Dominance&Submission

しつこいくらいに義理堅い

 

 

 

 

 

 一晩ですっかり治ったのは驚いた。嬉しかったし喜んだ。どれだけ回復したか証明にとドライブに誘われ、心配も吹き飛んだ。
 来週の予定も取り付けた。一緒に梅の花見に行くという計画に心が弾む。
 しかし、帰宅後、ベッドに誘われたのは予想外だった。外出の疲れを取るのにひと休みするのかと思えば、一緒に引っ張り込まれ、僚は慌てて否定した。
 腰に回された腕を掴んで引き止め、間近で目を見合わせる。少しきつめに睨んで、僚は唇を引き締めた。

「したくない?」

 しかし男にそう問われると言葉に詰まる。まっすぐぶつけていた目をよそに泳がせ、もごもごと零す。

「したいけど……無理しちゃ駄目だろ」
「しようか」
「っ……」

 きっぱり首を振れない自分がもどかしい。駄目だと思う間もなく身体の芯を淡い期待が走り、僚はまた口篭もった。

「まあ確かに、あまり激しくは出来ないかな」
「激しくも何も、安静にしてろ。……どうしてもっていうなら、口でしてやるから」

 確かめるように斜めに見てくる男を上目遣いに見つめ返し、手を取り人差し指をすぼめた口で吸う。

「……してやるから、それで我慢しろ」

 神取はわずかに目を見開き、僚の唾液に濡れた指で唇をなぞった。美しく整った顔がほのかに笑いを浮かべる。背筋がぞっとするほど妖艶で、一気に身体が熱くなる。
 息を潜めて少年の行方を見守る。彼は目を見合わせたまま手探りで下腹を包み込み、明らかに普段と違う張りつめたそれに気付いた途端また妖しく笑った。形を確かめるように手を動かされ、神取は圧倒されるように息を飲み込んだ。

「かたい……」
「……君の手が好きだからね」

 僚は嬉しげに唇を緩めた。男を見つめたまま下腹まで顔をずらし、目の端で確かめながら熱塊を下着から引きずり出す。

「っ……」

 丁寧にしながらもどこかせっかちな手付きに神取はまた息を飲んだ。布越しに少し擦られただけですっかり形を成したものに、少年のほっそりした長い指が絡み付く。思わず腰が跳ねる。嗚呼本当に彼の手はたまらない。
 僚は手にしたそれを緩く扱きながら、先端に軽い口付けを繰り返した。舌で舐め、小さく吸ってはまた舐める。その内にじわりと先走りが滲んできた。男の濃い匂いを舌に感じた途端かっと頭の芯が痺れ、もう我慢出来なくなり喉奥まで咥え込む。
 ああ、と微かなため息が頭上から聞こえてきた。同時に男の身体が強張るのを感じ取り、僚は嬉しさからより熱を入れて男のものをしゃぶった。舌を押し当てたまま唇で扱き、竿に甘食みを繰り返す。
 くびれも袋も残らず舐め回し、きつく吸って飲み込む。喉を突いてくる硬い感触に涙が滲むが、僚は絶対に口を離さなかった。扱く手はもちろん、唇や歯をどこかしらに当てていた。舌や粘膜に感じてぴくぴくとのたうつ可愛いそれから、どうして離れられるだろう。
 夢中になって口淫を続けていると、頭上から、堪えたような息遣いが聞こえてきた。少しして男の手が髪に触れる。優しく撫でてくれる手にうっとりと浸り、僚はおしゃぶりを続けた。吸っても吸っても湧き出る透明な滴を何度も舐め取り、もっと欲しがって先端を舌でくじる。
 たまらない、というように髪を撫でる手が震えた。同時に口中にある怒漲がぐぐっと膨らみを増し、僚の喉を圧迫した。息苦しさに小鼻を膨らませ、僚は懸命に舌を絡めた。男の匂いが深まるのにあわせて自分の下腹も熱くなっていった。後ろも疼きを放っている。けれど今日は出来ない。
 出来ないのだと自分に言い聞かせると物悲しさが込み上げてきたが、男に喜んでもらえているのだと思うとすぐに薄れた。
 湿り気を帯びたため息が何度も男の口から零れる。限界が近いのだと気付き、僚は夢中で顔を動かした。頭の上にあった手が後ろに回され、思わずどきりと胸が高鳴る。いよいよだと呼吸を合わせると同時に、熱いものが口内に勢いよく放たれた。

「っ……!」

 反射的に肩を弾ませ、僚は小さくむせた。すぐに抑え込み、余計な心配をかけまいと何でもない振りを装う。あまりの熱さに驚き、つい突き飛ばしそうなったが、嫌な事なんてちっともない。何度も喉を動かして全て飲み込み、最後まで浸る。
 頭の後ろにあった手が緩むのを待って、僚は顔を離した。ようやく満足に息が出来ると吸い込むと、小さく咳が出来た。

「おいで」

 わなわなと小刻みに震える少年の唇をそっと撫で、神取は抱き寄せた。平気だと返ってくるが、強がりなのは明らかだった。彼の口の中があんまり気持ち良くて、つい調子に乗ってしまった。詫びを込めて背中をゆっくり撫でる。

「昨日も今日も、君に世話になりっぱなしだ」
「そんなの、鷹久は気にしなくていいんだよ。困った時はお互い様だし。鷹久は病み上がりなんだから好きなだけ甘えればいいんだよ」

 そう言う自分こそ男に甘えていると僚は苦笑いを浮かべた。だがこうして抱きしめてくる腕の暖かさは本当に心地良く、すぐには離れがたかった。男が力を抜かないから、と幼稚な言い訳をつけて、僚は抱擁にうっとり浸った。

「いいや、私はしつこいくらいに義理堅いんだ。お礼をさせてくれ。必ず君を満足させてあげる」

 言いながら神取は背に回した手で僚の奥にある一点を強く押した。僚の顔がぎくりと強張る。厚いジーンズ越しの刺激なのに、まるで直接触れられたかのように身体がずきりと疼いた。

「……いいから」

 震える声で僚は首を振った。
 神取は身体を離し、間近に顔を合わせた。

「したいだろう」
「………」

 何か云いかけて僚は気まずそうに唇を噛んだ。目を逸らしたいのに、まっすぐ向かってくる支配者の強い眼差しに絡め取られ、わずかも動く事が出来ない。
 神取は薄く微笑むと、ぼうっとのぼせた顔付きになった僚の頬をひと撫でし、クローゼットの扉を指差した。
 僚はぎくしゃくと目を向けた。

「棚から、持ってきてほしいものがあるんだ」

 男の声に、扉を見つめたまま頷く。僚はベッドから降りて向かい、棚の二段目を開いた。大きく目を見張る。

「小さな革のベルトがあるだろう」

 背後から男の声。しかし僚は同じ姿勢のまま突っ立っていた。すぐには動けないほどの衝撃が、まだ身を支配していたからだ。
 硬直した背中から察した神取は、にやりと口端を歪めた。

「それを持ってきてくれ」
「これ……」

 どうにか声を絞り出し、僚は目付きを険しくした。どこに使う物か知っている。どれだけ苦しいかもよくわかっている。身体が自然と竦んだ。

「鷹久、これ――」
「持っておいで、僚」

 声はどこまでも優しかった。優しくて、抗えなかった。僚は何度も胸を喘がせながら振り返り、男のもとに戻って手にしたものを差し出す。

「鷹久……」
「ありがとう。さあ横になって」

 何か云いたげな僚を笑顔で封じ、仰向けに寝かせる。僚はいくらか抵抗しつつ、結局は従った。男の手が服を脱がせにかかる。
 下着を引き下ろされ、露わにされた己のものに僚は顔を赤くした。顔を見やってくるのに、ただ微笑むだけで何も言わない男により羞恥心が増す。
 そっぽを向いて耐える。男のものをしゃぶっている間ずっと、痛いほど勃起していた。男を満足させ、その後こっそり処理するつもりでいた。男はとっくに見抜いていた。問われても即座に答えられないくらい追いつめられている自分を、見抜いていた。
 だから、面白そうに、嬉しそうに見やってくるのだ。
 僚は細く長く息を吐き出した。

「少しだけ我慢して」

 神取は渡された黒の革ベルトを、僚の性器に巻き付けきつく締めあげた。

「っ……」

 僚は喉の奥で呻きを押し殺した。竿や睾丸に巻かれる度ずきんと鈍い疼きが走り、痛みとむず痒さに思わず声が出そうになる。感じてしまった声が出そうになり、慌てて飲み込む。
 しかしどんなに堪えても腰が跳ねてしまい、僚はますます顔を赤くした。
 ようやく男の手が離れる。

「……これがお礼?」

 これでどうやって満足させるというのかと、恨めしそうに男を睨み付ける。

「きっと気に入る」

 神取は楽しげに笑うと、不満で一杯の少年の鼻先に軽く口付けた。
 僚はせめてもの抵抗に振り払うようにして顔を背けた。そんな仕草も楽しんで、神取は短い笑い声を零した。片手を伸ばし、根元を締め付けられていくらか色の変わった僚の熱塊をそっと摘まんだ。
 たちまち僚は喉を引き攣らせ、逃げるように腰を弾ませた。男の手を肩をまさぐり、何とか押しやろうともがく。
 構わず神取は手にしたそれを弄った。緩く握り込み、親指の腹で先端を丸く擦る。

「ふっ……う、う……」

 敏感なそこを責められ、とろりと先走りが滲む。それを待っていたと、神取は塗り付けるようにして親指を動かし続けた。

「や、だ……」

 高い悲鳴を上げ、僚は激しく首を振った。堪えても腰が震えてしまう。根元に巻かれたベルトが、射精を禁じられたという事実が、いつも以上に身体を敏感にさせた。
 神取は垂れてくる汁を指先でなすり、時々持ち上げて糸の引く様を楽しんだ。
 半ば起き上がるようにしてもがいていた僚は、それを目にして息が引き攣る程の羞恥に見舞われた。

「やだ、も…あ、あぁ……んむぅ」

 そんな風に遊ぶのはやめてくれと訴える。忙しなく息を継いでいると、揃えた二本の指が口の中に押し込まれた。

「舐めて。さっきのように」

 ううと唸り、僚はきつく眉根を寄せた。一旦は拒むが、すぐに舌を絡め口をすぼめて吸い付く。

「いい子だ」

 男のその一言が欲しいからだ。情けないと思いつつも、しゃぶるのをやめられない。男が喜ぶ事をしたくてたまらないのだ。目の奥から滲んでくる涙に、僚は何度も目を瞬かせた。
 口内に入り込んだ二本の指は、舌を挟み込んだり上顎をくすぐったり奔放に動き回った。必死についていこうとするが翻弄され、ようやく指が抜かれた時、僚は先程よりも更に息を荒げていた。

「苦しかったかい?」
「……ん」

 頷こうとして止めた少年に微笑し、神取は覆いかぶさって耳朶に口付けた。
 首筋についばむようなキスを受け、僚はためらいながらも腕を持ち上げ男の背に回した。繰り返される接吻がむず痒く、心地良い。優しく触れてくる男の唇が気持ちいい。薄く目を閉じて浸っていた顔が、ぎくりと強張る。
 唾液に濡れた男の指が、下腹の窄まりにあてがわれる。

「……やっ」

 反射的に力んで拒むが、こじ開けるようにして指先が潜り込んできた。喉の奥で呻き、僚はびくびくと身体の力を抜いた。

「そう、楽にして」
「たかひさ……」
「これからよくなる」

 神取は口端を歪めた。
 僚はすぐそこにある男の表情をきつい眼差しでうかがい、じわじわと入り込んでくる指に息を引き攣らせた。すっかり慣れた身体は、さして抵抗もなく細長い異物を飲み込んでゆく。
 じわじわと奥までめり込んでくる二本の指が頭の中に思い浮かぶ。僚は首を振って追い払おうとしたが、意識すればするほど鮮明になっていった。自分の身体の中に入り込んできているのはあの男の指だと、そう思えば思うほど身体は昂っていった。

「ああ、あ、あぁ……ん、んん」

 耳朶まで真っ赤にして、僚はかすれた喘ぎを切れ切れにもらした。指は殊更ゆっくり、優しく内部を撫でた。じっくりと時間をかけて柔らかくほぐそうとする動きに、時折声が高く跳ねる。
 何度も目を逸らしてはまた戻してくる僚に薄く笑いかけ、神取は服の裾を捲し上げた。

「やだ……!」

 僚は咄嗟に男の肩を掴んだ。何をしようというのか容易に想像がつく。
 身体をひねって逃げようとするのを、後ろに埋め込んだ指でもって封じ、ぐいと捻って声を上げさせ、反射的に引き攣ったところで神取は肌に唇を寄せた。

「ああぁ……」

 僚の口から、湿った喘ぎがもれた。
 男が接吻するより前から、そこは、後ろへの刺激によってぷっくりと膨らみ、苛めてもらうのを待っていた。望み通り、神取はそっと歯を当てた。

「ひっ……!」

 鋭い悲鳴にうっとりと聞き惚れ、神取は乳首と後孔を同時に責めた。僚の身体が更にきつく強張る。
 白い喉を晒して仰け反り、僚は何度も濡れた嬌声をほとばしらせた。そんな自分の声が恥ずかしくて歯噛みするが、欲望をきつく締め付けられ射精を禁じられている分、叫んでいないと頭がおかしくなりそうだった。
 力一杯もがいて、男を突き飛ばして、逃げ出したかった。こんなの、こんなきついの、どこがお礼だ。

「あぁ! あ、うぅ……こんな…いや、いやだ!」

 弱い箇所を柔らかく責めてくる指と舌に、僚は首を振りたくリ身悶えて愚図った。

「いい顔だね……あの時と同じだ」

 ねちねちと後孔を捏ね回し、神取は囁いた。いつの事を言っているのかと、僚は涙の滲む目で男を見やった。

「君を管理した時だ」

 あの時は、ベルトはかけなかった。昂らせて寸前で取り上げ、何度も繰り返して追いつめた。
 その時と同じ顔をしているなんて、そんなはずはないと僚は眼差しをきつくした。

「管理されて、満更でもなかったろう。また、してほしがっていた」
「そ、んな、こと……」
「そろそろしてほしい時期じゃないかと思ってね」
「あぁっ…あ……おもって、ない」
「嘘は良くない。その可愛い声が何よりの証拠だ」

 本気で嫌がらず、制限されている自分に酔っている声を指摘され、僚はぐっと息を飲み込んだ。
 真っ赤になって沈黙したのをきっかけに、神取は内部の泣き所を重点的に責めた。ひねり、前後させていた指で、内襞のある一点を狙って抉る。

「っ……!」

 僚は声もなく仰け反った。ひっひっと呼吸を引き攣らせ、痺れるような快感にのたうつ。
 神取はにやりと口端を歪めると、散々刺激されて膨らみを増した乳首を舐りながら、探り当てた一点を徹底して弄った。

「やめて、やめて!」

 高い悲鳴を情けないと思う余裕すらなかった。とにかく声を出し口から逃していないと、あまりに強烈な快感に塗りつぶされてどうにかなってしまいそうだった。
 腰から下が燃えるように熱く痺れた。出したいのに出せない、行き場のない衝動が体内で激しく渦巻き、腰の奥でわだかまる。

「なんでこんな……!」

 それでも自分でベルトを外す選択はしなかった。頭に敷いた大きな枕を力任せに握り込み、僚は大きく仰け反った。いよいよ膨れ上がった快感が身体の奥で弾ける。

「たまらないだろう?」

 神取は肌の上で囁いた。しかし今の僚に聞き取るだけの余裕はなかった。
 射精なしの絶頂に僚は気が狂ったように叫びを上げた。凄まじいほどの愉悦だが、出さない限りは本当には満足出来ない。苦しいほどの衝撃に呆ける僚を、神取は再び高みに追いつめる。
 やめて、と鋭い制止の声をうっとり聞きながら、神取は執拗に火種を煽った。達しても一時も休ませず責め立て、乳首を吸い、後孔を捏ねる。
 ベルトで絞られた性器の先端から、たらりと白いものが零れた。まるで涙のように溢れたそれを、神取は舌で舐め取った。
 極まり痙攣する僚を愉しそうに眺めながら、神取は尚も責め続けた。

「いやだ! ああぁ――!」

 さすがに苦しくて、僚は性器に巻き付くベルトを指で引っかいた。外してと訴えるが、自ら外そうとはしなかった。複雑な仕掛けも鍵もない。ベルトの金具を引っ張れば外れる仕組みだが、僚の指はただ表面を引っかくだけで外そうとはしなかった。

「外したい?」
「は、外して……!」

 ひっひっと喉を引き攣らせる。素直に聞く相手ではないのをわかっていて頼む僚に、神取は喉の奥で笑った。自分がこうして楽しむのが好きなように、彼もまたこうして遊ぶのが好きなのだ。互いに信頼し任せて委ね、ぎりぎりまで追い詰められる自分を哀れみ、楽しんでいる。

「ああ……いい顔だ。好きだよ」

 優しく頭を撫でて囁く。堪えきれず流した涙で頬は濡れそぼって、苦悶に歪んでいた。けれど好きだと告げるひと言で、僚はわなわなと震えながら恍惚の表情を浮かべた。

「ひっ…いや、もぅ……あうぅ……」

 後孔にねじ込まれた指は尚も追いつめてきた。散々嬲られた乳首はぷっくり膨らんで、ちょっとの刺激で飛び上がる程過敏になっていたが、それがまた心地良かった。少し強めに歯を立てられると、脳天にまでがーんと響いてたまらない。
 もう何度目になるかわからない絶頂にかすれた悲鳴を上げ、僚は手足を強張らせた。やや置いて、硬直していた身体をがっくりベッドに沈ませ、ぜいぜいと喘ぐ。
 神取はちらと時計を見やった。まだ少し猶予がある。ベルトで戒められた彼のそこは、哀れにもひどい色に染まってわなわなと震えていた。ゆっくり指を引き抜く。僚は微かに声をもらし、泣きじゃくりながら見上げてきた。

「いきたい?」
「………」

 僚は声もなく頷いた。ごくかすかに頭を揺らす。

「上においで」
「……いや」

 手を引く男に首を振る。ベルトをかけられたまま抱かれたら、それこそ気が狂ってしまう。
 神取は無理に引っ張る事はせず、しかし手は掴んだまま、もう一度おいでと繰り返した。
 僚は苦しげに顔を歪ませた。二度目の声がして少し後、とうとう動き出す。
 神取は近付いてくる少年の腰を抱き引き寄せ、またがる格好にさせた。

「あぁ……」

 僚の口から微かなため息がもれる。拘束された性器が、男のものに触れたのだ。思った以上に熱く滾るそれに触れて、おののき、思わず声をもらしたのだ。
 触れた瞬間、脳天にびりびりと快感が走った。痛みとむず痒さが入り混じった、じっとしていられないほどの強烈な疼きに見舞われ、僚は半ば無意識に腰を揺すった。自ら足を開き、しなやかに腰をくねらせる。

「い……いかせて」

 涎を垂らしてひくつく己のものを擦り付け、浅ましい格好でねだってくる少年に、神取は楽しげに目を細めた。そっと、慎重に頬に手を差し伸べ、包み込む。忙しなく呼吸を繰り返す唇を親指でなぞると、熱い吐息が皮膚を焦がした。ほんの指先なのに、全身を熱せられているようだった。

「たかひさ……」
「いかせてあげるよ。君が一番満足する方法で」

 制限されて、限界ぎりぎりまで追い詰められるのが好きな君に合わせてあげる。
 腰を上げさせ、僚の痴態ですっかり滾っていた己のものを深くまで埋め込む。僚は口から何度もいやだと零し、しかし抵抗らしい抵抗はせず素直に従った。
 自分はこんなに嫌がっているのに相手は少しも聞き入れてくれない、哀れな自分は無理やり抱かれるのをただ嘆くしかない…そんな状況に酔っていた。
 強制と自発を巧みに使い分け、状況を愉しむ僚の才能に神取は舌を巻く。支配されているようで、この場を支配しているのはほかならぬ彼。境界を曖昧にして、最大限に愉しんでいるのだ。嗚呼本当に彼はたまらない。
 パートナーとして最高だ。

「あ、あ、あっ……おく、が……あぁ!」

 全身をわななかせ、僚は甘く鳴きながら受け入れた。
 彼の綺麗な左右の眼から透明な滴が溢れ出る。瞳の輝きは複雑になり、ちかちかと金色に輝くのを神取は見た。

「うぅ――!」

 奥まで開かれ、意識がとろけそうになる。それだけで僚はまた達した。
 今にも倒れそうに仰け反って痙攣する僚の身体をしっかり抱きしめ、神取はゆっくり深くまで抉りぬいた。動きは大きく優しいものであったが、散々指で抉られた箇所を容赦なく圧され、脳天を直撃する強烈な喜悦に僚は叫びながら髪を振り乱した。

「いやっ……ひ、ひっ……ああぁ!」

 神取は逃げようともがく身体を抱きしめて封じ、静かに揺さぶって味わった。
 中に閉じ込められたまま受ける刺激はあまりに強烈で、段々と意識が保てなくなっていく。指の先まで痺れ切ってたまらない。締め上げられた下腹がずきずきと鈍く痛みを放って、それがまた快感だった。嗚呼本当にたまらない。
 絶え間なく押し寄せる快感のうねりに僚はだらしなく涎を垂らして悦び、男の上で喘ぎ続けた。極まる腰を尚も抉り貪られ、息も絶え絶えになる。

「良い顔だね、とてもいやらしくて……大好きだよ」

 嗤う声すら今の僚には心地良かった。背筋を引き攣らせて喜ぶ。こんなにみっともない姿を見せても軽蔑せず、身体も心も好きだと言ってくれる男が好きで好きでたまらない。
 だからどんなに苦しくても耐えられる。むしろ嬉しく思える。苦しいのが嬉しい。自分も男が好きだから。
 次第に頭が霞んで、何もわからなくなってゆく。大きなうねり、自分の中で蠢く男に支配され、息も出来ない。
 僚は無我夢中でしがみ付き、薄いゴムを纏った男のものを締め付け、身体の奥で貪った。
 意識はとぎれがちになり、身も心もとろとろに溶けてしまったようだった。
 何度も身を襲った大きなうねりがまたやってきて、身体の内側ではち切れんばかりに膨れ上がった。同時に飲み込んだ男のそれも、限界を迎えて膨らみを増した。直後、熱いものがぶちまけられる。真っ白な瞬間に飲み込まれ、僚は我を忘れて叫んだ。
 ベルトが外され、ようやく射精が許された。長くとどめた後の射精はだらだらととめどなく溢れ、その間ずっと続く快感に針が振り切れる。
 僚はおこりのように何度も身体をびくつかせ、熱く痺れる絶頂に呆然と浸った。口からだらしなく溢れる自分の声を遠くに聞き、目を閉じる。

 

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