しそうに緩む表情に腹の底がぞくぞくとざわめく。

 

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