Dominance&Submission

雪見風呂

 

 

 

 

 

「……知ってる」

 ごく小さな声が零れた。弱々しい、震える小声。神取はにっこり笑い、良かったと応えた。

「でもまだ理解してもらえてないようだ。この機会に、もっとちゃんと覚えてもらいたいな」

 腕の中で硬直する僚をゆっくりと解放し、口元に微笑をたたえたまま神取は言った。

「……ごめんなさい」
「おや、何故謝る? 何か悪い事をしたのかい」

 僚はしばし口籠り、それからゆっくり頷いた。

「そうか……では、お尻を叩いてあげよう」
 下着を脱ぎなさい

 動揺し小刻みに瞳を揺らす僚に、支配者の貌で笑みを深める。

「……は、い」

 つかえながら答え、恥ずかしさに耐えながら僚は言われた通りにした。
 じっと見つめてくる眼差しの先で、おずおずと下着をおろす。自分の身体を自由に動かせないもどかしさと恥ずかしさに目の端を赤く染め、僚は脱いだ下着をためらいがちに脇に放った。
 しばし無音が続く。
 所在なげに立ち尽くしたまま、じっと男の足元を見つめる。
 次に何を言われるのか。怖い。怖いという思いに肩を強張らせ、しかしどこかでは期待を疼かせている。
 それら全てを見透かしている男の視線に晒され続けるのにもう耐え切れないと思った瞬間、次の言葉が静かに投げて寄越された。
 反射的に目を上げる。

「裾を。自分でまくりなさい」

 沈黙に慣れかけた耳に突如心地好い低音が滑り込み、背筋がぞくりと反応する。
 まっすぐ向かってくる眼差しから無意識に目を逸らし、俯くと、僚は乱れる息を必死に飲み込み裾をたくしあげた。
 更に、柱を掴んで前屈みになるよう言われ、ちくりと刺さる屈辱を押し殺して従う。
 すると神取は、僚の帯をほどき引き抜くと、柱を抱き込む形で手首を括り付け拘束した。
 小さく驚く僚に笑みを向け、ゆっくりと背後に回る。
 抵抗も拒絶も出来ない格好にさせられ身体を晒す事に、微かな恐怖が生じる。
 しかしそれはすぐに期待に取って代わり、奥底から這い上がってくる貪欲な自身を僚は慌てて否定した。
 けれどどんなに打ち消しても、拘束され、身動き出来ない身体を男に差し出す今の状況に昂奮しているのは、事実だ。
 声にならない声で呻き、強く唇を噛む。
 覚悟を決め、僚は目を閉じた。
 しかし最初に男の手が触れたのは尻ではなく下腹のそれだった。
 思いも寄らぬ箇所への刺激に僚は過剰に反応し、びくんと肩を弾ませた。
 構わず神取は隠し持っていた細い紐を僚のそれへ…何がきっかけとなったのか、わずかに頭をもたげたその根元に巻き付け結んだ。

「!…」

 身じろぎ、抵抗しようとした寸前に聞こえた喉の奥の笑い声に、かっと頬が熱くなる。
 汚い言葉を投げ付けておきながら自分も同じではないかと無言で伝われ、僚は恥ずかしさに身を縮ませた。
 直後、前触れもなく尻を叩かれ、突然の衝撃と部屋に響いた思いがけず大きな音にびくんと肩を竦める。
 徐々に広がっていくぴりぴりとした痛みが治まらない内に二度目を受け、僚は詰まった呻きをもらした。
 更にもう一度、尻を叩かれる。
 じわじわと赤く染まっていく尻に手をあて、神取はこう囁いた。

 三十数えなさい

 ひりひりと染みる痛みにかすかに眉をひそめ、僚は小さく頷いた。
 一瞬のためらいは、音が外に漏れて、誰かに聞かれてしまわないかと恐怖した為だ。
 しかし男は構わず手を振り上げた。
 乾いた音が弾け、同時に鋭い衝撃が戒められたそれへと響く。
 一度目は気のせいかと無視出来たが、二度、三度と続けられそれが目を逸らせないものだと自覚した僚は、そんな馬鹿なと柱を両手で掴み深く俯いた。
 何かに怯え、それでも辛うじて数え続ける僚の声が十を紡いだところで神取は一旦手を止め、恐らくはそれの原因だろう箇所…半ば勃ち上がりかけた熱茎に手を伸ばし触れた。

「っ……!」

 僚の驚く声と、男の含み笑いとが重なる。
 いくつもの手の跡が浮かぶほど尻を叩かれているのに、まるでそれが糧になっていると言わんばかりに僚のそこは先端から溢れた雫に濡れ、熱を浮き上がらせ硬く反り返っていた。

「はな…せ……」

 もぞりと身を捩り、小さく懇願する。
 聞き入れず、神取は触れた手を扱く動きに変え覆い被さるようにして顔を覗き込んだ。
 くびれから根元にかけて絡めた指を動かし、濡れた先端を親指で丸くこする。

「僚。これは、なんだ?」
「や、め……」

 隠せるはずのないものをついに暴かれ、僚は顔を真っ赤に染めて目を逸らした。

「答えなさい。何故こんな事に?」

 伝えないと口を噤み沈黙する僚を、男は更に追い詰めた。
 明確に、射精を促す刺激を与えながらもう一方の手で強く尻を打つ。

「いっ――あ……」

 前後にもたらされる正反対の感覚にびくっと身を弾ませ、僚は切れ切れに息をついた。答えられないと首を振り、数だけを口にする。
 頑なに拒む僚の態度に口端を緩く持ち上げ、男は不意に叩く手を止めた。
 すると、前方を弄くる粘ついた音だけが残り、かすかにもれる僚の吐息とあいまって、ひどく淫らな空気が二人を包み込んだ。

「も、う…あぅっ……」

 生々しく響く音に鼓膜を犯され、恥ずかしさに耐え切れず僚は身悶えた。
 妖しく誘うように腰をくねらせる姿に笑みを深め、神取は手を止めずに冷たく言い放った。

「君は、景色を見ているといい」

 顎に手をかけ、俯いた顔を上げさせる。
 潤んだ瞳が雪を被った庭をぼんやりと映し、わずかに揺れた。

「やだっ……!」

 次の瞬間、何の前ぶれもなく後孔に指をあてがわれ、僚は顔を歪ませ小さく唸った。
 拒む声さえも愉しんで、男は先走りに濡れた中指をゆっくりと根元まで埋め込んだ。そして、適度な締め付けをみせる内部を探るように指先を蠢かし、いやだと首を振る僚の反応に満足げに微笑みながら抜き差しを繰り返す。

「嫌と言う割には、すごい力で締め付けてくるよ」
 恥ずかしい身体だね

 声を作り、嘲り笑いを耳に流し込む。

「ち…がう……」

 柱を掴んだ手に無意識に力を込め、僚は必死に否定した。

「違う? お尻を叩かれて涎を垂らすほど悦んでいるのに、違うというのかい?」

 僚の肩越しに目を落とし、下腹でひくひくとわななくそれを指先で突付く。
 それだけの刺激にすら過敏に反応し、一際大きく震える熱茎に笑みを浮かべ、後方の指を三本に増やして尚も身体を煽る。

「う、あぁ……」

 腰の奥に纏わりつく微かな鈍痛と痺れるような快感に僚は激しく胸を喘がせた。

「そんなにいやらしい声まで上げて」

 嘲る声に慌てて唇を噛み、ぐっと息を詰める。

「素直じゃないね」

 懸命にこらえる僚にふっと口端を緩めると、顎を掴んでいた手を胸元まで下げ乳首を探り当てる。
 摘まれ転がされて、噤んだ唇から切れ切れにもれる喘ぎに、腰の奥が甘く疼いた。

「やだ…おねが……はな、し……」

 肩越しに哀願の声を紡ぎ、潤んだ瞳で見つめてくる僚に目の眩む思いを味わう。
 それをどうにか押し殺し、自分の手の動きに翻弄される様をあまさず見続ける。

「あ…ん、は……」

 飲み込んでも乱れる息に恥じ入り、僚は小さく首を振った。
 しかしどんなに違うと否定しても、男の指が前立腺を刺激し同時に乳首を擦る度意思に反して口から甘ったるい声がもれてしまう。
 今にも、いきたいと口走ってしまいそうになる。

 どうすれば――
「あぁっ……それだめ!」

 突如、それまで柔らかく蠢いていた男の指が強く内部を突き上げ、たまらずに僚は鋭い悲鳴を上げた。
 すぐさまはっと息を飲む。

「頼むか…ら……もう……やめ……」

 涙まじりに背後の男に訴える。

「声、が…誰かに……聞かれたら……」

 しかし返ってきたのは、淡い期待を打ち砕く低い冷酷な言葉だった。

「なら、出来るだけ声を抑えなさい」

 言い放ち、少し強めに乳首を摘む。

「うっ……」

 毒を含んだ鈍い痛みに、僚は喉を震わせた。
 無意識に庇おうとする腕に構わず、まるで潰そうとするかのように男は指先に力を込め更に強く刺激を与えた。

「ぐ……」

 まさかという思いに怯えが浮かんだ直後解放され、僚はぎこちなく身体を弛緩させた。ずきずきと纏わり付く疼きに目を瞬かせる。
 やがてうっすらと消えかけた頃、痛みによって敏感になったそこを男の指がそっと摘み上げた。

「ひぁ……!」

 不意の接触に僚はびくんと背を反らせ、鼻にかかった甘い鳴き声をもらした。

「声を抑えて」

 男は笑い、突き入れた三本の指で内側を強く弱く抉りながら、もう一方の手で乳首を蹂躙する。

「いや…だ、頼むから……もう――」

 不自由な身体をくねらせ、僚は悲鳴にも近い声で懇願した。
 男はそれを無視し、更に激しく僚を翻弄した。
 根元を結わえられ射精を禁じられた状態で受ける快感は拷問に等しく、僚は何度も涙声を振り絞りいやだと訴えた。

「そんなに嫌なら、やめるかい?」

 耳朶へと囁きを吹きかけながら、男は静かに問うた。

「……」

 乱れた息に胸を喘がせ、僚はしばしの沈黙の後、途切れ途切れにいきたいと呟いた。

「いくらでも、いかせてあげるよ」
 後でね

 安堵する間もなく継がれた言葉に打ちのめされ、僚は声にならない叫びを上げて髪を振り乱した。
 それがある瞬間ぴたりと強張る。
 晒された尻の奥に押し当てられた男の滾りに、ひっと喉を鳴らす。
 神取は己のものに手を添え支えると、拒むのも構わず強引に咥えさせた。

「いっ……あ――!」

 力強く侵入してくる熱塊に、僚の口から殺しきれない叫びが迸る。
 下腹を力ませ押し返そうとするが、指によって柔らかく慣らされたそこは男のものを喜んで受け入れた。
 二度、三度と反動をつけて最奥を目指し、男は少しずつ埋め込んでいった。

「ひっ…い……」

 身体を揺すられる度僚は苦鳴をもらし、喉を反らせて喘いだ。
 やがて男のものが根元まで埋まり、一旦動きを止めた事で、それまで無意識に詰めていた息を細く吐き、力なくうなだれる。

「ひっ……!」

 しかしそれも束の間、ゆっくりと腰を引き、再び穿たれて、先刻よりも重苦しい圧迫感に僚は鋭い悲鳴を上げた。
 男は容赦せず抽送を始めた。
 次第に激しさを増す突き上げに、僚は唇を噛み締めて耐えた。
 ともすれば、背筋を這い上がる凄まじい快感に飲まれてしまいそうになる。
 そうして、求めるまま淫らな言葉で欲しがる自分を想像し、慌てて首を振るが、全身に広がっていく愉悦の波は止めようがなかった。
 男に抱かれて、拒めるはずがない。

「ゆ…ゆるし、て……」

 これ以上は耐えられないと涙声を発し、戒めを解いてくれと哀願する。

「もう、我慢出来ないかい?」

 わずかに息を乱した男が低く囁く。

「できな……できない……も…いかせ……て……」

 熱に浮かされたようにいきたいと繰り返し、僚はしゃくり上げた。

「では、理解出来たんだね?」

 一旦動きを止め、間近の目を覗き込む。
 涙で潤む瞳をおずおずと上げて男を見つめ、わずかな沈黙の後僚は頷いた。
 その応えに男は穏やかな笑みを浮かべ、ゆっくりと僚の耳元に口を近付けた。
 かすかに震えながら、僚は男の言葉を待った。

「なら、もっとよく教えてあげる」

 しかし寄越されたのは、耳を疑いたくなるようなものだった。
 動揺を瞳に浮かべ見つめてくる僚に笑みを深め、言葉を続ける。

「身体の奥深くまで、刻み込んであげよう」
「そ…っ……」

 哀れに震える唇を塞ぎ、ねっとりと舌を絡める。
 逃れようとする僚の顎を掴んで抵抗を封じ、神取は思うまま口内を貪った。もう一方の手を胸元に伸ばし、散々刺激されうっすらと赤く染まった乳首を指の腹で優しく擦り上げる。

「んっ……んん――!」

 脳天を直撃する強烈な快感に、僚は続けざまに声を迸らせた。

「はっ…あ……ああぁ……ん……」

 身悶え、ぞくぞくするほど艶めかしい声を上げる僚をもっと鳴かせたいと神取は腰の動きを再開させた。

「やっ…あああぁ――!」

 前立腺をこすり激しく行き来する男のものに高い叫びを上げ、僚は滅茶苦茶に首を振った。

「ほどいて……もっ…ほどい……て」

 自分で根元の戒めをほどこうと、柱に括り付けられた両手に力を込める。しかし固く結ばれた帯は少しも緩まず、強まるばかりの射精欲に目を眩ませながら僚は途切れ途切れに懇願した。

「おねが……も、ぅ……おかしく…なっ……」

 半ば意識は朦朧とし、自分でも何を口走っているのかわからなくなる。身体の奥底から込み上げてくる欲求に突き動かされるまま、何度も何度も後孔を締め付けて男を味わう。
 それがより、自身を苦しめる。

「たかひさ……いきたい……いきた……」

 泣きそうに顔を歪め訴える。
 そこで不意に男のものが抜き去られる。
 突き放された感覚に見舞われ、僚はいやだ、いやだと呟きながら、柱にもたれてしゃがみ込んだ。
 たった今まで背中に感じていた熱が急速に冷めてゆく。

「やだぁ……」

 恐ろしさに震えが止まらない。と、背後から抱きしめるようにして男が両手の戒めを解きにかかる。

「た…かひさ」
「ここにいるだろう?」

 肩越しの声にすぐさま振り返る。僚は探るように男の目を覗き込んだ。恐る恐る頷く。

「……ご…めんなさ…い……」

 涙に濡れた睫毛を震わせ、僚はかすれた声で呟いた。
 その謝罪が、自分が最初に押し付けた役割の延長にあるものだとわかった途端、男は愛しさで胸が一杯になるのを感じた。

 嗚呼、何もかもが――

 男は手首をさすってやると、その手を自分の首に回し抱きしめた。僚もすぐに、自分の意思で男を抱き返した。

「もっと強く抱いて……僚」

 ねだる声にぶるぶるとわななき、僚は頬をすりよせた。言われなくたってそうする。たとえ嫌だと言われても絶対に離すものか。
 男の手が下部に向かう。
 僚は反射的に腰を引いた。

「少し我慢して……すぐによくしてあげよう」

 男は宥める声音で囁き、長く彼を苦しめた根元の戒めを解いた。
 頭では分かっているものの、痛みが走る度腰が跳ねる。

「……ごめん」
「大丈夫。よく我慢したね、良い子だ……ほら、もう何もない。もう痛くないよ」
「うん……あっ!」

 男の手がそこを優しく包み込む。
 また、腰が弾んだ。そして強張る。
 再び男のものが、中に入り込んできたのだ。

「あ、あ、あぁ……たかひさ――あ、きもちい……!」

 前をゆるゆると扱かれながら深くまで貫かれ、僚は声が抑えられなかった。
 男は僚の身体を横たえると、慈しむようにゆっくりと抽送を繰り返し、望むだけの快楽を与えた。

「ん、あっ……ああぁ……」

 動きに合わせて僚の口から絶え間なく喘ぎが零れ、やがてそれは何かに耐えるようなくぐもった声に変わっていった。
 間際に迫った絶頂に、男を飲み込んだそこが急激に収縮を繰り返した。

「いく……いくっ、……あぁ――!」
「もう我慢出来ない?」
「む、り……あぁっ…い、いく……もう…も……出る……ああぁ……いきた…いっても、いい?」
「ああ……見せてごらん」

 腰の動きを速めて促す。激しさを増した責めに僚は何度も首を振りたくり、見るなと掠れた声をもらした。そう言いながら、一切隠す事はしない。
 神取は更に腰を打ち付けた。
 僚は上ずった声と共に白液を飛び散らせ、大きく背を反らせた。

「……く」

 まるで食いちぎらんばかりの締め付けに男は低く呻き、自身に迫る射精欲をなんとか堪えた。
 そして、僚の息が整わない内から腰の動きを再開させ、再び彼を甘く鳴かせる。

「あぁ、だめ……だめ、いったばかりは、ああぁ!」

 頬を赤く染め、僚は何度も首を振り立て動かないでと懇願した。

「びくびく震えているのが、伝わってくるよ」

 動きを止めず男は笑った。
 達したばかりで過敏になったそこを容赦なく責められ、僚は濡れた声で泣き喚いた。
 朱色の眦、荒い吐息が、男の興奮を一層かき立てる。

「ゆ、ゆるして……もう許して」
「休みなく抱かれるのも、好きだろう……?」

 一瞬眉根を寄せた後、僚は頷いた。

「鷹久……たかひさだから……あうぅ…ん、ん、んん――!」

 目一杯揺すられ、また僚は白液を放った。
 今度の衝撃は流し切れず、男も程なく彼の中で思いを遂げる。
 注ぎ込まれる熱いものに、僚はひゅうと喉を鳴らした。
 ひっひっとしゃくり上げる吐息が少し収まった頃合いに、唇を重ねる。
 少し疲れた様子で、しかし僚は積極的に舌を絡めた。
 もっと、もっとと誘っているように思えた。
 男は一度身体を離し、今度は口淫に耽る。
 くたりと萎えた僚のそれを舌ですくい吸い付くと、たちまち硬く張り詰め、主張し始めた。

「まだまだいけそうだね」
「だ……て、たかひさが……」
「私が、いけない?」

 違うと、僚は緩慢に首を振った。

「ちがう、鷹久が……さわってくれる、から……」

 嬉しくて、止まらない。
 膝を立て、びくびくと反応しながら僚は答えた。

「そうか……ではどこまでいけるか、試してみようか」
「だめ、あぁっ! それは、怖いから……やだ!」

 嫌だと膝を寄せるのを力尽くで開き、喉奥まで熱茎を飲み込む。
 上擦った声が立て続けに降ってくるのを聞きながら、神取は更に後孔を弄った。二本の指を揃えて埋め込み、彼の弱い箇所を徹底して突く。
 先に放った自身のものが卑猥な音を立てる。

「やだっ……そんな、音――やだぁ!」

 逃げまどう身体をしっかり捕らえ、神取は舌で執拗に先端を責めた。
 程なく身体が突っ張り、口内に熱いものが放たれる。
 苦しげに胸を喘がせ、僚は首を曲げて男を見た。
 むせる事もなく、平然と自分のものを飲んでいる様に頭の芯が真っ白に痺れる。
 嬉しさと、奇妙な優越感とが胸に渦巻く。責められているのは自分だが、男を犯してもいるようで、気付けば笑みが浮かんでいた。
 その顔が一瞬で歪む。
 しばし止まっていた男の指が、また動き出したのだ。

「だめ、だめぇ……両方はもう…しないで」

 おかしくなると啜り泣く僚を無視して、神取は更に強く抉った。口を離して見やると、目の前で熱塊がびくびくとわなないた。先端からはたらたらと涙より透明な滴が溢れ、男を誘惑した。
 鋭く制する声を聞き流し、舌で舐め取る。

「も、う……気が狂いそう……」

 僚の濡れた声を聞くだけで、いってしまいそうだ。どこまでも昂る気持ちに突き動かされるまま、神取は再び口に含んだ。

「もうやだ…指、いやぁ……んんんっ!」
「嫌じゃない…ほら、ここが好きだろう」
「そこだめっ! あ――!」
「僚……ほら、好きだと言ってごらん」
「あ、あぁ……すき…ああだめっ……きもちい……ああぁ!」

 押しやろうと必死の抵抗をものともせず、独特の感触を愉しみつつ僚を追い詰める。指先で転がすと締め付けは更に強まり、実際に貫いているような錯覚に陥る。
 加えて、声。
 泣きじゃくり、よがり、嫌だと拒む合間に素直に悦ぶ喘ぎ声に、身体じゅうが蕩けそうになる。
 ふやけてしまいそうなほどしゃぶってもまだ足りず、どころか乾きが強まっていくようだ。
 求めて強く吸った途端僚の身体ががくがくとわななき、熱いものが喉を打った。
 最後の一滴まで欲して、彼のものを執拗に扱く。

「ああ、やだぁ……」

 溺れかけた人のように、僚は激しく胸を上下させた。
 すっかり固まってしまったのか、僚の手は男の浴衣の肩口を強く握ったままだ。
 神取は丁寧に指を解くと、組み合わせ、指先に何度も唇を押し付けた。

「う、んっ……」

 するとその刺激すらも快感なのか、僚はびくびくと小刻みに震えを放った。
 手を繋いだまま覆いかぶさる。

「入れてもいいかい?」

 訊きながら、既に先端は彼の中に押し込んでいた。

「あぁう……!」

 眉根を寄せ、僚は切なげに喘いだ。
 ぶるぶるとわななく様がたまらなく愛おしくて、男は深くまで埋め抱きしめた。

「も、お……だめ……」

 たかひさ。
 密かな吐息で綴られ、脳天が白熱する。
 彼の身体が限界に近付いていたのは分かっていたが、どうにも止めようがなかった。彼と遠出をして、空気が変わって、興奮している。この上ないほどに。

「だめ、や……はげし……」

 涙を飛び散らせてよがる僚を抱きすくめ、なおも揺さぶりをかける。

「だめぇ…ああ、奥…おく……おかしくなるっ!」
「もっと感じて…僚、もっと……!」
「ああぁっ……くるし…たかひさ、たかひさ……」

 僚はしがみ付き、もつれる舌で繰り返し男の名を呼び縋った。
 ここにいると抱きしめて応え、彼の悦びをもっと呼び覚まそうと何度も何度も、何度も深く突き入れる。
 散々弄った彼の中はひどく熱く、複雑に絡み付いて、男のものを妖しくしゃぶってきた。
 挑発に思え、神取はよりきつく僚を抱いた。

「いいよ、僚…最高だ……愛してるよ」

 苦しげに喘いでいた僚の顔に、ほのかな笑みが浮かぶ。
 本当に微かな表情の変化が、男の胸を貫いた。
 大きな愉悦が背筋を駆け抜け、僚の中で弾ける。

「く、う……」
「あぁ――……!」

 切れ切れの悲鳴をもらし、僚もまた白液を飛び散らせた。
 ぐったりと手足を投げ出し横たわる僚を、神取は荒い息に胸を喘がせながらいつまでも見つめていた。

 

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