Dominance&Submission

J&J

 

 

 

 

 

 口では大丈夫と強気に笑い、自力でバスルームに向かった僚だが、出る頃には力尽きてしまい、悔しさを滲ませながら男の手に頼ってベッドに戻った。
 神取は抱き上げた身体をそっとベッドに寝かせると、散々泣いた顔が後に引かぬよう、用意した冷たい濡れタオルを目元に被せた。
 傍の椅子に腰かける。

「具合はどうだい」
「最悪だよ……この――」

 かすれた声がもれる。少し間を空けてぼそりともれたのは馴染のひと言。

「そうだね。でも、違うよ」

 いつものやり取り。いつもなら、知ってると返ってくるところだが、今日はよっぽど堪えたのか、僚はむすっと唇を尖らせた。

「違わないよ。変態」

 不機嫌さに満ちた声だが、どこか甘い。嗚呼、拗ねた態度さえなんと愛しい。見えないのを良い事に神取はだらしなく頬を緩めた。

「でもまあ、そう悪くはなかったろう?」
「!…うるさい、変態」

 僚はうろたえた様子で言い返した。見透かされている事が腹立たしいのと、恥ずかしいのとで、頭の中がくしゃくしゃに乱れた。
 何もかもわかっているなんて、本当に憎たらしい奴だ。
 でも、自分はそこが好きなのだ。

「……ぬるい」

 ごまかす為に、ぶっきらぼうな声で濡れタオルが人肌に馴染んでしまったと文句を言う。

「はい、すぐに」

 神取はすぐさま裏返し、また同じように目を覆ってやった。
 不貞腐れた口元が、ほっと緩むのが見えた。

「冷たいレモネードもあるよ」

 僚はうんともすんとも言わなかった。構わずストローを口元に持っていく。すると当然とばかりに口を開け、中々の勢いで吸い上げていった。あっという間にグラスが空になる。
 神取は肩を揺すった。もう少しで、危うく声が出てしまうところだった。

「はあ、美味い」

 大きなため息とともに僚は言った。
 嬉しかったが、笑い声を堪えるのに苦労する。

「それは良かった」
「何笑ってんだよ」

 しかし彼にはお見通しのようだ。

「どんな顔してるか、ちゃんとわかってるんだからな」

 それは失礼したと神取は詫びた。
 憎々しげに歪んていた唇が、すぐに笑いの形に移る。

「俺だって、ちゃんと鷹久の事見てんだから」

 穏やかで優しい唇の形に、男はうっとりと見惚れた。

 

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