Dominance&Submission

指先の嫉妬

 

 

 

 

 

 寝室の壁一面のクローゼットは、ドアの一枚が姿見となっていた。その正面に立つよう言われ、僚はひたひたと素足で向かった。身体はまっすぐ向けたものの、どうしても顔を合わせる事が出来ず、自分の肩を見るようにして首を曲げた。

「まっすぐ見られない?」

 男の声に一瞬顔を上げるが、すぐまた俯く。ややおいて、僚はぎこちなく頷いた。
 男に見られるのはいいが、自分で自分の裸を見るのは、やはり抵抗があった。過日、鏡越しに嫌というほど自分の痴態を見せつけられたのを思い出す。

「そうか、そうだね。なら、これを使おうか」

 男は傍のチェストから何やら取り出すと、軽く僚の方へ差し出した。
 僚は出来るだけ鏡を見ないよう素早く目を動かし、男を見やった。
 青い帯状の布だ。
 男はそれを僚の左肩にかけると、鏡越しに顔を見やった。目線が合わないのも構わず口を開く。

「私の声がよく聞こえるように」
 君の声が良く聞こえるように

 弱い電流が駆け抜けたかのようにぶるりと身体を震わせ、僚は鏡越しにしずしずと男と目を見合わせた。それから肩を見やり、かけられた青い布を手に取る。
 男がこれを何に使おうというのか、先の言葉と布の形ですぐにわかった。
 見るのが恥ずかしいなら、見えなくしてしまえばいい。そうすればより深く没頭出来る。思い切り溺れて、浸る事が出来る。
 目隠しの為の布。
 唐突に腹の底がぞっと冷える感触に見舞われ、抑えようもない震えに僚は顎をわななかせた。
 男に言えない事の一つである、以前の記憶が過ぎったのだ。
 自然と唇が歪み、気付いて慌てて元に戻す。
 僚はためらいながら手を上げて布を掴んだ。
 そこでまた動きが止まった少年の様子を、神取は注意深くうかがっていた。息遣いや眼差し、唇の動きに神経を集中する。
 睨むようだった目付きが、ある時ふっと緩んだ。
 それから僚は男に布を差し出し、お願いしますと小さく告げた。

「僚はいい子だね」

 受け取り、神取は支配者の貌で笑った。
 僚はどこかうっとりと、恍惚の表情で目を閉じた。
 神取はその目を青い布で覆い隠し、しっかりと結んだ。

「きつくはないか」

 鏡で確かめると、いくらか緊張した口元が見えた。それでも僚は平気と応え、布に触れていた手を下ろした。

「……でも」

 次の道具を取りに行こうとしたところで、鋭い制止がかかり、神取はすぐさま振り返った。
 どうしたと問うが、僚は口ごもり中々言おうとしなかった。

「大丈夫だ。教えて、僚」

 以前の嫌な事が思い出されたのだろう。神取は声音に気を付け、言葉が出てくるまで気長に待った。自分がいる方向を明確にする為、握手の形で手を繋ぐ。すると僚は思いがけず強い力で握り返してきた。

「あの、あんまり……」
「ああ」
「……離れたり、しないで」

 ごく、ごく小さなかすれた声をどうにか振り絞り、僚は言った。どれだけ怖い目に遭わされたのか思うと胸が痛み、胸が悪くなった。繋いだ手を両手で包み込み、決して離れないと誓う。
 それは今この時だけではない。これから先もずっとだ。心の中で固く誓う。

「ゆっくり教えてあげるから、ゆっくり覚えていけばいい」

 頬に軽く口付けると、ようやくほっとしたのか、僚の唇が小さくほどけた。ほのかに笑う形がたまらなく愛くるしい。彼をびっくりさせないように静かに触れ、すぐに我慢出来なくなり深く貪る。
 背中に回された腕が心地いい。神取は抱き合う形でキスに耽った。
 息継ぎの淡い声が僚の唇からもれる。聞こえるか聞こえないかの微かな揺れさえ愛しくて、飽きることなく貪る。離れる時は本当に名残惜しく思った。
 けれど楽しい時間は始まったばかり。
 神取は鏡の前に僚を立たせ、まっすぐ胸を張っているよう言い付けた。
 目隠しのお陰か、先程は窮屈なほど顔を背けていたのが、今はまっすぐに鏡と向き合っている。
 薄い胸、手足は長く、ほっそりとした少年の身体にしばし見惚れる。一瞬だけ目を離し目的の道具を手にすると、緊張気味の彼の元に戻る。

「……鷹久?」

 空気の揺れで感じ取ったのだろう、背後に戻った気配に小さく首を曲げて僚は呼びかけた。

「ああ、ここにいる」

 神経を研ぎ澄まし聞き耳立てる彼に密かに笑い、神取は右手に触れた。

「これを持っていてくれるかい」
「なに……」
「プラスチックのボトル。お馴染のものだ」

 手のひらを上にして、乗せるように渡す。ひんやりとした感触に一瞬びくりと反応する。言葉と形ですぐにわかったのか、僚は気まずい時するように唇を動かした。
 神取は更に左手にも触れると、包む形に誘導した。

「両手で持って温めていてくれ。後で君が冷たい思いをしないように」
「……はい」

 僚は言われた通り掴むと、腹の辺りに落ち着かせた。自分が手にしたこの円筒形のボトルの中身が何か、見るまでもない。軽く揺すると、少し重たいローションがたぷんと揺れた。

「寒くはないか」
「うん……大丈夫」
「良かった」

 言いながら神取はうなじの辺りに唇で触れた。は、と淡い吐息が聞こえた。ほんのわずかなかすれにも背筋が疼いた。彼のものは、息遣いまで愛しい。もっと聞きたいと、ついばむような軽いキスを繰り返しながら肩口へとずれる。
 目を凝らして見てようやくわかるうっすらとした傷跡に、唇を押し当てる。指先でそっと撫で、また口付ける。

「んっ……ん」

 僚は喉の奥で小さく鳴き、わずかに俯いた。男の唇が何をたどっているのか、わかったのだ。いささか居心地が悪くなり、身体を揺する。

「気分が悪い?」

 男は即座に動きを止めた。
 僚は慌てて首を振り、平気だと答える。

「続けても構わない?」
「ん……」

 僚はゆっくり頷いた。こんな身体でもよかったら、どうかもっとして。心の中でそっとねだる。
 直後、甘い囁きが耳朶をかすめた。
 好きだよと綴る男の低音に思わず身体が震える。

「……おれも」

 応えると目の奥がじわっと痛くなった。
 再開された愛撫に震えが止まらない。そしてもどかしい。感じる場所にキスをくれない男が少しもどかしい。
 指先がゆっくりと身体をたどる。ごくわずかに触れて、肌をすべっていく。本当は触れてないのかもしれない。自分のただの妄想、錯覚かもしれない。もっと触ってほしい自分が勝手にでっち上げた妄想…いや、違う。今のは男の指だ。間違いない。表面をごく薄くなぞって、こちらの反応を確かめる意地悪な指先は、間違いなく男のものだ。

「んん……」

 愚図るように身じろぐ身体にひと息笑い、神取は手のひらでゆっくり撫でさすった。ちらりと鏡を見やると、そこに映った顔はどこかふてくされたように見え、小さくほどけた唇からは今にもおねだりが聞こえてきそうだった。笑みを深める。

「っ……」

 両手のボトルをさらに強く握りしめ、僚は鼻から息を抜いた。好きな手に触られて幸せだけど、もっと欲しい。もっと別のところにも。じれったい気持ちは重い疼きとなって下腹に溜まっていった。ずきずきと、むず痒いような脈動が収まらない。

「さあ、ボトルを渡して」

 言葉と同時に軽く引っ張られ、僚は手を離した。自由になった事で、つい無意識に自分のそれへと伸ばしかける。寸前で気付いて、慌てて脇に下ろす。

「そう、両手はきちんと揃えていなさい」
「……はい」

 答えた直後、嫌な予感がしたのを僚は見逃さなかった。目隠しの下でわずかに眉を顰める。
 神取はボトルのふたを跳ね上げると、僚の肩を抱き、軽く自分の方に引き寄せた。
 僚はすぐさま足を踏ん張って抵抗した。目が見えない状態で後ろに引っ張られるのは、思った以上に怖かった。倒れるにしてもせめて前ならばまだ庇えるが、後ろはそのまま頭を打ってしまいかねない。
 それは神取もわかっていたので、宥めるように肩をさすり、しっかり抱きとめた。

「大丈夫、ちゃんと支えるから力を抜いて。そう、もう少し私にもたれて」

 恐々と力を抜き、僚は身を委ねた。
 言う通り出来た彼に、いい子だと囁く。唇が嬉しそうにぴくりと動いた。嗚呼、なんて可愛い。
 神取は手にしたボトルをゆっくり傾けた。

「うわっ……」

 腹部に垂れてきた何かに、僚は過剰に身を強張らせた。ある程度予測はしていたのに、素っ頓狂な声を上げしまった自分が恥ずかしい。
 より一層辺りに耳を澄ます。
 ぬるい液体は、胸から腹にとろとろと流れ、やがて下腹へと到達した。そこから二股に分かれ、足へと降りてゆく。
 床に滴る程たっぷり垂らすと、神取は元通り立たせ、ボトルを傍に置いた。
 そしてまず右手から腹に当てる。続いて左手。左右の手をゆっくり動かし、身体の前面にまんべんなくローションを塗り広げてゆく。

「うっ……」

 するするとなめらかに動く手のひらに、僚は小さく声を落とした。
 ぬめる手に撫でられ、妖しい気持ちが瞬く間に膨れ上がる。ああもっと感じるところを強く擦ってほしい。僚は喉の奥で低く唸った。叶わないならいっそ自分でと思ったところではっと我に返り、慌てて姿勢を正す。
 仕草でそうと悟った神取は、彼の欲しいところをわざと避けて手を動かし、囁いた。

「私がいいと言うまで、絶対に自分で触ってはいけないよ。約束できるかい」

 鏡の中で、いやらしい大人が無垢な少年に怪しい液体を塗り付けている。目の端に映る己に神取は曖昧に笑った。

「……はい、できる」
「何ができる?」
「絶対…自分で触らない……やくそく」
「そう、いい子だ」

 腿の外側を二度三度撫で、片手を尻へとすべらす。前に残した手でへその周りをくるくるとくすぐり、時折性器の際まで指でたどった。

「っ…あ……」

 その度に僚はびくんと肌を引き締め、今度こそ触ってもらえるのかと期待を募らせた。
 不満げに歪んだ唇、その素直さに、神取は楽しげに笑みをもらした。
 ぬめる手で、柔らかで形良い尻を撫でさする。僚はしゃくり上げるように頭を揺らした。

「んっ……!」

 中指を奥まったところへ伸ばすと、少し鋭い声が上がった。もっと聞きたくて、塗り付けるようにして指を上下に滑らせる。後孔の表面を過ぎる瞬間が、一番反応が強かった。
 幾度か撫でた後、そこで指先をぴたりと止める。

「やっ……」

 焦れたような、少し高い声。
 指先に、もぞもぞと動く感触が伝わってきた。
 中へ、奥へ誘うようにひくついている。
 神取はその位置で、ゆっくりと揉み込んだ。
 たちまち僚は大きく首を振り、今にも零れそうな声を歯噛みして堪えた。
 早く彼の可愛い声が聞きたいが、我慢している表情も見ていたい。少し小鼻を膨らませ、何か云いたげに唇を動かしている。両手は言い付け通りしっかり横に置いて、腰だけをもじもじと揺らしている。神取は執拗に繰り返し、鏡に映る表情から仕草からじっくり愉しんだ。

「あぁ……」

 中指を焦らし焦らし送り込むと、僚の口から深いため息が押し出された。反応を見守りながら、抜いては押し込みまた引き抜いて、少しずつ深く目指す。

「………」

 もっと、強くてもいいのに…僚はもどかしさに歯噛みしながら、全身をびくびくとわななかせた。
 ローションのせいでなめらかに動く指を、後孔が追いかけるようにして締め付ける。ぴっちりと狭まる内襞に擦り付けるようにして指を動かし、小刻みに揺すると、焦れたような呻きが何度も零れた。
 前屈みになり、もじもじと手を動かす僚にふと笑い、神取は内部の感触を楽しんだ。
 二本目の指を潜り込ませ、敏感な箇所を柔らかく抉る。するとそれに合わせて雄の象徴がびくびくと弾んだ。

「ん、んっ!」

 唇からもれる声も一段大きくなる。
 我慢がはがれてきた僚に気を良くし、神取はねちねちとローションを絡ませるようにして指を動かした。
 内部に滲んできたものとあいまって、ひどく卑猥な音がそこら中に響いた。
 また僚の首がいやいやと動く。
 構わず神取はひたすら捏ね回し、いやらしい音を聞かせ続けた。

「ん、う…あぁっ! あ、あ、ああぁ……」

 とうとう我慢しきれなくなったのか、僚は噤んでいた口を開き、甘い声を続けざまに零した。弄られる腰を揺すり、切なげに訴える。

「そこばっか…も、そこやだ」
「嫌い?」

 尋ねると、僚はううと言葉を詰まらせた。
 見えないのをいい事に神取は口端をいやらしく歪め、うなじに唇を押し付けた。

「あっ……」
「僚、ここを弄られるのは嫌い?」

 手を握っては開き、僚はおずおずと首を振った。すぐに口を開く。

「あ…でも」
「でも……なに?」
「たかひさ……」

 ためらいつつ、前も触ってほしいと訴える。男のいる方へ首を曲げ、お願いと付け足す。

「どこを?」

 口で言うのは恥ずかしいので腰を揺すって示す。こんな風に訴えるのはたまらなく惨めで、恥ずかしくて、いっそ消えてしまいたくなる。
 しかし男の口からは、まだ素っ気ない言葉が出るばかり。

「どうして?」
「うぅ……」

 ため息ほどの囁きに唇を引き結ぶ。ひやっとした空気が感じられた。
 これが嫌な予感だったのだ…ぼんやり過ぎらせながら、僚は強く腿を掴んだ。そうでもしていないと、言い付けを破って今にも自分で触ってしまいそうになるのだ。
 もどかしさと悲しさに何度もしゃくり上げる。だのに嗚呼たまらなく感じる。こんな浅ましい様を晒している自分にしようもなく感じてしまう。
 男に見られているのが、どうにもたまらない。
 すすり泣くような僚の息遣いに、神取は満足げに口端を歪めた。
 一度、埋め込んだ指で強く突き上げる。

「あぅっ!」
「ほら、しっかり背を伸ばして、まっすぐ」
「っ……はい」

 ひっひっとしゃくり上げながら、僚は懸命に言われた通りの姿勢になろうとした。そうはさせまいとして、男の指が意地悪く中でくねり、踊る。

「やあぁ……」
「言うとおりに出来ないなら、もうやめだ」
「そんな…やだ……!」
「ならしっかり立ちになさい」
「するから……」
 お願い

 今にも泣きそうに歪んだ顔に、神取はうっとりと見惚れた。

「鏡の中の君も、いい顔をしている」
「あ……やだ」

 たちまち僚はおろおろと俯いた。
 以前の、鏡越しのセックスを思い出したのだ。あの時の自分の顔が鮮明に蘇る。目隠しをしているせいでよりはっきりと瞼に浮かぶ己に、僚は短く喘ぎながら、おこりのように身体を震わせた。
 自分は見えないが、男は見ている。だらしなく、いやらしく緩んだ顔の自分を間近で愉しんでいる。たちまちこらえ切れないほどの羞恥が込み上げてきたが、そんなはしたない自分が気持ち良くてたまらない。
 無様な姿を晒している自分、それを愉しんでいる男…異様なほどの興奮が募る。
 それに併せて身体が痛いほど張り詰める。
 嗚呼もう我慢できない。

「おねがい……前もさわって」
「どうして」
「だって……」
「君のそこが、今どんな風になっているかわかるかい」

 神取は腹を撫でていた手をぎりぎりまで近付け、周りを撫でた。
 やめて、と小さな声がもれる。怯えたように小さく首を振る仕草がいい。
 舌を伸ばし、ゆっくり耳の縁を舐める。たちまち僚の唇からかすれた甘い響きがもれて、背筋を妖しく撫でた。

「私にこうして後ろをいじられて、どんな風になっているか、知りたくはない?」

 彼の反応が可愛くてつい調子に乗る。やだ、と縋ってくる泣き声は何でもとろかす甘い毒のようだ。

「やだ……たかひさ」

 甘ったれた声で名を呼ばれ、背筋がぞくぞくと痺れる。

「どうしたい?」

 答えようとして、僚は何度かしゃくり上げた。
 背後から顔を覗き込んで聞く。

「僚、どうしたい?」
「い……いきたい」

 腰を揺すってねだる。
 内側から散々刺激されたそこは、先端から涎を垂らしてぐっしょり濡れそぼっていた。けれどとどめの一撃には届かず、身体はつらい状態に追い込まれていた。

「ああ……とても苦しそうだ」

 わざと大げさな声音で綴り、神取は顔をしかめた。抑えきれない笑みに口端が歪む。

「おねがい……」

 あと少し擦るだけで、あっけなく達しそうにびくびくとわなないている。早くいかせてくれと、訴えているようだった。
 神取は内部をかき回していた指を揃えると、ゆっくりとした抜き差しの動きに変えた。

「どんな風にいきたい?」

 その通りにしてあげよう。

「あ、ああ…たかひさ」

 腿に指を食い込ませ、僚はしゃくり上げた。緩い刺激で延々追いつめられるのは、さぞつらいだろう。それでも約束を守り抜こうとする姿勢に胸が熱くなる。

「言ってごらん、僚……どんな風にいきたい?」

 上手くおねだり出来たら、いかせてあげる…低い囁きに耳朶をくすぐられ、僚は小刻みに震えを放った。
 わななく唇で必死にねだる。

「いきたい…あぁ……たかひさの、感じたい」

 入れて、入れて。うわごとのように繰り返す。

「入れてほしい?」

 聞きながら、神取はじれったいほどゆっくり指を引き抜いた。

「あ、ぁ……おねがい」

 去ってゆくのが名残惜しいのか、僚の腰が時々追うように動いた。

「いや……」

 笑うような男の息遣いを確かに聞き、僚は濡れた声で鳴いた。
 ようやく指が抜かれ、今度こそという期待と、なくなってしまった刺激の物悲しさに、もやもやとした気持ちが募る。

「あぁ……」

 早く埋めてほしい。男のもので、深いところまで開いてほしい。

「手を前に伸ばして」

 言葉と同時に誘導され、僚はぎくしゃくと腕を上げた。思いがけず近くに壁があった。いや、クローゼットの扉だ。

「そう。胸を少し下げて」

 肩幅より少し広く手をつき、僚は辿るようにして位置をずらした。期待に息が荒ぶる。あからさまに興奮しているのが恥ずかしくて口を噤むが、すぐに息苦しくなり、また口を開く。その呼吸が、間近で反射している事に気付いた。もう少し離れていたつもりだが、それほど前に出ていたのか。

「!…」

 自分が向かい合っていたのがどこだったか思い出すと同時に、熱く硬いものが後孔に触れてきた。
 僚はぎくりと顔を正面に向け、すぐに跳ね返ってくる自身の呼吸におののきながら男を受け入れた。

「あぁ――!」

 じわじわと、ひどくゆっくり入り込んでくる熱塊に、間延びした声を上げる。寸前、自分は何におののいたのかも忘れて、僚は腰を緊張させた。狭い器官を力強く押し広げて、一杯に満たしてくる男のそれに、自然笑みが浮かんだ。ずきずきと痛みに似た疼きが走るが、それさえも心地良かった。嗚呼、嬉しくてたまらない。
 僚の肩越しに見える鏡でそれを確認した男は、早く寄越せとばかりに腰を揺する僚に愉しげに笑った。
 せっかちな彼を制し、少しずつ腰を進める。
 半ばまで埋め込み、一旦動きを止めると、たちまち僚は上ずった声でぐずった。

「いや…やぁだ」

 もっと奥まで入れて。動いて。お願い。いかせてお願い。

「奥まで欲しい?」
「うん……うん」

 鼻を啜りながら、僚は何度も頷いた。
 奥の方、ゆっくり突いて。
 甘いおねだりに従い、神取は根元まで埋め込んでしゃくり上げるように腰を動かした。

「くうぅ!」

 少し苦しげに呻きながらも、僚は全身で悦んだ。深いところまで一杯に分け入り、なお突き上げてくる怒張に全身で喘ぐ。
 好き、ああ好き。ほんとう。鷹久の、手も唇も全部好き。
 ああ気持ちいい。好き、好き!
 癖のある黒髪を振り乱し、甘い声でよがる様に煽られ、男は一直線に追い詰めた。

「だめっ…いく、でる、出る――!」

 半ば無意識に逃げようとする腰をしっかり掴み、引き寄せるようにして穿った。
 涎を垂らさんばかりに喘ぎ、僚は何度も首を反らせた。自分の方に向けさせ、唇を寄せる。
 吐息でわかったのだろう。はっと驚いたような息遣いの後、僚は自ら口を開け受け入れた。舌を絡め、強く吸う。息苦しいのか、きつく眉根が寄った。それでも神取は離してやらず、甘食みを続けた。そうしながら小刻みに何度も何度も突き込む。互いの口内で僚の叫びが響き、骨の芯まで震える。
 むず痒い感触にうっとり酔いながら、神取はより強く奥を抉った。

「あぁたかひさ…いく、いっちゃう……」
「ほら…自分のを触って。好きなようにしてごらん」

 扉に当てていた右手を掴み、神取は下腹へと誘導した。
 ようやく降りた許可に、僚は無我夢中で己の物を扱いた。
 後ろから男に鏡越しで見られている事は全く気にしていなかった。まるで頭になかった。
 音がするほど激しく腰を叩き付けられ、一撃ごとに脳天ががんがんと痺れた。深奥を容赦なくこじ開けられ突かれて、全身が燃えるように熱い。早く解放したい。
 真っ白になるあの瞬間が欲しい。
 その一心で、僚は手を動かし続けた。

「うああぁ――!」

 ひときわ高い鳴き声と共に、僚は全身を強張らせた。二度、三度と繰り返しわななき、同時に白いものを先端から噴き出す。
 内部まで響き、咥え込んだ男のものをきゅうきゅうと締め付けた。絞るような動きは絶妙で、男も声を抑えられなかった。

「く、うっ……」
「あ、あぁ……」

 緩んだ声と共に口端から涎を垂らし、僚は力なくうなだれた。クローゼットの扉にあてがっていた手が、ずるずると下がっていく。
 男の支えが無かったら、今にも床に崩れていただろう。
 神取は腕を回して支え直すと、余韻に浸る身体を再び追い上げた。

「……いやっ!」

 抗議めいた声を上げ、僚は首を振りたくった。
 神取は聞き入れず、ひたひたと小刻みに腰を打ち込んだ。
 苦しげな呻きを無視して揺さぶり、責め立てる。
 いやだと上がる絶叫にも耳を貸さず、神取は容赦なく最奥を穿った。同時に両手で彼の感じる部分を余すところなく弄る。

「ああうっ!」

 胸の一点をきゅっと摘ままれ、僚は大きく仰け反った。更には下腹も包み込まれ、泣きそうに歯噛みし首を振る。
 どうにか振りほどこうと身を揺するが、どちらの手もほどけなかった。
 敏感に反応する部分を執拗に責められ、あっという間に追い詰められる。

「ああ、あ…たかひさ!」

 僚は喉を引き攣らせた。男の手がどこでどんな風に動いているか想像するだけで、脳天が真っ白になる程痺れた。
 怖いほど甘い、男の手。

「やあぁ……! だめ、だめ!」
「駄目じゃないよ」

 すっかり硬く反り返った雄をゆるく扱きながら、くすくすと耳元で笑う。
 そんなささやかな吐息にさえ感じて、僚はぶるぶると仰のいた。

「いきたかったのだろう?」

 小刻みに突き込みながらうなじに口付ける。鏡を覗き込むと、溢れた涙で青い布はしっとりと濡れていた。濃くなった青に触れ、頬を撫でる。忙しなく息を継ぎ震える唇をそっとなぞり、神取は笑った。
 赤い顔、忙しなく息をつく唇。肌はしっとり汗ばみ、甘い匂いがするよう。

「ほら、見てごらん」

 俯いた顔を上げさせる。
 僚は必死に顔を背けようと抵抗するが、とうとう負けて鏡と向かい合った。見えなくても、すぐ鼻先に自分の顔があるのはわかった。すぐに跳ね返ってくる息遣いの角度で、わかりたくなくてもわかってしまう。
 やだ、と弱々しい僚の泣き声にうっとりと頬を緩め、神取は口を開いた。

「とてもいい顔をしているよ」

 目隠しで見えないのは承知で囁く。
 目隠しで見えなくても、僚には見えた。過日の鏡越しの自分が見えた。いやらしく緩んで、男の愛撫に悦びとろけきった自分の顔が見えた。

「や…やだ、してない、してない!」

 慌てて首を左右する。癖のある黒髪を振り乱し、僚は否定した。
 しかしどんなに追いやろうとしても、実際に見るよりも強烈に淫らな自分が浮かび上がる。
 してないと叫んだ直後、平手で尻を叩かれる。

「あっ!」
「どうしてそんな嘘を吐く?」

 悪い子だと支配者の声で笑い、神取は手を振り上げた。いつもの軽い弾けるような衝撃ではなく、あえて痛みを与える厳しい平手打ちをもう三度加える。

「た、たかひさ……!」

 ごめんなさいとうろたえる声にくすくす笑いながら、一転して優しく身体中を弄る。

「あぁあっ!」

 たった今痛みを与えてきた手が、今度は快感をもたらしてくる。どちらでも、どんなのでも大好きな男の手で身体を撫でられ、甘い声が唇から零れる。

「ほら、僚……いやらしい君が映ってるよ」
「うぅ…やめて……や、へんたい」

 涙に濡れた声が、男の背骨を甘くくすぐる。

「そうだね……でも違うよ」

 一瞬の沈黙の後、知ってる…とほのかな空気の揺れが僚の口からもれた。
 形良い唇に浮かんだほんのりと柔らかな笑みに引き寄せられるようにして、男は接吻した。
 絡み付いてくる舌を何度も吸いながら、彼が一番感じる奥を責め抜く。

「ん、んんっ、あ、あ! あぁ!」

 更に下部を手に捉え、打ち込む腰の動きに合わせて扱く。
 たちまち僚はきつく眉根を寄せて激しく身悶え、繰り返し首を振りたくった。

「あぁ、また…あぁっ……いく、いく……ああぁ!」

 深くうなだれ、仰け反り、僚は力一杯叫びながら再び絶頂を迎えた。
 全身で悦ぶ僚に引っ張られ、男もとどめの一撃を食らう。
 何度か力強く腰を打ち付けた後、最奥で動きを止める。

「……あっ」

 堪えに堪え、最後に一つため息をついて射精する。
 深奥に熱いものを浴びせられ、僚はおののいたように身体をびくつかせた。少しおぞましい感触が何故か嬉しかった。扉に頭をくっつけて、荒い息を何とか鎮める。そうしていると、男の手がゆっくり髪を撫でてきた。優しく労わる動きが気持ちいい。自分でもおかしいほど、頬が緩むのがわかった。

「ああ……好き」

 ため息に交えて告げる。自分で言った言葉が自分に響いて、指先まで痺れるように熱くなるのが感じられた。

「私もだよ」

 神取は抱きしめた身体をそっと床に座らせると、身体を離し、目隠しを解きにかかった。

「………」

 僚は不満げに呻いた。泣いたせいか、目を開けてもすぐには物がよく見えないのだ。それでも男の気配は感じられるので、ぼやける視界に目を凝らし、抱き付く。
 すぐに抱き返してくる腕にうっとりと浸り、またため息ほどの好きを零す。
 髪を撫でる手がむず痒くて、嬉しくて、好き。
 神取はそっと抱き上げるとベッドに寝かせ、段々と焦点がはっきりしてくる眼差しに頬を緩めた。
 僚の手がまっすぐ伸びて、頭を抱き寄せる。
 なんで離れているのだと不満交じりの力強さに笑いながら、神取は深く口付けた。指先が食い込むほど激しく抱きしめてくる僚に応え、彼の身体を手のひらで撫でさする。
 頬から首筋に唇をずらし、胸元を目指すと、首を振る揺れが伝わってきた。
 いやいやと駄々をこねるのも構わず抱き締め、右と左と交互に吸う。
 たちまち身体がびくりと強張った。

「あうぅ……」
「ここ…本当に好きだね」
「う、ん……ん!」
「ああ、いい反応だ……好きだよ」

 困ったような顔で、それでもうれしげに笑う少年に男も口端を緩める。
 前面だけでなく脇腹や背中にも愛撫を施し、這わせる姿勢にすると、男は覆いかぶさるようにしてゆっくり中に入り込んだ。内部は柔らかく熱く、ねっとり絡み付いてくるようだった。

「ああ、あ――」

 少し間延びした声を愉しみながら、根元まで深く押し込む。更に強く突くと、高い悲鳴と共に背骨がぎくりと強張るのか見て取れた。
 神取はその部分に指先を当てると、同じ動きを二度、三度と繰り返した。緊張が走る様が伝わってくる。妙に楽しかった。

「苦しい?」
「へいき……おく、きもちい……」

 僚はふわふわとした動きで首を振り、とろんとした声で答えた。

「ここかい?」
「うん、うん……」

 男は始め大きく捏ねるように腰を動かした。それを徐々に速めて、やがて荒々しく貫く。

「だめ……や、だめっ……い…いく!」

 あっという間に追い詰められ、僚はうろたえた声で身悶えた。気付けば前を自分で扱いていた。
 神取はそこに自分の手を重ね、焦らさず追い上げた。
 支えの肘を崩して枕に顔を埋め、僚は何度もいくと繰り返し熱を放った。
 先端から白いものを零し、不規則に身震いを放つ身体を、神取はゆっくり抱き起こし自身の膝に乗せた。

「ああぁ……」

 かすれた声を上げて僚はもたれかかった。己の重みでより深くまで男のものが入り込み、思わず腰が逃げてしまう。

「楽にして」
「あ…でも」
「大丈夫、もっとよくしてあげるよ」
「い、や……」

 僚は仰け反ったまま首を振った。
 広げるように膝を抱えられ、何をされるか察したのだ。

「好きだろう?」
「……やだ!」

 予測した通りの言葉に薄く笑い、神取は腕に抱えた身体を揺さぶった。

「だめぇ……」

 絶頂に浸る間もなく快感を与えられ、苦しいほどの愉悦に僚は涙を零しながら許してと訴えた。
 神取は聞き入れず執拗に下から突き上げた。手を突っ張らせて抗うのも気にせず強制的に追い詰める。

「あぅ…やだ、あ、あ、あぁ…あっ! たかひさ……やだぁ!」

 達した直後で過敏になった内部を休みなく擦られ、中がきゅうきゅうと締まる。自分の意思に反して男のものをしゃぶる自分の身体に自分でおののき、僚はひっひっと喉を引き攣らせた。

「いいよ…もっと締め付けて」

 僚はがむしゃらに首を振った。自分がしているんじゃない。抗うが、伝わってくる響きに翻弄されまた涙が滲んだ。

「くう……うぅ――!」

 全身を突っ張らせ、僚は白液をまきちらした。
 痙攣めいた動きに神取はいやらしい笑みを浮かべ、腕にした身体を静かに寝かせた。
 今度は横向きにして片足を大きく持ち上げ、その足を抱え何度も腰を押し付け、同時に前を扱く。
 いやだ、いやだと僚は拒絶の声を上げた。もういきたくないと泣きながら訴える。
 それでも男が唇を寄せると、一度は拒む素振りをするがすぐに顔を向け、苦しげに喘ぎながらも健気に舌を吸った。

「もっと感じて、僚…ほら」

 音がするほど腰を打ち付けながら、手にした先端を指先で丸く舐め回す。
 僚はシーツを握り込んできつく仰け反り、食いしばった歯の合間から上ずった声を何度も上げた。
 神取は唇を舐め、尚も僚を貪った。彼の泣き顔、声、眼差し…何もかも可愛くてたまらない。もっと見たくてたまらない。
 這って前に逃げようとする仕草など、背筋がぞくぞくしてしまう。逃げる身体を無理やり押さえ付けて強引にいかせる。嗚呼なんて最高だろう。

「……――!」

 また白く熱いものを放ち、発作を起こしたかのように大きく喘ぐ僚を見て、自身もいきたくてたまらなくなる。

「……中に出していい?」

 耳元で囁くと、僚はぶるりと反応した。
 ぜいぜいと喘ぎながら首を曲げ、懸命に見やってくる。
 涙で濡れた目を何度も瞬かせながら懸命に男を見やり、僚はがくがくと頷いた。
 いい子だという言葉と同時に激しく揺さぶられ、脳天がびりびりと痺れる。いったばかりの身体を容赦なく責められるのはつらくてたまらないが、こんなにも男が興奮しているのは嬉しい。
 もっと自分の身体で感じてほしい。
 僚は腕を伸ばして男に掴まると、たぐるようにして引き寄せ口付けた。

「もっと……」

 もっと自分の腕の中で鳴いてほしい。
 首の後ろがぞっとするような、目の前が真っ白になるほどの歓びに溢れる、甘い声を聞かせてほしい。
 男の動きが単調なそれに変わる。息遣いからも限界が近いのを察し、僚は歯を食いしばって耐えた。腰が砕けそうに激しくて、苦しいが、同時に嬉しかった。
 だって自分も、男の声を聞くのが好き。

「愛してるよ……」

 瞬間、吐息がもれる。
 僚はきつく目を瞑り浸った。男の濃いもので中が満たされ、自然と身体が震えた。自然と、唇に笑みが浮かんだ。
 出し切って満足し、男は一旦腰を引いた。
 去ってゆく感触にびくびくと震え、僚は呟いた。

「……好き」

 恍惚の表情で綴る少年に、男は喉を引き攣らせた。顔から目が離せない。
 たった今満足したばかりなのに、また抱きたくなった。彼の奥深くにぶちまけたくなる。そうすると彼は熱さにおののいて、甘い声で喘ぎながらぶるぶるっと震えるのだ。その仕草ときたら――。
 男は、今しがた自分が注いだものがとろとろ溢れてくる後孔に触れると、躊躇せず二本の指を埋め込んだ。

「あ……だめ!」

 慌てる声に背筋がぞくぞくっと疼いた。見ると、彼のものが頭をもたげゆらゆらとくねっている。
 欲しくて我慢できなくなり、制止を振り切り喉奥まで咥え込む。

「うあぁっ!」

 甘ったるい声が鼓膜を犯す。もう止まらない。涙で顔中濡らしやめてともがくのも聞かず、神取は口淫に耽った。片手は後孔を、片手は乳首を弄って煽る。

「やぁだ……もうやだぁ……」

 先端の淡い窪みを濡れた指で刺激すると、僚は愚図るように腰を弾ませた。

「ここを擦ると、中が締まるね……」
「あぁ…もうやめ……!」
「もうやめたい? 本当に?」

 嘘吐きと非難するように、神取は埋め込んだ指でぐいぐいと突き上げた。内部は言葉に反して、刺激が足りないとばかりに締め付け、雄の象徴はもっと吸ってくれと欲してびくびくわなないた。
 こんなに欲しがっているのに、嘘吐き…くすくすと笑う。

「ほら、僚……気持ちいいだろう」
「たかひさ……やだぁ――」

 もう入れないでと切羽詰まった声を聞きながらあてがい、ゆっくり押し込む。

「や――!」

 浮かんだ表情は喜悦そのもので、深くまで飲み込んだだけで僚はいった。もうずっと、いきっぱなしになっていた。どこを触られても感じでしまい、止められない。
 絶頂の余韻に浸る間もなく休みなく抱かれ、怖いほど感じているのに、まだ男が欲しい。熱く濡れたものを奥まで押し込まれると、全身がびりびりと痺れてたまらなくなり、目の前が強烈な白で覆われる。

「そう……もっと強く抱いて、僚」
「あ、あぁ……たかひさ」
「君の手に抱かれると、幸せな気持ちになる」

 今にも泣きそうな顔で、探るように見つめてくる。

「……本当に」

 神取は見つめ返し、証のキスをした。
 寸前、力のこもっていた眉根がふっと緩み、甘い笑みが広がったのを見た。
 届いた事に嬉しくなり、神取はゆっくり捏ねるように彼の好きな箇所を愛撫した。

「ん、んん…おく、あぁ……おく……おかしくなる!」

 悲鳴交じりに叫び、僚はきつく男の身体を抱きしめた。そうでもしないと、どこかに落ちて溺れてしまいそうになる。
 繋がった箇所から、ねちねちといやらしい音が聞こえてくる。嫌というほど擦られ、中に出され、また抉られて、もう訳がわからない。何もわからない。
 ただ、男が好き。

「くうぅ……あ、あ、あっ…あぁっ……きもちい……すき…たかひさ……すき!」

 歯を食いしばり、呻くようにもらす。
 肌に沁み込むような響きに神取は喉を鳴らし、背筋を駆け抜ける強烈な痺れにうっとりと浸った。
 直後、僚の中で開放する。

「う、う…くぅ……」
「!…」

 ひゅうっと喉を鳴らし、僚はひときわ大きく背を震わせて達した。
 ひどく乱れた呼吸が静かなものに落ち着いていくまでの間、神取はしっかり抱きしめたままでいた。

 

目次