Dominance&Submission

幕間

 

 

 

 

 

 五ヶ所の首に赤い枷を巻いた少年が、ベッドにもたれ座る男の前にひれ伏し奉仕を始める。
 少年のしなやかな指が己のものに巻き付くのを目にしただけで息が弾む。彼は先端に幾度か接吻すると、ためらいもせず喉奥まで飲み込み、いやらしい音を立てて吸い始めた。
 神取はわずかに喉を鳴らした。

「いいよ……たまらない」

 頭上から降るため息交じりの声に僚はうっとりと目を細めた。むせてしまいそうになるのを上手く逃し、独特の張りと熱を帯びた男のそれを唇で扱く。先端から滲むものをすぼめた口で吸い取ると、応えるように手の中の熱塊がびくんと震えた。頭上の息遣いも少し変化する。
 嬉しさに身体がたまらなく熱くなった。
 顔がよく見えるようにとしてか、男の手が前髪を柔らかくすく。
 それすらも快感だった。
 口中でびくびくとわななくものも、手も、息遣いも。目の端に映る赤い手枷や、首の後ろに感じる硬い革の感触、全てが自分を昂らせる。
 不意に息苦しさを感じ、僚は口を離した。すぐに再開しようとした時、男の手が肩にかかり、起きるよう動いた。
「おいで」
 男は自身のものを手で支え、その上にくるよう誘導した。
 僚は小刻みに震えを放ち、ぎくしゃくと身体を動かして言われた通り男にまたがった。
 男の視線が下方に向かう。何を見ているのかすぐに察し、僚は気まずい時するように唇を引き結んだ。
 男はただ見つめるだけで何も言わない。それがかえって羞恥を煽った。
 眼差しが語る。
 触れてもいないのに興奮して、いやらしい身体、と。
 身の竦む恥ずかしさを味わうが、男にすべてを晒している自分はたまらなく心地良かった。一切隠せず、何もかも見られてしまっている状況にこの上なく酔い痴れる。

「腰を下ろして」

 一つ頷き、僚はゆっくり沈んだ。濡れた先端が後孔に触れる。あ、と熱い声をもらし、眉根を寄せる。

「きつい?」
「ちが……」
「だろうね。とてもいやらしい顔をしている」

 抗議を込めて見つめるも、そういう男もまたあの微笑を浮かべていた。自分の身体でそうなった、自分がそうしたのだと思うとぞくぞくするほどの喜悦に包まれる。

「さあ……私を満足させて」

 僚はがくがくと頷き、屹立する男のそれを自身の内に飲み込んでいった。先ほど一度繋がったが、受け入れる瞬間はいつでも背筋がたまらなく疼く。奥まで拡げられる感触に声が抑えられない。

「あぁ……あ――!」

 泣きそうに顔を歪めて喘ぎ、男の上にぺったりと尻をつく。

「たかひさの……いっぱい」

 とろんと目を潤ませ、半ば無意識に呟く少年の頬を両手に包み、神取は顔を寄せた。
 僚は首にしがみつくようにして抱き返し、体内に入ってきた二つ目の熱を貪った。
 互いの熱い吐息と舌が絡み合う。
 男は顔を離し、じっくりと眺めた。眦は朱に染まり、今にも零れそうなほど涙を溜めていた。小さくほどけた唇は忙しなく息を継ぎ、しっとりと濡れている。
 ひどく、淫らに。

「僚……」

 呼びかけると、彼は瞬きで応えた。その拍子に涙が零れる。先に拭ってやり、言葉を続ける。

「動いて、私を満足させて。できるかい」
「……できる」

 言葉と同時に僚は男の肩を支えに掴み、立膝になった。

「いい子だ。もう一つ……こちらを満足させるより先に君がいったら、お仕置きだよ」

 男の視線がすっと横にずれる。僚も反射的にそちらを見やった。サイドボードに置かれたグラスとその中の赤い蝋燭が映る。やけに大きく見えた。
 わずかに顔付きを険しくする。
 男は口端を緩め、言った。

「さあ、始めて」

 一度突き上げる。

「あっ……!」

 たった一度で腰が砕けそうになるのを堪え、僚は再び男の首に腕を巻き付けた。男を悦ばせる術は知っている。どうすれば感じるか、どこが好きか、動き方も、少なからず自信がある。けれどこんな条件を出すからには一筋縄ではいかないのだろう。
 不安を抑えて口付ける。
 先刻よりも更に口中を舐り、輪郭をなぞるようにして男の舌を吸う。そうしながら、ゆっくりと腰をうねらせる。
 意識して後方を締め付け、弾むように何度も腰を上下させる。

「あ、あぁ…あっ……はぅ!」

 びりびりと背骨が痺れて、たまらずに僚は喘ぎを零した。自分の発する高い声が恥ずかしくて堪えるが、男のものが奥に達するとどうしても我慢できず鳴いてしまう。

「やっぱり君の中はいいね……」

 当然だと込み上げてくる気持ちのまま頬を緩めた直後、眼差しが強張る。
 お返しをしないと、と、男の指が胸の一点をそっと摘まんだのだ。

「んっ!」

 びくんと肩を弾ませ、僚は動きを止めた。やっぱり、と歯噛みする。嫌だと小さく首を振り、手から逃れようともがく。
 しかし繋がったままではどこへも逃げられない。少し身をよじったくらいでは男の手は離れず、かえって笑われるだけだった。

「やぁ、だ……」

 無理は承知で訴える、
 案の定男は優しく笑み、僚は泣きそうになった。 

「ほら、動きなさい。私を満足させて」

 弄られて硬く起ち上がった一点を優しくひねりながら、神取は腰を突き上げた。
 少年は一層泣き顔になり、胸から受ける刺激にびくびくと震えを放った。呼応して内部も収縮を繰り返す。強く弱く締め付けてくる内襞の感触は思った以上に心地良く、神取は尚も乳首を責めた。
 ついに僚の手が男の手首を掴む。

「や、だ…も…これ……だめ」
「だめ? こうされるのは嫌いかい?」

 違う、少し焦れた声が言い返す。
 彼の言いたい事はわかっている。隅々まで全部、知り尽くしている。
 だからこそ意地悪をする。
 彼とこうしている時が、一番楽しい。感じやすい身体に少し意地悪をして、たっぷりと可愛がって、共に高みを目指す。

「ほら、動いて」

 私をいかせて。
 耳元のごく小さな囁きに僚はひっと喉を引き攣らせた。自分の方こそいってしまいそうになる。それほど威力のある男の甘い低音に魅了され、僚は目を潤ませた。
 最初は遠慮がちに、すぐに積極的に僚は腰を上下させた。

「あ……た、たかひさ……」

 頬から眦から朱に染めて、うっとりと浸った顔になり、自分の上で喘いでいる少年を、男は同じくらいうっとりと見つめた。
 指先に込める力をほんの少し変えるだけで、零れる声も変化する。焦れたような、甘えるような、熱い吐息。もっと見たくて、男は執拗に胸を嬲った。

「あ、あっ…きもちい……」
「どこがいい?」
「た、たかひさの…ゆび」

 僚は何度も腰を弾ませながら俯いた。男の指が、敏感なところをいやらしく弄っている。実際に目にするとより快感が強まり、頭がおかしくなってしまいそうだった。

「こっちは?」
「あぅ! だ、だめ…ついちゃだめ……」
「君の好きなところだろう?」
「あっ……ああぁ」

 僚は何度も喉を震わせた。涎を垂らすほど陶酔しきって男の上で踊る。男のものが奥まで届いて脳天を痺れさせる。浅い箇所を抉って腰を熱くさせる。小さな突起からもたらされるとろけるような快感と相まって、もう、何もわからなくなる。
 男が胸に顔を寄せた。何をする気か瞬時に悟る。

「だめ…それ、やだぁ」

 そんな事を言いながら、自ら胸を張る。
 直後、硬い歯が驚くほど優しく乳首を噛んだ。そのままこりこりと転がされ、僚は何度も声を迸らせた。

「だ、め……もぉ……あぁ!」

 男の頭にしがみつき、腰をうねらせる。

「いきたい?」

 神取は吐息で聞いた。すぐさま僚はがくがくと首を振り、いかせて、とより強くしがみついてきた。最初の約束はすっかり薄れてしまっているようだ。自分がそう仕向けた。彼は思った以上に応え、我慢の利かない若い身体を見せてくれた。
 嗚呼、しようもなく愛しい。
 乳首を口に含んだまましっかり腰を抱え、何度も突き上げる。

「あ、あ、あぁっ…おく、おくも、ぜんぶ…あっ…きもちい……」

 高い声で何度もよがり、僚は身をくねらせた。
 そんな声を聞かされてはたまらない。昂る気持ちのまま、男は膝に乗せた身体を奥まであまさず貪った。
 耳元で僚が低く唸る。もう目前なのだろう。男は指先に摘まんだ乳首をやや強めに扱いた。

「んん――あ、あぁ……!」

 びくびくとおこりのように身体をわななかせ、僚は白液を噴き上げた。同時に男の肩にぎゅっとしがみつく。

「っ……ふ」

 内部が複雑に蠢き、絞り上げられる感触に男は喘いだ。腰がたまらなく熱くなる。
 僚は深いため息を繰り返し、男の肩に頭を乗せた。
 直後、はっと思い出す。
 身体の硬直で察した男は、身を繋げたままそっと仰向けに寝かせた。そして彼が何か言葉を発するより先に口を塞ぎ、舌を絡めながら突き込む。彼の痴態に散々触発され、もう目前まで迫っている。
 本当はもっと、たっぷり飽きるまで彼を感じたいが、お楽しみはもう一つある。とっておこう。

「!…」

 奥に熱いものを吐き出すと、僚はまたぶるぶると身体を震わせた。

「あぁ……」

 萎えたものが抜かれ、少しして奥から熱いものが垂れてくる。ぞっとする感触。
 僚は、身体を起こした男を見つめ続けた。何度も口を開いては、何も言えず口を噤む。
 怯えと、その奥に見える期待に男はふっと頬を緩めた。

「約束を守らなかったら、私はどうすると言った?」
「お、お仕置き…する……」

 喘ぎ喘ぎ僚は答えた。
 潤んだ瞳を見つめ、男は笑みを深めた。

 

 

 

 床に伏して腰を上げた姿勢になり、僚は浅い呼吸を繰り返していた。背中を無防備に晒す格好が恥ずかしいのはもちろんの事、顔をぺったり床につけているのはいささか窮屈で、苦しいせいもあった。
 何より呼吸を乱す原因は、これから男にされる事。それが、怯えて引き攣れた息遣いの理由だった。
 せめて手をついて起き上がりたいが、左右の手枷が繋がれ、更に首輪のリングに留められてしまっている為、今の格好でいるしかなかった。
 少しでも楽な姿勢を取ろうと身じろいでいると、鼻先に赤い蝋燭が寄せられた。
 とうとう訪れた時間に僚は眼差しをきつくした。恐怖はなくなった。いや、正確には残っている。首筋がぞくりと冷たくなる感触…怖さはきっと、ずっと消える事はないだろう。けれど、恐怖だけが胸中を支配する事はもうない。痛みと熱さがやけに生々しく肌に蘇っても、男がしてくれるというだけで、不思議と和らいだ。全く別の感覚にすり替わる。
 別のもっと淫らで深い感触が、じわじわと身体の底から込み上げてくる。

「それとも、他のにするかい?」

 いっぱいに首を曲げて見やり、首を振る。
 目にした時から無意識に息を詰めていたせいで苦しくなり、慌ててしゃくり上げる。
 その様子に神取は薄く笑った。呼吸もままならないほど怖いのに委ねてくるなんて…たまらなく興奮する。これでもかと嗜虐心がかきむしられる。
 せいぜい自分は、彼の信頼に応えよう。
 立ち上がって一歩後退し、火のついた蝋燭を目の高さにかざす。

「……いくよ」

 微かな吐息が、鷹久、と綴った。熱い囁きに自然と頬が緩んだ。ゆっくりと蝋燭を傾ける。
 直後、彼の口から呻きがもれた。
 たらたらと落ちた滴が、少年の背中で朱の花を咲かせる。
 一つ増える度僚はびくびくと痙攣にも似た震えを放ち、喉の奥で押し殺した叫びを上げた。
 続け様に手を動かした後、神取はそっと蝋燭を立てた。眼下で、少年が啜り泣き身悶えている。なんてたまらない光景だろう。
 引き攣れた呼吸がほんの少し落ち着いたところを狙って、また傾ける。

「う、ぐっ……あぅっ!」

 僚は少しでも声を抑えようと試みるが、堪えても、手で塞いでも、赤い滴を背に受ける度反射的に声が飛び出してしまう。無様に身体が震え、足が動いてしまう。
 刺すような、抉るような…なんと表現してよいやらわからない。それほどの熱と痛みに、ついに涙が溢れた。

「やっ……ああぁ!」

 左右の足をばたつかせ、込み上げた涙を頬に零す。すぐさま拭うが、お仕置きが終わらぬ限り涙が止まる事もないだろう。
 痛さ、惨めさが心にのしかかり、涙が止まらない。
 そしてそんな自分に異様なほどの興奮が込み上げて、痛さ惨めさを妖しく揺さぶり、ますます涙が溢れるのだ。
 神取は跪くと、泣きじゃくる少年の頭をそっと撫でた。

「っ……」

 遅れて気付き、僚は慌てて頬を拭った。
 不安げにちらちらと見上げてくる彼にそっと笑いかけ、神取はゆっくりと頭を撫で続けた。

「まだ、我慢できるかい?」

 それとも降参するか。

「……できる。たかひさのなら…なん、でも」

 喘ぎ喘ぎ僚は答えた。
 少年の健気さに男は目を細めた。背中一面に朱の花を咲かせ、妖しく身悶えている。噴き出した汗とローションで肌はつややかに濡れ、何とも艶めかしい。軽く喉を鳴らし、今度は腰から尻に蝋を垂らす。
 僚は歯を食いしばって呻いた。

「ぐうぅ!」
「……どうして、お仕置きを受けているの?」

 びくびくと不規則に痙攣する身体をうっとり見下ろし、男は訊いた。
 僚は男の手に意識を集中させた。もう二度と傾かないでほしいと願いを込めて見つめ、口を開く。

「や……やくそく、守れなかった、から」
「どんな約束?」
「た、たかひさ、を……まんぞくさせる…こと」
「そう、よく言えたね、いい子だ。ご褒美を上げよう」

 にっこりと目を細めて男は立ち上がり、背後に回った。
 一瞬の間を置いて僚は理解し、大きく目を見開いた。
 まさかと思った途端また背に痛みが走り、全身がびくんと硬直する。ほぼ同時に男の張り切ったものを後部にあてがわれ、半狂乱で首を振る。

「今…やだ! だめ、今は駄目!」
「駄目じゃない、ほら……僚」

 神取は聞き入れず、先端をぐっと押し付けた。

「だめぇ……あああぁっ!」

 じわじわと時間をかけて拡げられる。背筋を駆け抜けるおぞましさに僚はびくびくと身体をわななかせた。

「今は、あっ…いれないで――!」
「ああ……きついね」

 耳元で男がため息交じりに囁く。
 前に這って逃れようとする身体を押さえ付け、ゆっくり腰を進める。

「だめぇ……!」

 涙交じりの声を聞きながら根元まで埋め込む。最後にひと押しすると、少し苦しげな呻きとともに僚は首を反らせた。

「ああぁ……」

 かすれた喘ぎをもらし、ゆっくり深くうなだれる。すぐにまた強張る。
 男が、ゆっくりと抜き差しを始めたのだ。それに合わせて微かにいやらしい音が聞こえてくる。耳を塞ぐか、せめて顔を隠したかったが、繋がれた両手ではどちらも叶わない。
 恥ずかしさに身を竦め耐えるが、ゆっくり深くまで入り込んでくる男の熱塊に段々と薄れ、快感に囚われてゆく。
 堪えるようだった息遣いが、素直に悦びを吐き出すそれへと変わる。変化を聞き取り、神取は薄く笑みを浮かべた。

「気持ちいいかい?」
「うん……いい…たかひさの…すき……」

 僚はふわふわとした動きで頷いた。

「よかった……でもまだ、お仕置きは終わっていないよ」

 聞き返す動きで僚は頭を傾けた。同時に男が蝋を垂らす。

「ああぁっ!」

 背中を横切る形で手を動かし、そうしながら腰を突き込む。
 朱の花が咲く度、反射的に僚の身体がびくつく。それは内部まで響き、男のものを絶妙な強さで絞り上げた。感触を楽しみながら何度も打ち付ける。

「あぁ! あああ、やめ、て……や――もうだめ!」
「中が、奥まで震えて…気持ちいいよ僚」

 お願い、許して。繰り返される哀願に酔い痴れながら激しく腰を打ち付け、何度も苦鳴を上げさせる。浅い箇所を散々に擦り不意に深くまで押し込んで動きを止め、そのまま更に腰を押し上げる。ゆっくりと捏ねると、少し高い、間延びした喘ぎが口から零れた。その間は蝋を垂らさず、快楽だけを与える。たっぷりと鳴かせ、また背中や腰に朱の花を散らす。
 僚はしとどに悲鳴を上げた。背に受ける痛みと、背後から休みなく送り込まれる快感とで頭がおかしくなりそうだった。
 身悶え、仰け反り、僚は何とかして逃れようとのたうった。
 零れた涙で頬はすっかり濡れ、時々思い出しては拭うのだが、やがてそれも忘れてしまう。
 わからなくなってしまうほど、苦痛と快感が交互にやってきて僚を泣かせ、喘がせた。

「もっ…もう、ゆるして……」
「いい声だね……感じているのかい?」
「ちがっ……あぁ、たかひさ……!」

 僚はすぐさま否定するが、口から出たのはやけに甘ったるい声だった。途端にたまらなく恥ずかしくなり、滅茶苦茶に首を振った。

「!…」

 突如男の手が髪を掴む。そのまま床に押さえ付けられ、僚は半ば混乱気味に喉を引き攣らせた。
 意図がわからず押さえ付けられ、動きを封じられ、怯えが込み上げる。しかしそれがまた気持ちいい。
 男は決して乱暴に扱わない。力強く抱き寄せる事はあっても、荒々しく突き飛ばすなんて事はしない。いつだって丁寧なのだ。こんなに切羽詰まった時でさえ。ちゃんと心を感じる事が出来るのだ。だから自分は、瞬間的には怖いと思っても、本当には怖さを感じないのだ。
 訳もなく男は動かない。だから、理由があるのだ。
 僚は恐る恐る力を抜いた。全部は無理だが、男の指示する姿勢でいる事を選んだ。
 男はそっと手を離すと、乱れた髪を丁寧にすいた。

「無理に動くと身体を痛める。じっとしていなさい」

 伸ばす事の出来ない肘や、肩を、手が優しく撫でる。
 やっぱり理由があったのだと、僚は半ば無意識に笑みを浮かべた。
 しかしそれも、男の手が下部に向かうまでだった。
 わき腹から腹部にかけて手が滑る。僚は目を見張った。その先の行動を悟り、必死に声を上げる。男が何を確かめようとしているのか察し、懸命に引き止める。 

「だめ……だめ!」
「じっとして」

 男の笑う息遣いを聞き取り、僚は思い切り顔を歪めた。
 大きな手がついに自身のそれにたどり着く。

「やぁ…触るな、だめ……!」
 せめてもの抵抗に小さく腰を揺する。
 男は楽しむように手にしたそれを軽く扱いた。
 いつからそうなっていたのか、僚のそこは硬く反り返り、先端から涎を垂らしていた。

「もう今にもいきそうだね」
「だ、め……」

 禁じる言葉を吐きながら、僚は手の動きに合わせて素直に腰を振った。

「熱くて苦しいのに……そんなにいい?」

 男は手にしたものをゆるゆると扱きながら、腰を使って奥の方を捏ね回した。違うという言葉は半ばで崩れ、代わりに熱い声がもれた。

「あうぅ!」

 もっと聞きたいと、男は同じ動きを繰り返した。
 目もくらむ快感に僚は鼻にかかった声をもらしよがった。

「ああっ、おく、だめ……やめて…やっ…やだ――ああぁ!」

 嫌だと喘ぎながら、僚は自ら腰を押し付けてくる動きを見せた。
 たまらないほどの興奮に見舞われる。神取はすぐさま蝋燭を吹き消し傍のグラスに放り込むと、両手で腰を掴み彼の一番好きなところを狙って責めた。一回ずつ深くまで突き入れ、さらに腰を使って大きく抉っていると、僚はびくびくと身体をのたうたせ低く呻いた。

「い、いく……もう…もう――あああぁ! あぁ!」

 内襞がざわざわと複雑に蠢き、絡み付くように男のものを締め付けた。誘われるまま男も高みを目指す。
 鷹久…縋る響きで僚は呻き、白液を放った。
 ほぼ同時に男も彼の中に熱いものを送り込む。

「ああぁ……」

 切れ切れにため息をもらし、僚は深くうなだれた。
 神取はそっと身を離すと、今にも倒れそうな身体を腕に支えて抱き起した。
 僚は声を殺してすすり泣いていた。泣き顔を見られまいと首を曲げ、みじろぐ少年に微笑みかける。

「泣くほどよかったかい」

 拘束された彼の両手を一つひとつ開放し、関節に響かぬようまっすぐ伸ばす。
 僚はそっぽを向いたまま小声で呟いた。

「いっちゃった……」

 ごめんなさい…熱くて苦しいのに、気持ち良かった。
 素直に告げ、何度も肩で息をつく。

「どうしようもなくいやらしいね、君は」
「ごめんなさ……」
「そこが、たまらなく好きだよ」

 彼の手を取りさすると、自分の肩に回させ男は抱きしめた。僚も抱き返す。
 しゃくり上げる息遣いが耳朶にかかり、熱さに男は小さく震えた。

「だから、もっと…もっと苛めてあげるよ」

 

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