Dominance&Submission
休日
気が付くと、背後にいる男にしっかりと抱きしめられ、湯船に身体を沈めていた。肩口に頭をもたれさせたまま、僚はゆっくりと目を上げて男を見た。まだ少し、頭がぼうっとしている。身体は重かったが、不快ではない。むしろ心地良いだるさだった。 「具合はどうだ?」 僚の覚醒に気付き、神取は静かに声をかけた。 「あ……」 呼吸と共に瞬き、身体を起こそうと浴槽の底に手をつく。 「!…」 そこでようやく、僚は気付いた。自分の中にまだ男が入り込んでいる事に。 「はッ……!」 意識した途端、僚のそこはきゅうっと収縮し、飲み込んだ男を強く締め付けた。 二人は同時に、別々の刺激を味わう。 「ああ…とてもいい」 「ぬ、抜けよ……!」 背後で快感に浸る男に向かって、僚はうろたえた様子で言い放つ。 「どうして? 気持ち良くないのかい?」 「え…あの……」 「私は気持ちいよ。君の締め付け……たまらない」 「んんっ……あ、ぁ……」 腕の中でぶるぶるとわななく僚を抱きしめ、神取はうっとりと言った。 男の言葉に僚は震えが止まらない。大分馴染んだが、こんな風に穏やかに言葉を交わしながら抱かれると、嬉しさと恥ずかしさでどうしていいかわからなくなる。 僚は恐々と身体の力を抜き、男の肩に頭を預けた。 二人はただ繋がったまま、触れた肌を通して感じる互いの鼓動を聴いていた。心臓が鼓動を刻む度、繋がった後孔がずくりと疼く。淡い痺れと疼きが、身体の芯を緩やかに漂っている。 「さっきの……」 しばらくして、僚はぽつりと口を開いた。 神取が小さく聞き返す。 「すごく気持ちよかった……」 恐怖に飲まれそうになった寸前、男の声が耳の奥に流れ込み恐怖を快感に変えた。 身体全体で男を感じ、何もわからなくなるほどの愉悦が怒涛のように押し寄せてくる。そしてそのまま、意識はさらわれていった。 思い出した途端、緩やかに漂っていた快感の疼きが一気に跳ね上がる。僚は小さく声をもらした。 僚の変化に気付いた神取は、胴に回していた腕をほどき、腰を捕らえた。 「や…待って――」 僚の制止を無視して、神取は捕らえた腰を前後に揺すった。 湯を波立てて揺すられ、僚は咄嗟に浴槽の縁を掴んで身体を支えた。 「あ…あぁ、あっ……は…ん……」 擦り付けるように揺すっていた腰をわずかに浮かせ、神取はそこを下から突き上げた。 小刻みに尻を打たれ、たまらずに僚は首を振った。 さっきまで穏やかに漂っていただけの疼きは、今や大きなうねりとなって僚を翻弄した。半ば我を失い、自ら腰を振ってもっと欲しいと男にねだる。 神取は求められるまま、より強く腰を突き出し僚の肢体を打ち震わせた。 鼻にかかった甘い声をとめどなく迸らせ、僚は絶頂へとのぼりつめていく。 「あぁあ……もぅっ…も……」 浴槽の縁を掴んだ指にぎゅっと力を込め、今まさに達しようとした時、内部から突然男のものが抜き去られる。 「あぁっ……!」 もう一歩というところで快感を取り上げられ、僚は不満を訴える眼差しで男を振り返った。知らず、後孔がひくひくとわななく。 それを指先で楽しみながら、神取は僚の不機嫌な視線を微笑みで受け止めた。 「こっちを向いて。自分から入れてごらん」 言われるまま、僚は浴槽の中で向きを変えると、水中でゆらゆらと揺れる男のものに手を沿えて自ら腰を沈めていった。 「あ…んん…うっ……」 充分に熟れた内部に、男のものが入り込んでくる。僚は甘えた声を出し、自分の中一杯に男を埋めていった。男の首に腕を回し、きつくしがみつく。 神取も同じように僚を抱き返した。 「は、ぁっ……」 大きく、ため息をつく。もう幾度となく男のものを受け入れているのに、この瞬間はいつも蕩けるように甘く心地いい。 僚は意識して何度もそこを締め付け、飲み込んだものを心ゆくまで味わった。 神取は背中に回した手を下ろすと、自分のものを咥えて一杯に拡がった僚の後孔を指先でなぞった。その刺激に、さらにひくひくと震えが走る。 「あ……や、だっ…そこ……弱い……」 ぷっくりと盛り上がった後孔の輪を弄られ、僚は背を反らせてふるふるとわなないた。折り重なった襞が作る輪も、僚の弱い部分の一つだ。 「痛い?」 「ちが…いたくな……よわい、から……やっ……」 やめてくれと伝っても、男の手は止まらなかった。じっくりと、舐めるようになぞる。 「痛い?」 「ちがう…や、だって……頼む…から……も――」 違うと訴えているのにわざと同じ言葉を繰り返す男に、僚はじわりと涙を浮かべた。 「僚、ピアスをこっちに向けて」 男の言葉に、僚はひくりと喉を震わせた。責められる全ての弱い箇所を、同時に責めようというのだ。 僚は小さく首を振った。 その応えに神取は、空いたもう一方の手で僚のペニスを少しきつめに握り締めた。 「うぁ、あ……」 「言うとおりにしないと、前でいかせてあげないよ」 言葉と同時に一切の動きを止める。 「さ…さっきも…そう…言っ…て…だめって……」 「今度はちゃんといかせてあげるよ。それとも、もう私の言う事は信じないかい?」 「そんな…こと」 熱い吐息に胸を喘がせながら、僚は潤んだ瞳で男を見つめた。信じないはずがない。たとえ一瞬だって、疑った事などない。 けれど、最後には必ず守られるものでも、そこに至るまでにもう二度と味わいたくないという思いをさせられるから、つい首を振ってしまうのだ。 嫌な思いでは決してない。それはむしろ、身体が溶けてなくなってしまうのではないかというほど、目も眩むような大きな快感。 嬉しいのだけれど、受け止めるにはあまりにも大きすぎるから、それが少し怖くもある。 「う……」 黙ったままじっと見つめてくる男の視線から目を逸らし、僚はおずおずと身体を寄せた。男の口元に左耳を預け、背中に腕を回す。 「どうして欲しい?」 男の問いかけに、僚はぎゅっと目を瞑った。男の言うとおり身体を預けても、どうして欲しいかは、自分の口から言わなければしてもらえないのだ。そうやって、楽しむ事を覚え込まされていく。 男の口元に自分の左耳がある事を想像しただけで、身体の震えが止められなくなる。今にも飛んでしまいそうになる意識を奮い立たせ、僚は恥ずかしそうに口ごもりながらどうして欲しいか男に伝った。 「後ろは、このままでいいかい?」 男にしがみついた腕に更に力を込め、わかり辛いほど小さく首を振る。 男に答えを促され、その言葉で男を操る。本当に嫌な事は口にしなくていい。自分が欲しいものだけを求め、与え合う内に、やがてどちらが支配しているのかわからなくなる。 二人は徐々に、その状態へと向かっていった。 「もっと…たくさん……いじって…繋が……繋がりたい――」 静止した状態に焦れて、僚は自ら腰を振って男を貪り始めた。意識して後孔を締め付け、その状態で上下に動く。 自らの行為にあられもない声を上げて乱れ、僚は没頭した。不意に耳をかすめた男の低い呻きに、強い電流のごとき痺れが走る。 「ま…前も……さわ…て……」 荒い息を交えてねだる僚に、男はわずかに息を乱しながら応えた。後ろに回した手で小さな口の襞を弄り、もう一方の手で肉茎を擦り上げる。 快感に打ち震え、僚は熱に浮かれた声で何度もいいと伝い、もっと欲しいとさえねだった。 「私も…いいよ、僚」 神取は快楽に乱れ狂う僚を激しく揺すり、長い抽送で腰を打ち付けた。 後方や熱塊を撫でる男の手に、僚は嬉しそうに首を振って悦びの声を上げた。 やがて僚の口からもれる声は言葉を失い、時折最奥を突かれて上げる鋭い悲鳴と、熱い吐息だけになる。 耳に流れ込む僚の嬌声に、熱く膨れ上がった男のものが絶頂へと導かれる。同時に迎えようと、さらに激しく扱く。 「あぁ………はっ…んん……!」 強烈な快感に目眩を起こし、僚は思わず男の背中に爪を立てた。 長く湯に浸かっていたせいで柔らかくなった皮膚に、僚の短い爪先が食い込む。 ちくりと走る痛みすらもしかし、それが僚の与えたものだと思うだけで神取を昂ぶらせた。 僚の深奥で、男のものがずくりと脈打つ。 「あ、もっ……いく、いく……いっ――!」 自ら腰を振り立て、僚は白く濁った粘液を吐き出した。絶頂の歓びに後孔が激しく収縮を繰り返し、咥え込んだ男を愛撫する。 間を置かず、神取も僚の深奥に精を放出した。 飛び上がりそうに熱い精液の感触に、僚はかすれた悲鳴を上げて仰け反った。 やがて段々と僚の身体から強張りが抜けてゆく。 忙しなかった呼吸が元に戻る頃合いに、男は萎えた自身をゆっくり引き抜いた。 「んんっ……」 僚の口から、予想した通りの、不満げな声が零れた。 神取は小さく笑う。自分だって、まだ満足出来ない。 気遣いながら湯船の中で立たせ、背中を向けるよう指示する。 「そこのバーにしっかり掴まって、そう」 浴槽の外側、縦に取り付けられた白い手すりを指し、手を誘導する。 「立っていられるかい?」 「……へいき」 僚は掴んだまま肩越しに男を熱っぽく振り返り、目線で誘った。 「その目……すごくそそるよ」 神取は顔を近付け、言われて気恥ずかしそうに目を伏せた僚の頬に軽く接吻した。それから舌を這わせる。 「あっ……」 それだけの刺激でびくりと反応する敏感な身体を腕に抱き、まだ柔らかく緩んでいる後孔に自身を埋め込んだ。 「あぁー……」 鼻にかかった甘い声が、僚の唇から零れる。 鳴きながら仰け反る仕草がたまらず、たったそれだけでいきそうになる自分に神取は薄く笑った。 ゆっくり腰を前後させると、しなやかに反り返っていた背がたわみ、突き込みに合わせて短い嬌声がほろほろともれ浴室を弾んだ。 跳ね返ってあちこちから聞こえてくる僚のよがり声に、たまらずに神取は動きを早めた。掴んだ腰を、自分の側に引き寄せるようにして強く打ち付ける。 「あ、あ、あ…だめっそれ……激し、い!」 最奥を突く度、少し癖のある僚の黒髪が揺れる。その合間から、白金のピアスが見え隠れしてチカチカと光った。 引き寄せられるようにして神取は耳朶に噛み付いた。 「あっ……!」 びくりと身を竦める僚に気を良くし、神取は片手で下部を弄った。もう一方の手で胸の一点を擦る。 「だめぇ……すぐ、いっ……!」 硬く反り返った僚のそれは、先端からたらたらと涎を垂らし、扱く男の手をたっぷりと汚した。 十代らしい、独特のしなやかな手触りがたまらない。男は時折ぴくぴくと震えるそれを愛おしそうに撫で、指先で舐め回し、時に激しく扱いた。 男の的確な淫撫に上擦った声で応え、僚は限界を訴えた。 「んう、ん! くる……いく、いく!」 「ああ…好きなだけいきなさい」 切羽詰まった声で名を呼ぶ僚を更に追い上げ、神取は休みなく手を動かした。後ろからも激しく突き込む。 「も、だめぇ…たかひさ……あぁ――!」 間延びした喘ぎと共に先端から白液を噴き上げ、僚は掴んだ手すりを力一杯握りしめた。 強い力で食い付いてくる後孔に苦しげに息を詰め、神取は淡く喘いだ。 まだ、もっと…もっと彼が欲しい。 込み上げてくる肉欲に突き動かされるまま、神取は更に僚を貪った。 絶頂の余韻に浸る間もなくまた追い上げられ、僚は半狂乱で声を撒き散らした。 許して、もうだめ、気持ちいい、もっとして、お願い。 泣きながら苦しげに訴え、縋る僚を深くまで貪り、男は底なしの快楽に溺れていった。 |