Dominance&Submission
J&J
僚を従う者へと変える赤い枷を五ヶ所の首に巻き、両手を繋ぎ合わせると、神取はベッドに括りつけた。 「窮屈なところはないか?」 首枷の余裕や、繋いだ腕が動かせる範囲を確かめながら、神取は尋ねた。 「だいじょうぶ……」 悲しげな瞳で僚は答える。これから何をされるのか、どんなお仕置きを受けるのか。満足に息も出来ないほど恐怖を感じているのに、そんな自分がたまらなく心地良くて、訳がわからなくなる。 身動き取れない格好にされて、辱められて、それが気持ちいいなんて…嗚呼。 ぎゅっと目を瞑る。 少ししてベッドがかすかに揺れた。男が立ち上がったのだ。 空気が揺れ、離れた気配を感じ取る。 僚は目を閉じたまま、耳を澄ませた。 「どうしてお仕置きを受けるか、言いなさい」 少し遠くからの声にひっと喉を鳴らす。何度かしゃくり上げ、僚は途切れ途切れ言葉を綴った。 「いけない、こと…したから」 「どんないけない事?」 「や……約束を、守らなかった」 「どんな約束?」 閉じた瞼の裏に、過日のアフタヌーンティーの風景が広がる。 サンドイッチを作り、ケーキを焼き、美味しい紅茶と共に二人で午後のひと時を楽しんだ。バルコニーからの紅葉に見惚れ、そして。 段々と鮮やかになってゆく過去に目を凝らしていると、頬に何かふわっと軽いものが触れた気がして、僚は反射的に目を開いた。 いつの間に戻ったのか、男が同じようにベッドに腰かけていた。何かを置く動作が目の端に映り、引っ張られるようにして見やる。傍のテーブルにローションのボトルを置いたのだ。馴染のものだ。そしてもう一つ、ケースが見えた。中身は…綿棒。 「言いなさい。どんな約束だ?」 はっと目を戻すと、じわりと涙が滲んだ。 自分はあの後、秋の穏やかな午後の日差しを受けながら、無様に漏らしてしまった。 瞬間を思い出しきつく顔を歪める。堪えきれず口から呻きがもれた。 「言えないなら、私が言おうか」 かき消そうと口を開くが、うう、と唸るのが精一杯だった。 「今度からトイレに行きたい時は、ちゃんと言う事。何と言うんだった?」 僚はちらりと見やった。答えるまで許される事はないと、眼差しが語っている。何度か唇を噛み、言葉を紡ぐ。 「おしっこ……したい」 「そう。もう一つ約束したね」 こくりと頷く。 「ごめんなさい」 「そうではなくて、何と約束したか言いなさい」 言葉はあくまで優しく綴られた。それがかえって恐怖を煽る。男特有の甘く優しい恐怖に絡め取られ、僚は何度も息を啜った。 「もう、二度と……」 途切れたところで男が頷く。先を促す動作に眉根を寄せ、僚は続きを口にした。 「おもらし…しません……」 その途端堪えようもなく涙が込み上げてきた。慌てて頭を振るが間に合わず、せめて男から隠そうと必死に首を曲げる。 約束を交わした瞬間の事が思い出され、反射的に涙が溢れたのだ。 あの時の恥ずかしさと惨めさに全身が熱くなり、いたたまれないほどの恥ずかしさを感じたというのに、どうしてだろう、ひどく興奮していた。 これからどんな罰を受けるのだろうかと怯えははっきりとあるのに。 自分はもう、身も心もこの男のものなのだ。 こうした反応の一つひとつが、その証なのだ。 瞬きを繰り返して何とか涙を追い払っていると、頬に優しくハンカチが押し当てられた。 「まだ泣くのは早いよ」 うっすらと笑んで神取は言った。 僚は顔を戻し、ぎこちなく頷いた。 「お仕置きだからね、優しくは出来ない。だがこれだけは約束する。決して、君の身体に傷一つ残さない」 まっすぐな強い視線を見つめ返し、僚は眉根から力を抜いた。小さく頷く。もう知っている。もうとっくに知っている。 眦に残った涙を拭い取り、神取はハンカチをしまった。 僚は大きく喘ぎ、男に教えられた言葉…お仕置きしてくださいと告げた。 その様子を満足げに見下ろし、神取は傍のテーブルに置いた綿棒のケースを手に取った。摘まみ上げた一本を僚の腹の上に置き、そこにローションを垂らした。 ひんやりと冷たい液体に全身をびくりと強張らせ、僚は微かに眉を顰めた。 首を曲げて見やる。 「足を開きなさい」 しっとりと濡れた綿棒を片手に、神取は静かにそう命じた。 まさかと過ぎる予感を懸命に振り払いながら、僚はぎこちなく足を開いた。 「もっとだ。いつも、私を誘う時のように」 薄い笑みで見下ろされ、僚は羞恥に目の端を赤く染めた。小さく唇を噛み男の言葉に従う。 「そう――いい子だ」 「っ……」 こんな状況にあっても、またどんな言い付けであっても、男にいい子と言われる事に、背筋が震えるほどの悦楽を感じてしまう。そんな自分に、更に羞恥が募る。 劣情と屈辱感に目を潤ませる僚に笑みを深め、神取はやおら手を伸ばし下腹で勃ちかけた熱茎を緩く包み込んだ。 予測した通りの結果に近付きつつある事に恐ろしげに顔を歪める。 「たかひさ……」 「動いてはいけないよ」 言い渡された言葉に、いよいよ息も出来ない。 いやだ 喉が引き攣れ、声にならなかった。 すぐにでも振り払って逃げ出したい気持ちと、動けないほどの恐怖に絡め取られ、僚は満足に息もつけぬまま、握り締められたその先端に綿棒があてがわれる様をただ見つめていた。 「っ……!」 声にならない声をもらす。 同時に、あてがわれたそれがゆっくりと埋め込まれていく。 「ああぁ――!」 繊細な部分をこすられる感触に、僚はありったけの声を張り上げびくびくと身体を震わせた。 熱さや痛みとは違う、まるで剥き出しの神経に息を吹きかけられているような、引き攣れた感覚に身体の震えが止まらない。 「いっ、や…だ……あ――! あぁ――!」 息も絶え絶えに訴えるが、それでも男の手は止まらず、さらに奥へと埋め込まれていく。 動くなと言われた事も忘れて髪を振り乱しのたうち、啜り泣きに近い声を上げて繰り返し嫌だと喘いだ。 ようやく男の手が止まった時には、再び溢れた涙で僚の頬はしっとりと濡れていた。 「泣くほど、持ちいいのかい?」 覆いかぶさるようにゆっくりと顔を近付けて眦の涙に口付け、男は静かに尋ねた。 「……ちが、う――」 弱々しくしゃくり上げる。 「じゃあ、気持ちよくなるまで動かしてあげよう」 「や…や、め――!」 慌てて首を振る僚の声を無視して身体を起こし、わずかに覗く先端部分を摘むと、神取はゆっくりと引き出し始めた。 「やああぁ……あぁ――!」 耳に飛び込む鋭い悲鳴に、思わず胸が高鳴る。今にも、理性が吹き飛んでしまいそうだ。 それを辛うじて押し留め、神取は幾度か抜き差しを繰り返して悲鳴を搾り取ると、再び奥まで埋め込み、その状態で僚のものをゆっくりと扱き上げた。 「や、だっ……それ…いた…いっ……!」 強すぎる刺激に、僚は涙声で訴えた。 「痛いかい?」 問い掛ける男に、泣きながら頷く。 「じきに気持ちよくなるよ」 耳朶を甘噛みしながら囁かれ、無理だと思った直後、今まで綿棒を摘んでいた手が腹部に置かれた。先ほど垂らしたローションと、噴き出した汗とで、しっとりと湿っている。 男は指に塗り付けるように、くすぐるように手を動かすと、五指で優しく肌を撫でながら胸へと辿らせた。 やがて指が乳首に触れる。 「あっ……い、や……!」 はっとなり僚は慌てて身を捩るが、両手を繋がれた状態ではどこへも逃げようがなかった。 人差し指が、ぬるぬるといやらしく乳首を弄る。 「やっ…やだ!」 「いい顔だ」 神取はふと笑って、執拗に乳首を責めた。 僚は何度も首を振りたくリ、自分が発する言葉で追い払おうと試みたが、目が眩むほど首を振っても嫌だと叫んでも、身体は高まるばかりだった。 そのように男に躾けられた。 少し弄られただけで、後孔が切なく疼くほど慣らされてしまった。 「んっ……!」 唇が重ねられる。するりと入り込んできた熱塊にねっとりと舌を舐められ、僚はたまらないとばかりに震えを放った。 後孔の疼きはますます強まるばかり。 「ああ……ああぁ…ん……」 接吻の合間に甘い声をもらし、腰を揺すりながら身悶える僚の反応に、神取もまた息を乱れさせた。見ると、栓を噛まされたそこはいつの間にかきつく反り返り、愛撫の度に身をわななかせていた。あと少し刺激を加えるだけで弾けてしまいそう。しかし今は奥深くまでねじ込まれた綿棒によって射精を阻まれている。 震える様は怒りか悲しみを訴えるかのようで、神取は目を細めた。 ぬめる指で繰り返し乳首を扱く。その度に僚は熱い吐息に唇を震わせ、切なげに鳴いた。 「た、たかひさ……」 やがて涙交じりの声が零れた。 僚は膝をこすり合わせながら、縋るように男を見上げた。 「……いい格好だね」 うっとりと笑う声にきつく奥歯を噛みしめる。けれどもう我慢出来ない。 後ろを触ってほしい、疼いてたまらない。ああだめだ、こんな状態でされたらおかしくなる。 また唇を塞がれ同時に乳首を扱かれる。もがいてキスから逃げるがまた押さえ付けられ、僚は半ば無意識に腰を弾ませた。 「たかひさ…ああ」 今にも泣きそうに眉根を寄せて訴える。もう駄目、もう我慢出来ない。後ろも弄ってもらわないと身体の疼きが止まらない。 「もっと欲しい?」 神取は耳元でそっと囁いた。ああ、と熱い声と共に僚は身震いを放った。しっとりと濡れた瞳が縋るように見つめてくる。 やがて小さく頷いた。 無言で、口付けをねだる恋人に応え、うっすらと朱い唇に神取は触れた。 「んん…ん……」 きしりと革枷を軋ませ、もっと欲しいと身悶える。 「いいよ。どこに欲しい」 聞き入れ、しかし自らの口で言うよう誘いながら、神取は問いかけを繰り返した。 「僚……どこに欲しい」 綿棒を飲み込んだ辺りをゆっくりとなぞりながら、唇で首筋をかすめ撫でる。 「あ、あ……ん」 男の愛撫に僚は喉を鳴らして喘ぎ、焦れたようにいやいやと頭を振った。異物に犯されたそこが、焼け付くように疼いている。 「言ってごらん……僚」 唇を這わせ、時折奥から舌を伸ばして敏感な部分を刺激し、耳朶をねぶりながら、神取はもう一度どこに欲しいと囁きを流し込んだ。 「い、ぁ……、ん……」 応えてもれる細く掠れた嬌声に、快感が背筋を這い上がる。 「このままがいいのかい」 男の意地悪な問いに、僚は拗ねたように身じろいだ。上擦った声で欲しいと訴え、睫毛を震わせた。 「どこに欲しいのか、言ってくれないとわからないよ」 そう言って笑い、笑いながら僚のそれに触れていた手を奥に伸ばし、奥に伸ばした手で、硬く張り詰めた睾丸を包み込んだ。 「んん――っ!」 一際鋭い声を上げ、僚はびくんと肩を跳ねさせた。 「さあ……言ってごらん」 どこに欲しい 輪郭をなぞるように撫で、そっとさする。 その刺激がよほどたまらないのか、僚は劣情を誘うなまめかしい声を上げてわなないた。 「はっ…ん……触って…指で……お、ねが……」 「……どこを?」 手を止めず聞き返す。 「もっとお…く……奥を……触って――」 今にも消え入りそうな声で喉を震わせ、羞恥に耐えながら僚は訴えた。 お願い 両手を拘束された不自由な身体であがき腰を浮かせると、熱に浮かされたように呟き誘う。 「奥に欲しいのかい?」 胸に這わせる指の腹で乳首を転がし、潰しては摘み、神取はくすくすと嘲り笑いをもらした。 笑われる恥ずかしさに僚は身を竦めたが、打ち消し更に膨れ上がる悦楽に飲まれ、わけがわからなくなって、ただこくこくと頷いた。 「どんな風に触って欲しい?」 睾丸の硬さを確かめていた手で奥の後孔にそっと触れ、突付くように刺激する。 「んっ…んん……」 より恥ずかしい言葉を引き出そうと誘う男に、羞恥で眩む目を閉じ僚は唇をわななかせた。 「頭がおかしく…なる、くらい……さわって……」 焦らさないで―― 喘ぎ混じりのため息をもらし、震える唇でそう綴る。 「……おかしくなるくらい、触ってあげるよ」 ――君のいやらしいここを 卑猥な言葉をぶつけながら根元まで埋め込み、小刻みに指を揺する。 「んんっ……あ――!」 後孔が広げられる感触に、僚は我を忘れて身悶えた。 「あっ……あ…いい……すごく……」 熱に蕩けた表情で繰り返し、下腹に力を込める。 何度も締め付け、噛み付いてくる僚のそこを二本に増やした指で弄りながら、神取は散々指で刺激した乳首をそっと口内に含んだ。唇と歯とで甘噛みを与え、舌先で突付き転がす。 声もなく背を反らせ、僚はびくびくと全身をわななかせた。 あまりにも強すぎる快感に、頭の中が真っ白になる。 遠退く意識が、高く持ち上げられた足と窮屈な姿勢のせいで強引に引き戻される。 はっと目を開くと同時に、怒漲した男のものが後孔に押し当てられる。 「力を抜いて」 そう告げる男に、僚はただ唇を震わせるしか出来なかった。 直後、ひっそりと息づくそこを押し広げて、硬く屹立したものが埋め込まれる。 「っ……!」 束の間あけて僚は、強い圧迫を受ける身体からかすれた悲鳴を迸らせた。 鋭く鼓膜を犯す響きに、男は頭の芯がかっと熱くなるのを感じた。声だけで達してしまいそうになる自身を辛うじて制し、目を閉じて俯く。御しきれない自分自身を叱咤し、けれど彼となら流れるままに任せてもいいと息を乱し、躊躇する腰を内奥へと進める。 やがて男は根元まで飲み込ませると、ねっとりと湿った内壁の感触にいくつもため息をもらしながら、ゆっくりとした抽送を始めた。 組み敷かれた僚もまた、目も眩む激しい快楽に囚われ、繋がれた両手の革枷を軋ませながら熱い喘ぎをもらした。 「ん……んぅ……」 深く浅く行き来する男のものが前立腺をかすめる度、一際高い声を上げて応え、しなやかに身悶える 「はっ…ん……も…いく……いっ……ああぁ――」 妖しく身体をくねらせながら途切れ途切れに言い放ち、喉を鳴らす。 僚のそれは今にもはちきれんばかりに硬く反り返り、しかし細く長い異物によって遮られているせいで射精は叶わず、苛立ちを訴えるかのようにひくひくとわななきを繰り返していた。 「取って……おねがい…だから……」 そう懇願し、劣情に潤んだ瞳で男を見つめる。 まるで誘っているようにも見える眼差しに、堪えきれず神取は唇を寄せた。 「んっ……や、だ……」 口唇から流し込まれる快感を恐れて僚は首を打ち振り逃れようとするが、そうはさせまいと男に頬を包み込まれ、より深く貪られる。 赦して―― 寸前にもらした言葉をも飲み込まれ、僚はきつく目を閉じた。その拍子に、眦にたまった涙が頬を伝い流れる。 口付けたまま、神取は強い突き上げを幾度も繰り返した。彼の中はとろけるように熱く、きゅうきゅうと絶妙な力で締め付けてきた。 「んぅっ…ふ…うっ……」 男のものが最奥に達する度僚はくぐもった悲鳴に喉を震わせ、辛そうに眉根を寄せた。 鈍い痛みの合間を縫って身体中にもたらされる悦楽に、わけがわからなくなる。 長いキスからようやく解放された時、それからもれるのは声にならない声ばかりで、それは喘ぎとため息の入り混じった、なまめかしい音によく似ていた。 「ん、うっ……たか…ひさ……ぁ……」 辛うじて男の名を綴り、それだけを繰り返して僚は熱い吐息をもらした。 呼ばれて男はふっと笑みを浮かべ、しなやかに伸ばされた腕を撫でると、ごく浅い箇所での抜き差しを繰り返した。 「う…ぁ、もう……おかしく……な……」 ほろりほろりと涙を零し、僚は熱い吐息をもらした。 「反省出来たかい」 ゆっくりと奥を捏ねる動きに変え、男は囁く。途端に僚はくっと顔をしかめた。 「もう、しないから……ごめん」 心底悔いている声音に心が痛み、心が疼いた。 優しく慰めたい気持ちと、彼の涙をもっと飲みたい欲求とがせめぎ合う。 神取は束の間迷い、頭をそっと撫でた。 「……本当に?」 まっすぐ向かってくる目を見つめ返し僚は何度も頷いた。 「なら……私が満足するまで、我慢出来るね」 ひときわ強く突き込まれ、僚は低く呻いた。まだ解放されない自身を哀れみ、悲しみ、あとどれだけ苦しいのを我慢すれば許されるのかと嘆く。そんな感情の奥底で、密かに期待していた自分がそっと喜ぶ。こうなる事を待ち望んでいた自分に目を眩ます。 「ゆるして……」 言葉は嘘ではない。けれど、嗚呼…もっと深く溺れたいのだ。男と二人で、二人だけにしかできない事をして、更なる高みを目指したい。 「たかひさ……」 「……私が満足したらね」 言葉と同時に最奥を嫌というほど抉る。唇から迸る嬌声に併せて内襞がきゅうきゅうと痙攣し、男を悦ばせた。 「だめっ…あぁ、おく、だめぇ――!」 男の思うまま揺さぶられ、僚は半狂乱で泣き喚いた。頭の中には後悔しかなかった。やっぱりつらい。こんなの嫌だ。 「おく、いや、ぁ……」 「君の一番好きなところだろう?」 「も…やだ……ああぁ!」 泣きじゃくる様に更に挑発され、神取は執拗に奥を捏ねくった。 嫌だ、苦しいと咳き込むように悲鳴を上げ、僚は不自由な身体をのたうたせた。 絞るような締め付けに昂りは止まらず、神取は何度も何度も、何度も腰を打ち込んだ。 どうして、と訴えてくる悩ましい眼差しに溺れてしまいそうになる。本当はもっと冷静でなくてはいけないのに、彼の反応すべてに心が持っていかれ、もしここで彼が『助けて』と口にしたとしても、聞き入れられるか自信がない。 忙しなく息をついている唇に引き寄せられる。 触れると、一瞬僚ははっとしたように身体を弾ませたが、振り払う事はせず舌を絡めた。 うっとりとした表情で接吻に耽る様に心が満たされる。 ゆっくり離れると、やや置いて小さく声がもれた。 「……好き」 「私も…好きだよ」 涙で濡れた頬に何度も口付け、抱きしめて愛してると繰り返す。 苦しげにしながらも頬をすり寄せられ、一気に弾けた。 「く、うっ……」 内奥に熱い迸りを受け、僚は四肢を震わせた。涙でぼやけて、物が上手く見えない。それでも気配は分かる。男が、自分の上で嬉しそうにしているのは分かる。それだけで、つらいものは全て消え失せた。 「たかひさ…す、き……」 喘ぎながらなんとか告げる。男のあたたかい手のひらが頬に触れてきた。唇を寄せて吸う。 萎えたものがゆっくり退いていく。僚はぶるりと身を震わせた。やや置いて、後孔からたらりと白いものが溢れ出る。少しぞっとする感触にまた震えが走る。 ぼんやりと天井を見上げていると、声がした。 「最後まで我慢出来たね、僚はいい子だね」 想いのこもった響きにうっとりと目を細める。 「じっとして」 頬から手が退く。ひんやりと感じる肌に寂しさを募らせていると、下腹に痺れるような疼きが走った。 「あぁっ!」 たまらずに腰を揺する。すぐさま鋭い声がして、僚は堪えた。自身の奔流をせき止めていた異物がゆっくりと取り除かれる。むず痒さに声が止められない。何とか身を強張らせ耐える。 やがて細い管を一杯に満たしていたものがなくなり、男の声と共に僚は力を抜いた。 いつの間にか拘束は解かれて、手足の枷も、首輪も、全て外されていた。 気付いたのは、男の手に誘導され首にしがみ付いた時だ。ようやくこの手で男を抱きしめられると、僚は大きなため息とともに力を込めた。 男の手が、肩や腕をいたわるようにさする。不自由な姿勢を強いられてせき止められていた血流が、みるみる戻ってくる。じんわりと身体が熱くなり、僚は半ば無意識に笑みを浮かべた。 「さあ……今度は君の番だ」 我慢出来たご褒美だよ。 言葉と同時に優しく包み込まれ、思わず腰が跳ねる。 「だめっ!」 軽く擦られただけで一気に込み上げ、そして弾けた。ようやく許された開放に鈍い痛みを感じながら白液を噴き出す。あっという間の出来事に頭がついていかず、喘ぎながら何度も目を瞬かせる。腹に飛び散った己のものを、僚は首を曲げて見やった。 「……まだ、もっとだ」 神取は触れていたそれからそっと手を離すと、より奥に伸ばした。自分が先刻放ったものが残っているのを確かめるように、揃えた二本の指をゆっくり埋め込む。 「まって、すぐは……!」 制止の声に微笑で応え、神取はくすぐるように指を折り曲げた。 「あ…あっ!」 迸る高い悲鳴に神取は笑みを深めた。彼の良いところに行き当たったのだ。ちらと見やると、白い涎を垂らした彼のそれが、一気に勃ち上がる。 「やだ、そこ!」 「こんなに感じているのに?」 「あぁ……あ!」 いやいやと首を振るが、もれる声は艶やかで甘い。 反応に満足し、神取はいやらしい音を立てながらかき回した。 「やだ、ああぁ……」 「もっと良くしてあげるよ」 何をしようというのか事前に察し、僚は肩を掴んで押しやろうと抵抗した。 しかし男はいともたやすく振り払い、硬くしこった乳首をそっと口に含んだ。 「んぅっ!」 軽く歯を当てると、可愛らしい声が上がった。恥ずかしさからか、感じているのか、頬が赤く染まっているのが目の端に映る。 彼の反応はひとつ残らず愛くるしく、己を昂らせる。 神取は内部の一点を擦りながら乳首を責めた。 「だめ、いく……!」 男の肩を掴み、僚は何度も身悶えた。 「手はこっちだ」 「や……あ!」 下腹に導かれ、触れた己の熱さに顔をしかめる。首を振って拒むが、強引に握らされ…自分から握り込み、男に追いつめられながら自慰に耽る。 「やだ、も…いく……たかひさ!」 「見ていてあげるから、思う存分出しなさい」 「いや、だ……」 「いやじゃない…ほら、ここは好き?」 「あぁう!」 より強く内襞を抉られ、僚は激しく頷いた。 いい子だと肌の上で囁き、神取は硬い歯に挟んだ乳首を舌先でつついた。 「――!」 喉の奥で低く呻き、僚は激しい痙攣と共に熱いものを飛び散らせた。満足しきるまで繰り返し手を動かし、やがて疲れたようにシーツに投げ出した。 深い呼吸を繰り返し、脱力しきって横たわる姿に男は喉を鳴らした。 乱れに乱れた姿にひどく興奮していた。 うろたえる顔がどうしても見たくなり、自身のものを支えて彼に迫る。 足を持ち上げられ、はっとなる僚と目を見合わせ、神取はややせっかちに腰を進めた。 うう、とかすかな呻きをもらし、僚は眉根を寄せた。 休まず根元まで押し込み、一度強く突き上げる。 「あぅっ!」 濡れた声で鳴き、僚は非難めいた眼差しで男を見上げた。曖昧に手を上げ、身体を押しやろうとする。 神取はその手を自分の首に絡めさせ、しっかり背を抱いて起こした。 「あ、やっ……おく、が」 重みでより深くまで入り込んでくる熱塊におののいた声を上げ、びくりと背を強張らせる。 「つらい?」 胸を喘がせながら僚は頷いた。 「もうやめたい?」 抱き付いたまま、唸り声と共に首を振る。休みなく抱かれ、疲れ切った身体を強引に引き上げられるのはつらさばかりではない。頭が真っ白に眩み、ただひたすら男の事だけ追い続けて喘いで、一つに混ざりあう錯覚に包まれる。何よりも勝る幸福感に包まれる。 「だからもっとして……もっと」 俺の事欲しがって 熱いよがり声をしとどにもらし身悶えながら、僚は必死に訴えた。 一番奥まで男を飲み込んで、嬉しさに自身のそれが芯を持ち痛いほど反り返る。 狭い場所を一杯に満たし、力強く抉ってくる男の想いに声が止まらない。 お互い動く度に繋がった箇所からいやらしい音が聞こえてくる。その、耳を塞ぎたくなるような淫靡な響きにさえ感じてしまい、僚は涎を垂らさんばかりによがり、乱れ狂った。 深く入り込んでくるものに、身体中を這う手に、頭の芯がじんじんと痺れてたまらない。 男のものに力強く貫かれる快楽に加え、執拗に弄られる乳首からも押し寄せてくる快楽が腰の奥で衝突する。 もうだめだ。 我慢しきれない、身体がおかしくなるほど感じてしまう。 「や、だめ…いく…いく……あ、あああ! だめぇ!」 男の突き込みに合わせて何度も喉を鳴らし、僚はびくびくと仰け反った。 自分の上で激しく踊り狂い、左耳のピアスをちかちかと煌かせて喘ぐ様に神取もこの上ないほど昂る。より強く腰を使って責め立て、開放に向けて動く。 「や、あ、あ……はげし、い…も、いく……!」 腹の底からぐうっとせり上がってくる熱い塊に僚は目を瞑り、自らがくがくと腰を揺すった。 瞬間、あまりに強烈で思わず腰が逃げる。 神取は許さず、回した腕でしっかりと抑え込み、彼の最奥に白濁を飛び散らせた。 「んんぅ!」 脳天が痺れるほどの衝撃に僚は身を突っ張らせ、自身の先端から繰り返し噴出させた。 しばらく強張ったままぶるぶると絶頂を味わい、やがて僚は全身で男にもたれかかった。 しっかりと抱きとめ、神取は頭を撫ででやった。 「ああ…たかひさ、好き…すき……」 「私も……愛してるよ」 耳に流し込まれる熱い囁きにうっとりと微笑み、僚は目の前の男を飽きることなく貪った。 |