Dominance&Submission
休日
「終わったよ」 言葉と同時に、下部にぬるま湯をかけられ、僚ははっと目を瞬かせた。弾かれたように視線を落とす。 覆い隠すものがなくなったその中心で、硬く反り返っている自身の性器に、僚は耳が熱くなるほどの羞恥を感じた。 綺麗に剃り落とされた少し違和感のある下腹部よりも、そちらのほうが、より恥ずかしい。 先端から雫まで溢れさせ、ゆらゆらと震えている。 「あ、あ……」 視界の端に、男の眼差しを感じる。 僚は恐る恐る目の端で見やった。 「中も後ろも、綺麗になったよ」 立ち上がり、神取はにこりと笑った。 「あ…ありが…とう……」 「よく見てごらん」 差し出された手に引かれ、僚は鏡の前に立った。縦長の耐湿鏡に、白く浮き上がる下腹と屹立した己のものがはっきりと映し出される。 「ど、どう…? そそる?」 僚の背後に立つと、男はするりと手を伸ばして性器を包み込んだ。 実際の感触と、鏡に映る自身の淫らな様に、僚は息を引き攣らせた。 「そそるよ。とても」 性器に絡み付く男の指が、鏡に映っている。 自分を嬲る手が、鏡の中でも動いている。先端から垂れた涎がまとわりついて、ひどく下品な、いやらしい音がした。 「あ――だめっ!」 受け止めるには余りにも大きすぎる刺激に、僚は呆気ないほど簡単にいってしまった。 吐き出された精液が、鏡の中の二人を、汚した。 白く濁った粘液が鏡の表面をゆっくり滑り落ちていく様に、目が釘付けになる。 僚は荒い息をつきながら、精液の行方を目で追った。 身体の芯が、焼けるように熱い。 「僚」 背後から呼ぶ声に、小さく謝る。 「謝らなくていいよ。焦る事もない。一日は長いのだから」 「……うん」 肩越しに男と目を合わせる。 「……風呂、入るだろ。中でしたい」 「いいよ」 腕の中で身を捩り、男にキスをする。 「服を脱がせてくれるかい」 キスの合間に、神取が唇の上で囁く。 言われて、男の羽織っているシャツのボタンを一つ一つ外していく。 上を脱がせ、下衣のホックに指をかける。 唇を重ね合わせたまま、僚は手探りで男の下着に手をかける。 その先は男が自ら脱ぎ去り、わずかに離れた唇をまた重ねる。 「ん…ふ、ん……」 裸のまま抱き合い、長い長いキスをする。 強欲な僚の舌が、男のそれを捕らえて離さない。 まるで、形を覚え込もうとしているようだった。 唾液の絡み合う湿った音が、浴室のタイルの上を何度も跳ねる。 おもむろに神取の手が滑り降りて僚のそれを軽く握り込む。 放ったすぐ後でも、口唇の刺激だけでそこはすでに勃ちかけており、男の手の中で独特の弾力をみせた。 「僚……鏡を見て」 ゆるゆると上下に扱きながら、僚を鏡の方に向けさせる。 見なくてもわかる自分の変化を、僚はおずおずと上げた目で確認した。 異様な光景だった。 覆い隠す毛の一本もないそこは赤ん坊のようにつるんと白く、なのに、男の手が扱く性器は紛れもなく雄のものなのだ。 グロテスクな自分のペニスだけが異様に目立ち存在を主張している。 なんていやらしい形だろう 男が耳元で囁く。 たまらなく恥ずかしくなり、僚は唸りながら目を逸らした。 直後、男のもう片方の手が僚の胸の突起を指先で突付き刺激した。 ひゃっと情けない声が飛び出る。 「ちゃんと見ないと、触ってあげないよ」 耳を甘噛みしながら、男がくすくすと笑う。 中途半端に刺激を与えておきながら、意地悪を言って欲しいものを取り上げようとする男に、僚は声にならない声で抗議し身を揺すった。 その様子に、男がまた密かに笑う。 「前でいきたい? それとも、後ろがいい?」 鏡の中の僚を見つめ、男は耳孔に吐息を流し込んだ。 白金の輪を唇で挟み弄ぶ。 「あ…り、両方で……あぁッ……!」 「両方がいい?」 息を乱しながら、僚は頷いた。ピアスごと耳朶を引っ張られ、頭の芯が甘く痺れる。 下腹に与えられる刺激とは別の快楽が、僚を包み込んだ。 目が潤み始める。 羞恥に身を竦めながらも、僚は素直に、男の手に応えしとどに喘ぎをもらした。 「鏡に手をついて、前屈みになって」 肩を軽く押され、僚は言われるまま胸を下げた。 足を開かされる。 その背に覆い被さり、神取はうなじに唇を寄せた。 微かな音を立てて吸い付かれ、小さく声をもらす。 男は何度もついばむようなキスを繰り返し、やがてゆっくりと背筋を伝いおりる。中心を通る背骨の一つ一つを確かめるようにゆっくりと舌で舐めながら、徐々に身体をずらしていく。その間も手は、僚のペニスをゆるゆると扱いている。 力が抜けていく。 じれったい刺激に、下腹が疼きを放つ。 たまらずに自ら腰を振り、僚は男の手に自分のものを擦り付けた。 それでも、男の手は変わらず、緩いまま僚を扱いた。 「う…あぁ……」 物足りなさに、僚は甘いため息をついた。 やがて、男の舌が腰の辺りにおりてくる。 その、さらに下へ。 両手が、僚の尻に添えられる。 親指に力がこもり、尻の奥にひっそりと息づく小さな口を露わにする。 思わず声を上げ、僚は仰のいた。 男の顔が、ゆっくりと、少しずつ中心に向かう。 濡れた唇と舌が触れる瞬間を想像するだけで、目の奥がじりじりと熱くなる。 鏡に添えた手に、無意識に力を込め、僚は息を潜めた。やがて舌先が、小さな口をそっと突付く。 「はっ…あ……!」 待ち焦がれた刺激に、僚は一際大きな悲鳴を上げ身体を震わせた。 男を受け入れる為に中を綺麗にしたという事実が、より、僚の身体を感じやすくしていた。 慎ましく閉じられた後孔の、周りを取り囲む襞に舌が這うだけで、僚の口から高い悲鳴がとめどなくもれる。 「い…あぁ…は、ん――」 膝ががくがくと震え、立っていられなくなる。僚は鏡に爪を立て、懸命にこらえた。男の舌が、小さな口の表面を何度も下から上へ舐め上げる。 「くぅっ……」 腰が蕩けそうになる。男の舌が這う度に声を上げて応え、僚はぶるぶると内股を震わせた。どうしていいかわからず、何度も首を振る。 焦らしているのか、それとも慣らしているのか。 折り重なった襞の一つ一つを、男は執拗に舐め続けた。僚が我慢できなくなり、自らねだるまで、丁寧に、じっくりと舌を這わせた。時折、物欲しそうに僚のそこがひくひくと蠢き、男を挑発する。それでも男は、キスの一つもせず僚を慣らし、焦らし続けた。 「く、ぅ…んん……」 鼻にかかった甘い喘ぎを、僚は必死になって噛み殺した。そうでもしなければ、ただでさえ響きやすい浴室一杯に、声を響かせてしまいそうになる。欲しいのに与えられないもどかしさに、鳴いてしまいそうになる。 だが、そろそろ限界に近かった。知らず内に、口端から涎を垂らし、僚は肩越しに振り返った。表面だけではもう、満足できない。せっかく中を綺麗にしたのに、どうしてそこには触れてくれない…恨めしそうに男を見やり、僚は鏡に向き直った。熱い吐息で表面を曇らせ、くぐもった呻きに喉を震わせる。 「た…か、ひさ……」 切なげに首を振り、僚は背後の男に呼びかけた。 「お…ねがい……なか、も……おねが……」 熱に浮かれ、うわ言のように繰り返す。 男は満足そうに口端を緩めると、僚のお願いに応え舌先を内部に挿し込んでいった。 「ひ、あぁっ……あ――!」 時間をかけて内部に入り込んでくる、ねっとりとした塊に、僚は我を忘れて享楽の声を上げた。凄まじいまでの快楽が脳天を直撃する。視界は白く霞み、何も考えられなくなる。 まるで、初めて後ろを弄られているような、初心な感覚が僚を翻弄した。もう数え切れないほどそこをいじられ、達した事さえあるというのに、どうしてこんなに感じる―― ついに膝が萎え、タイルの上に崩れる。僚は男の手に支えられながら四つん這いになり、うずくまった。胸を喘がせ、このまま続けられたらどうなってしまうかわからない微かな恐怖と、強烈なまでの悦楽に、目も眩む官能を味わう。 と、後孔に何かが押し当てられる。一瞬、それが何か理解出来なかった。強すぎる刺激のせいで、意識が途切れかけていた。 構わずに、神取は己のもので僚を貫いた。舌の柔らかな感触から一転して、熱く猛る怒漲を捩じ込まれ、僚の口から鋭い悲鳴が上がる。 苦痛だけではない、どこか甘さを含んだ声音にうっとりと酔い痴れ、神取はやや強引に腰を進め根元まで埋め込んだ。 狭い器官一杯に入り込んだ男のものは焼け付くように熱く、僚を締め上げ存分に鳴かせた。 まだ、これからだというのに。 「うぁ、あ…あっ…んん……」 神取は静かに腰を引き、また根元まで埋め込み、僚の内部を確かめながら、ゆっくりと抜き差しを繰り返した。 やがて抽送が早まってくる。弾むように腰を打ち付け、浅く、深く、僚を突く。 男のものが深奥に達する度僚は喉を反らして甘い声を上げ、切なく首を振った。 「あぁ…はっ……」 半ば我を失い、涎を垂らして悦ぶ僚を背後から回した腕できつく抱きしめると、神取は突き出した腰をぐりぐりと押し付けて彼の口から悲鳴を搾り出させ、苦痛と隣り合わせのそれを堪能する。 「あぁ、あ…んっ…おく、いい……う…ぅ……」 「ここがいい?」 「うっあぅ……そこ、いい……もっとぉ……あうぅ」 自分が何を口走っているのかもうわからなかった。ただ男に身体を預け、快楽を与え合い、ひたすらに酔い痴れている。このまま溶けていってしまうのではとさえ、僚は思った。タイルの上に這いつくばり、男の思うまま揺すられ、身体中が悦びの悲鳴を上げている。 後ろから与えられる快感に頭が痺れてたまらない。僚は半ば無意識に自分のそれに手を伸ばし、男の突き込みに合わせて自慰を始めた。 「駄目だよ、僚」 しかし神取はそれをすぐさま止めさせた。手を掴んで封じる。 「やぁ…前、も……」 「もう少し我慢してごらん」 「やだ……両方ほしい……」 本気で振り払うのではなく、甘える仕草で駄々をこね身悶える僚に、神取は愉しげに声をもらした。身悶える少年の両手を掴んだまま、ゆっくり後ろを嬲る。 濡れた声で僚が鳴く。 「あぁっ…あ……たかひさ……」 「前も欲しい?」 「ん……ほしい」 高い声でねだる自分に、耳まで熱くなる。その一方で僚は、ねだる嘘の自分が本当になってゆく事にうっとり酔ってもいた。 行動を制限され、管理され、その事に不満と甘えをぶつける。 本来の自分からは遠いが、今はこれが本当なのだ。 演技であり、本気でもある、曖昧さが心地良い時間。 「や、おねがい……」 何にも勝る悦楽の時だった。と、突如男の手で口を塞がれる。声を封じる為ではない。呼吸を制限する為に、口を塞がれたのだ。 「!…」 一瞬、何が起こったのかわからなかった。軽いパニックを起こし、僚は咄嗟に男の手を掴んだ。 意識せず、後孔を強く締め付ける。 それによって自身に新たな苦痛と快楽がふりかかり、僚は必死になって身悶えた。口を塞ぐ手の下で、くぐもった悲鳴を何度も上げる。 「私を感じろ、僚……」 男の声が耳孔に流し込まれる。鼓膜を犯す、心地良い低音。涙を浮かべ、恐怖に見開かれた目が、その声を聞いた途端ふっと弛緩する。同時に男が、腰を使って激しく突き上げてくる。 「んっ…んん――!」 脳天を直撃する凄まじいまでの悦楽に、僚は甘い鳴き声を上げてびくびくと身体を震わせた。 男が腰を打ち付ける音と、僚の嬌声とが混ざり合う。 鼻だけで呼吸するのも限界があり、段々と息苦しさを感じてくる。 それでも僚は男の手に、自分の自由の一部を委ね、背後からの激しい突き上げに陶酔し乱れ狂った。 一突きされるごとに意識は白い闇へと誘われ、完全に現実から離れてしまう寸前、身体の深奥から言葉に出来ないほどの快感が盛り上がってきて僚を飲み込んだ。 勢いよく、先端から白いものが噴き上げる。 僚はびくびくと身体を跳ねさせ、至福の中目を閉じた。 |