Dominance&Submission

そっちこそ

 

 

 

 

 

 寝室のベッドに仰向けに寝転がった僚は、壁の間接照明のオレンジや、灯りに浮かび上がる壁紙の、普段はあまり気にしないわずかなでこぼこをぼんやりと見回した後、ベッドサイドにいる男に頬を緩めた。ジャケットを脱ぎ、傍の椅子の背にかける…それだけの何気ない仕草にも男特有の色気を感じ、なんで彼はいちいち動きが綺麗なのだろうと、うっとり見惚れる。
 男がベッドに腰かける。僚は少し身体を起こして、男の腕に手を添えた。シャツの滑らかな生地の感触が、手のひらに心地良い。真っ黒ではなく、墨色なのだ。この系統のシャツは他にも数枚あるようだが、みな少しずつ違う。手触りはこのシャツが一番好きだった。柔らかいからなのか、しわの寄り方が独特で、動いている時、止まっている時、一番男が綺麗に見えた。
 今はまた、照明の当たり具合でよりいい男に見える。
 男が選ぶものだから、それなりに高いのだろうな。そんな事を考えていると頬に手が添えられた。腕からたどって顔を見つめる。目を見合わせる。何百回となく繰り返しても、どきりとする事がある瞬間。心臓を男の手でぎゅっと握られ、息が詰まる。それだけ男の事が好きなのだ。向こうも、見つめられてどきっとする事があるのだろうか。そうなっていると嬉しいと願いながら、僚は唇が触れる寸前まで視線をぶつけたままでいた。
 神取は口付けたまま僚の身体を撫でさすった。若さの詰まった細身の体躯はとてもしなやかで、どこを撫でても気持ちいい。彼もまた嬉しそうに目を伏せ、応えてくれる。うっとりと浸る顔を見ると、腹の底がぞくぞくと引っかかれる。たまらない。その内布越しでは満足出来なくなり、舌を吸い合いながら一枚ずつ脱がせてゆく。

「っ……」

 僚は小さく喉を鳴らした。服をはいでいると思わせたい時は別だが、こういう時、男は脱がせるのがとても巧みだった。キスや愛撫の手はそのままに、ごく自然に服を脱がせる。一切意識させない。まるで服がひとりでに脱げた、ほどけたような感覚なのだ。
 そして気付けば、上も下も一枚残らずはぎとられている。
 腕をさすりながら喉仏に繰り返し接吻する男を、僚は視界の端でそっと見やった。もういいというほど唇に触れてもらったが、いざ離れると恋しくなってしまう。身体中にキスしてもらうのも好きだけれど。

「!…」

 男の手が脇腹を撫でる。くすぐったいからやめろと、僚は緩く振り払った。
 神取は素直に従うふりをして、隙を見てつついた。
 こら、と僚が声を上げる。神取は目を見合わせ、いたずらそうに笑った。その顔があまりに無邪気で、僚は参ったと笑った。
 視線を絡ませ、それから、口付けて舌を絡ませる。男の指が、またも脇腹を狙おうと動く。そうはさせじと僚は寸前で手首を掴み、軽く揺すって厳重注意した。
 他愛もないやりとりに、どちらからともなく笑い出す。笑う合間に、二度三度キスを繰り返した。思い切り笑いたいが、キスもしたい。僚は捕まえた手首を顔まで引き寄せ、自分の頬にくっつけた。そしてまた笑い合う。
 神取は数回頬を撫でると、下腹へ伸ばした。
 まだ悪戯をする気かと、僚は厳しく目で追った。男の手が向かう先をすぐに察し、身を固くする。直後、半ば勃ちかけた自身を緩く包まれ、びくりと足を動かす。男の手のひらから熱がじわっと沁み込んでくるようで、僚は小さく喉を鳴らした。
 神取は捕らえた性器を軽く扱き、親指で先端をゆるゆると撫でた。それだけで、たちまちのうちに芯を帯び反り返った。反応の良さに口端を緩める。

「足を開いて、抱えて」

 身を起こして指示する。僚はぎくしゃくと手足を動かし、前も後ろも男に晒す格好を取った。もう数え切れないほど見せているが、どうしても顔が強張った。恥ずかしさと期待とがないまぜになり、少し息苦しくなる。
 そのせいか、喉から胸元の辺りまで、ほんのり朱色に染まって男の目を引いた。神取は再び熱塊を手中に収めると、強張る身体に微笑みながら染まった肌の境目に唇で触れた。あ、と淡い喘ぎが僚の口から零れ、ほんのわずかに空気を揺らした。
 神取は硬く反り返った性器を摘まむように掴み、根元から先端まで指をすべらせた。

「あぁ……」

 今度はもう少しはっきりと、僚は吐息をもらした。男の手が同じ動きを繰り返す。与えられる刺激に段々と身体が熱くなっていくのを感じ、僚は意識して呼吸を繰り返した。
 上下する胸を楽しげに見ながら、神取はもう片方の手を下腹に伸ばした。今、自分が弄っている性器の少し奥、慎ましく閉じている後孔に中指を押し当てる。

「!…」

 びくりと僚の身体が強張る。がすぐに力は抜け、何か訴えるような眼差しが向かってきた。視界の端に感じる視線を微笑みで受け、神取は押し当てた指先に少しずつ力を込めた。
 押し入って来ようとする異物に、僚は細く息を吐いた。咄嗟に目を閉じると、瞼の裏にじわじわと割り込んでくる指先が浮かび上がった。自分の妄想に恥ずかしくなり、思わず声を上げる。

「あ、あ……」

 ぞくぞくっと背筋に緊張が走った。
 神取はゆっくり指を進めた。いくらか抵抗はあるものの、僚のそこは素直に飲み込んでいった。時折きゅっと締め付けてくるのは、早く弄ってくれという訴えだろうか。口端が緩んで仕方ない。何度か、引いては押し入れ、ようやく根元まで埋める。ねっとりと熱く絡み付いてくる内襞に包まれ、また腹の底が疼いた。

「あ、ん……あぁ……」

 ひと息置いた後、入り込んだ指は丁寧に内部をまさぐり始めた。僚は顔を背け、目の端で男の顔をちらちらと見やった。男のあの長い指が自分の体内で動いているのだと思うと、息が乱れた。実際に下腹に受ける刺激は更に強烈で、優しくほぐされていくにつれ身体がかっかと燃えるように熱くなっていった。抱えた腿に指を食い込ませ、緩慢に身悶える。
 神取は手にした性器をゆるゆると扱きながら、中指を抜き差しした。ゆるくくねらせ、奥を引っかき、ねじりながら前後させる。どれかの動きで、手にした熱塊がぴくりと反応する。探り当てようと、神取はいくつもの動きを試した。
 僚は抱えた脚を揺らし、いやいやと首を振った。

「ここを擦ると、反応するね」
「………」
「ほら、見てごらん」

 僚は息を詰め、真っ赤になって顔を背けた。彼の性格からそうするだろうと予測していた神取は、声を押し殺す僚の反応が楽しくてたまらなかった。後ろに埋め込んだ指で執拗に刺激を送り込む。

「こうされるのは嫌いかい?」

 僚は口に拳を押し付け、ごくわずかに首を振った。どうにか声は抑えられたが、男の指がいいところを擦る度腰が跳ねるように反応するのは抑えられなかった。悔しげに顔を歪める。

「好き?」

 まだ聞いてくる男を、僚は恨めしげに見やった。この身体がどうなっているか、そもそもどういうものかもうとっくに理解しているのに、嗚呼本当に意地悪だ。笑っている、だのにちっともいやらしく感じないところも憎たらしい。憎たらしくて好きだ。
 僚はわずかに拳をずらし、絞り出すように言った。

「す、き……」
「どうされるのが好き?」
「前…扱かれながら、後ろいじられるの……好き」
「こんな風に?」
「あ! う……んん!」

 入り込んだ指の動きが激しくなる。それまで、かろうじて突っぱねていたのがあっさり崩れ、僚は感じるままに好き、気持ちいいと何度も高い叫びを上げた。呆気なく翻弄されて悔しいという気持ちもちらりと過ぎったが、男の手はそれを巧みに抑え込んで、より強い、甘い刺激をもたらす。
 こうなるともう、ちっぽけな意地など何の役にも立たない。そういう風に躾けられた。すっかり染まっている。

「あぁ…いっ……ああぁ」

 後ろを動かす度、僚の口からは途切れる事無く高い喘ぎが飛び出し、緩く捕らえた手の中では、性器がびくびくと素直にわなないて先端から涎を垂らし始めた。神取は満足げに口端を歪めた。
 扱く手を離し、今度は乳首を摘まむ。僚は直前で察しびくりと身を強張らせた。しかし避ける素振りは見せなかった。神取は殊更そっと、指先に摘まんだ。甘い声と共に僚は喉を晒した。
 先ほど愛撫された時に触れてもらえなかった分、接触に悦び、摘ままれたそこは軽く転がされただけで硬くしこり、膨らみを見せた。また、幾度も重ねて教え込まれた通り、後孔とも繋がって、二ヶ所は互いに高め合うように感度を増していった。
 乳首への刺激でより疼き出した後孔に悩まされ、僚はもじもじと身をくねらせた。

「こうされるのも好きだね」
「……好き」
「たくさん締め付けてくるね。私のも、こうしておしゃぶりしてくれるかい?」

 摘まんだ乳首を捏ね、後ろの指を前後させ、神取はさらに身体を煽った。
 もっと強い刺激をもらえる、入れてもらえる期待に目を瞬かせ、僚は何度も頷いた。

「いい子だね」

 すっかり色付き膨らんだ乳首から手を離し、頬に添える。忙しなく喘ぐ唇を親指でそっと撫で、神取は口付けた。僚はわずかに顎を上げて受け入れた。後ろをほぐされながら舌を吸われ、ますます身体が昂る。我慢が利かなくなる。
 僚は夢中になって、入り込んできた舌を吸った。合間に感じる声を上げ、そんな自分の声に恥じ入りながらも、興奮に任せて男の舌をしゃぶり続けた。気持ち良くてたまらなかった。没頭すると呼吸を忘れ、思い出したように吸うものだから息苦しくてかなわないのだが、頭の芯がぼうっとする感覚がまた快いのだ。
 まるで噛み付くように舌を貪られ、神取は嬉しくてたまらなかった。これだけ自分にのめり込んでくれる彼が愛しくてたまらなかった。
 神取は後ろの指を三本に増やし、じわじわと押し込んだ。さすがにきつく、抵抗も強い。熱狂的だったキスも途切れがちになった。拒むような緊張に気遣いながら、ゆっくり拡げていく。

「んん、ぅ……あ」

 傷付ける真似だけは絶対したくないが、堪える息遣いの中に甘い響きが時々混じって、それを聞くと、たかが外れそうになってしまう。苦悶の表情を浮かべ、しかし僚はキスを止めようとはしなかった。一瞬硬直しても、すぐまた舌を動かし、健気な反応を見せた。
 魅了する少年に何度も目を瞬かせ、神取はじっくり時間をかけて根元まで指を埋め込んだ。また少し待って、右に、左にゆっくりひねる。その度に僚は腰を引き攣らせた。
 何度も繰り返す内、僚の口から上がる声は、次第に湿り気を帯びていった。ぴっちり貼り付き食い絞めてくるばかりだった後孔も、ふっと緩む瞬間を見せるようになった。ぞわぞわと、蠢く内襞の感触が伝わってくる。もっと強い刺激を欲しているかのようだった。
 そこで神取はゆっくり顔を離し、間近に表情を窺った。目は潤み、眦がいくらか朱に染まっている。とろんとした目付きで見上げてくるのがなんとも可愛らしく、また唇を吸いたくなった。軽い接触で我慢する。

「苦しい?」
「……もう平気」

 そう言いつつも、普段よりは深い呼吸を繰り返しているが、表情に強張りは見られなかった。そこで神取は手の動きを止めた。少しがっかりしたようなため息を零し、僚は探るように男の目を見つめた。神取は目を見合わせ、ふと笑った。たちまち顔を赤くし、僚は目を逸らした。

「……あ」

 男の手が顎をそっと掴み、唇に触れてくる。口内に入り込んでくる舌に歓び、僚は積極的に吸った。そうしながら、後ろの指が動き出すのを今か今かと待ちわびる。
 締め付けてくる動きで悟った神取は、キスの合間にこっそり笑みをもらした。焦れたような蠢きを感じながらも指は動かさず、唇を頬にずらし、首筋へ、鎖骨へと向かい、時折奥から舌を出して舐めては吸い、ひと際反応の良い乳首に接吻する。

「んっ……!」

 一緒に責められる…責めてもらえると、僚は涙を滲ませ熱く鳴いた。
 神取はまたこっそりと笑んで、ぷっくりと腫れたそこを口に含んだ。

「んぅ!」

 高い悲鳴と共に、後孔がきゅうっと締まった。一緒に弄ってくれと訴えるそこを無視して、神取は唇に挟んだ乳首を舌で執拗に舐め転がした。
 最初に言い付けられた格好を崩し、僚は男の背を抱いて素直に悦んだ。軽く噛まれたまま舌を少し強めに押し付けられると、全身にえもいわれぬ痺れが走って、切ないような気持ちになる。妖しい感覚に首筋がぞくぞくして、声が自然と口から零れてしまう。堪えておけない。
 神取は右と左と吸い、交互に刺激を与えた。たまらないと言わんばかりに背中をまさぐる少年の熱い手が、埋め込んだ指に絡み付いてくる粘膜が、ひどく心地良い。

「あ、あぁ……ん」

 乳首を責められるばかりで、後ろの手はじっとしたままでいるのに、僚は不満げな声をもらした。焦れて腰を揺すると、たちまち嗤うようなため息がもれた。恥ずかしさに竦みじっと我慢するが、弱い乳首を延々責められては我慢しきれない。

「ああぁ……」

 両方弄られる悦びを、嫌というほど教え込まれた身体に、片方だけの刺激はつらい。何も入っていないのもつらいが、異物の存在を知らしめながらも動かないのは堪え難い。
 笑われても、僚は腰を揺すり、自分から何度も締め付けて快感を得ようとした。

「落ち着かないなら、指を抜こうか」
「いやだ…違う、なんで……」
「どうしてほしい?」
「い、いっしょに……してほしい」

 どんな風に、と追及は続く。僚は恥ずかしさに苦しく喘ぎながら、我慢出来ない身を白状した。

「鷹久ので……奥まで……、乳首も、前も、ぜんぶ……」
「全部触ってほしい?」

 神取は手のひらを肌にすべらせた。細いが、貧弱というほどではなく、もう少し鍛えればもっと美しくなるそんな半ばの若々しい身体をじっくり見つめ、緩やかに微笑んだ。
 僚は唇を引き結び、お願いと何度も頷いた。

「い、いじわる…やだ……」
「でも君は、こうして追いつめられるのも好きだ」

 神取は耳元で囁くと、下腹をやんわり握り込み、何ともじれったい動きで上下させた。
 首筋にまでかかる吐息と気まぐれな淫撫に、震えが止まらない。ますます身体は鋭敏になり、もっと強い刺激が恋しくてたまらなくなる。僚はいやいやと首を振り立て、自分の手を下腹に伸ばした。
 神取はそれを許さず、目線だけで言い付けた。手と顔を行き来した目配せに従い、僚は唇を噛んで手を引っ込めた。

「いい子だ」

 その分のご褒美だと、神取は先走りがじわじわと滲む先端を親指で丸く舐めた。
 もっと触って、触って。
 濡れた声でねだる僚に楽しげに口端を緩め、神取は再び乳首を責めた。片方を口に含み、片方は指先でつねる。後ろに入れた指はそのままだ。時折気まぐれに抜き差しして動かし、期待させてすぐに取り上げる。
 当然僚は抗議の声を上げるが。はっきりとした抵抗は見せなかった。
 射精寸前まで煽られ、大きく仰け反って瞬間に備えようとしたところで愛撫を止められても、震えながら呻くだけで自分でしようとはしなかった。
 言い付けられたからというのもあるが、制限されている自分に酔っているのが一番の理由だった。
 彼はこうして、じれったそうに愚図り、中々与えてもらえない自分に浸るのが大好きだ。とても上手く役割を負う。誘導している部分も大きいが、自らも場を支配している。どちらか一方だけでは成り立たない空気をよく読み、無意識に行う事が出来た。
 こういう時にどの仮面を選べばいいのかよくわかっている。それは単なる演技ではない。彼がもともと持っていたもので、自分と彼とで引き出した。
 彼はこうして、少しの痛みや制限の中で遊ぶのが大好きなのだ。
 こんな彼で本当に良かったと、神取は組み敷いた少年の顔をじっくり見つめた。頬は上気して、普段の透けるような肌色とはまた違う色を見せる。うっすらと汗ばんだ肌は彼独特の匂いに満ちて鼻孔をくすぐり、興奮をかき立てる。神取は半ば無意識に首筋に顔を埋め、一杯に吸い込みながら接吻した。歓喜に頭の芯がくらくらする。
 ぎりぎりまで追い詰められた僚には、つらい愛撫だった。
 とうとう我慢しきれなくなり、ぐすぐすと鼻を鳴らしならがもうやだと訴える。

「たかひさ……い、いきたい」

 何度も後ろの指を食い絞めて訴える。男のもので奥の方まで開かれて、苦しくなるくらい突かれたい。

「いきたい?」

 頷く身体の揺れが伝わってくる胸元を舐めながら、神取は聞いた。お願い、と濡れた声が鼓膜を甘く犯す。くらくらと目眩に見舞われる。どうにか振り払い、顔を下腹までずらして、腹にくっつくほど反り返ったそれに口を開ける。

「あ、あ、ああぁ……!」

 おこりのように身体をわななかせ、熱い粘膜に包まれた自身に僚はかすれた嬌声を上げた。腰が抜けそうな、溶かされそうな快感にきつく頭を反らせる。
 神取は喉奥まで飲み込み、強く吸いながら顔を上げた。

「ああぁ――!」

 僚の身体が強張る。達してしまう寸前で神取は口を離した。

「だめ……いく」
「まだ、もう少し我慢して」
「そんな……」

 ひっひっと喉を引き攣らせ、僚はすすり泣いた。息をぐっと詰める。男が再び口淫を仕掛けてきたのだ。

「ああぁ……」

 嘆き、全身に力を込める。しかしどんなにしたって、我慢しきれるものではなかった。しかも男は的確に責めて、耐えられるものではなかった。だから僚はすぐにわかった。こちらの反応を見て、寸前で取り上げるつもりだと察した。
 僚は闇雲にシーツを蹴り、もがいて、男から逃れようとのたうった。しかしそうして力むと後ろに食まされた異物を自ら締め付ける事になり、感じた途端抵抗の力はがくりと失せた。起き上がりかけた身体は再び仰向けに投げ出され、ただ高い声を上げて男の執拗な愛撫に喘ぐしかなかった。
 内部の引き攣るような締め付けと咥内の性器の蠢きをじっくり味わいながら、神取はいかせるぎりぎりのところで僚を弄んだ。先端からは吸っても吸っても先走りの蜜が染み出し、早く解放してくれと全身を震わせて訴えてきた。

「もう……ゆるして」

 喘ぎ、すすり泣く合間に、僚はやっとそれだけ言葉を紡いだ。
 そこでようやく神取は動きを止めた。舌で唇を湿しながら起き上がり、僚の泣き顔をしばし愉しむと、そっと唇を重ねた。顔を背けて抵抗したかったが、男とキスした時に感じる甘さには勝てず、僚は素直に口を開けた。

「ん……ん……」

 優しくあやすように舐られ、僚は強張っていた身体から力を抜いた。そこを見計らって、神取は静かに指を引き抜いた。痙攣めいた震えが僚の身を襲う。
 神取は口付けたまま抱き起こし、自身の膝に乗せた。
 散々焦らされた身体は疲れ、起きていられず、僚はもたれるように身を任せた。男の両腕がしっかりと身体を支え、背中を撫でる。しようもなく泣きたくなり、僚は唇を歪ませた。それでもキスはやめず、互いに舌先を絡めてぺちゃぺちゃと吸い合う。

「いれて……」

 唇の上で囁く。去った異物が恋しくて、我慢しきれず僚は腰を揺らした。
 神取は探るように目を覗き込み、にやりと笑うと、戯れに乳首を摘まんだ。びくんと飛び上がるように僚は反応した。神取はそのまま摘まんだ乳首をくりくりと転がし弄った。下腹で屹立したものが涎を垂らし、開放を待ちわびてびくびくとわななく。

「あ、ぁ…も……」
「つらい?」

 僚は力なく男の手を掴み、何度も小さく頷いた。

「こんなに感じやすいのに、ちゃんと我慢出来て僚は偉いね」

 物言いはまるきり子供をあやす時のそれだが、すっかり陶酔した今は、ただ嬉しくてたまらなかった。

「だ…て、たかひさが、……くれる……」

 真っ白な瞬間に連れていってくれる。たとえ半ばがどんなに苦しく堪え難いものでも、むしろそうだからこそ、開放の瞬間は他では味わえない強烈な悦びに満ちていた。男は必ずそれをくれる。少し意地悪をして、たっぷり甘やかしてくれる。
 僚は眦に溜まった涙を拭った。

「ああ……今あげるよ」

 神取は前を緩め、取り出した自身を軽く扱いた。彼の後ろにあてがい、腰を下ろすよう云う。

「おいで、僚」

 口付け、腰を抱き寄せる。僚は下で待ち構える熱いものに一瞬びくりと震え、すぐに力を抜いて受け入れた。ぐぐっと拡がる圧迫感に息が乱れる。それでも僚はキスを止めず、男の舌を吸ったままじわじわと内部に埋め込んでいった。
 息苦しさときつさに脳天が霞むが、それがたまらなく心地良かった。自分を支配する男の熱に腰が抜けそうになる。それほど快かった。
 よがり声を上げながら、僚はぶるぶると身をわななかせた。ようやく根元まで入り込む。奥深くに男の熱が割り込む。全身がとろけてしまいそうだった。腰の奥でわだかまっていた灼熱が、凄まじい勢いで背筋を駆け抜ける。

「あぁっ…すき……」

 内股を痙攣させ、僚は絶頂した。喉を晒し、痙攣めいた動きで二度三度身震いを放つ。その度、左耳の白金が光を反射しちかちかと煌いた。
 きゅうきゅうと締め付けてくる内襞に神取はにやりと口端を緩めると、纏わり付く内部を何度も繰り返し力強く抉った。

「……私も好きだよ」
「あ、あ! あぁ!」

 悲鳴を上げて仰け反る僚の身体をしっかり抱きしめ、激しく突き上げる。達したばかりの身体を休みなく責められ、僚はろくに言葉も継げず、ひたすらかすれた喘ぎを上げ続けた。
 わずかもしないで、また白液を放つ。それでも神取は動きを止めなかった。きつく締め付けてくる孔をこじ開けるようにして穿ち、彼の好きな奥を嫌というほど抉りぬく。

「あぁ…やだ、や……も――ああぁ!」

 僚は半ば混乱気味によがり、男の腕から逃れようともがいた。しかしどんなに身じろいでも男の腕をほどく事は叶わず、ひたすら揺さぶられるしかなかった。
 いやらしい音を立てて後ろを弄られ、その果てに精液を吐き出す。
 上り詰めたと思ってもまだ高みがあり、そこへ力尽くで引き上げられる。真っ白な瞬間が何度も襲い来る。怖いと思う間もなく身体は熱と快楽に包まれ、目が眩む。
 何度いったかもうわからない。気付くとベッドに仰向けに転がり、上手く動かない手足を投げ出してぜいぜいと胸を喘がせていた。後ろには、圧倒的な存在感を持った男が入ったままになっていた。
 男は両脚を腕に抱え、ゆっくり動き出した。

「やだ……」

 もう身がもたないと、僚は緩慢に首を振った。涙で滲む視界に男を捉え、もうやめてと訴える。
 しかし男は動きを止めず、ゆっくり奥深くまで突いては腰を引き、また根元まで埋め込んだ。じっくりと繰り返される抜き差しごとに僚は喉を晒し、全身をわななかせた。直前までの駆けるような激しさから一転してゆっくり丁寧に抱かれ、じわじわと上り詰めてゆく感触に、僚はだらしないよがり声で身悶えた。
 奥、好き、好き。
 押しやるように突っ張らせていた手を背中に回して抱きしめ、自らも腰を押し付けて快感に酔い痴れる。
 とろけきった顔で悦ぶ様に、男の中で灼熱が一気に膨れ上がる。僚の頭を抱えるように抑え込み、口付け、噛み付くようにして神取は舌を貪った。そうしながら、何度も何度も、何度も奥に熱を押し付ける。
 より大きく激しい快楽が押し寄せてくるのにおののき、僚は涙をだらだらと流しながらただ翻弄された。男に塞がれた唇が、抱きしめられた身体が、奥の方まで開かされたそこが、燃えるように熱い。
 自身の中でぐぐっと膨らむ男にひときわ大きく、痙攣めいた動きを放ち、僚は何度目になるかわからない射精を果たした。同時に男も熱を開放する。最奥に注がれる熱は夥しく、のたうつたびに想いを注ぎ込んだ。
 僚はしばし硬直した後、抱き付いていた腕をばたりとベッドに投げ出した。ひと息置いて神取は身を起こし、彼の中からゆっくり自身を抜き去る。出てゆくものに、僚はかすれた溜息を吐いた。
 呼吸を整えながら見下ろすと、疲れ切った眼差しで僚が見やってきた。その顎がわずかに動く。疲れ切って、ただ身じろいだように思えたが、何か云うように唇を動かしている。
 キスをせがんでいるのだと気付き、神取はすぐさま顔を寄せた。伝わった事に嬉しげに微笑む少年の唇に触れ、男もまた幸福感で一杯になる。
 どちらからともなく、くすくすと声を上げて笑い合う。

 

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