Dominance&Submission

一番好きなの

 

 

 

 

 

 手足に革製の枷を巻き首輪をつけ、支配される者の格好にされた僚は、男の言い付けに従い床に四つん這いになった。一つ動く度、尻に埋め込まれた六連のアナルビーズが妖しく蠢き、次の動作の邪魔をした。
 動きを阻むのはそれだけではなかった。
 四つん這いになると重力に引っ張られてより存在感を知らしめる、乳首に噛まされたボディクリップの重しが揺らめいて、乳首を引っ張り、更に僚を切なくさせた。クリップのバネはごく軽く痛みはないものの、しかし確実に乳首に噛み付いて、むず痒さをもたらしてきた。じっとしていれば堪えられるが、この先とてもじっとしていられないのは、わかっていた。
 男の手にある房鞭をちらりと見やり、恐ろしさに目を逸らし、僚はうなだれた。
 神取はすかさず頭に手を置いた。

「しっかり顔を上げていなさい」
「はい……」

 ひやりと冴えた声に息を飲み、すぐさま従う。
 神取は片膝を付き、悲しそうに正面を見つめている僚の顎を捉えると、今にも泣きそうに歪む表情をじっくりと堪能した。
 僚はなんとか呼吸を鎮めようと努めた。少しでも気を抜くと、みっともなく泣き出してしまいそうだった。
 これからされる事への恐怖はもちろん、こんな惨めな格好にされて鞭で打たれる自分に、拉がれた気持ちになる。
 怖くて、恥ずかしくて、いっそ消えてしまいたくなる。注がれる男の視線にじりじりと肌が灼けるようで、空気の流れさえわかる程に鋭敏になる。
 だというのに、下腹は萎えるどころかこの状況を糧にして猛り、じくじくと熱を放っていた。

「覚悟はいいかい」
「……はい」
「何故お仕置きを受けるか、言ってごらん」
「はい……」

 僚はもつれる舌で、自分のした事を吐露した。

「そう、言い付けを守れなかった。だからお仕置きに、お尻を叩いてあげよう」

 これで。
 神取は垂らした鞭の房で僚の尻をくすぐった。むず痒さに僚が尻を揺する。そうすると内部で性具が蠢き重しが乳首を引っ張って、むず痒いような刺激をもたらした。じれったさに反射的に身を揺すってしまい、僚はまた曖昧な刺激に苛まれた。

「あうぅ……」

 切なさを煽る痺れに僚は泣き声をもらした。どうすればいいのかと、何度も歯噛みする。

「いくよ」

 眼下で哀れに身悶えている少年にひと息笑い、神取は背後に回った。
 ひたひたと、撫でるような接触が二度ほどあり、次こそ来ると両手を握りしめて身構えた直後、派手な音で尻を打たれる。直線的な痛みをもたらす一本鞭と違い、こちらは痛みも浅く軽い。派手な音につい反射的に声を上げてしまうが、実際は平手よりも痛みは少ない。
 だが、衝撃を一切無視する事は無理で、鞭を受ける度僚はびくりと身体を弾ませ、反応した。
 その度に孔の深くまで押し込まれた性具を締め付け、重しを揺らしてしまう。一打ごとに自ら堪え難い刺激を招く事になり、また鞭も、いくら軽いとはいえ重ねられればじわじわと熱が溜まってゆく。肌はうっすら朱に染まり、敏感になり、敏感になれば軽い衝撃も芯まで響き、身体の内と外からもたらされる堪え難い刺激に、僚の口から零れる声が段々と切羽詰まったものに変わっていった。
 彼が苛まれている箇所も、彼を泣かす原因だった。乳首への刺激に元々弱く、そこを男が後孔と繋がるように躾けた結果、互いに高め合って、どこまでも昂る身体となった。
 何度も重ねられてひりつく鞭の痛みの中であっても、貪欲に快感を啜るようになっていた。
 うっすらと肌が色づくまで鞭を振るい、神取は軽くため息をついた。

「君はこうされるのが好きなんだね。おもちゃで遊ばれるのが、僚は好きなんだ」
「ちがう、ちがう……!」

 僚は必死に首を振って訴えるが、男の目をごまかせる訳もない。

「違うなら、何故そこをそんなに硬くしている?」

 僚はきつく眉根を寄せた。男にはもう、自分がどんな人間か知れている。こんな風に追い込まれて、怖さと恥ずかしさに竦みながらもそれが気持ち良い事だと骨の髄まで染みている人間だと、知れている。

「君が何に興奮しているか、どれだけ昂っているか、全部見えているよ」

 神取は鞭を置くと、四つん這いの僚の手を取り引き起こした。僚は儚い抵抗の末膝立ちになり、下腹できつく反り返っているものを男の目に晒した。

「それはなに?」
「これは……」

 答えられず、僚は力なく首を振った。

「何が違う?」
「………」

 何か云おうとして震える僚の唇を親指でなぞり、神取は再び四つん這いにさせると、わからせてあげようと冷たく声を放ち、鞭を振るった。
 一回、二回、三回目で、僚は咳き込むように息を吐き出し、四回目からは、打たれるごとに甘く湿った喘ぎを上げるようになった。そして丁度十回目、鋭い悲鳴と共に僚はびくびくと背中を痙攣させ、しばらく仰け反った後、がくりと弛緩した。
 床にうずくまり激しく喘いでいる彼に何が起こったか、覗き込むまでもなく神取にはわかった。
 嗤われながら鞭打たれる惨めな自分の姿に浸るあまり、痛みと快感の中達したのだ。
 神取は鞭を置き、どうしたと尋ねた。
 答えようとする素振りは見せるが、僚は口を開かなかった。全身が小刻みに震えていた。絶頂の余韻に浸っているのか、羞恥に震えているのか。ぶるぶると哀れに震える様に神取はうっとりと目を細め、尻から突き出している性具に手を伸ばした。
 気配で感じ取ったのか、直前で僚はうろたえるように身じろいだ。
 構わず神取は掴むと、持ち上げるようにしてぐいと捻った。

「やめ……!」
「いったね」
「っ……!」

 僚は言いかけて言葉を飲み込んだ。とても、素直に言える事ではなかった。恥ずかしさに身悶えていると、後ろを嬲る手が速められた。のぼりつめたばかりの身体を強制的に高められ、僚はひどくうろたえた。

「まっ、て…あ、ひっ……やだ!」
「なら言いなさい。正直に」
「あ、あぁ……や、めて……あぁっ!」

 前で繋がれた手枷の金具を何度も打ち鳴らして、僚はびくびくと身をのたうたせた。そうやって暴れると余計重しが揺れて乳首を刺激し、更に後ろから送り込まれる快感によって高められ、駄目だと思う間もなく膨れ上がった快感に力強く押し流される。

「あう、う、う……」

 短い爪を床に突き立て、僚は腰を引き攣らせた。
 弱々しくすすり泣く声を聞きながら、神取は愉しげに笑った。責める手をゆっくりしたものに変える。

「ほら、違わない。君はこうして責められるのが、好きなんだよ」

 鞭で打たれていったのがいい証拠だ。
 僚はうなだれたまま小さく首を振り、胸を喘がせた。その身体がまたびくりと弾む。
 男の手が再び勢いを増したのだ。いったばかりで狭まる内部を休みなく責め、追いつめる。

「違う、あ、もう……もうやめて……あっ、ああぁ! ゆるして!」

 腰の奥で灼熱の塊が弾けるのを感じ、僚は泣きながら顔を歪ませた。どんなに許しを乞うても聞き入れてもらえず、強制的にいかされる苦しさに、一瞬意識が遠退く。ふっと暗がりに入るのと同時に身体の芯がたまらないほど甘く痺れ、脳天をとろけさせた。はっとなって大きく息を吸い込む。
 目を瞬くと、男の腕に抱かれ優しく頭を撫でられていた。

「たかひさ……」
「ここにいるよ」

 神取は応え、呼吸もおぼつかない僚の唇をそっと舐め、零れてくる涙を吸った。
 背筋がぞくっとするほど優しく甘い抱擁に、僚は大きくしゃくり上げた。

「泣くほど良かったのかい」

 きつく目を瞑り、とうとう僚は頷いた。
 こうして苛められるのが、好きです…震える喉から声を絞り出す。また涙が溢れた。

「……ごめんなさい」

 だって。
 自分の身体を好きな男が、自分に興奮し、絶対的な支配をする。たまらなく好き。たまらなく感じる。苦しい、つらいのに、身も心も喜悦に包まれ泣きたくなるほどの幸せが込み上げてくる。浅ましい自分を恥ずかしいと思うのに、どうしようもなく感じて止まらない。
 だからどうか。
 啜り泣きに喘ぎながら、男のものに手を伸ばす。硬く勃起しているのがわかる。手のひらに伝わってくる熱さに頭の芯がくらくらとした。

「入れてほしい?」
「お…おねが……」

 彼の甘い泣き顔に神取は背筋が熱くなるのを感じた。骨の髄まで熱せられているようで、わずかに息が苦しくなる。

「……でも君は、こうして鞭で打たれ、玩具で苛められるのが好きなのだろう」
「す、き……だけど」
「正直に言えたご褒美に、もっとしてあげるよ」

 優しく微笑む支配者の貌に、僚は瞬きも忘れて見入った。そんな、と身体の芯が冷え、背筋が引き攣る感触に更に酔い痴れる。
 神取は硬い床からベッドに移すと、嫌がる身体を抑え付け、執拗に二ヶ所を責めた。
 アナルビーズをねじりながら奥まで突き込み、捏ね回し、かと思えばゆっくり入れて一気に引き抜く。クリップについた鎖を引っ張り、挟まれて敏感になった乳首を延々弄り、更に泣かせる。
 もう何度目になるか、少し薄まった精液を痙攣しながら飛び散らせ、僚は泣きじゃくり訴えた。

「も…う……それ、や…やだ」
「なら、これはもう終わりにしよう」

 神取は呆気なく性具を抜き去った。ずるずると、まるで内臓を引き抜かれるような悪寒に、僚は上ずった悲鳴を放った。

「あっ……ぁ」

 なくなってほっとするが、散々嬲られた後だけにまだ何か詰まっているようで、もぞもぞと落ち着かなかった。
 僚はどうにか震えを抑えると、間近に覗き込んでくる愉しげな男の眼差しを眩しそうに見上げた。
 神取は顔から下腹へゆっくり目を移し、手を伸ばした。過剰に反応する身体に薄く笑い、ひくひくと蠢く後孔に指先を押し当てる。

「物欲しそうに動いているね」
「……うん」

 男のものが欲しい。どうか早く入れてほしい。ぽっかり空いたそこを、一杯に埋めてほしい。

「も……はやく」

 湿ったため息を零す僚を組み敷き、神取はクリップに挟まれた乳首をねっとりと舐った。指先はまだ当てがったままだ。乳首はすっかり膨れて硬く尖り、ちょっとの刺激でも痺れるほど感じてしまったそこへの刺激が、後孔の疼きへと繋がる。

「入れて……あぁ!」
「入れてほしい?」
「あぁ…おねがい……!」

 男の腕をまさぐり、僚は息を荒げた。
 痛いほど胸を擦られながら、奥を突かれたい。両方が繋がってしまったかのようなあの目眩のする快感が欲しい。
 組み敷いた少年をねめつけ、神取は目を細めた。彼も溺れているだろうが、自分もどっぷり彼に溺れている。魅せられている。彼の泣き顔は嗚呼なんて甘いのだろう。
 引き寄せられるまま、赤く染まった眦に口付ける。僚はどこかうっとりとため息をつき、口付けを受けた。
 たかひさ。
 まぼろしのような声がひっそりと名を呼ぶ。強い目眩がして、更に彼に飲まれる。
 子供のようにぐすぐすと泣きじゃくっている。可哀想に、ここまで焦らされてさぞつらいだろう。
 神取は強い眼差しで目を見合わせた。
 僚は涙を瞬きで追い払い、真っ向から視線をぶつけた。

「……おねがい、入れて……」
「では、自分からおいで。ほら、しっかり掴まって」

 神取は抱きしめる形で腕を回し、起こして膝に乗せた。やっと許された事がすぐには信じられなくて、僚は一度窺うように男を見やった。口付けほどに顔を近付け、目線を絡める。
 それからゆっくり腰を上げ、男のものに手を添えた。そのまま腰を下ろす。俯き、自分の中にじわじわ入り込んでくる性器を愛おしく見つめる。何度もため息をもらす。

「あ、あ……ああぁ」

 全て中に収め、ぺったりと尻をついても、僚の震えは止まらなかった。
 男が好き。
 一番好き。
 その一番好きな男のものを身体の奥に迎え入れて、悦びに震えが止まらない。

「ああ、あ……気持ちいい」

 うっとりと呟き、男に抱き付く。
 しがみ付いてくる身体は燃えるように熱く、神取を骨の髄まで炙った。
 しばし抱き合い、僚は滾る想いのまま男に唇を重ねた。そのまま押し倒し、圧し掛かり、尚も咥内を貪った。
 激しさに圧倒され、神取はしばし愛撫に身を委ねた。頬や肩口に噛み付くようなキスを受け、溢れる熱情に自然と笑みが浮かんだ。
 上になった身体を抱きしめ、始めはゆっくりと、すぐに激しく彼の後孔に想いを叩き付ける。胸元に垂れたクリップの鎖を指に絡め、何度も引っ張ると、僚の口からほろほろと嬌声が零れた。

「ああ、ひっ…いい、きもちいい! ああぁ…たかひさ…たかひさ!」

 やっと望んでいた快感を手に入れ、僚は我を忘れてよがり続けた。だらだらと涙を溢れさせ、ひたすら気持ちいいと繰り返す。
 男の上でほっそりとした肢体がしなり、たわむ。妖しくくねる少年に魅了され、神取はひたすら奥を穿った。
 じんじんと腫れぼったい疼きを放つ乳首を引っ張られたまま、弱い最奥をぐりぐりと抉られ、たまらずに僚はだらしない叫びを上げて絶頂した。
 ひと際激しい痙攣を放つ身体を抱き直し、神取は尚も少年を揺さぶった。
 極まった身体を容赦なく責められ、つらさに僚は鋭い悲鳴を上げた。無意識に手を突っ張らせ抵抗するが、神取はやすやすと崩して抑え込んだ。
 きつく仰け反って苦鳴を放ち、首を振りながら、しかし僚はもっととまるで反対の言葉を口にした。
 少し癖のある黒髪を振り乱して喘ぎ、左耳のピアスを何度も閃かせる。汗ばんだ肌を男に擦り付け、腰を揺すり、僚はもっとと欲した。
 苦しそうに喘ぎながらも望み、男を貪り尽そうとした。神取も応えて、ひたすらに彼を抱いた。抱き合う歓びに深く深く溺れた。
 二人の喘ぎは時に止み、時に激しく重なって、部屋を満たした。

 

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