Dominance&Submission

足音

 

 

 

 

 

 今にも崩れそうな身体を支えて仰向けに寝かせ、神取は口付けた。僚は顎を上げ懸命にキスに応えようとするが、達したばかりの身体は重く、男を抱きしめたくても思うように腕が動かなかった。いつの間にか溢れた涙を拭うので精一杯だった。
 そんな少年を慈しむように見つめ、神取は再び怒漲を飲み込ませた。それから背中に腕を回し、ゆっくり抱き起こし膝に抱える。

「……ああ…深い」

 男の肩に頭を預け、僚は陶酔しきった声をもらした。
 神取はしっかり腰を抱き、下から突き上げるように揺さぶった。子供をあやすようにゆっくりゆっくり、静かに抱く。

「あ、ふ……いい…すごく」

 緩んだ声を零し、僚は自らも締め付けて男のものを貪った。

「私もだよ……」

 嬉しげな男の声に僚は首を振った。こんなものでは足りない、もっと快くなってもらいたい。男の耳朶を甘食みしながら、腰を上下させる。
 硬い歯にそっと挟まれ、背筋がぞくりと疼く。小憎らしい事をしてくれると、神取は力強く腰を跳ね上げた。

「あぁっ」

 たちまち上がる高い悲鳴に、また背筋が痺れる。身体が熱くなるのを感じ、神取は同じ動きを繰り返した。

「や、だめ…あぁっ、おく……ああぁ!」

 激しさに翻弄され、僚は頭をくらくらさせながら嬌声を迸らせた。半ば無意識に男の足に腕を突っ張らせ、抵抗する。無論、そんなもので敵う訳もなかった。男の上で男の思うままに、媚態を晒し続ける。
 まっすぐな背骨をしなやかに反らせ、高い声で鳴く僚を存分に堪能した神取は、一旦しっかり抱きしめると、そっとシーツの上に横たわらせた。姿勢が変わる事に僚は咄嗟に男の首にしがみ付き、仰向けに寝転んだところでほっとしたように力を抜いて、あらためて男の顔を引き寄せ口付けた。
 飽きるほど舌を絡め、吸っても吸ってもまだ足りなくて、僚は男の舌の形や歯並びを覚えるくらい、うんざりするくらい口内を舐った。
 それでもちっとも、飽きる事はなかった。
 唇が腫れそうなほど吸い付き、それでも離してくれそうにない恋人にひと息笑い、神取はそっと指先に乳首を摘まんだ。途端に僚はびくびくと良い反応を示した。
 重ねた唇から熱い吐息がもれる。
 神取は名残惜しさを堪えてキスを終え、先程耳朶を噛まれたお返しをする。散々弄られ、ぷっくりと膨れた乳首に歯を立てると、途端に中がきゅうっと締まった。絞り込む内襞の蠕動がたまらない。切ないような満たされる感覚に震えを放つ。

「あ、か…噛むな」

 僚はうろたえた声を上げ、慌てて男の肩に手をあてがった。

「好きだろう?」

 神取は指先で突起を転がしながら笑った。僚は真っ赤な顔で首を振った。油断すると甘い声が出てしまいそうで、慌てて拳を口に押し付ける。
 可愛らしい抵抗に神取は口端を緩めた。

「素直に言えたら、ご褒美に少しだけ痛くしてあげるよ」

 指先に摘まんだ乳首をくにくにと弄りながら、腰を前後させる。
 じれったい、もどかしい刺激に僚はきつく目を閉じた。我慢しても腰がくねる。じっとしていられない。
 だって、自分はこうして躾けられた。何度も男に教え込まれた。すっかり身体に染み付いて、男の手に反応してしまうのだ。
 自分が言えば、またあの頭の芯にがーんと響く快感がもらえる。我慢する必要なんてない。

「あぁ……たかひさ」

 熱い吐息を繰り返しながら、僚は押しやろうとしていた肩にしがみ付いた。自ら腰をうねらせて貪り、仰け反る。

「さあ、言ってごらん」
「す、すき……あっあぁ…痛くされるのすき……」

 いい子だと、肌に吐息がかかる。速まった腰の動きに目を眩ませていると、背骨が震えるほどの衝撃が身を襲った。一番身体に響く、ほんの少しの痛みがびりびりっと脳天を直撃し、たまらずに僚はおこりのように身体を震わせた。無意識に、何度も後ろを締め付けて悦ぶ。そのまま一気に絶頂へと持ち上げられ、僚は真っ白な閃きに目を眩ませた。

「あぁ…あ……」

 自分の腹にたらたらと熱の名残を滴らせ、いくらかの間を置いて、強張っていた身体から力を抜く。
 神取はそのタイミングで、腰の動きを再開させた。片脚を抱えるようにして大きく持ち上げ、肉が震えるほど強く腰を打ち付ける。

「ま…て――ああぁ!」

 達したばかりで鋭敏になった身体を立て続けに責められ、僚は咳き込むように叫んだ。慌てて手を突っ張らせる。

「い、や……もう駄目――!」
「駄目じゃないだろう……君の中は、まだ私を欲しがっている」
「違う……あぁ!」
「違わない……ほら、声もそうだ」
「や、だ……たかひさ」

 僚は鼻を啜り、いやいやと力なく頭を振りたくった。這って前に逃げようとするのを押さえ付け、神取は尚も腰を突き込む。そうしながら、身体の前面で揺れる若い熱塊を手の中に収め、先端から溢れた汁を塗り付けるようにして上下に扱く。
 僚は鋭い悲鳴と共に頭を反らし、男の激しさに泣いた。

「も…もう許して!」

 シーツを握り込む。けれど本気で抵抗はしない…出来ない。この状況が好きなのだ。どんなに許しを乞うても聞き入れてもらえず、容赦なく快感に沈められる。強すぎる快楽に泣き叫んで、身悶えて、押さえ付けられる中で真っ白な瞬間に飛び込む。
 男と一緒にそう出来るのがたまらなく嬉しかった。
 もっと自分の身体を求めてほしい。自分も男が欲しくてたまらないから。どうかもっと。
 僚は苦しげに息を啜りながら男の頭を抱き寄せ、口付けて深く貪った。キスの合間に、ぶつけるようにして何度も好きと告げる。僚のかすれた声が男の背骨をくすぐる。射精欲をかきむしられ、神取は喘ぐようにため息を零した。

「私も……好きだよ」

 告げると、もう我慢出来なかった。神取は己の欲望を果たす動きで一直線に絶頂を目指した。
 それまで技巧を凝らした動きだったのが、荒々しく貪る激しさに変わり、僚は男の限界が近い事を察した。腰が砕けそうなほどの強い突き込みに翻弄されながらも、懸命に男に与えようとする。身体の奥深くまで入ってくる男を締め付け、自身にも迫った絶頂目掛けて僚は突進した。
 神取は数回腰を打ち付け、一番奥で動きを止めると、腰の奥でわだかまっていた欲望を吐き出した。

「あぅ……ああぁ!」

 奥に浴びせられた火傷しそうなほどの灼熱に 悲鳴を迸らせ、僚は大きく仰け反った。びくびくと不規則に身体を震わせながら、反り返った先端から白濁を飛び散らせる。
 数秒の硬直の後、僚はがくりと力を抜いた。しっかり抱きしめてくる男に頬をすり寄せ、ぼんやりと天井を見上げて喘ぎ続けた。少し呼吸が戻ったところで、重い腕を無理やり動かし男を抱き返す。
 互いの身体は熱く、汗ばんで、それがひどく心地良かった。
 抱き合い、息が鎮まるまで、二人は相手の体温に浸った。

 

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