神取はバスルームから寝室まで僚を抱いて運ぶと、ベッドにそっと横たえてやった。離れようとすると目だけでキスをねだられ、応えて唇を重ねる。
「もう、機嫌は直ったかな?」
「しょうがないから、許してやる」
いたずらっ子のように笑って、僚はそう言った。最初から、怒ってなどいなかった。ただ、男に身体を洗ってもらう口実に、怒った振りをしたのだ。
彼の手は、とても気持ちがいい。節のしっかりした手で触られると、セックスの時とはまた違った快感があって、身体を洗ってもらうだけなのにとろけてしまいそうになる。
射精なしでいくような、不思議な満足感があるのだ。
「それはよかった」
再び口付ける。頬に添えられた男の手に、僚は自身の指を這わせた。目を閉じて、指先が感じる男の手を頭の中に思い描く。
神取は少しずつ、自分の手を僚の口元に持っていった。
僚の唇が、上を這う男の指を優しく撫でる。そして自ら招き入れ、するりと滑り込んだ人差し指を軽く噛んだ。同時に、舌で舐める。
神取はそれに合わせ、指先を出し入れする。
「ん、ん……」
舌を触られて、僚はかすかに呻いた。
「何をしているの?」
僚が頭の中で思い浮かべているものを邪魔しないよう、神取は耳元でそっと囁いた。
「ん…鷹久の……指……舐めてる……」
「どうして?」
「あ…入れて…もらいたいから……」
恥ずかしさに口ごもり、僚は小さな声で答えた。
「どこに?」
僚は息を啜った。何度か躊躇い、震える声で「後ろに」と答える。
「後ろに、入れてもらいたい?」
顔を赤らめ、こくりと頷く。男は口端を上げ、満足そうに笑みを浮かべた。
「足を開いて」
指を舐めながら、僚は言われるまま膝を割った。口中から男の指がするりと離れる。
目を閉じて身体を委ねる僚の姿を隅々まで眺め、神取は開かれた足の間に右手を伸ばした。
唾液に濡れた指先が触れた瞬間、僚は反射的にそこを締め付け、小さく声を上げた。
「僚、痛い方がいいのかい?」
かたく閉じられたそこを優しくなぞりながら、神取は尋ねる。
力んだままのそこに強引に指を差し込めば、当然痛みを伴う。
時に、あえてそれを望む事もあるが、今は欲しくはなかった。僚は首を振り、身体から力を抜いた。入口をなぞっていた指が、弛緩したそこを割って徐々に入り込んでくる。
「ん、あ……」
ねっとりとした唾液に包まれ指が、内部を探りながら徐々に奥へと進む。じわじわと這い登ってくる感触に僚は小刻みに身体を震わせ、熱い吐息をもらした。
指先が、入口近くのある一点を強く抉る。
その瞬間、僚の口から甲高い悲鳴が上がった。立てていた膝がびくんと揺れる。
「あっ…そこ――」
両手にシーツを握り込み、切なげな声で訴える。
僚の反応を楽しそうに眺めながら、男はそこと言われた箇所を執拗に責めた。
「あ…やっ……ああぁ…そこ、そこ……」
「初めての時から、僚はここが好きだったね」
妖しく腰をくねらせてシーツに擦り付け、僚はうわ言のように何度もそこと繰り返した。
内部に隠された敏感な部分を男の指に捏ね回され、一気にのぼりつめていく。
「くぅっ…んん……あ…はぁ……」
鼻にかかった甘い鳴き声を上げ、激しく身悶える。内部の強い刺激によって勃ち上がった熱塊は、極まりが近い事を告げてびくびくとわなないていた。男は一息に、僚を解放に導いた。一度も性器に触れられないまま、後ろだけの刺激で絶頂を迎える。
かすれた呻きを上げて、僚は二度、三度と白液を飛び散らせた。指が後孔から引き抜かれる。それまで強張らせていた身体から力を抜き、満足げに息をついた直後、膝裏を掴まれ腰を高く持ち上げられる。
あっと思う間もなく男の熱が後孔にあてがわれ、緩んだ部分を一気に貫かれた。
思いがけない挿入に、僚は高い悲鳴を上げて仰け反った。
身体が弾けてしまいそうなほど強烈な痺れが、僚を支配する。力強く根元まで埋め込まれ、腰の奥に受けた重苦しい衝撃に呆気なく射精する。
僚は素直に悦びの声を上げた。
強い刺激によって涙が滲み、僚はその濡れた瞳で男を見上げた。手を伸ばし、男の唇に触れる。
神取は先刻僚がしたように、触れてきた指先を軽く噛んだ。
「は…ん……」
僚の手を掴み、神取は咥えた指にねっとりと舌を絡ませた。唇で扱き、指の間や手のひらを丹念に舐める。
「あ、あ……やっ……」
男の舌が、どこをどんな風に舐めているか、目にしただけで僚は息が乱れるのを止められなかった。ただ舐めているだけ。言ってしまえばそれだけだが、だから余計にいやらしく感じられ、目が釘付けになる。本当は恥ずかしくて見ていたくないのに、目を逸らす事が出来ない。
そして気が付けば、僚のそこはまたも頭をもたげ、悦楽の涙を流してひくひくと震えていた。
そんな僚の反応を愉しみながら、見せ付けるように尚もじっくりと舌を這わせ指の一本一本を愛撫した。
知らず内に腰を揺すり、僚は熱い吐息に胸を喘がせた。新たに込み上げた涙が眦に浮かぶ。
神取は掴んでいた手をシーツの上にそっと置くと、身を屈めて、眦にたまった涙に唇を寄せた。背中に腕を回して抱きしめ、僚の涙を舐め取る。
「んっ……」
男を抱き返し、柔らかい舌の感触に陶然とする。と、止まっていた男の腰が、抱きしめた僚を激しく揺すりながら抽送を始めた。
「あぁっ…ああぁ……は、ん……あ――!」
男の背に縋り付いて、僚は叫びに近い声を迸らせた。
とめどなく溢れる叫びを、神取は唇で塞ぎ、それでも尚上がる声を口中に受け止める。
下から抉るように突き上げ、熱く絡み付いてくる僚の内部を存分に味わう。
たまらずに首を振って男から逃れ、僚はありったけの声を上げて男の突き上げに応えた。擦られる内壁が、粘ついた水音を立てる。卑猥な響きに頬がかっと熱くなる。
「あ…あ……んぅっ…んん……は、ぁ……」
神取は背中に回された僚の腕をほどき、ばんざいをする形でベッドに押し付けると、身体を起こし、浅い箇所での抜き差しを繰り返して僚を鳴かせた。
上げる悲鳴と同じ激しさで僚は首を振り、押し付けられた両手をぐっと握り締めた。
重苦しい突き上げとは違う、弾むような抽送に腰が砕けてしまいそうになる。
苦しさがない分湧き上がる快感はより強烈で、あられもない声を上げてしまう自分に恥らいながらも、僚は続けざまに喉を震わせた。その度に意識せず後孔はびくびくと収縮を繰り返し、突く者と突かれる者に別々の快感を与える。
ねっとりと絡み付く内壁の愛撫を受け、男のものが僚の深奥でぐんと張り詰めた。
「あっ……は――!」
内側を圧迫する熱塊の脈動に、僚は大きく仰のいた。同時に、呻くような男の息遣いを耳にする。極まりが近付いている事を知らせる声音に、腹の底がぞくりとざわめく。
激しい突き上げに朦朧としながらも、僚は自身の後孔に力を込めそこを行き来する肉茎を意識して締め付けた。
「あぁっ……」
男が切なげに鳴く。僚は涙で潤む視界に男を捕らえ、目を合わせて微笑んだ。
神取は微笑を返して身を屈めると、僚の首筋に吸い付き、ついばみながら何度もキスをした。
肌の表面を走る心地良い刺激に、うっすらと浮き上がった僚の喉仏が上下する。そこにも口付け、舌先で舐めながら、唇の届く全てを愛撫する。
首筋から顎へ、頬へ、そして瞼に口付け、左耳に輝く白金の輪を唇に挟むと、神取は痛みに届かないぎりぎりまで引っ張った。
「ひっ…あ……」
たまらずに僚は、掴まれている手に力を込め全身を強張らせた。いやいやをするように、小さく首を振る。それでも男は離れず、更に舌を耳孔に差し込んだ。
「んん……!」
耳孔を舐める音に、身体の芯がかっと熱くなる。男に触れられている部分全てが、溶けて一つになってしまったようだった。
「や、あっ…あ…ん……はぁっ……」
散々に耳孔を弄られ、またピアスを引っ張られる。二度目は、少し痛いくらいの刺激。ぞくりと背筋が疼き、僚の身体は急速にのぼりつめた。それより少し早く、男の息遣いが変化を見せる。
僚の拘束を放棄した手を背中に回し、かたい抱擁のまま唇を塞ぐ。
僚は無我夢中で男にしがみついた。
口内に放たれる僚の叫びを飲み込みながら、神取はより激しく僚を揺すり立てた。くぐもった悲鳴に、射精欲がかきむしられる。
「くっ…ふ……」
一際強く腰を打ち付け、最奥に達した所で神取は一切の動きを止めた。
「うっ……」
男の熱いものが注ぎ込まれる感触に、僚は身体の震えを止められなかった。きつく眉根を寄せる。
内臓を強く押し上げて静止していた肉がずるりと引き抜かれ、かすかなおぞましさを伴った身震いするような刺激に小さな呻き声を上げた。
男の肉茎で緩んだ僚の後孔が、口を開けたままひくひくと物欲しそうにわなないている。
白い涎を垂らす様は、何より淫らだ。
「もっと欲しい?」
指先で弄繰り回しながら、更に卑猥な言葉を僚の耳元に囁く。
僚はちらりと見やり、唇を噛んで小さく頷いた。こうまで身体を煽られては、からかわれても仕方なかった。自分自身、どれだけこの身体が男に抱かれて悦ぶかよく知っている。
「たかひさ……」
羞恥に身を縮ませ、僚は男を見上げた。劣情に潤んだ瞳が、揺れながら男を捕らえる。
胸に食い込んでくる熱い眼差しに、神取は息を潜めた。身体だけでなく、心だけでなく、一つになってしまいたい。思い切り抱いて、何もわからなくなってしまうまで。
「欲しい……」
僚のかすれた声が神取の耳に届く。にっこりと口端を持ち上げ、僚の腕を引く。
引かれて、片手をついて起き上がろうとした時、奥に注ぎ込まれた精液が漏れ出そうになり、僚はあっと小さく声を上げたきり動けなくなってしまった。
「どうした?」
「起きたら…出る……」
手をついて這いつくばったまま、僚は辛うじてそれだけを口にした。男はすぐさま察したが、わざとわからない振りを装い何がと聞き返した。
僚は恨めしそうに男を見やり、口を噤んだ。
「何が出るのか言ってごらん」
俯き、僚は沈黙を通した。
「言えないなら、終わりにするかい?」
「それは…やだ……」
意地悪な物言いにすぐさま首を振る。
「じゃあ言ってごらん」
ちらりと男をかすめ見る。身体はすでに、解放を求め熱く滾っていた。
はっきり口にしなければ、欲しいものは与えてもらえないのだ。
一刻も早く欲しくて、たまらない。
何度か伝いかけては口を噤み、戸惑った末に、僚は答えた。
「起きたら…鷹久の…が、出る…から……」
「私の、何が出る?」
後孔を弄くっていた指を少し中に埋め込み、更に聞き返す。
「やめっ…さわ…るな……」
指の刺激で溢れてしまいそうになるのを必死にこらえ、僚は男を押しのけようとした。
「ちゃんと言いなさい、僚」
「だから……中に出した鷹久の……」
思い切って一息に言ってしまおうとするのだが、肝心の部分にくるとどうしてもつかえてしまい言えなかった。
今にも泣きそうになって口ごもる僚を愛しそうに見下ろし、神取は先に続く言葉を耳元に流し込んだ。
苦しそうに顔を歪め、僚は小さくそうだよと吐き出した。
「その前に繋がってしまえばいい」
言葉と同時に僚は引き起こされ、男の上に座らされる。
「だめっ…!」
叫び、僚は必死で後孔に力を入れた。とろりと漏れ落ちそうになるそこを、神取は下から突き上げた。かなり強引な挿入だった。
ひどく猥雑な音を立てて熱塊を打ち込まれ、羞恥の余り僚は激しい目眩に襲われた。霞む意識を、突き立てられた男の怒漲が引き戻す。
「く、う…あぁっ……!」
腹の奥まで届くほど深く埋め込まれた熱塊に、僚は鋭い悲鳴を上げて仰け反った。
先刻よりもはるかに強い圧迫が、僚の口から何度も悲鳴を上げさせた。苦しさに、足をついて庇おうとするのだが、先読みされ膝を下から持ち上げられる。
同時に前後に揺さぶりをかけられ、なす術もなく僚は苦鳴を迸らせた。繋がったそこから、粘液をかき回すおぞましい音が聞こえてくる。
意識が弾け飛んでしまいそうになる。
どうなってもいい。
どうにでもなってしまえばいい。
目の前の快楽に溺れて、何もわからなくなってしまえばいい。
僚は甘えた声を上げて、身体を揺さぶる男にしがみ付いた。
「あ、ん……あぁっ……!」
向かい合った男の腹に張り詰めた自身が擦られ、頭の中が真っ白になる。
僚は我を忘れて嬌声を上げ続けた。
神取の手が下部に伸びる。
今にも極まりを迎えようとしている自身を触ってもらえると僚は期待したが、男が触れたのはそこではなく、その周り…自らが剃り落とし露わにした部分だった。
そこじゃないと不満を訴えて男を見つめた瞬間、えもいわれぬ感覚が触れられた部分から伝わり、僚は困惑の表情を浮かべた。
僚の困惑を他所に、手触りを楽しんで男の手が何度もそこを滑る。
「あ、あ…んん……はっ…あぁ……」
どう受け止めていいかわからない、今まで味わった事のない刺激に、僚は怯えた眼差しで男の目を覗き込んだ。不快ではないのだが、長く触られる事に強い抵抗を感じるのだ。
今まで陰毛によって守られていたのだから、どこよりも敏感なのは当然だろう。それを知らない僚は、自身を翻弄する感覚にうろたえ、男に救いを求めた。
しかし男は黙したまま、戸惑う僚の表情を心の中で存分に楽しむ。
「や、やだぁ…もっ……さわんないで……」
優しく下部を撫でさする男の手に視線を落とし、僚は切羽詰った声を上げた。
表面を撫でられているのに、もっと深い場所を触られているような、妙な感覚だった。
男の手はひどくゆっくりと、白く浮き上がる下腹部の上を這った。
まるで、淫猥を見せ付けるかのように。
「あ…くぅ…う……」
とても、声を殺せなかった。見ているだけで目が眩みそうになる。僚は低く呻きぶるぶるとわなないた。
「感じるかい?」
撫でながら、僚の目を覗き込み静かな声音で訊く。
視線をそこに貼り付かせたまま、僚はぎこちなく頷いた。
「へんだ……すごく」
「自分で触ってごらん」
すっと男の手が退く。
僚はひくりと喉を鳴らし、恐る恐る下腹部に手を伸ばした。何度か躊躇い、ひたりと手を当てる。自分の指で自分の腹を触っているはずなのに、全く未知の感触が伝わってくる。
僚は熱い吐息をもらした。
「そこだけで、いってごらん」
言われて僚は視線を弾ませ、再び目を落とした。ぎこちなく指を滑らせると、背筋に弱い電流にも似た痺れが駆け抜ける。
たちまちの内に、僚はその刺激の虜になった。
「あ、はっ……」
小さく声をもらし、涙で潤んだ目を瞬かせながら僚は更に指を這わせた。まるで、初めて自慰を行っているようだった。そこを擦る事にのみ没頭し、無意識の内に腰を振り始める。
合わせて、男も腰の動きを早めた。
「ん…ああぁっ……は…ん……!」
男の手が僚の尻を掴み、激しい揺さぶりをかける。
僚は仰け反ったまま首を振り、口からしとどに喘ぎをもらした。
男の怒漲が、先に放った自身の精液をかき回す。
それは時折、繋がった部分から溢れ出て、二人の下部を濡らした。
「いく……も…出る――!」
性器ではなくその周りを擦りながら、僚は極まりが近い事を口にした。
「もっと…声を聞かせてくれ……」
彼を揺さぶる激しさとは裏腹に、優しい声音で男が囁く。
「く…ふっ……」
絶頂の瞬間、僚は自らの下部に爪を立て、強くかきむしった。
デリケートな部分は赤く傷付き、僚はその痛みの中白液を放出した。
「あぁ……」
神取は自身を埋め込んだまま、余韻に浸る僚を這わせると、弾むように腰を打ち付けた。
犬のように這い、後方から突き立てられて首を振る僚の姿に、男のものが硬く張り詰める。
中に残っているまま、新たに注ぎ込まれる事に僚は拒絶の声を上げたが、聞き入れられず、腹の奥に熱いものを吐き出される。
哀しそうに喘ぐ僚を抱き起こし、ぐったりともたれてくる身体を神取は優しく抱きしめた。
弱々しく啜り泣く僚を自分の方に向かせ、頬に零れた涙を舐め取る。
僚はいやいやをするように小さく首を振り、聞き取れないほど微かな声でもっとと呟いた。
「もっと…繋がってたい……から…止めな…で……」
乱れる息の合間にそう訴え、僚は上げた手でそっと男の頬に触れた。愛しさのあまり、男の胸がずきりと疼く。
「一日中…繋がってる…て……いいんだろ……?」
「嗚呼…もちろんだとも。その為に中もここも……」
痛々しい引っかき傷のついた僚の下腹部を優しく撫で、男は続けた。
「綺麗にしたのだから」
僚は鼻を啜り、淡く微笑んだ。目が眩む。自覚のない、壮絶なまでの色気に、いっそ喰らってやりたくなる。
「ひっ…あ……!」
大きく足を持ち上げられ、僚は短く叫んだ。男の怒張したものだけで身体を支えられ、深く突き入れられた痛みと快感に鼻にかかった嬌声を上げる。
「ああぁ…きもちいい……あ、だめ……」
そのまま小刻みに揺すられ、わずかもしないで僚は吐精した。もう何度目かもわからない絶頂。それでも、まだ男と繋がっていたかった。
時折意識は薄れ、激しく揺すられて目を覚ます。次第に感覚は麻痺していって、ただ、繋がったその熱さと、互いの声だけが、二人を包み込んでいく。
言葉も満足に口に出来ず、最後には名前を呼び合うだけになる。
怒涛のように押し寄せる快楽の波に、いつしか二人は浚われていった。 |