Dominance&Submission

一番好きなの

 

 

 

 

 

 寝室のベッドに寝かせながら、神取は飽きもせず僚の舌を吸った。彼の服は下着に至るまで全て脱がせ、今は傍の椅子の上だ。すべてが露わになった腕を脚を撫でながら、ゆっくり舌を甘食みする。もうすっかり匂いは薄れていたが、彼特有の匂いから離れられず、繰り返し吸っては舐る。
 僚は少し息を乱して、男の口付けに酔っていた。貪るように激しくされる時はもちろん、今のように穏やかな時でも、男には独特の力強さがあり、身体の芯まで沁み込んでくるような深い愛撫に息が少し苦しくなるのだ。合間にちらりと見える眼差しも、胸を苦しくさせた。鋭く冷たく淀みない強さが熱っぽく潤み、力強く貫いてくるのを目にした時など、本当に息の根が止まってしまいそうになる。
 息苦しさに参るのに、目を見ずにはいられない。僚はとりつかれたように男の舌をしゃぶった。
 腹にたっぷり垂らしたローションを塗り広げるようにして、男の手があちこち動き回る。時折いいところを過ぎり、僚はその度ぶるぶると身を竦ませた。段々と全身が妖しい感覚に飲まれてゆく。
 僚の左足の付け根辺りを掴み、神取は関節が許す限り大きく押しやった。
 露わにされる羞恥と期待に僚は目を瞬き、自らも脚を開いた。脇腹の辺りで動いていた男の右手が、下腹に向かう。すぐに窄まりに指先が当てられ、そこから焦らし焦らし入り込んでくる中指に唾を飲み込む。
 そんなに慎重でなくてもいいのに。
 意地悪する意味もあるんだろうと、少し憎らしくなる。
 僚の推測は半分は当たりであった。彼がもどかしそうにしているのを見るのが好きな意地悪な男は、眦や口元に表れた隠しようのない不満を見ては、心の中でひっそりと笑う。
 そしてそれとは別に、繊細な器官を傷付けない為でもあった。自分のものを受け入れる事が出来るようになるまでじっくりほぐす間、彼がじれったくしている様を充分愛でる事が出来る。
 どこかふてくされたような顔になって、もっとしてくれと目で訴えてくる彼を、思う存分楽しめる。
 己ももどかしいが、それがまたたまらないのだ。たまらなく愉しい時間。
 神取は二本目の指をゆっくり押し込みながら、僚の表情を間近で眺めた。ややきつい手応えの通り、いささか眉根に力が入る。けれどそれは痛みや嫌悪ではないようで、口元にはうっすらと可愛らしい笑みが浮かんでいた。
 吸い寄せられるようにして唇を塞ぐ。
 僚は積極的に応えながら、小さく腰を揺すった。異物に拡げられ、瞬間的にぞくりと悪寒が走るが、決して嫌なものではなく、もっと欲しくなる妖しさがあった。望んでいると内部で指が軽く曲げられ、思わず声が飛び出る。
 神取は内襞の形状を確かめるようにして指先をくねらせた。時折いいところを擦るのか、その度に僚の口から短い叫びが上がる。声は心地良く、神取はそれを聞きながらもう片方の手で肌のあちこちを撫で、特に反応の良い箇所に唇を寄せた。

「あぁっ」

 乳首をそっと摘まむと、少し高めの悲鳴が迸った。敏感な身体に背筋がぞくぞくする。続けてくにくにと指先で転がすと、ぶるぶるっと可愛い反応を見せた。一気に忙しなくなった息遣いに神取も興奮を募らせ、ねちねちと後ろを捏ねながら乳首を吸った。

「ん、んんっ」

 それまで曖昧だった下腹の反応が一気に顕著になる。ふらふらと揺れていたのが硬く勃ち、指や舌の刺激にぴくぴくと跳ねた。
 力の加減で声の質が変わるのを聞き分け、神取は目を細めた。舌で唇を湿す。嗚呼なんて可愛いのだろう…もっと苛めてしまいたくなる。
 仰向けに横たわった少年の身体中を愛撫しながら、後ろを丹念にほぐす。左耳や脇腹に口付けた時も反応がいいが、やはり乳首を舐った時が一番締め付けが強い。食い付いてくるのを強く抉ると一段声が高くなる。

「あぅっ……ん」

 自分の口から飛び出る叫びに恥じ入りながらも、僚はもっと一緒にしてくれたらと密かに望んでいた。じっとしていられず身じろぐと、きつく反り返った下腹の性器が揺れ、先端から垂らした涎でまた腹部を汚した。
 自ら首を曲げて見やった僚は、そんなになっている自身に眦を朱に染め、そっと目の端で男を窺った。
 神取は持ち上げた左脚に繰り返し接吻しながら、見やってくる目と視線を絡ませた。僚は恥ずかしさに一瞬目を逸らしたが、すぐに戻し、三本の指を押し込んでくる力強い腕からたどって男の顔を見つめた。
 三本ともなるとさすがにきつく、根元まで埋め込むのに少し力が要った。受け入れる僚もその分息遣いが変わり、開かれるぞっとした感触に背筋を震わせた。

「あ、はっ…んん……それ…ああ」

 何度か指を抜き差しして声を上げさせた後、神取はゆっくり引き抜いた。
 去ってゆく異物をつい追いかけてしまう自身に恥じ入りながらも、僚は腰を揺するのを止められず、目の端に映る嗤う支配者に唇を引き結んだ。
 小憎らしい反応に神取はますます頬を緩め、引き抜きながら指先で感じる内部をこりこりと転がした。たちまち僚の腰がびくびくと跳ねる。

「あ、あっ…だめ……!」

 どんなに口を噤んでも男の動き一つで声を上げてしまう自分に、僚は何度も歯噛みした。悠然と笑っている顔が憎たらしいのに、そうやって自分を操る男にうっとり酔い痴れる。
 近付いてくる男の顔を恨みがましく睨み、拒むが、しかし拒み切れずに僚は唇を迎え入れた。身体を撫でる優しい手にじわりと目の奥が熱くなる。
 神取は両手と目線で僚の姿勢を四つん這いに誘導し、うっすらと汗ばんだ肌に軽く接吻した。浮き上がる背骨に恭しく口付けると、びくりと緊張が走った。敏感な身体が嬉しくて、一つひとつに唇を押し付けながら腰までたどる。尾てい骨の辺りまでくると、どこか焦ったような身じろぎを僚は放った。構わず神取は両手で尻をぐいと割り開いた。

「あっ……やめろ」

 僚は慌てて腰を揺すった。こうやって暴かれるのは初めてではない。身体中、どこもかしこも男の目に晒してきたが、どうしても、反射的に声が出てしまうのだ。

「恥ずかしい?」

 当たり前だと、喉の奥で唸る。背後から聞こえてくる含み笑いに僚は頭を抱えた。こんなどころではない姿をとっくに晒しているが、じっくり視線を注がれるのはやはり恥ずかしい。どんな事をしたって、恥ずかしいと思う気持ちは薄れない。

「も……見るな」
「……ひくひくしているね」
「うるさい……あっ!」

 ようやく手が離れたとほっとする間もなく熱く硬いものをあてがわれ、僚は息を飲んだ。
 薄いゴムに包まれたそれに身構えるが、先端を押し付けたきり男は動かなかった。
 動く気配はあった。後ろのものはそのままに、背中に覆いかぶさってきたのだ。
 肩を抱かれ、耳元に囁かれる。

「入れてほしい?」
「ん……」

 声の方に顔を曲げ、僚は小さく頷いた。

「入れてもいい?」
「……おねがい。入れて」
「何を入れてほしい?」

 じれったさに僚は腰を揺するが、男の楽しげな笑い声を聞くだけだった。

「いや……入れて」
「言ってごらん」
「あ……鷹久の」

 その後は言葉に出来ず、代わりに僚は自ら腰を押し付け、欲しいものを示した。それだけで、顔がほてって仕方なかった。

「恥ずかしい言葉で」

 まだねだってくる男に、僚は奥歯を噛みしめた。小さく首を振る。

「言って、僚」
「……やだ」

 きっぱりと突き付ける。言いたくない、聞かせたくない。

「いやだ……」

 再度零れた拒絶は涙に濡れており、神取はやりすぎたと詫びる。肩に触れていた手で頭を撫でる。彼はこうされるのを特に好むが、今も通用するだろうか。強張っていた顔からいくらか力を抜き、僚は熱い吐息をもらした。

「たかひさ……入れて」
「……今あげるよ」
「うっ……」

 低い囁きにうっとりした直後、じわじわとこじ開けて入り込んできた熱塊に、僚は息を詰まらせた。腰が抜けそうな鈍痛に見舞われるが、それが男によってもたらされているのだと思うと苦しい中に喜悦が走って、震えが止まらなかった。背筋から這い上がってくる衝撃にだらしない声が止まらない。

「……あぁっ」

 根元まで埋め込まれ、狭い器官一杯に頬張った男の怒漲に僚は深いため息をついた。

「きつい……」
「苦しい?」

 思わず零した声に男が気遣う。僚はすぐさま気持ちいいと首を振り、鼻を啜った。
 神取は両手を腰に添えると、ゆっくり腰を前後させた。ねっとり絡み付いてくる内襞の熱さに腰の奥が痺れるようだった。抽送を繰り返しながら、僚の胸にある一点ずつを指に摘まむ。

「あ、ああぁ……いやっ!」

 たまらないとばかりに僚は首を振りたくった。短く鳴く声に合わせて奥がきゅうきゅうと収縮を繰り返す。
 反応は男を満足させ、更なる満足を招いた。
 神取はひたひたと音のするほど腰を打ち付け、胸への刺激で狭まった内部を己のものでこじ開けるように抉った。

「あ、あ、あぁ…だめ……ああぁ!」

 胸にある男の手を引きはがそうと僚は抵抗を試みるが、二ヶ所から同時にもたらされる強烈な快感に痺れて、思うように力が入らなかった。男の突き込みに合わせて、己のものが下腹でゆらゆら揺れる。引っ張られるような刺激も相まって、身体はますます快感のみに染まっていった。
 とうとう支えていた腕が力なく崩れ、僚は頭を抱えるようにしてうずくまった。その直後、神取の腕が少年を抱き起こした。

「!…」

 一瞬理解が追い付かず、僚は反射的にシーツを掴もうと慌てて腕を伸ばした。気付いた時には、力強い男の腕に抱かれ、もたれていた。自らの重みで男の熱い滾りをより深くまで打ち込まれ、喉を突き破ってきそうなほどの衝撃にふっと目の前が白く霞む。
 僚は無意識に何度も後ろを締め付け、度を越えた甘美な刺激に酔った。苦しさと気持ち良さに頭がくらくらする。しゃくり上げるようにして何度も息を吸い込む。何とか息を整えていると、男の手がだらしなく開いた脚にかかり、僚は慌てて閉じようとした。
 神取はそれを引き止め、自分の足をまたぐ形に開かせた。
 誰に見せる訳でもなく、部屋に二人きりだが、遠慮もなく大股に開いた格好にいくらかの恥ずかしさが込み上げる。
 肩の緊張でそれを読み取った神取は、意外と柔らかい彼の関節に感謝し、更に大きくむき出しの格好を取らせた。
 僚はますます首を竦めた。こちらの羞恥を巧みに引っかいてくる男が恨めしくもあり、また大きな悦びでもあった。整えようとする息が引き攣れる。

「手は自分の膝の上だ。そこから動かしてはいけないよ」

 所在投げにしていた手をそこへ持ってゆき、言い付けながら腕を撫でる。
 肌をすべる男の熱い手のひらにびくびくとわななきながら、僚は頷いた。

「いい子だ」

 甘く呟き、神取は抱きしめるようにして僚の前面をゆるゆると撫でさすった。浅い呼吸に合わせて蠢く腹部を、脇腹を撫で、しまいに乳首を指先に捕らえる。
 あ、と高い声を上げて僚は男の肩に乗せるようにして仰け反った。思わず引き止めようと手が動きかけ、途中ではっと思い出しまた膝を掴む。
 その手が震えているのを愉しげに眺めながら、神取は摘まんだそれを指先で優しく擦り、押し潰し、埋め込むようにしてゆっくり捏ねた。

「ん、あ……あ、あっ…あん……んんん」

 殊更弱い部分を徹底して嬲られ、僚はひと時も口を閉じていられなかった。ひと時もじっとしていられない。

「いい反応だ……ここだけでいくのを、私に見せてくれるかい」
「そんな、の……むり」

 直前までは高まるだろうが、射精なんてとても無理だと僚は弱々しく首を振った。直接的な刺激を、それが駄目ならせめて後ろを突いてほしい。

「無理じゃないさ。とても感じやすい身体をしているもの」
「いやだぁ……できない」

 僚は愚図りながら腰を揺らし始めた。わずかに角度が変わり、内部のものが蠢いて悦びをもたらす。

「あ、ああ…あっ」

 熱い吐息がもれるのを聞きながら、神取は背後で満足げに笑う。乳首と後孔の快感を繋げて、幾度も同時に責めた成果。仕上がりにぞくぞくとした喜悦が込み上げる。
 しかし僚にはつらい結果。片方に刺激を受ければ、もう片方も欲しくてたまらなくなる。どちらか一方だけでは満足出来ないのだ。そしてまた彼は、こうして抑え付けられるとより感じやすくなる。我慢の利かない身体になる。
 僚は何度もしゃくり上げながら、後孔を必死に締めたり緩めたりしてどうにか刺激を得ようとした。男はじっとしたまま動かない。
 ついに堪えかね、僚は泣き縋った。

「あ、あ……ね、動いて」
「……突いてほしい? きつく抉って、擦ってほしい?」
「あ、あ……」

 耳朶にかかる低い囁きに、僚はおこりのように身を震わせた。そうされてどれだけの快感が得られるか、骨身に染みてわかっている。今すぐ欲しい。ますます身体の我慢が利かなくなる。
 お願い、お願い。
 繰り返される僚の懇願に微笑み、しかし男はきっぱりと首を振った。いくぶん膨らみを増した乳首を休みなく責めながら告げる。

「まずはここだけでいくんだ。ちゃんと言う事を聞けたら、その通りにしてあげるよ」
「ああぁ……」

 堪えるのも苦しい制限に、打ちひしがれ、僚は悲しげに顔を歪めた。しかし無意識のところでは、男にこうして支配され、もどかしさにすすり泣く自分に心地良く酔い痴れていた。

「言うとおりに出来ないなら、ここでやめだ」
「や、やだ…鷹久、やだ……」

 ここまで追い詰められて、突き放されるなんて、耐えられない。ぞっとする背中を震わせながら、僚は首を振って背後の男に縋った。

「なら頑張りなさい。もしも勝手に触ったり動いたりしたら、お仕置きをするよ」

 お仕置きの言葉に、咥え込んだ僚の後孔がひくりと反応する。神取は薄く笑った。

「……されたいのかな」
「ちが……」

 本当にと問われ、頷くが、自分でも自分の本心がわからない。男にきつく縛り付けられ、甘い痛みを与えられるのは、他では決して手に入れる事の出来ない極上の快感。身も心も虜にする甘い甘い蜜のようで、自分は……。

「お仕置きされたくないなら、このままいくところを見せてごらん、返事は?」
「く……はいっ」

 より強く突起を摘ままれ、僚は詰まった声で答えた。
 男の手指は堪えようとする僚をあざ笑うように巧みに動き翻弄した。熱くて硬い男のもので一杯になった後孔がじんじん痺れて、頭がおかしくなりそうだった。何度も息を飲んで我慢するが、どうして動いてくれないとじれったさについに限界に達した僚は、言い付けも忘れて腰を上下させ自ら貪り始めた。

「あうぅっ」

 奥まで達した瞬間、喜悦が走りがーんと頭に響いた。それが気持ち良くて、僚は緩んだ喘ぎ声をしきりにもらしながら動き続けた。腰を上下させる度前方で勃起がゆらゆら跳ねて下腹を打ち、瞬間的に走る快感がたまらなくて、僚は飽きもせず同じ動きを繰り消した。すっかりとりつかれていた。
 もっととねだるように男の手に自分の手を重ね、痛いほど乳首を捏ねながら腰を弾ませ、ずぶずぶと自ら貪る。
 自分の上で踊る少年の淫らな姿に、神取はわずかに息を乱した。強烈な締め付けにともすれば持っていかれそうになる。
 僚は仰け反り、俯いて、いっときも休まず高みを目指した。

「あ、もう…もっ……」

 切羽詰まった声がもれる。限界が近いのだ。神取は一切声を挟まず、恍惚の瞬間を見守った。

「あ、あ…いく……ああ、ああぁ――!」

 僚は全身を強張らせ、かすれた声と共に白液を放った。
 絶頂の余韻にぶるぶる震える少年を抱き直し、神取は楽しげに笑った。まだ荒い息をついている僚を強引に自分に向けさせ、ねっとりと唇を舐める。口付けに応えて、すぐにはっとなり、僚は目を見開いた。
 身体の強張りで察した神取は、支配者の貌で笑った。

「勝手に動いたら、私はどうすると言った?」
「………」
「聞いていなかったかい?」

 僚は小刻みに首を振った。何と言われたか忘れたわけではない。しかし、喉が引き攣り凍り付いて、言葉が出せないのだ。
 手が無意識にピアスに縋る。
 男の浮かべる微笑は冴え冴えと美しく、自然と涙が滲んだ。圧倒的な存在への畏怖と、愛慕とがないまぜになる。

「答えなさい、僚」

 男の指が、掴むようにして顎にかかる。
 ひやりとする背筋を震わせ、僚は絞り出すようにして何とか答えた。

「お仕置き……する」
「そうだ……覚悟はいいかい」

 何度もしゃくるように息を吸う。しかし吸っても吸っても胸が苦しくて、震えは止まらなかった。
 いっそ優しく微笑む支配者に、涙がひと粒零れた。

 

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