Dominance&Submission

足音

 

 

 

 

 

 締め付ける唇ととろけそうに柔らかい舌の感触、そして淫らな愛撫の音に、背骨が砕けそうになる。腰がどろどろに溶けて、だらしなくシーツに広がっていく…そんな錯覚に見舞われるほど、男の愛撫は強烈だった。開いた足の付け根や、膝の裏をさすってくる手もたまらない。僚は自分の頭を抱えるようにしてのたうち、甘い声を上げながら身悶えた。
 神取は反応を愛でながら、次々湧いてくる先走りの蜜に唇を押し付けた。触れた瞬間、熱いと感じるのが嬉しかった。奥から舌を伸ばし舐め取る。そのまま先端を舌先でくじり、また僚に声を上げさせる。くびれまでを口に含んで強く吸うと、可愛らしい声と共に腰が持ち上がった。じっとしていられないばかりに揺れる腰の反応がたまらなく可愛くて、神取は同じ刺激を繰り返し与えた。

「あっ……うぅ……」

 僚は何度も首を振りたくり、的確に責めてくる男の愛撫に酔い痴れた。

「あ、あぁ……きもちいい」

 すすり泣くように僚はもらした。甘い空気の揺れに神取はうっとり聞き惚れ、一旦そっと口を離した。緊張していた腰から力を抜き、僚はだらしなく手足を投げ出した。
 神取は覆いかぶさるようにして一つ接吻すると、壊れ物を扱う手付きで僚の手を取り、自分で足を抱える格好に誘導した。
 前も後ろも晒して、どこがどれほど興奮しているか見せびらかす格好を取らされ、僚は羞恥に顎を震わせた。喉の辺りが熱い。きっと、赤くなっている事だろう。その一方で、もっとしてもらいたい、身も心もどろどろに溶けるほど抱いてほしい、泣かせてほしい…浅ましい欲望に捕らわれる。
 神取は取り出したローションをたっぷり手に垂らし、その手で覆うようにして僚の下腹に触れた。
 ぬるぬると滑らかに塗り付けられ、僚は胸を喘がせた。男の指が何度も後孔の表面を行き来する。早く中を触ってほしくてじれったくなり、不自由な格好で腰を揺する。掴んだ腿に指を食い込ませる。

「んっ……」

 指先が押し付けられ、僚は息を詰めた。細く長い異物がじわじわと入り込んでくる。待ちかねた刺激に息を引き攣らせ、僚は知らず知らず締め付けた。首を伸ばすようにして下部を覗こうとする。そんな自分の半ば無意識の行動に途中ではっと我に返り、僚は弾かれたように男に顔を向けた。予想通り嗤っているのを目にし、びくりと身を強張らせる。
 恥ずかしさに竦み、僚は咄嗟に足を閉じようとした。神取はそれを阻み、意外に柔らかい彼に感謝しながらさらに開かせる。

「う……あぁ、あ!」

 足を抱える僚の手に自分の手を重ねて押しやり、神取は二本目の指を飲み込ませた。声に合わせて後孔がびくびくと収縮する。傷付けぬよう慎重に抜き差しを繰り返し、いくらか緩んだところで、内襞を指の腹で擦る。声がもれ、また締め付けが増した。神取は時間をかけてゆっくりほぐした。軽く揺すり、奥を捏ね、その度に変わる僚の声や息遣いを楽しむ。呼吸するかのように複雑に蠢き締め付けてくる内部の感触を堪能する。
 後ろの刺激で変わるのはそれだけではなかった。弄る箇所で、僚の熱塊がびくびくと跳ねる時があった。彼の声がひときわ高い時がそうだ。

「い、や……ああぁ!」

 内部のいいところを抉られて、声と共に性器がびくりとわななく。神取は口端で笑い、僚に見るよう促した。

「いやだ、いや……」
「見るんだ、ほら。自分がどんな風に反応するか見てごらん」

 僚は泣きそうに顔を歪めて髪を振り乱した。左耳のピアスがちかちかと瞬き、男の目を射す。嫌がる少年を嗤い、神取は尚も淫撫を続けた。

「あ、ぅ……あ、あ、ああ」

 喘ぎながら仰け反り、首を振り立てるが、声はちっとも嫌がってはいなかった。たっぷりと甘さを含み、もっとしてほしいとねだってもいるようだった。
 その証に、時折見つめてくる目はしっとりと濡れて熱を含み、ほのかな笑みまで浮かべていた。
 神取は気を良くし、より力強く内奥を捏ね回した。
 ひっひっと息を啜り、僚は嬌声を上げた。

「ああだめぇ……きもちいい」
「気持ちいいかい」
「うん……きもちいい」

 素直ないい子だと、神取は広げられた足を丁寧に撫でさすってやった。指先が肌をすべる感触がたまらず、僚は震えながら悦んだ。

「もっとしてほしい?」
「あぁ…たかひさ……だめ…あぁっ……もっと」
「もっと、なに?」
「もっと、……あ、あぁ…して――ああぁ!」
「……してあげるよ」

 神取は内部を指先で丹念に舐めながら、僚に覆いかぶさって口付けた。舌を割り込ませ、後ろに咥えさせた指と同じように口内を舐る。

「ん、んむ……う、んん…きもちいい……」

 熱い呟きに僚の唇が震える。そんなわずかな動きさえも愛しくて、神取は繰り返し薄い皮膚に吸い付いた。
 うっとりと浸っていた僚の顔がぎくりと強張る。内部で小さく動いていた指が、浅い箇所に隠れる熱の核を探し当てごりごりと強く抉ってきたのだ。たまらずに悲鳴を上げる。

「……うあぁ!」

 同時に乳首を吸われ、僚はきつく身を強張らせた。内側からの刺激を受け、熱塊の先端からたらたらといやらしい涎が溢れる。
 神取は内部の指を奔放に動かしながら、ぽってりとした陰嚢を親指で押し転がした。

「あうぅ……だめっ、だめぇ!」

 ひっひっと喉を引き攣らせ、僚は浸った。もうあと一歩で、あの真っ白な瞬間に飛び込む。目の前に迫った絶頂にうっすらと顔に笑みを浮かべた直後、突然指が引き抜かれた。乳首に触れていた唇も離れ、身体が凍えるようだった。

「あ……んん」

 神取は、恨みがましく縋ってくる少年の潤んだ目に笑いかけ、身体を起こした。指が食い込むほど強く足を抱えていた手に触れ、一本ずつ優しくほどく。僚は素直に従い、誘導する手に委ね男を抱きしめた。
 神取も同じように抱き返すと、片手で己のものを支え、柔らかくほぐした後孔にそっと押し付けた。反射的にそこがきゅっと締まる。

「ん……」

 僚の口から淡い喘ぎがもれる。背筋をくすぐる響きに自然笑みが浮かぶ。強張りが抜けるまで待って、神取は少しずつ腰を進めた。

「っ……!」

 力強く拡げられる感触に腰が抜けそうになり、僚は意識して息を啜った。狭い器官一杯に男のものを頬張っている自分を思い浮かべ、目を眩ませる。
 根元まで埋め込んだところで、神取は一旦動きを止めた。知らず詰めていた息を吐き出す。
 僚もまたため息をついた。身体の奥の方で、男の灼熱がびくびくと不規則に脈打っているのが感じられた。自分の中に間違いなくいるのだと思うと、幸福感で胸が一杯になった。身体の底から込み上げてくる激しさに息が乱れる。

「苦しい?」

 労わるような男の声に首を振る。この息苦しさは男のせいじゃない。僚は腰の方へ腕を伸ばし、もっと深くまで来てほしいとねだった。

「動くよ」
「……早くきて」

 耳元の低音にぶるりと震え、肩に顔を埋めるようにして答える。ゆっくり大きく男が動き出し、気持ちがますます膨れ上がっていくのを感じた。
 忙しなく上下する少年の薄い胸板を慈しむように撫でながら、神取は腰を律動させた。内部はまるで飲み込むように蠢き、悦んで締め付けてきた。ともすれば持っていかれそうになり、あまりの快さに唇が震える。

「あは…あっ……おく、いい……いい」

 男の怒漲りが最奥を突く度、脳天にまで重い痺れが伝わり、僚は喉を晒して呻いた。何度も唾を飲み込んでははあはあと息を吸い込み、喘ぎ、肌の上を滑る大好きな男の手に睫毛を震わせる。

「……いい顔だね」

 声にはっと目を瞬く。間近に見つめられ恥ずかしさが込み上げるが、すっかり昂って溶けて、本能がむき出しになった今は、緩んだ笑みで応える。
 男の動きが小刻みな突き込みに変わる。腰が砕けそうな激しさと粘膜が擦れ合う淫靡な音に侵され、僚は無我夢中で男の身体にしがみ付いた。腕も肩も、どこに触れてもたくましく、手のひらに感じるしっとり汗ばんだ肌をまさぐる程に男の匂いが自身を包み込んで、溺れてしまいそうになる。
 僚は殊更大きく吸い込んだ。奥に叩き付けられる熱いものを感じる度に、身体がとろけていくようだった。脳裏に、昼間のホットチョコが過ぎる。牛乳の中に溶けていくチョコレートを今の自分たちに重ね、僚は大きく仰け反った。
 こうして繋がっている、自分の深い場所に男が入り込んできている事に、胸がはちきれそうになる。
 どこまでも甘やかしてくれる手に泣きたくなる。時々意地悪をされて、また泣きそうになる。
 身も心も溶けていく。溶ける。あのチョコレートみたいに溶けて混ざりあって、一つになりたい。
 今欲しいと思った激しさを与えられ、意識が白く弾ける。
 受け止めきれず叫ぶ。それでも男の激しさは止まらない。本当に欲しかったものを惜しげもなく与えてくる。
 口先だけの戯れなんてすぐに見抜いて、本当に欲しいものをくれる。
 自分はただ抱きしめる事しか出来ないのに、男は――。

「あ、だめ……いきそ……いきそう」

 不意に全身が震え、僚は切羽詰まった声を上げた。神取はそこで唐突に腰の動きを止めると、不満そうに見上げてくる僚に微笑みかけ、一旦引き抜いた。

「いや……」

 濡れた声で縋ってくるのをキスで宥め、這わせて後ろから貫く。

「ん……あ」

 今度はほっとした声。おかしさについ笑う。こっそり、彼に気付かれぬように。
 神取はひたひたと弾むように腰を打ち付けながら背中に覆いかぶさり、揺れる黒髪をかき分けて左耳に接吻した。

「あぁ……おく、おく……」

 僚はびくりと反応し、男の方を向いて訴えた。奥をひたすら抉られ、気持ちいと繰り返して悶え善がる。

「ここがいい?」

 神取は腰を使ってぐりぐりと穿った。ひときわ高い悲鳴を上げて、僚は何度も頷いた。

「君のいいところに届く身体で良かった」

 耳朶にかかる囁きにかっと頬を染め、僚は低く唸った。
 振り払う仕草が可愛くて、神取は返事の代わりにひと突きした。
 あ、と甘い声が零れる。もっと聞きたい欲求に駆られ、神取は何度も何度も、何度も腰を打ち込んだ。
 だめ、だめ、と湿った声がもれるのを聞きながら、神取は執拗に組み敷いた身体を揺さぶった。戯れに彼の口元に指を持っていくと、僚は悦んで舌を絡めてきた。唇を窄めて強く吸い付いてくる。神取は己のものに見立てて指を抜き差しし、彼の口の中も犯した。
 すっかり唾液に濡れた指を、今度は胸元に持っていく。ぬるぬると乳首を転がすと、慄いたように全身が震え、後ろにまで響いた。きゅうっと食い締めてくる後孔をこじ開けるようにして腰をしゃくり上げ、奥に突き込む。
 これ以上はもう堪えきれないと、僚は低く唸った。

「だめぇ――いく!」

 叫びとほぼ同時に、白熱を飛び散らせる。神取は乳首に触れていた手をそちらに持っていき、全て絞り尽くすようにゆるゆると扱いた。

「あ、あ……」

 動きに合わせて、僚の腰がゆらゆらと揺れる。内部の締め付けはきつく、射精を促しているようだった。
 引き攣るような呼吸の後、僚は激しく胸を喘がせた。いくらか締め付けも弱まり、神取は静かに腰を引いた。
 僚の口から呆けたため息がもれた。

 

目次