Dominance&Submission

一緒に出かけよう

 

 

 

 

 

 神取はしがみ付いてくる身体をどうにか引きはがし、バスルームで汚れた下部を綺麗に洗い清めた後、ベッドまで抱いて運んだ。
 僚は、枷を外した瞬間から強く抱き付いてきて、身体を洗うのに苦労した。離れがたい気持ちや、反省の表れだと十分理解出来るので、彼のしたいようにさせてやりたい気持ちと、現実的な問題とのせめぎ合いに男は頭を悩ませた。
 文字通り彼はまとわりついてきた。とにかく触れていないと安心出来ないようだった。
 甘えてくる仕草はたまらなく可愛いものだった。だから男も出来るだけ応え、抱きしめては背中をさすってやった。
 やっとの事で身体を拭き、バスローブを着せてベッドまで運ぶ。
 しかし僚は、首に回した腕を解こうとしなかった。無理に外す事はせず、男もベッドに乗り上げる。
 しばらくそうして、そっと声をかける。

「僚、言いたい事があるなら、出すといい」
「……ごめんなさい」

 ふと笑う。もう終わった。謝罪は充分受け取った。ゆっくりと頭を撫でる。

「おれ……まだ」
「まだ、なに?」

 聞き返すが、言いたい事はわかっている。
 僚はおずおずと腕をほどいた。
 一生外れないかと、冗談半分で思っていた。男は手をつき、見下ろす位置に身体を起こした。遠慮がちに見上げてくる視線を絡め取り、言葉が出てくるまでじっと待つ。

「……好き」

 怯えた呼吸を数回繰り返した後に零れたそのたった一言に、全身が燃えるように熱くなる。

「私はもっと好きだよ」

 すると、今の今まで申し訳なさそうに沈んでいた瞳が、明確な怒りの炎を滾らせ揺らめいた。負けん気がありありと窺えた。そしてまたふっと不安を湛える。
 嗚呼、彼のこの激しさがたまらない。たまらなく好きだ。
 男は身を屈めた。覆いかぶさって唇を塞ぐ。舌を絡め取りながら、静かにバスローブの帯を解く。
 はだけた胸に手を這わせると、僚は小刻みに震え出した。
 緩慢に身悶えながら膝を曲げ、横向きになって逃れようとする。
 彼が何を隠そうとしているのかすぐに察した男は、抵抗する両手を組み合わせて頭上に押さえ付け、じっくりと見下ろした。
 僚の唇が何か云いたげにわななく。
 出てきたのはやはり、ごめんなさいという言葉だった。
 恥ずかしさに頬を朱に染め、おどおどと揺れる瞳で見上げてくる。動きを封じられた状況に怯えつつ、興奮してもいるのだ。
 もじもじと膝をこすり合わせる。しかしそれでは、中心で反り返り主張している熱塊を隠す事は出来ない。

「このまま見続けているだけで、いってしまいそうだね」

 男はしばし見やって、言った。
 たちまち僚は眦まで真っ赤に染め、ぎゅっと目を閉じた。

「鷹久が……見てくれる、から……」
 感じて止まらない

 この上なく歓喜を呼ぶひと言に心が滾る。そうまで言われて応えぬわけにはいかない。男はまっすぐ片手を伸ばし、開放を待ちわびて疼いている僚のそれを緩く握り込んだ。
 途端に僚の身体がびくりと跳ねた。高い叫びが上がる。

「あっ……だめ!」
「だめじゃない、ずっとこうしてほしかった……そうだろう?」
「あぁ……ごめん」
「謝らなくていい。だからもっと、身体を楽にして」

 すぐには強張りが抜けない。男は焦らず、手にした熱をじっくりあやした。

「ん、んっ!」

 待つ間もなく、僚は喜びを弾けさせた。嬉しさについ頬が緩む。僚はそれを、笑われたのだと勘違いする。
 確かに少なからず屈辱に感じるだろう。
 男は手と舌でじっくりと愛撫し、些細な事など考えられなくなるくらい快感を与える事にした。
 達した事で満足し萎えた性器から手を離さず、ゆっくり扱き続ける。

「う、んん……」

 直後ではやはり刺激が強すぎるのだろう。僚は何かを耐える響きで身を固くした。
 それでも男は手淫を続け、同時に首筋に接吻した。
 今度は甘い声が零れる。
 脳天がたまらなく痺れた。
 彼をもっと喜びで満たそうと、神取は手を動かしながら何度もついばむように肌を吸った。
 先ほど押さえ付けていた名残で、まだ上げたままの伸びやかな腕を撫でさすり、びくびくと反応する腋を少しくすぐる。案の定彼は抗議の声を上げた。詫びとして、彼の好きな一点を唇で優しく包む。

「あぁっ」

 甘く可愛らしい声で、僚は身を捩った。手にした熱が一気に芯を帯び硬くなる。
 相変わらず感度の良い身体に気を良くし、男は本格的に彼のものを扱いた。

「あっ、や――ああぁ!」

 僚はいやいやと首を振り立て、組み敷く男の肩を掴んで押しやろうとした。

「いい声だよ、とても」
「んんん……」

 喉奥で抗議する。といって完全に拒みたいわけではない。
 どこが弱いか知り尽くしている男の手にかかって、またしても呆気なくいってしまうのが嫌なのだ。
 自分ばかりが溺れるのは嫌だ。
 自分も男に与えたい。悦ばせる術は知っている。けれどこの状況では、甘んじて受けるほかなかった。悔しかった。
 そんな僚の葛藤を笑って流し、男はさらに責め立てた。
 大分大人びてきた身体にあまさず接吻し、少しずつ下腹を目指す。唇が触れるとひくりと反応する肌がおかしくて、男は何度も繰り返した。そうしながら、徐々に顔をずらす。
 男の目的を察し、僚は膝を立てた。

「や、だ…そこ」
「駄目かい?」
「ん、んん……」
「どうしても?」

 聞きながら休みなく性器を擦り上げる。垂れた涎で手指は濡れ、動かす度に淫靡な音がした。
 押し黙った僚の態度から答えを読み取り、男は口中に含んだ。

「ああぅ……」

 かすれた熱い声がした。せめてもの抵抗か、脚を閉じようとするのをやや強引に開かせ、神取は口淫を始めた。

「あああ……だめぇ」

 包み込む男の熱い口腔に震えが止まらない。鼻にかかった甘い声で身悶え、僚は掴まれた脚をびくびくとわななかせた。険しい顔付きで天井を見上げる。
 男の舌は巧みに動いて、先端を柔らかく刺激した。唇で全体をついばまれ、くびれを少し強めに押されると、腰から下が蕩けるような心地良さに包まれる。
 口からは絶えず熱い吐息がもれ、恥ずかしいほどに腰が動いた。

「た、たかひさ……おかしい」

 声に、男はちらりと目を向けた。僚もまた首を曲げて見ていた。視線を絡める。

「今日、おかしい……」

 今にも泣きそうな声で僚は震えた。何をされても感じすぎて、すぐにいってしまう。
 はあはあと胸を喘がせる様に目を細め、男はより一層責めた。たまらないとばかりに僚は腰を振り、ねっとりと絡み付く舌と唇に熱い喘ぎをもらし続けた。

「あぁっ…もう、も――ああぁ」

 耳にするだけで言ってしまいそうなほど熱いよがり声が、男を一層かき立てる。舐め取った端から涎を溢れさせる僚の怒漲を唇で扱き、また喉奥まで飲み込んで、彼の欲する刺激をあまさず与える。

「あ、あ……たかひさ」

 切羽詰まった声がした。もう、我慢出来ないのだ。このまま出して構わないと、男は強く吸った。

「んんん――!」

 僚は首を振って抵抗したが、愛撫の音に交じって時折聞こえる男のため息を耳にするほどに感情は昂り、我慢出来なくなっていた。少し苦しげな息遣いは、まるで男を犯しているようで、はち切れんばかりの興奮を生んだ。

「も、ぉ……出るっ」

 低い呻きとともに僚はぐっと息を詰めた。半ば無意識に腰を振り立て、男の口の中に熱をぶちまける。
 不規則に喘ぐ僚の息遣いを聞きながら、男は静かに飲み干した。
 力んでいた僚の身体が、不意にがっくりとベッドに沈む。
 四肢を投げ出し気だるげに天井を見つめていた。男は身体を起こし、ゆっくり覆いかぶさった。
 近付いてくる男の襟を掴むと、僚は引き寄せた。達した直後で疲れているのだろう、力の加減がきかないようで、思いがけず強く引っ張られ男は面食らう。
 それでも、顎を上げてキスをせがむ仕草を見てはすぐに気持ちもほぐれる。喜んで応える。
 二度、三度と舌を舐め合っていて唐突に、僚は低く呻いて顔を背けた。
 キスの心地良さに酔ったのとは違う頬の赤みを見て取り、男は尋ねた。顔を自分の方に向けようとするが、僚は抵抗した。
 もう一度聞くと、ぶるりと身体を震わせ言った。

「後ろが……疼いて」

 重大な罪を告白するかのように顔を歪ませる。
 男はふと頬を緩めた。今、キスをしていて、先ほどの状況が思い出され、身を襲う疼きにおののいたのだ。
 男は指先でそっと触れた。
 途端に僚は過剰に肩を弾ませた。

「痛むか?」
「平気……痛くない」

 か細い声で答える顔を観察しながら、少しずつ指先に力をこめる。

「あっ……だめ」

 僚は手を拒んだ。痛むからではない。それどころか、いつもより感じやすくなっている。長く触られると、全身の力が抜けて溶けてしまいそうだ。
 表情から読み取り、男はふと頬を緩めた。

「ここがたまらなくなってしまったんだね」

 やや置いて頷く。だからあまり触らないでほしいと、僚は訴えた。
 そう言われると性分で意地悪をしたくなる。たっぷり悦ばせ、少し泣かせて、底なしの快楽に沈めたくなる。
 キスとこことが繋がるように彼を躾けたのは、自分なのだ。彼がそういう性質であると自分が発見したのだ。充分楽しむ権利がある。
 今そこがどうなっているか確かめるかのように、そっと押し当てた指で円を描くように揉み込む。
 たちまち僚の口からたまらないほど熱い喘ぎがもれた。

「ん、ん、ん……やだっ」
「本当に?」

 聞き返すと、ぎゅっと唇を引き結ぶ。何かを訴える眼差しが注がれる。甘えてくる仕草がしようもなく心をかきむしった。
 男は唇を寄せた。
 僚はわずかに顔を背けたが、抱え込むようにして押さえ付け、半ば強引に口付ける。同時に後ろを指で弄る。指先をそっと埋め、引き抜き、押し込んではすっと抜く

「あ、ああぁっ」

 僚は首を振ってキスから逃れようとあがくが、男は許さず、両方の口を嬲った。
 上の口は荒々しく舌を貪り、下の口は、じっくりといたぶる。
 僚はびくびくとのたうち、仕込まれた身体を何度も震わせた。
 なんていい反応だろう…男は成果にうっとりと浸る。

「ほら、僚…舌を出して」
「やだあ……」
「もっとよくしてあげる……さあ、ほら」
「もうやだ……たかひさ」

 緩慢に首を振りながらも、表情には欲しい気持ちとのせめぎ合いがありありと浮かんでいた。
 神取は焦らず待った。その間も、じれったいほどゆっくりと指の抜き差しを繰り返す。

「本当は欲しいだろう……ご褒美が」

 僚のそこは、何度も潜り込んでくる指を嬉しそうに締め付けてしゃぶった。段々といやらしい音がしてくる。
 僚は泣きそうに眉根を寄せ、一旦目を逸らした。何度か喘いで、ついに目を戻す。
 せめぎ合いに負け、僚はおずおずと舌を突き出した。

「……いい子だ」

 悲しげな顔がふっと緩んだ。
 神取は伸ばされた舌を甘噛みし、強く吸った。
 涎を垂らさんばかりに弛緩した僚を一杯に堪能しながら、抜き差しを速める。

「あ、あふ…んむ、う…んんん!」

 僚は不規則に震えながら、両方の口で味わうおののくほどの愉悦に酔い痴れた。
 指を引き抜かれる時がより感じるのか、濡れた声でやめてと叫びを上げる。

「もう、もっ…やあ――」

 男は口端で笑い、キスで封じた。浅い箇所での抜き差しだったのを、根元まで埋め込み、拡げるように捏ね回す。
 だめ、というように僚は首を振ろうとした。
 男は許さず、押さえ付けて口腔をあまさず舐る。
 僚は男の肩を掴み、何とか逃れようともがいた。泣きそうな呻きをしとどにもらし、一杯に身体を強張らせた。
 男の指を飲み込んでいたそこが、力むのに合わせてきゅうきゅうと絞るように蠢いた。ざわめきが敏感な指先に伝わってくる。

「っ……」

 思わず男は喉を鳴らした。自分のもので彼を抱いている錯覚に陥り、軽い眩暈に襲われる。
 強い力で締め付けてくる内襞を抉りながら、ゆっくり指を引き抜く。
 内部から去っていく圧迫が先の状況と重なるのか、僚は塞がれた唇から叫びを迸らせ、何度も身を引き攣らせながら絶頂を迎えた。熱い滴が、先端から二度、三度と放たれる。

「ああっ……」

 男の指が完全に抜かれ、僚は半ば放心したように喘いだ。
 神取はゆっくりと顔を離した。
 目を潤ませ陶酔しうっとりと緩んだ表情の僚を間近に見つめ、しばし過ごす。

「よかったかい?」

 僚はごくわずかに顎を引いた。頷いたというよりは、ただ声に反応しただけのようだった。
 そんな彼がたまらなく愛おしかった。

「もっとよくしてあげるよ」

 耳元に囁き、そっと肩に触れる。

「だめぇ、鷹久……」

 男の悪だくみを感じ取り、はっとなって僚は泣き声を上げた。しかし抵抗も空しくうつ伏せにされ、高く上げられた腰に男の息遣いを感じて全身を強張らせる。
 すぐに、後孔の際どい部分に舌が這う。

「あああああぁ――!」

 高い悲鳴が迸る。本心から嫌がっている声ではないのを聞き分け、男は少しぷっくりと盛り上がった後孔をいたわるように優しく舐めた。

「そこ……だめ、だめ」

 両手にシーツを握り込み、僚は何度も首を振った。前に這って逃れようとするが、男の手はしっかりと腰を掴み、逃すまいとしている。

「ああぁ……」

 甘んじて愛撫を受けるしかなかった。
 いったばかりで過敏になっているのだ、立て続けに嬲られてはどんな恥ずかしい声を上げてしまうか自分でもわからない。どんな姿を晒してしまうか、怖くもあった。
 そんな状況がこの上なく僚を陶酔させた。逃げたいのに逃げられず、行き過ぎた快楽に翻弄されて泣き喘ぐしかない自分、そんな自分を更に泣かせてじっくりと愉しむ男…震えが止まらなくなる。
 ねっとりとした塊が襞の一つ一つを這う。その度にびりびりとした愉悦が背筋を走り、たまらずに僚は鼻にかかった甘い声を上げて身悶えた。
 じっくりと舌で舐め、神取は人差し指を静かに押し込んだ。

「また、やだぁ……あぅん」

 腰に響く嬌声に思わず息が上がる。ごくりと喉を鳴らし、根元まで埋め込んだ指をまた静かに引き抜く。
 内部を細長い異物で緩慢に撫でられ、僚はかすれた喘ぎをしとどにもらした。腰にかかる男の手を掴み、引きはがそうとするが、抵抗を奪い取るかのように責めが濃厚になって、翻弄されるばかりであった。

「やだぁ、あああだめぇ……!」

 奥の方を指先でくすぐられ、僚は腰を揺すった。
 男はふと前方を見やった。はち切れんばかりの若い猛りが、ゆらゆらと揺れている。思わず笑う。感じやすい身体。だから苛め甲斐がある。
 眼前で誘うように揺れている白い双丘にそっと唇を寄せ、男は手を伸ばした。
 僚は声もなく大きく仰け反り、歓びを全身で表した。
 男は反応に満足し、包み込んだ先端を指先でそっと舐め回した。
 たちまち甘い喘ぎが僚の唇からほろほろと零れた。

「や……だ、また、いく…あ、ああ…あっ」
「好きなだけ出して構わない。我慢する時間はもう終わった」
「じゃ、あ……鷹久の、で、いきたい……」

 俺の中でいってほしい
 男の手を強く握りしめ、僚は欲した。
 男は啜るように息を吸った。

「入れても…いい?」

 口にするとより、自身に迫っていた限界を知る。
 僚は必死に首を曲げて振り返り、お願い、と口を動かした。
 そんな風に望まれて、誰が拒めるだろう。
 しかし、いざ男のものが後孔に触れた時、僚は鋭い声で制した。

「ち、がう……顔…見ながら、したい……」

 仰向けになろうともがきながら、両手を伸ばす。
 蕩けきった顔で抱っこをせがむ彼に一つ身震いを放ち、 男は掴んで引き寄せた。しっかりと抱き合う。

「ああ……」

 これが欲しかったのだと、安心しきったため息が耳元をくすぐる。
 男の方こそ、たまらなく心地良かった。
 唇を重ね合わせ、そのまま彼の中に入る。口内で彼の甘い叫びが弾ける。酔い痴れ、男もそっとため息を吐く。
 いつも以上に熱く絡み付いてくる内部に動かずにいられない。指先で感じた以上の快感だ。根元まで埋め込み、引き抜き、ゆっくりとした出し入れを繰り返す。

「ああぁっ…気持ちい……ああだめ、鷹久……だめぇっ」

 疼く内部を一杯に拡げ、深い快楽を与えてくる男の熱塊に、僚は享楽の声を上げ激しく身悶えた。
 きつく眉根を寄せた様は一見辛さに耐えているようだが、しっとり潤んだ瞳は快楽に染まり、男を昂らせた。触れ合う肌は汗ばみ、微かに匂い立つ甘さが更に男を煽る。
 たまらずに男は腰を押し付けるようにして一回ずつ深くまで突き込んだ。
 僚は間延びした声を絶えず紡ぎ出し、合間に奥が、と訴えた。

「どうした?」
「あ、ああ、あっ、や、ああ、おく、おくがぁ……!」
「ここがいい?」

 目一杯飲み込ませ、腰を使って彼の望む場所をぐりぐりと抉る。

「ぐうぅ!」

 途端に僚は大きく喉を晒して呻いた。びくびくと痙攣めいた動きを見せ、同時に先端から快楽の証を放った。

「ああぁ……」

 啜り泣きに似た声をもらし、僚は止まらぬ震えを放った。
 不規則に身体が震える度、男を飲み込んだそこもきゅうっと収縮を繰り返した。熱く柔らかい内襞が、何度も締め付けてくる。蕩けんばかりの愛撫に耐え切れず、僚の息が整う前に男は動きを再開した。
 たちまち僚の顔が苦痛に歪む。出来るだけ勢いを抑え、男はゆっくりと腰を前後させた。

「苦しい?」
「んっ…く、くるしい、のに……ああぁ…鷹久のが、あぁ……熱くて、きもちい、い……」

 とろんと潤んだ瞳が、男を熱心に見つめる。
 内部を存分に味わいながら、男は口付けた。舌を吸うと、僚の肉襞が複雑に蠢いて、男のものを絶妙に絞り上げた。
 思わず喘ぐ。
 すると、僚の顔にふっと笑みが浮かんだ。
 彼の仕業がたまらなく愛しく、お返しに男は大きく腰を使いながら腕や脚を優しく撫でさすった。
 お互いに快感を与え合う。

「ああぁ……おく、好き…鷹久のすき……」
「私も、最高に……」

 喘ぎ喘ぎ訴える僚に返し、抱えた脚に唇を寄せる。
 たちまち僚は泣きそうに顔を歪め、ごめんなさい、と濡れた声を零した。

「もう謝らなくていいんだ、僚」

 僚は首を振り、尚も繰り返した。いいと言われても気が済まない。せっかく誘ってくれたのに、冷たい言い方で振り払ってしまった。何度謝っても足りない。届かない。
 なんであんな言い方をしてしまったのだろう。
 自分はなんて馬鹿なんだろう。

「ああ…ごめん、たかひさぁ……」

 しまいには子供のようにしゃくり上げて泣き出した僚に、男は一旦動きを止めた。しっかりと両腕に抱きなおし、引き攣れもつれた息遣いが鎮まるまで何度も静かに頭を撫でる。それからそっと、耳元で告げる。
 君が好きだよ、と。

「甘えも我儘もすべて受け止めるから、何でも言うといい」

 嫌なものは、全部吐き出すといい。
 喉の奥で頷き、僚は抱き付いた。

「そうだ。もっとしっかり掴まって。ほら、これでもう大丈夫だ」

 恐る恐る見上げてくる眼差しに笑いかけ、唇を重ねる。
 呼吸が落ち着いて少しして、僚はそっと囁いた。

「……動いていい?」
「キスでまた、感じでしまった?」

 図星か、僚はぎくりと頬を強張らせた。
 またいらぬ嫌悪に陥る前に、男はゆっくり腰を動かした。甘い喘ぎを聞きながら徐々に速めてゆく。
 それにつれて、僚の応える熱い声が次第に高くなっていった。
 もう、だめ、と唇が綴る。
 自分もだと、男は口付ける。

「な…なかで、いって……」

 望む声に何度も頷き、男は僚の下腹へと手を伸ばした。
 男の熱い手のひらに酔い痴れ、僚は何度も腰をくねらせた。
 高みを目指して、二人は互いの身体を貪り合った。

 

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