Dominance&Submission

足音

 

 

 

 

 

 湯上り、白いバスローブの僚を腕に抱え、神取は寝室のベッドに運んだ。自分で歩けるというのを無視してやや強引に抱え上げたせいか、僚は小さな抵抗をみせた。交互に足を振って宙を蹴り、伸び上がる仕草をした。本気で嫌がっていないのは顔を見れば一目瞭然だった。楽しげに笑っているのだ。神取も戯れに乗り、ベッドのすぐ傍まで運んだところで、よろける振りをしてベッドに落とす。

「やったな」
「おっと、失礼」

 いかにも小ばかにしているといった顔で男はベッドに腰かけた。その顔があまりにおかしくて、僚は笑いを弾けさせた。

「その顔、腹立つ。なにそれ」
「さて、どんな顔かね」

 男はますます滑稽な顔をしてみせた。腹が捩れると、僚は涙を滲ませながら大笑いした。笑う合間に男の滑稽な顔を真似て、こんなにおかしかったと腹を抱える。

「やめろって、もう」

 ふうふうと、何とか息を整え、僚は目尻の涙を拭った。

「今の顔は卑怯だ」
「君の顔も中々だったよ」

 しばらくは、思い出して一人で笑ってしまいそうだ。
 それを言うなら自分もだと、僚は顔を手で覆った。

「いい思い出が出来たろう」
「ああほんとに」

 得意げに笑う男が小憎らしくて、僚は男の足を軽く叩いた。
 そのまま膝に置かれた手を、神取は軽く握った。大好きな手に包まれた自分の手に目を瞬き、僚は静かに口を噤んだ。
 ひと呼吸おいて、神取は口を開いた。

「ところで、一つ聞きたいのだが」
「なに」
「昼間の、あの見事な技」
「……ああ」

 昼に何をしただろうかと記憶をたどり、すぐに思い至る。男が言うのは、どうやったらあんなに綺麗に毛布にくるまれるのか、という事だった。

「いや、大した事ない」

 実に馬鹿馬鹿しいものだと、僚はくすくす笑いながら再現してみせた。

「こうやって手と足で毛布の端を挟んでさ、ぐるぐる転がるだけ」

 いつだったろう、ずっと以前にアパートで、なんとなくそうやってくるまって寝たら思いの外気持ち良かったので、たまにやっているのだ。

「なるほど、見事だ」

 感嘆する声に僚は照れくさそうに頬を緩めた。

「そして私は、君を丸めた絨毯のように肩に担いで、寝室に運んだんだ」

 毛布をほどきながら、うそ、ひどいと、僚は笑いかけた。さあどうだろうと言わんばかりに片眉を上げ、神取は身を屈めた。
 間近の眼を見据え、僚はきっぱりと言った。

「うそだ」
「どうして」
「鷹久はそんな事しないし」
「どうかな」
「しないよ」

 少しむきになって否定する少年に微笑し、神取はそっと口付けた。

「ああ、しない。できないよ」
「そうだよ」

 それを知っていると、僚は笑って首に腕を絡めた。再び重ねた唇からするりと口中に入り込んできた男の舌を歓迎し、自分の舌で絡め取る。熱い粘膜がぴちゃぴちゃと触れ合い、時折力強く圧される。頭の後ろが熱く痺れるようで、僚は小刻みに震えを放った。首にしがみ付いていた腕をほどき、男の肩や背中をまさぐる。そうすると男も、身体の下に腕を差し込んで、しっかりと抱きすくめた。

「っ……」

 背中に感じる男の手のひらに、じわりと沁み込んでくる熱に、僚は小さく息を飲んだ。布越しに伝わってくる柔らかい熱にうっとり浸っていると、いつの間にかバスローブの帯が解かれ、はだけられるところだった。
 また息を飲む。
 男の唇が徐々にずれて、頬や首筋をついばむ。くすぐったいような刺激と幸福感に、僚は半ば無意識に笑みを浮かべた。
 少しずつ位置を変える愛撫に、予感に、眉根を寄せる。

「あっ!」

 それでも、実際に乳首を吸われると声が出てしまう。笑うような息遣いが肌に触れ、僚は胸を喘がせた。
 今度は指で摘ままれる。そのままくにくにと弄られ、呼吸が引き攣る。

「あ、あ……」

 たまらないと、僚は悪戯する男の手をさすった。時々腰が過剰に跳ね、そんな風に反応してしまう自分の身体が恥ずかしくて、頬を赤く染める。それでも、繰り返し男に教え込まれた身体は素直に反応する。
 乳首と後孔とを同時に捏ねられ、互いに高める快感は特に強烈で、身体の芯まで沁み込んでいる。だからそれ以降、こうして片方を弄られるともう片方が自然と疼き出して、じっとしていられなくなった。
 むず痒い脈動を後ろに感じ、堪えようのないそれに僚はシーツに擦り付けるようにしてもじもじと腰を動かした。

「素直ないい身体で、大好きだよ」

 僚はますます眉根を寄せた。
 悔しそうにしながらもじっとしていられず、挑むように見上げてくる少年を面白そうに見つめ、神取は口端を緩めた。そのまま乳首を転がしながら再びキスをする。僚は懸命に応えようとするが、どうしても声が出てしまう。舌が強張ってしまう。小さな突起を捻られて、身体が弾む。
 神取はひとしきり口中を舐めると、口付けほどに顔を離した。熱く潤んだ目がぎこちなく動いて、見つめてくる。視線が合うのを待って、目を他所へ逸らす。この位置からでは見えないが、何を見ようとしているかは僚に伝わった。
 愛撫に反応して硬く張り詰めた下部を見たのだと察した僚は、小さく息を飲み、ぎこちなく目を揺らした。忙しなく息を継いでいた唇を引き結び、男の下腹へ手を伸ばす。そっちだって同じだろうと、探り当てる。

「ああ、同じだよ」
「!…」

 神取は笑って、僚の手に押し付けた。はっきりと形の分かるほど成長した男のそれに、僚は目を見開く。悠然と微笑む下に熱い欲望を潜ませていたと知り、息を引き攣らせた。腹が立つと同時に、嬉しくもあった。
 自分だけがさっさと追いつめられて、息も満足に出来ない状態に置かれているのかと思った。男も同じように興奮して…自分とこうする事に興奮していると知り、ひと息安心する。

「もっと触って」
「ん……」

 微かな空気の揺れほどの、低い男の囁き。僚は息を啜り、手のひらに感じる熱く硬いそれをまさぐった。

「いい子だ」

 神取は微笑し、唇を塞いだ。そして僚と同じように下部を撫でさする。
 二人はしばらくの間、唇と舌と手で、互いに快感を与え合った。
 静かな部屋の中、ぴちゃぴちゃと舌を絡めて二人は言葉以外で会話した。
 ゆるゆると滑らかに動く男の手と、舐る舌とに、僚はうっとりと頬を上気させた。負けまいと、少しでも声を出させてやろうと技巧を凝らすが、どうにも男に敵わなかった。一人でさっさと息を乱し、興奮し、涙を滲ませている。自分だって、男にもっと気持ち良くなってもらいたいのに、思うように動けない。
 神取はそっと顔を離し、どこか焦れた目付きで見やってくる僚に微笑んだ。それから、眦に滲んだ涙を吸ってやる。合わせて片目を瞑る僚に笑みを深め、少しずつ身体をずらしていく。

「……あ」

 握っていた男のそれに手が届かなくなり、僚は名残惜しそうに声を出した。
 男はほっとしていた。これ以上続けたら、彼以上に声を出してしまいそうだった。もう堪えきれないところまできていた。まだ長く楽しみたいから、先延ばしにする。
 彼をもっと、たっぷり味わいたい。
 彼を楽しませたい。
 二人で一緒に、楽しみたい。
 神取は身体の前面にキスを振りまきながら、さらに下を目指した。その間も、僚のそれをゆるく扱き続ける。

「んっ……ん」

 何をするのか察して、僚はわずかに頭を持ち上げた。
 神取も顔を向けた。眉を寄せ、何か云いたげに見つめてくる僚と目を合わせる。

「してもいい?」

 扱くのを止めてやんわり握り込み、親指で先端を丸く舐めながら訪ねる。
 僚はもじもじと腰を落ち着かなくさせ、お願いとかすれた声を出した。

「……して――あぁ!」

 ひと息に喉奥まで咥えられ、飛び上がりそうなほど熱い粘膜に僚は仰のいて高い声を放った。強く吸われ、思わず腰が浮く。痛いようなむず痒さがたまらない。僚は喉を晒したまま頭を振りたくった。

 

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